女の子の猫を飼っている方は、人間の女性同様「『生理』というものがあるのかしら…?」と疑問に感じるかもしれません。ここでお話しする「生理」とは、一般的に生理出血や発情出血のことですが、猫にもあるのでしょうか。

猫に「生理」はない?

結論からいうと、猫には生理がありません。実は、ほ乳類の中で生理がある動物は珍しく、人や一部のサル、コウモリやネズミだけに限られています。これらの動物は周期的に排卵しますが、卵子と精子の受精がなかった(妊娠が成立しなかった)場合は、子宮内膜が剥がれ落ちて出血として見られます。ちなみに、犬でも半年に一回程度で発情が見られ、排卵する少し前に出血があります。ただし人で見られる生理とは異なり、陰部の充血による出血なので、生理出血ほど多い出血ではありません。では、なぜ猫には生理がないのでしょう。

「交尾排卵動物」だから「生理」はない

人や犬は、周期的に「自然排卵」があります。そのタイミングで交尾をして受精すれば妊娠が成立する「自然排卵動物」です。
一方、猫は発情期に交尾した刺激で排卵する「交尾排卵動物」です。これは、猫やうさぎなどの一部の動物でしか見られない、珍しい妊娠形態です。

つまり、猫には定期的な排卵はなく、交尾をした時にだけ排卵が起きて、そのまま妊娠が成立するため、出血が起こらないのです。自然界では、猫は雄雌それぞれが単独行動をして生活しているので、発情期のタイミングで効率良く妊娠できるように、このような妊娠形態になっていると考えられています。

出血がある場合、どんな病気が考えられる?

まったりしている猫
上記のとおり、猫に生理は見られないため、陰部周囲からの出血が見られた場合は、陰部からの出血、若しくは尿路からの出血が考えられ、病気の可能性が考えられます。

子宮の病気による出血

不妊手術を受けていない猫は、性ホルモンが影響して子宮が細菌感染を起こしやすい状態になります。感染を起こすと、子宮が炎症を起こし子宮内膜炎になり、炎症が続くと子宮内に膿が溜まる「子宮蓄膿症」になり、陰部から血が混ざった膿が出てくることがあります。

子宮蓄膿症になった猫は、病状が悪化するまではっきりとした症状がないので、陰部に血が付いていて初めて異変に気付く飼い主も多くみられます。それ以外に、なんとなくお腹が張っている、急に食欲がなくなった、熱っぽいなどの症状もみられます。また、陰部から膿が出てこないで子宮がパンパンに腫れる場合もあります。

放っておくと命に関わる病気なので、症状が疑われる場合は早急に動物病院に行って治療を受けましょう。猫の子宮蓄膿症は5~7歳以上の比較的高齢で起こりやすいとされますが、若い猫の発症も多いので避妊していない猫は注意が必要です。

また、稀ですが子宮に腫瘍ができた場合にも出血が見られることがあります。膿の臭いがしない出血も異常なので、動物病院で診てもらいましょう。

血尿

膀胱炎や尿石症などで、膀胱や尿道が傷ついて出血した場合、血尿がみられます。雌猫の尿道の出口は、陰部の膣の手前にあるので、血尿があると陰部に血が付いていたり、排尿後、トイレの砂に血が付着したりしていることで異変に気付きます。膀胱炎や尿石症では、血尿の他に、何度もトイレに行きたがったり、トイレ以外で排尿してしまったり、排尿時に痛がる様子が見られます。血尿は尿のにおいがするので、単なる出血ではなく、尿からの出血だとわかるかもしれません。出血に気付いたら、悪化しないうちに早めに動物病院で診てもらいましょう。

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発情したらどうなる?

1頭がもう1頭の頬を舐めている猫の画像
雌猫が発情したら、犬のように陰部が腫れたり、陰部から出血したりといった外見の変化は見られず、以下のようないつもと違う行動の変化が見られます。

・遠吠えのような奇妙な鳴き声で、頻繁に鳴く
・頭や首のあたりを床や人の足などにいつもより頻繁に擦りつける
・床に身体を擦りつけながら、ごろごろ転がる(ローリング)
・頭を下げて、お尻を高くして、足踏みをする(ロードーシス)
・尿をトイレではなく壁などにスプレーする(スプレー行動)

これらの行動は雄の存在の有無にかかわらず、発情期になれば室内で一頭飼いの雌猫でも見られます。

発情期っていつ?

雌猫は生後5~12ヶ月で性成熟を迎え、この時期に初めての発情がきます。猫は「季節繁殖動物」という決まった季節に繁殖する動物で、日本では日照時間が長くなる1~8月(地域や気候でやや差がある)に繁殖季節を迎えます。この繁殖季節内で、猫は2~3回発情を繰り返します。

室内だけで生活している飼い猫は、昼夜問わず照明の光を受けている場合、日照時間の変化が季節と無関係となり、1年中発情し続ける場合があります。

避妊手術はしたほうがいい?

愛猫に子供を産ませる必要がなければ、生活面や健康面からも避妊手術を行うことが望ましいでしょう。猫に生理はないものの、上述したように避妊手術を行わなければ、雌猫は年に複数回発情します。発情期の猫は交尾相手がいなければ発情が終わらず、その間いつもと違う行動をとり、興奮状態で過ごすため、大きなストレスとなります。

飼い主にとっても鳴き声などの変化に戸惑いを感じ、不安な日々を過ごすということも少なくありません。また、猫は繁殖能力が高いため、未去勢の雄猫と一緒に生活している場合は、予想外の数の子供が産まれてしまうおそれもあります。

避妊手術をすることで予防できる病気

避妊手術は、子宮と卵巣を摘出する手術で、それらの臓器に関連した病気を予防することができます。上述した子宮蓄膿症や子宮・卵巣の腫瘍は、避妊手術を行えば事前に回避できる病気です。また、猫の乳腺腫瘍はほとんどが悪性のがんですが、性ホルモンの影響を受けるため、早期の避妊手術が乳がんの発生率を低下させることが知られています。初回発情の前に避妊手術を行えば、9割近く乳がんの発生を抑えられることがわかっています。

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まとめ

人や犬とは異なる猫の生殖のしくみ。意外と知られていないのではないでしょうか。発情期にどんな行動を起こすのかを理解しておくことは、愛猫の体調変化に早めに気づくきっかけにつながるかもしれません。愛猫が元気で健康な毎日を過ごせるよう、日々、見守ってあげましょう。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。