横たわる猫の写真

肺は、吸い込んだ空気のガス交換(二酸化炭素と酸素の交換)を行っていますが、肺炎はその肺に炎症が起き、十分なガス交換ができなくなる状態をいいます。ガス交換ができなくなると、酸素が身体に行き渡らず、とても苦しい状態となります。猫は一般的に犬よりも初期の呼吸状態の変化に気付きにくく、ましてやヒトのように体調の悪化を教えてくれるわけではありません。今回は猫が肺炎になった時の症状、原因、治療法について説明します。

猫が肺炎になったときの症状

猫の肺炎は、必ずしも同じ症状から始まるものではなく、初めのうちはくしゃみや鼻水など風邪のような症状が現れ、徐々に悪化して呼吸状態が悪くなる場合もあれば、前触れもなく、短期間の内に急激に呼吸状態が悪くなり、最悪の場合死に至ることもあります。気になる症状があればすぐに動物病院に相談するようにしましょう。

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肺炎 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

呼吸

肺炎になるとガス交換をする機能が、肺の一部、若しくは広い範囲で失われてしまい、それを補おうと呼吸の回数が多くなります。事前に、愛猫のいつもの呼吸回数を知っておくと、早くから呼吸の変化に気付くことができます。猫の正常な呼吸回数は、1分間に20~40回程度です。特に眠っている時など安静時の呼吸回数は日頃からチェックしておくとよいでしょう。また、いつもはおもちゃで活発に遊んだり走り回っていた猫が、すぐに疲れて座り込んでしまったり、キャットタワーなど高いところに身軽にジャンプできなくなったような場合も注意が必要です。

猫は、口を開けて呼吸をしていたり、横に寝られず、うつ伏せの状態で首を伸ばして呼吸をしている場合はとても苦しく、緊急性が高い状況です。その場合は、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。

また猫は、痛みや心臓病、その他の内臓疾患、呼吸器疾患でも呼吸が速くなる場合があります。この場合もしばらく様子を見るのではなく、早めに動物病院に相談しましょう。

咳やくしゃみ

肺炎で見られる咳は、痰がからんだような湿った咳が一般的です。しかし、猫の場合、犬と比べて、発咳が少なく目立たないので、気づくのが難しいです。咳があまり出ないからといって、安心しないようにしましょう。また、猫は鼻や気管などに感染するウイルス感染症が悪化して、肺炎に進行することがあります。その場合、くしゃみや鼻水の症状が最初に見られるので、悪化を防ぐために、早めに受診して治療を受けましょう。また、後述する「誤嚥性肺炎」では、突然の咳の後に、急激に呼吸状態が悪化する場合があるので注意が必要です。
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発熱

肺に炎症が起こると、身体の反応として炎症やウイルス、細菌などに対応するために発熱が起こります。しかしながら、猫の体温測定は、通常、直腸に体温計を入れて測るので、自宅で正確な測定をするのはかなり難しいことです。飼い主が猫に熱があるかどうかを判断する方法のひとつとして、皮膚の薄い「耳介」(耳の内側の部分)を触ってみる方法があります。日頃から感覚を覚えておき、普段よりも熱く感じたら、発熱している可能性があります。また、熱が上がると身体がだるくなるので、食欲がなくなったり、ぐったりしているなどの変化が見られることがあります。そうした猫の体調変化も併せて観察しましょう。

肺炎に種類がある?

横たわる猫の写真
猫の肺炎の種類や原因は多岐にわたり、主に以下の原因が挙げられます。

細菌性やウイルス性

細菌が肺に感染して起こる肺炎を「細菌性肺炎」といいます。単独で発症することはあまりなく、他の呼吸器疾患(ウイルス感染、誤嚥、免疫疾患、腫瘍など)に併発して発症することが多いです。逆に言うと、他の呼吸器疾患が悪化した場合は、細菌感染による肺炎も同時に起こりうると考えていたほうがよいでしょう。

「ウィルス性肺炎」は、猫ヘルペスウイルスと猫カリシウイルスの感染によって発症するのが一般的です。これらのウイルスは、上部気道に感染して、鼻水やくしゃみ、結膜炎などの症状を伴う「猫風邪」を発症させることが多いのですが、猫風邪の症状が悪化すると、肺に進入して肺炎を起こします。抵抗力の弱い子猫や高齢の猫、またエイズや白血病ウイルスに罹患していて、免疫が低下した猫は、症状が悪化しやすいので、発熱や食欲不振など、いつもと様子が違うと感じたときは、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。これらふたつのウイルスはワクチンで予防ができる可能性が高いので、ワクチンの接種をおすすめします。室内飼育にすること、感染した猫との接触も避けることで感染は防げます。ヘルペスウイルスはストレス下で悪化しやすいので、ストレスフリーな環境作りをすることも大事です。

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ウィルス性呼吸器感染症 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

誤嚥性

「誤嚥性肺炎」は、飲み込んだ異物や食べ物が誤って気道に入り、場合によっては一緒に細菌などが侵入して炎症を起こすことで発症します。健康な猫ではあまり起こりませんが、飲み込む力が弱い猫、衰弱した老猫、喉・食道・消化器疾患を持った猫は発症のリスクが高いといえます。子猫にミルクを与える際にも、誤嚥が起こることがあるので、ミルクを与える際は細心の注意を払うようにしましょう。誤嚥による肺へのダメージは急速に進むため、様子がおかしいと感じたら、すぐに動物病院へ連れて行ってください。

特発性

「特発性肺炎」は、原因が特定できない肺炎で、間質(肺の肺胞の周りを包む壁)に炎症が起こることから、「特発性間質性肺炎」と呼ばれています。間質に炎症が起こると壁が硬く、厚くなり(線維化)、肺が膨らまなくなります。人では、自己免疫疾患や環境中の埃や煙、アレルギー物質や薬剤の吸入などが原因として知られていますが、猫では明らかになっていません。症状が、慢性的にゆっくりと進行するものもあれば、急激に呼吸困難になり、救急の対応が必要な場合もあります。

その他

その他に、アレルギーに関連した「好酸球性肺炎」、稀ですが寄生虫、真菌感染による肺炎も原因としてあります。

猫の肺炎の治療法は?

猫の熱を測っているいる様子
猫の肺炎にはさまざまな原因があり、また他の呼吸器疾患と比べても症状が重い事が多く、すぐには原因を特定できないことが少なくありません。このため、原因に対する治療を行う前に、呼吸状態が悪ければ、酸素吸入により呼吸状態を補う対症治療を行いながらレントゲンや血液検査などの検査を進め、原因が判明した時点で原因に対する治療を行っていきます。

「ウイルス性肺炎」には抵抗力を高めるインターフェロン、寄生虫であれば駆虫薬、真菌感染であれば抗真菌薬、また非感染性のアレルギーや薬剤投与による肺炎であれば、抗アレルギー治療、アレルゲンや薬剤などの原因を取り除く治療が主となります。

抗生物質

抗生物質は細菌感染における肺炎に効果があります。猫の肺炎では前述のとおり、ウイルス性肺炎やその他の肺炎においても、2次感染として細菌性肺炎を併発していることが多いため、細菌性肺炎以外の肺炎の場合も、抗生物質を治療として同時に投与することがあります。

酸素室は必要?

肺炎を起こしている箇所が一部分で、正常な部分が十分ガス交換を補える程度の場合は、酸素吸入は必要ありませんが、肺炎が広範囲にわたり、また急速に呼吸症状が悪化している場合はすぐに酸素室に入る必要があります。酸素室を自宅で設置するための手配には時間がかかることがあるので、早めに動物病院へ相談しましょう。

動物病院によっては、身体の中の酸素濃度を測定できる機械もあり、どれくらいの酸素が必要か把握することも可能です。酸素室が長期間必要な場合は、病態によっては酸素室をレンタルして、自宅で生活することも可能なので、獣医師と相談するとよいでしょう。

完治する?

初期の段階での肺炎や、肺炎が部分的である場合、2次的な細菌性肺炎が重篤でない段階での肺炎は、適切な治療が行われれば完治の可能性もあります。しかし猫の肺炎は、元々免疫力の低下した猫に起こりやすいこと、多くは2次的な細菌性肺炎も合併しているため、完治まで見込めない場合も少なくありません。また、急激に症状が進行するような急性呼吸不全(ARDS)に移行する場合もあり、残念ながらどの治療にも反応せず短期間で致死的な状態になってしまうこともあります。

まとめ

猫の肺炎は一度罹ると、完治が難しい場合が多い疾患です。特に免疫力の低下した子猫や老猫、ほかの基礎疾患を抱えた猫は十分注意をして、いつもとは違う呼吸状態の変化が見られた場合には、なるべく早めに動物病院を受診しましょう。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。