お腹を出している猫

肝臓に過剰な脂肪が溜まる

脂肪肝というと、高級食材「フォアグラ」でなじみがあるかもしれません。脂肪肝は、何らかの原因により、脂肪(中性脂肪)が肝臓の細胞内に過剰に溜まって、肝機能を圧迫し、肝臓の腫大を招くような状態を言います。
正常な肝臓には、脂肪の代謝産物であるトリグリセリド(中性脂肪)という成分と、体内での脂肪の運搬・貯蔵に関わるリン脂質という成分が、ほぼ同じ量で存在しています。そのバランスが崩れ、トリグリセリド(中性脂肪)がたまり、肝臓の機能が失われます。

脂肪肝という言葉は、明確な病気に対する名前というより、脂肪が溜まった肝臓の病理学(病気になった臓器を、顕微鏡や解剖などの手段で調べる学問)的状態、および、それに伴う症状を指すことが多いです。
このうち、中性脂肪に加えて、リン脂質やそのほかの脂質も肝細胞内に溜まってきてしまう状態を、肝リピドーシスと言います。この状態は、強いエネルギー不足、つまりは強い飢餓により、身体が緊急状態になって、肝臓の処理能力をはるかに超えてしまったときに起こります。つまり、肝リピドーシスとは、脂肪肝の重症例であり、命に関わります。

「脂肪肝」の原因は?

食事に含まれる脂肪は、一部は肝臓が働くためのエネルギーとして使われます。残りは、他の臓器でエネルギーが必要なときに備えて、中性脂肪として肝臓に貯めこまれます。ところが肝臓や筋肉を除き、多くの臓器は、脂肪を直接エネルギーとして使うことはできません。そこで、他の臓器からエネルギーの要請があったとき、中性脂肪は肝臓内でタンパク質に変換され、その後リン脂質によって目的の臓器まで運ばれます。

脂肪肝は、これらの過程のどこかに、異常が出たときに引き起こされます。
けれども、以下の、糖尿病などの病気に続発する場合以外は、明確な原因はわからない特発性であることが多いです。

①肝細胞の障害
急性・慢性肝炎が起こると、中性脂肪からタンパク質への変換が滞り、脂肪肝となります。また、カビや薬物による中毒、心臓病により長期に渡って、肝臓が酸欠の状態に置かれることでも、脂肪の蓄積が進みます。

②代謝・内分泌障害
糖尿病、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能亢進症、慢性膵炎など、慢性に経過する代謝病などは、常に身体がエネルギー不足に陥りやすいです。そのため、エネルギーの在庫を作るために、皮下脂肪などの組織から脂肪が動員され、過剰に肝臓に中性脂肪を溜め込もうとするため、脂肪肝になりやすいです。

③多すぎる栄養(食べ過ぎ、肥満)と、栄養のアンバランス
食べる量自体が多い、あるいは、量は普通でも脂肪分の多い食事を摂っている場合、中性脂肪が蓄積します。肥満も、そもそもエネルギー過多の状態なので、脂肪が溜まりやすいです。また、必須アミノ酸のひとつであるメチオニンやコリンが不足しても、脂肪が溜まりやすくなります。

多すぎる栄養や肥満は、「脂肪肝」の直接の原因ではなく、病気の下地になります。
栄養が多すぎると、肝臓は中性脂肪を溜め込みますが、食べ過ぎや肥満だけで脂肪肝に陥ることは少ないと言われています。中性脂肪の蓄積が多い状態で、急激に、食事でまかない切れないほどエネルギーが必要になったときに、脂肪肝になります。

たとえば、環境の変化など(新たに子猫を迎え入れた、飼い主さんに赤ちゃんが生まれた、懐いていた家族が進学や就職で家を出た、引っ越し、など)があると、ストレスを強く感じて食べなくなる、ということは、猫では珍しくありません。そうなると、生きるために、身体に溜め込んでいる脂肪組織からエネルギーを作り出そうと指令を出します。

ところが前述のように、各臓器は脂肪を、直接エネルギーとして使うことはできないため、脂肪はいったん肝臓に集められ、エネルギーとして使えるタンパク質に変換されるのを待ちます。けれども、この変換処理には限界があります。そのため、肝臓にどんどん脂肪が溜まり、脂肪肝になるのです。これがある程度長期に渡ると、「肝リピドーシス」の状態になり、より積極的な治療や、長期間の治療が必要になります。

どんな症状になる?

寝ている猫

食欲低下、嘔吐や下痢

食欲低下や嘔吐、軟便と便秘を繰り返す、などの症状が見られます。特徴的な症状はなく、他の病気に続いて起こることもあります。

レントゲンや超音波の検査をすると、肝臓の腫大が認められます。便は悪臭を呈します。身体を維持するエネルギーの供給がうまくいっていないため、痩せてきて、皮膚の状態も悪くなり、フケが出たり被毛の毛並みが悪くなります。

脂肪肝が進んでくると、肉や脂肪を食べることを嫌がるといった、偏食が現れることもあります。
症状がさらに進み、食欲がなくなり、肝リピドーシスの状態にまでなると、黄疸や肝機能の低下が顕著になります。ミネラル・ビタミン類の不足により、起き上がれないまでの状態になったり、神経症状が現れることもあります。

治療法は?治療費は?

フードボールの前でこちらを見る猫

治療の基本は、肝臓からの脂肪の排出と、肝臓の機能回復をはかることになります。
①食事療法:タンパク質・ビタミンの豊富な食事を、積極的に食べることが求められます。脂肪肝の引き金は、食事からのエネルギー不足であることがほとんどなので、ともかく身体にエネルギーを送ってあげることが必要です。特に肝リピドーシスの状態に陥った場合は、強制的に食べさせるために、経鼻カテーテル(鼻から胃にチューブを通して、流動食を流し込めるようにする装置)の設置が必要になることもあります。

②薬物療法:嘔吐や下痢に対する薬や、脱水を補うための点滴治療、電解質補正のための薬物治療が行われます。肝機能の低下が顕著な場合には、肝庇護剤などの薬が使われます。
脂肪肝に対する特効薬はありません。治療は症状を緩和することと、栄養補給が中心になります。症状が乏しく、血液検査で、コレステロールや中性脂肪の上昇を指摘されるくらいの状態であれば、良質なタンパク質の含まれた、療法食を食べさせることを検討してください。

そして、症状が出ている状態のときは、重症である肝リピドーシスに移行していることが多いです。この場合、チューブによる強制給餌や点滴が必要になるため、入院が必須になります。最初から口から無理矢理食べさせようとすると、猫の多くは食事嫌いになってしまうからです。入院の費用は動物病院によって異なりますが、1週間程度の入院で、10万円前後必要になることもあります。また、肝リピドーシスになった場合は、退院しても安定的に食事がとれるようになるまで、かなり長い間、時には数ヶ月単位で、通院や飼い主さんによる自宅での介助が必要になることがあります。

治療しないと死に至ることも

脂肪肝が進み、肝機能障害および肝リピドーシスの状態になると、中性脂肪からタンパク質への変換がうまくいかなくなります。それは、各臓器に必要なエネルギーを供給できないということであり、身体全体の機能維持に深刻な影響を与え、命に関わります。しかし、早期に治療を開始し、初期の治療が功を奏すれば、回復することは十分に可能です。

【関連サイト】
肝リピドーシス <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

予防方法はある?

太った猫

肥満にならないように注意

肥満にならないように気を付けましょう。前述のように、もともと肝臓に溜まっている脂肪が多いと、エネルギー不足に陥ったときに、脂肪肝になりやすいです。猫は室内飼いでも、キャットタワーや棚に上って下りる、という上下運動ができるため、肥満になる要因は、基礎疾患がなければ、食べ過ぎであることがほとんどです。まずは毎回の食事が、体重や運動量にあった量であるかを、動物病院で確認してもらいましょう。また食事も、良質なタンパク質が含まれ、バランスがとれた食事が勧められます。

このほか、ストレスがかかるような状況が考えられるときは、食欲に気を付けてあげてください。食欲が落ちているときは、食べさせる工夫をしましょう。温める、缶詰を混ぜる、手であげてみる、などの工夫をしてみてください。お茶パックにかつお節を入れたものを、ドライフードの袋に入れておくと、匂いがついて食欲が増す猫もいます(ただし、かつお節を直接食べさせるのは、ミネラル分が多くなりすぎて、尿結石の原因となりやすいので、おすすめしません)。

まとめ

脂肪肝は、飼い主さんによる日々の管理が重要です。まずは肥満にさせないこと、そして、食欲がないようなときは、食べさせる工夫をしてください。

また脂肪肝から肝リピドーシスになった場合は、早期に治療をしないと、一気に具合が悪くなる可能性があります。食べない場合は、様子を見ずになるべく早く動物病院を受診するようにしましょう。

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病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

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監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーになりました。 病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。