こちらを見上げる猫

貧血と聞くと、人では立ちくらみや息切れ、疲れが取れないなどの症状を連想しますよね。女性にとっては、特に身近なもので、経験がある方も多いのではないでしょうか。猫にとっても貧血は通常の診察でよく見かけるもので、珍しいものではありません。貧血とは、病気の名前ではなく、血液中の赤血球量が減少した状態・症状のことを指します。貧血を症状とする病気にはさまざまなものがあります。人と同様ふらつきなども起こしますし、重篤化すると酸素が行き渡らなくなり、あらゆる臓器が正常に働けなくなるため命に関わる可能性もあります。今回は、猫でよく見られる貧血とはどのようなものなのか、症状や治療について解説します。

猫の「貧血」とは?

貧血とは、血液中の赤血球量が減少した状態をいい、抹消血液のヘマトクリット値(PCV値)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(Hb)が基準値以下に減少した状態のことを指します。赤血球は、骨髄内の赤血球の元になる幹細胞から分化し、血液中に放出され、循環します。その間、赤血球の中のヘモグロビンというタンパクが、肺から取り込んだ酸素と結びつき、身体の隅々の組織に酸素を運ぶ役割をしています。老化した赤血球は、主に脾臓(ひぞう)でマクロファージという免疫細胞によって壊され、取り除かれます。猫の赤血球の寿命は60日程度と言われています。通常は、この赤血球の産生と破壊のバランスが取れているため、赤血球量は一定に保たれていますが、この過程のどこかで異常が起こると、血液中の赤血球量が保てなくなり、貧血が起こります。

「貧血」の原因は?

寝ている猫

貧血の原因は、次のように分類できます。
・「非再生性貧血」
―骨髄中の赤血球の産生に異常が起き、赤血球自体の数が少なくなることによるもの(①)
・「再生性貧血」
―赤血球が寿命を終える前に壊されることで起きるもの(「溶血性貧血」/②)
―血管から赤血球が失われているもの(「失血性貧血」/③)
それぞれ以下で詳しくご説明します。

①骨髄中の赤血球の産生に異常が起き、赤血球自体の数が少なくなる
このタイプは貧血が起きていても赤血球が産生されないことから、「非再生性貧血」といいます。非再生貧血はさらに3つに分類されます。

1.幹細胞の分化障害:抗癌剤などの影響により幹細胞から赤血球が作られなくなった状態や、腎臓病による「腎性貧血」が含まれます。腎臓からは骨髄の幹細胞が赤血球に分化するのに必要な「エリスロポエチン」というホルモンが分泌されています。腎機能が低下すると「エリスロポエチン」が減少するので、進行した腎臓病では貧血が起きます。これを「腎性貧血」といいます。

2.赤血球の成熟障害:赤血球が成熟するためには多くの物質を必要としますが、これらが不足すると貧血が起きます。代表的なのが、「鉄欠乏性貧血」です。鉄以外にも正常な赤血球の産生にはビタミンB12、B6、C、Eや葉酸が必要です。バランスの取れたキャットフードを食べていればこれらが欠乏することはありませんが、手作り食の場合や消化管の寄生虫の感染、慢性的な消化器疾患で栄養不良に陥っている場合には注意が必要です。

3.骨髄の異常:白血病などの骨髄の病気やリンパ腫や肥満細胞腫のと骨髄転移は、骨髄が正常な働きができなくなり、貧血が起こります。これらでは、赤血球だけでなく同様に骨髄で産生される白血球や血小板も減少することが多いです。猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)で骨髄機能が低下してしまった場合も貧血が起こります。

②赤血球が寿命を終える前に壊される
①が「非再生性貧血」と呼ぶのに対し、②③では赤血球自体は作られるため、「再生性貧血」と呼ばれます。中でも赤血球が寿命を終える前に破壊されることで起きる貧血のことを「溶血性貧血」と呼びます。「溶血性貧血」は、代表的なものとして以下の3つが挙げられます。
1.中毒によるもの
犬のタマネギ中毒は有名ですが、猫も同様にタマネギ中毒を起こします。タマネギや、ネギ、にら、ニンニクに含まれる「アリルプロピルジスルファイド」という成分が赤血球を破壊することで貧血を起こします。また、風邪薬などに含まれる「アセトアミノフェン」も赤血球を破壊します。
2.病原体によるもの
ヘモバルトネラという微生物が赤血球の表面に寄生し、赤血球を破壊することで貧血を引き起こします。ヘモバルトネラは、マダニやノミといった吸血動物を介しての感染や、感染猫からの咬傷や母子感染でうつります。
3.免疫異常によるもの
免疫機能が異常を起こし、自分の赤血球を異物と認識し、攻撃することで起こすものを「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」と言います。

③血管から赤血球が失われる
「失血性貧血」と言い、ケガや手術により多量に出血を起こしたときに起こる貧血です。消化管の潰瘍や腫瘍、コクシジウムなど消化管内寄生虫による消化管からの出血などが原因となります。野良の子猫の場合は、大量にノミが寄生し、吸血されることで起こることがあります。

どんな症状になる?

こちらを見ながら寝ている猫

初期には、なんとなく元気がなかったり、あまり動かなくなったり食欲がなくなったりします。進行すると、歯茎などの粘膜の色がピンクから白くなり、呼吸が荒くなります。また、「失血性貧血」では、身体の表面に出血が見られる他、吐血や喀血(かっけつ)、便が黒くなる、血尿などの症状が見られることがあります。「溶血性貧血」では、白目や歯茎、皮膚の色が黄色くなる黄疸を示したり、血尿が見られることがあります。進行すると、酸素が体内に行き渡らなくなることで、昏睡状態になり、命の危険に陥ります。

診断は?

貧血の診断のために血液検査により、抹消血液のヘマトクリット値(PCV値)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(Hb)を調べます。貧血を起こす原因は上記のようにたくさんあるため、追加でさまざまな検査が必要になります。 血液検査、身体検査、レントゲン検査や超音波検査、尿検査、便検査で腫瘍や他の疾患がないか調べたり、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)のウイルス検査やヘモバルトネラのPCR検査を行なったり、麻酔下で骨髄検査を行うことがあります。

治療法は?治療費は?

貧血の治療は、原因を特定し、その原因を除去することです。原因を取り除くことができれば、貧血は改善されます。よって、原因により治療はさまざまです。

・「失血性貧血」では、出血部位を特定し、原因を取り除いたり、止血剤の投与を行います。「溶血性貧血」では、原因となる薬物や中毒があれば、それをやめ、中毒の治療を行います。

・ヘモバルトネラ症は、抗生物質やステロイド剤の投与を行い、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)では、免疫抑制剤の投与を行います。

・「非再生性貧血」では、栄養欠乏には鉄製剤やビタミン剤の投与を、腎性貧血ではエリスロポエチン製剤の投与を、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)ではインターフェロン療法を行います。

原因によっては完治するのが難しいこともあり、腎性貧血は腎臓病の悪化とともに進行していくことは免れないですし、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)で骨髄機能が低下した場合も回復が難しいことがあります。
貧血が重度で、原因を取り除くまでに時間を稼ぎたいときには輸血を行うこともあります。輸血には、ドナーの問題や輸血による副反応のリスクもあるため、漫然と行うことはできず、ここぞというときに行う必要があります。

治療費に関するアニコム損保の調査では、猫の貧血の治療費は通院1回あたりの平均額は9,395円で、平均年間通院回数は6回程度でした。貧血になった場合は、改善するまで通院が必要となり治療費が高額になるケースが多いです。

【関連サイト】
貧血 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

予防方法はある?

病院で診察を受けようとしている猫

貧血の予防では、以下のことに留意しましょう。
①タマネギや、ネギ、にら、ニンニクといった中毒を起こす食べ物を摂取させないようにする
②ノミや消化管内寄生虫に寄生されないように予防薬を使用する
③猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)やヘモバルトネラ症に感染しないように外に出さないようにする
④腎臓病などの疾患を早期発見するために定期的に健康診断をする

まとめ

猫は、貧血を起こして不調を感じていても重篤化するまでわからないことも少なくありません。日頃から観察をよく行い、なんだかいつもと違うなと感じたら、早めに動物病院に相談することが大切です。

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監修獣医師

平野 翔子

平野 翔子

2012年に東京農工大学を卒業後、24時間体制の病院に勤務し、予防診療から救急疾患まで様々な患者の診療に従事。その傍ら、皮膚科分野で専門病院での研修や学会発表を行い、日本獣医皮膚科学会認定医を取得。皮膚科は長く治療することも多く、どうぶつたちの一生に関わり、幸せにするための様々な提案や相談ができる獣医療を目指す。パワフル大型犬とまんまる顔の猫が大好き。