アミロイドーシスは、アミロイドというタンパク質が、主に腎臓や肝臓に沈着して機能障害を引き起こす病気です。ここでは、猫の場合、どんな症状になるのか、どんな治療法があるのかなどについて触れます。
猫のアミロイドーシスとは?
アミロイドーシスは、アミロイドというたんぱく質の一種が、細胞あるいは組織の隙間に沈着して圧迫し、機能障害を引き起こす病気の総称です。アミロイドは全身の臓器のどこにでも沈着しますが、動物では特に肝臓・腎臓・副腎・脾臓などに沈着しやすく、アミロイドーシスではこれらの臓器の障害により症状が出ます。
腎アミロイドーシス
腎臓には、血液をろ過して排泄物を取り除き、おしっこのもとを作る糸球体という血管構造があります。糸球体は腎臓の中で最もアミロイドが沈着しやすい場所です。一度糸球体にアミロイドが沈着し、構造の障害が始まると、もとに戻ることはありません。このため、徐々に腎臓の機能が低下していき、慢性腎不全を引き起こす原因となります。
肝アミロイドーシス
肝臓は軽度なアミロイド沈着であれば肝機能を損なうことはありません。しかし、沈着が進むと肝臓がもろくなり、肝機能の低下だけでなく、出血や最悪な場合では破裂の危険性があります。
猫のアミロイドーシスの原因は?
アミロイドは、数種類のタンパク質から作られた病的な繊維質、と定義される物質です。様々なタンパク質がアミロイドの素となりますが、猫は中でも、血清アミロイドA(SAA)を前駆物質としたアミロイドが原因になります。SAAは、組織障害に反応して作られる、急性期炎症タンパク質です。アミロイドーシスは、人の場合、基本的には口内炎などの慢性炎症や腫瘍など、疾患が根本にあり、それらに続いて起こりますが、猫および犬では、基礎疾患が明確でなく、特発性にアミロイドーシスが起こる方が多いと言われています。
猫がアミロイドーシスになると、どんな症状があらわれる?

腎アミロイドーシスの症状
糸球体にアミロイドが沈着すると糸球体の透過性が亢進し、通常回収しなければいけないタンパク質が、尿中に漏れて出るようになります。尿中にタンパク質が出るということは、血液中のタンパク質濃度が薄くなることにつながります。漏出が少量の場合は、体重減少や疲れやすくなる、など、体に必要なエネルギーが欠けることによる症状がでます。重度になると、浮腫や腹水の貯留が認められるようになります。
また、腎臓の75%が機能しなくなるほど、糸球体の損傷が広範囲に進むと、腎不全の状態に陥ります。これにより多飲多尿や食欲不振、なんとなく気持ちが悪くよだれがたくさん出るようになったり、嘔吐したりするという症状が現れます。
このほか、糸球体の損傷により、全体のろ過量が少なくなるため、ナトリウムの貯留、ひいては高血圧が起こり、慢性腎不全をより悪化させる原因となります。高血圧は、網膜出血や網膜剥離など、失明の危険性のある病態の原因となることもあります。まれに、タンパク質の漏出により血液の凝固異常が起こり、肺の血栓塞栓症が起こることもあります。
肝アミロイドーシスの症状
肝アミロイドーシスでは、肝臓の腫大が認められます。これによりお腹が妙に膨らんで見えたり、膨満感による食欲不振や体重減少が症状として現れます。また肝機能の低下はタンパク質の代謝や消化に影響を与えるため、食欲不振はもちろん、嘔吐や下痢、腹水の貯留が認められることもあります。さらに、アミロイドの沈着により、肝臓の組織がもろくなることと、肝機能低下により起こる血液凝固異常により、肝破裂のリスクが常に伴います。肝破裂が起こった場合、お腹の中で大出血が起こることになり、ショック状態から死に至ることも十分考えられます。
アミロイドーシスにかかりやすい猫はどんな猫?
アビシニアンは、腎アミロイドーシスになりやすい遺伝的な素因を持っています。
また、アミロイドーシスは炎症に引き続いて起こると言われていて、口内炎があったり、猫白血病や猫伝染性腹膜炎(FIP)ウイルスの感染が陽性の猫では、アミロイドーシスになりやすいと考えられます。
猫のアミロイドーシスの治療法は?治療費はどのくらい?
アミロイドーシスの確定診断は、生検(臓器の一部を取って検査をする)による病理検査診断です。しかし、アミロイドにより障害されている臓器の一部を取ることは、大出血など命にかかわるリスクを伴うこともあります。そのため、一般の動物病院で安易に行われる検査ではありません。万が一の場合にも対応できる、施設の整った二次病院で行われるレベルの検査です。
つまり、診断までたどり着くことが容易ではありません。さらに、一度沈着したアミロイドを取り除き、障害された組織を元に戻すことはできません。そのため、アミロイドーシスと仮定して、アミロイドが作られる原因となる炎症を治療し、同時に障害された臓器の機能維持を目指す治療になります。
腎アミロイドーシスの場合
低ナトリウム食を心がけ、浮腫があれば血管拡張剤や利尿剤が使用されます。腹水の貯留量が多いと、圧迫感から食欲不振や呼吸のしづらさを招くため、外から抜いてあげる処置をすることもあります。高血圧の徴候が見られる場合は降圧剤が使用されます。治療は内服薬の使用が中心で、ひと月あたり5,000~10,000円程度が目安になります。慢性腎不全の症状が強い場合は、皮下点滴を行うための通院や静脈点滴を行うための入院が必要になることがあります。これらも、通院であれば1回3,000~5,000円ほど、入院であれば1日10,000~30,000円ほどの費用がかかります。
肝アミロイドーシスの場合
肝アミロイドーシスでは、破裂を阻止するためのコントロールが重要です。物理的刺激が起きないように、なるべく安静に過ごしましょう。また、凝固異常をコントロールして、肝臓から出血させないように、ビタミンKの投与が有効とされています。このほか肝機能を支える肝庇護剤など内服薬の使用が中心となり、費用はひと月あたり5,000~10,000円程度が目安になります。
猫をアミロイドーシスにしないために気を付けたいこと

アミロイドーシスは、明確な原因が分かっていないため、薬やワクチンなどで予防することは、残念ながらできません。またアミロイドはタンパク質から作られますが、タンパク質の摂取を制限することは予防にはつながりません。ただし、腎機能が落ちているときはタンパク質および塩分の制限が必要です。肝機能が落ちているときは脂肪分の摂取制限が必要になります。
アミロイドーシスは、必ずではないですが、慢性炎症に続いて起こると考えられています。猫では特に歯周病やウイルス性の病気が慢性炎症の原因として関与するとも言われます。オーラルケアは、アミロイドーシスのみならず、さまざまな病気の予防につながるので、ケアをしておいて損はありません。またウイルス性の病気は、保護猫などでお母さん猫からもらう環境でなければ、野良猫との接触を減らすだけで感染の機会を断つことができます。これらは、アミロイドーシスの予防になるとは言えませんが、気を付けておけると良いことになりますね。
まとめ
アミロイドーシスは、アミロイドというタンパク質が、主に腎臓や肝臓に沈着して機能障害を引き起こす病気です。症状や血液検査やレントゲン検査など、臨床的な検査での診断は難しく、確定診断には病理検査が必要になります。アミロイドーシスの治療は臓器の機能維持が目標となります。アミロイドーシスかもと診断された場合は、定期的な通院による検査や内服薬の服用を、欠かさないようにしましょう。
