胃腸炎とは、胃や腸の粘膜に炎症が起き、嘔吐や下痢などを起こす病気です。人間同様、猫にも比較的よく見られます。昨日までは、元気で食欲もあったのに、急に吐き出して下痢もしている…。そんな時はどのように対処したら良いのか、予防法はあるのか、治療はどのようにするのかを解説します。

猫の胃腸炎には「急性」と「慢性」がある

胃腸炎には「急性」と「慢性」があります。急性胃腸炎は、発症から数日以内のものを指し、発症から2週間以上経過した場合は、慢性胃腸炎となります。

急性胃腸炎とは

急性胃腸炎は、よだれを垂らす、嘔吐や下痢が複数回見られるなど、激しい症状が急激に生じます。軽度な場合は、自然と回復することも多いです。

慢性胃腸炎とは

慢性胃腸炎は、一定の間隔をおいて生じる嘔吐が続いたり、食欲不振や下痢が長期間続いたりして、徐々に体重が減り、元気がなくなっていきます。

「胃腸炎」の症状は?

胃炎では主に嘔吐をしたり、よだれがたくさん出たりします。腸炎では主に下痢が見られます。

急性胃腸炎の症状

軽症の場合は、元気や食欲はいつも通りで、嘔吐や下痢の回数も少なく、時間とともに徐々に回復していきます。重症の場合は、食欲がなくなり、水も飲まなくなり、腹痛があるため、じっと動かず震える様子が見られます。何度も嘔吐を繰り返したり、黄色い胃液や血液を吐いたりすることもあります。下痢は軟便から水溶便までさまざまなパターンがみられ、血液が混ざることもあります。急激な嘔吐や下痢は脱水を引き起こすこともあります。

慢性胃腸炎の症状

嘔吐や下痢が短期間では回復せず、長期間続きます。食欲は、ある場合とない場合とがあります。長引く嘔吐や下痢により、体重が徐々に減り、元気もなくなっていきます。また、脱水を起こすこともあります。

「胃腸炎」になる原因は?

「胃腸炎」になる原因には、食事や薬物の影響、ストレス、細菌やウイルス・寄生虫などの感染症、異物などがあります。

・食事が原因の場合
食事が原因となる場合には、食べ慣れないものや新鮮でないもの、脂肪分が多いものを食べたときに胃腸炎になることが多いです。

・ストレスが原因の場合
ペットホテルに数日預けられたり、家に知らない人やたくさんの子どもが遊びに来たりしたときなど、環境の変化によるストレスで嘔吐や下痢をすることもあります。

・感染症が原因
子猫の場合は、回虫やコクシジウムなどの寄生虫感染が原因のことも少なくありません。

・異物誤飲が原因
異物の誤飲にも注意が必要です。猫は、ヒモで遊ぶのが大好きですが、誤って飲み混んでしまうと、ヒモが消化管をつづら折りにし、激しい胃腸炎を引き起こします。

・その他の原因
猫特有の原因としては毛球症があります。毛球症は、毛繕いをしたときに自分の毛を大量に飲み込んでしまうことで、消化管に毛が溜まり、消化管の動きを悪くすることで起こります。

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どんな治療をする?薬は?

急性胃腸炎の場合は、軽症であれば自然に治っていくことが多いです。複数回症状が見られる場合は、症状や脱水状態などを緩和するために輸液療法(主に皮下点滴)、制吐剤、制酸剤(胃液の分泌を抑制)、消化管運動促進剤、下痢止め剤、プロバイオティクス剤などの治療を行います。

嘔吐が続いていて内服が難しい場合は、点滴や注射を行うため、入院をさせて治療することもあります。消化管の負担を取り除くために、低脂肪で消化しやすい療法食を少量ずつ与えます。

その他、考えられる原因によって治療方法が異なります。毛球症が疑われる場合には、こまめにブラッシングをするようにしたり、毛玉を排出しやすい食事を与えたり、毛玉を溶かす薬を投与したりします。誤飲が原因の場合は、内視鏡や開腹手術で異物の摘出を行う必要があります。寄生虫感染が原因の場合は、駆虫薬の投与を行います。

こうした対症療法に反応しないときや、慢性胃腸炎の場合は、胃腸以外の疾患で嘔吐や下痢などの症状があらわれている可能性があるので、血液検査やレントゲン、超音波検査などで全身の状態の確認を行います。

食物のアレルギーや免疫異常、「消化器型リンパ腫」など消化管腫瘍の可能性も疑われるので、内視鏡検査が必要になることもあります。これらが原因の場合、低アレルギー食や低脂肪食への食事の変更、ステロイド薬や免疫抑制剤などの投与を行います。

予防法はある?

胃腸炎の原因となりうることを、防いでいくことが予防につながります。

・食事
食事の変更をするときは2週間くらいかけて徐々に行い、食事やおやつを変更した後は便の状態や猫の様子をよく見てあげましょう。

・ストレス
猫にストレスがかかりすぎる状況はなるべく避けるため、来客や旅行など大きなイベントは事前に少しずつ慣らすようにしましょう。

・感染症、寄生虫症
消化管寄生虫の駆虫薬を定期的に飲ませたり、ワクチン接種を行ったりして感染症を予防しましょう。

・異物誤飲
異物誤飲をしないよう、常に室内を整理整頓しておくことが大事です。ごみ箱をあさらないようにふたつきのゴミ箱にしたり、小さなおもちゃやヒモを猫の届くところにおかないようにしましょう。

まとめ

昨日まで元気だったのに急に胃腸炎を起こすことは珍しくありません。重症化すると治療が長引いたり、入院が必要になったり、脱水により命の危険にさらされることもあります。日頃から予防を心がけ、疑わしいときには早めに動物病院に連れて行くようにしましょう。

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監修獣医師

平野 翔子

平野 翔子

2012年に東京農工大学を卒業後、24時間体制の病院に勤務し、予防診療から救急疾患まで様々な患者の診療に従事。その傍ら、皮膚科分野で専門病院での研修や学会発表を行い、日本獣医皮膚科学会認定医を取得。皮膚科は長く治療することも多く、どうぶつたちの一生に関わり、幸せにするための様々な提案や相談ができる獣医療を目指す。パワフル大型犬とまんまる顔の猫が大好き。