不思議そうにこちらを見つめる猫

膿胸は、肺の周りの胸腔という空間に膿がたまってしまう病気です。細菌や真菌の感染が原因で起こり、化膿性胸膜炎とも呼ばれます。猫ではケンカや外傷が原因で起こることが多いですが、原因が特定できない場合もあります。初期には目立った症状が見られず病気が進行してから気づくことが多く、呼吸困難や敗血症を起こして亡くなってしまうことも多い怖い病気です。

胸に膿が溜まる!?

前述しましたが、胸郭の内側の、肺の周りの空間を胸腔と言います。胸腔の中で肺が膨らんだり縮んだりすることで、私たち動物は呼吸をしています。胸腔は、胸膜という膜で覆われています。胸膜に細菌や真菌が感染し化膿すると、胸腔内に膿がたまります。この状況が膿胸です。胸腔の中が膿でいっぱいになると、肺が膨らむことのできるスペースが小さくなってしまうため、呼吸が苦しくなります。

胸膜に感染が起こる原因は?

じゃれあっている猫
猫の膿胸の原因は特定が困難なことも多いですが、原因として考えられているのは、感染性の気管支炎・肺炎等から胸膜に感染が波及することや、猫同士のケンカによる胸部の咬傷や外傷など、胸部を貫通する傷からの感染などがあげられます。交通事故や落下などによる胸部の外傷が原因となることもあります。先のとがった異物を飲み込んでしまい食道穿孔(しょくどうせんこう/食道に穴があいてしまうこと)を起こし、それが膿胸の原因になることもあります。その他、体の別の部位に感染した細菌が血流等を介して胸膜に感染し、膿胸を起こすこともあります。

どんな症状になる?

寝ている猫
膿胸の症状は、発症してからの経過や重症度によっても変わってきます。はじめのうちは目立った症状が見られないことが多いですが、進行するにつれてさまざまな症状が見られます。

発熱、食欲不振

感染に伴って発熱が見られます。40度近い高熱になることもあり、元気や食欲がなくなったり、じっとうずくまったまま動かなかったりというような様子が見られることがあります。また、脱水症状を起こしてしまうこともあります。

呼吸困難

胸腔の中に溜まった膿の量が多くなってくると、咳が出たり、胸部の痛みで触ると嫌がる症状が見られたりするようになります。また、膿が溜まることで肺が膨らむスペースが小さくなってくると、呼吸困難の症状が見られるようになります。猫は呼吸困難を起こすと、一般的に次のような様子が見られます。

・呼吸数が増える
猫の安静時の呼吸数は1分間あたり20~40回程度(睡眠時は20回前後)ですが、呼吸困難になると浅く早い呼吸になり呼吸数が増えます。
・努力性呼吸
体全体で一生懸命に呼吸している様子が見られます。
・開口呼吸(口を開けた呼吸)
猫は通常は鼻呼吸をする動物です。口を開けたまま呼吸をするのは、かなり呼吸がつらいサインです。
・横になって休むことができない
横になると苦しいため、座ったまま前肢を開いて胸腔を広げようとしたり、背中を丸める姿勢が見られたりすることがあります。
・チアノーゼ
血液中の酸素濃度が低下することによって、粘膜、舌、爪などの色が暗赤色(あんせきしょく/黒みがかった赤色)や紫色になります。

敗血症

敗血症とは、体内の病巣にある細菌などが血液を介して全身に影響を及ぼし、さまざまな臓器が機能不全に陥ってしまう状態です。膿胸は敗血症を引き起こしやすい疾患の一つです。初期には発熱、元気消失、食欲不振、嘔吐、呼吸速迫などの症状が見られ、重症化すると、血圧が低下し血流が不足する敗血症性ショックが起こり、さまざまな臓器が機能不全に陥って死に至ることもあります。

猫の膿胸の治療法は?治療費は?

猫の膿胸の治療の基本は、胸腔に溜まった膿を除去し、呼吸状態を安定させ、再び膿が溜まらないように感染を抑えることです。

身体検査や聴診、レントゲン検査、エコー検査、血液検査等で膿胸が疑われたら、胸腔穿刺(きょうくうせんし/体の外から胸腔内に針を刺すこと)を行って、胸腔に溜まった液体を除去します。呼吸状態の悪い猫やショック状態の猫の検査・処置は危険を伴うため、酸素吸入や輸液、ショックに対する治療などを行いながら、少しでも状態を安定させて慎重に行う必要があります。胸腔穿刺によって採取した液を検査し、細菌や白血球が認められると、膿胸と診断されます。同時に、必要に応じて病原体の培養検査や薬剤感受性試験(どんな病原体が原因となっていて、どのような薬が効くかを調べる検査)を行います。

定期的な排液や胸腔内洗浄が必要と判断される場合は、麻酔下で胸腔内チューブを設置します。胸腔内洗浄は、チューブから洗浄液を注入し、一定時間置いたあと回収する方法で、膿の貯留が少なくなるまで行います。また、外科的に開胸しての胸腔内洗浄や、感染源や感染部位を摘出する外科手術が必要になるケースもあります。

同時に、感染を抑えるため、薬剤感受性試験の結果などに基づいて抗菌剤の投与を行います。一般的には、初期の段階は注射で、落ち着いてきたら内服薬などに切り替えて、症状が改善した後も数週間投与を続けます。また、脱水を改善するための輸液や、食欲不振が続く場合は高カロリー食の給与、一時的に鼻チューブや食道チューブなどを利用した経管栄養などの支持療法を行います。

治療費に関しては、病状の重症度や必要な検査や処置の内容、治療期間によって大きく変わってきます。強い呼吸困難を伴う場合、特に治療初期には、酸素室などで十分な管理をしながらのさまざまな検査や処置が必要になることが多く、治療費も高額になる可能性があります。

猫の膿胸の予防法はある?

外を眺める室内猫
猫の膿胸の原因として特定できる中で多く見られるのは、猫同士のケンカや交通事故などによる外傷なので、室内飼育を行うこと、外への脱走を防ぐことは予防につながります。家の中でも、落下してケガをしそうな場所や誤飲すると危険なものがないかなど、日頃から注意してあげましょう。

呼吸器その他の感染症から波及して膿胸が起こることもあるので、病気の早期発見・早期治療も大事です。膿胸は原因が特定できないケースも多く予防することが難しい場合もありますが、早期に発見し治療することで重症化を防ぐことができます。

食欲や元気は問題ないか、発熱の様子がないか、呼吸数や呼吸の仕方に変化がないか等、日頃から健康チェックを行い、気になることがあれば早めに受診することを心がけましょう。

まとめ

膿胸は胸腔に感染が起こり、膿がたまってしまう病気です。野良猫や外飼いの猫が重症の膿胸でぐったりして保護されて来院することがありますが、高熱と呼吸困難でつらそうで、本当にかわいそうでこちらまで胸が痛くなります。早期に適切な治療が受けられればよくなることもありますが、気づいた時には手遅れで、治療の甲斐もなく亡くなってしまうこともあります。

膿胸ははっきりした原因が特定できないケースもありますが、猫同士のケンカや事故など、屋外での外傷や感染症が原因で起こることも多いです。少しでもリスクを減らすために、猫はぜひ室内の安全なところで飼育して、うっかり外に出てしまうようなことがないよう注意してあげましょう。

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監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。