ベッドの上でこちらを見つめる猫

「口蓋裂」という病名はあまり聞き慣れないかもしれませんが、口の中の天井部分の「口蓋」と呼ばれる所に穴が開いている状態のことをいいます。人では生まれつき起きる疾患として知られています。猫でも、生まれつきの場合がありますが、外傷などで起こることもあります。「口蓋裂」がどんな時に起こるのか、気をつけたい症状や治療法などをお伝えします。

口の中と、鼻の穴がつながってしまう

驚いた顔の猫

口蓋は、鼻の中(鼻腔)と口の中(口腔)とを分けている「壁」のようなものです。口蓋裂があるということは、口蓋に穴が存在するため、口腔と鼻腔がつながった状態になってしまいます。この状態になった猫は、ごはんを食べるときや鼻から呼吸をする際、とても不都合であるばかりか、命を落とすことにつながる場合もあります。口蓋裂を見つけたら、早めに対処する必要があります。

「口蓋裂」の症状は?

猫の口の中をしっかり見る機会というと、大きく口をあけてあくびをした時くらいしかないかもしれません。口蓋裂があるかどうかは、直接口をあけて確認することも重要ですが、以下に紹介する症状がないかを見てあげることで、早期発見につながります。

口蓋裂は生まれつきであることが多いので、生後間もない子猫の場合は、特によく見てあげましょう。また、口蓋裂の穴の大きさによって、気付きにくい軽度のものから、すぐに対応が必要な重度なものまであります。

食べた物をうまく飲み込めず、鼻から出てくる

通常子猫はミルクを吸い、飲み込むことができますが、口蓋裂があると鼻にミルクが漏れてしまい、うまくミルクを吸うことができません。口に入ったミルクは口蓋裂から鼻に流れ、鼻からミルクが出て来てしまいます。成猫においても、食べたものが鼻に入って鼻から出てくることがあります。

食後に咳やクシャミをする

鼻に食べ物が入った刺激により、鼻がむずむずして食後にクシャミを連発することがあります。また、うまく飲み込めなかったミルクや食べ物が、誤って気管や肺に入りやすくなる(誤嚥する)ため、咳が出る場合もあります。

呼吸が苦しそう、鼻水、鼻出血などの鼻炎を起こしている

食べ物が鼻を刺激することにより鼻水が出て、それが長引くと鼻炎の症状が続くことがあります。また、気管や肺へ入ったミルクや食べ物の量が多いと、肺炎を起こし症状が重篤となり、呼吸が苦しい様子になるかもしれません。呼吸が苦しそうな場合は、命に関わる可能性もありますので、早急に動物病院で診てもらいましょう。

子猫では体重が増えず発育不全が起きる、成猫では痩せてしまう

食べ物がうまく飲み込めない状態は、特に育ち盛りの子猫にとっては重大な問題となります。栄養が取れないと1日2日で体調の変化が現れます。子猫を保護した場合、特に兄弟猫といる中で他の猫よりも痩せている猫がいた場合は、注意深く口の中を観察してあげましょう。

猫の「口蓋裂」の原因は?

口をあけて舌を出している猫

猫の口蓋裂が起こる原因は、大きく分けて2つあります。1つめは生まれたときにすでに口蓋裂が存在している「先天性」のもの、2つめは生まれてからさまざまな要因で起こる「後天性」のものです。

先天性口蓋裂

先天性の口蓋裂は、母猫の妊娠中、特に妊娠初期の胎児の発達段階で、口が正常に形成されないために起こる先天異常です。これは、母猫から遺伝して起こる場合と、妊娠初期に母猫の栄養状態が悪かったり、胎児の成長を阻害してしまうような毒物や薬物を母親が摂取してしまった場合に起こるとされています。

注意したいのは、先天性の口蓋裂をもった子猫は、生きるのに重要なミルクや母乳をうまく摂取できず、すぐに亡くなってしまう危険性があることです。異変に気付いたら、すぐに動物病院で診てもらうようにしましょう。また、先天性口蓋裂を持った猫は、心臓や消化器など他の組織にも 先天性異常を併発している可能性があります。子猫の成長を総合的に注意しながらケアしてあげる必要があります。

後天性口蓋裂

高い所から落下したり、交通事故などで顔面に強い衝撃が加わったりした時に、口蓋が裂けてしまい、口蓋裂が生じることがあります。こういった事故では、同時に顎の骨折や他の臓器も損傷している可能性があるので注意が必要です。また、電気コードを噛んだことによる感電や、重度の口内炎により口蓋がただれて、穴が開いてしまうこともあります。これらは猫の年齢に関係なく起こりうるので、事前に避けられるものはなるべく防ぎたいものです。

猫の「口蓋裂」の治療法は?

なでられてうっとりしている猫

口蓋裂を見つけたら、なるべく早く治療して穴を塞ぎ、不便なく食事ができるようにしてあげなくてはなりません。 口蓋裂の穴を塞ぐためには、外科的な手術が必要になります。小さな穴であれば子猫の成長と共に塞がるケースも稀にありますが、ほとんどは手術を行います。猫の口蓋には硬い、ギザギザのヒダの部分があり、穴の程度が大きいと塞がりにくく、数回に分けた手術が必要になる場合もあります。通常は手術後2週間ほどで傷がくっつき、問題なく生活できる状態になります。

手術は全身麻酔が必要になるため、体格が未熟な生後間もない子猫は、生後3ヶ月前後から手術が検討されます 。それまでは、食事の補助が必要となり、栄養チューブを介して食道や胃に直接ミルクを入れてあげるケアを行います。また、口内炎などでただれて穴が開いた口蓋裂は、口内炎の内科的な治療も併せて行います。

まとめ

口蓋裂は比較的猫では珍しい疾患ですが、子猫で口蓋裂がある場合、治療をしない限りは基本的に命を落としてしまう可能性の高い疾患です。ペットショップから迎え入れた猫は、事前に健康診断を受けている場合が多いですが、保護した猫で特に生後間もない子猫は、口の中も入念にチェックしてあげましょう。

病気になる前に…

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。