猫も人と同様、歯のケアを怠ると、「歯周病」になってしまうことがあります。歯周病は猫の食生活に支障をきたし、健康にも害をおよぼすので、正しいケアの仕方を知っておきましょう。歯石がついてしまった場合の処置方法についてもご紹介します。
そもそも猫に歯磨きは必要?
結論から言うと、猫も歯磨きをしたほうがよいです。
野生のネコ科動物は肉食のため、肉を引きちぎることで歯の表面の汚れが取れることに加え、あまり噛まずに飲み込むような食事スタイルのため、肉片が口の中に残りにくく、歯のトラブルが少ないと言われています。
一方、ペットの猫の場合は、主食がキャットフードという場合が多いはず。細かく、柔らかくなりやすいペットフードは、肉に比べて食べカスが残りやすく、放置すると歯垢や歯石となって、歯肉炎や歯周炎などのいわゆる「歯周病」の原因になります。
歯周病は万病のもと!子猫のうちから歯磨きを
歯周病は、歯を支える歯茎などの組織に起こる炎症で、ひどくなると顎の骨が溶けていきます。原因は、複数の口腔内細菌が歯の周囲で増えて歯垢になることです。この歯垢が、硬く石灰化していくことで歯石になります。歯周病は痛みや出血を伴うことで生活の質が悪くなるだけでなく、よだれや口臭の原因にもなります。さらに、歯周病からさまざまな内臓疾患へ波及することも最近の研究でわかってきました。
歯周病は重篤な疾病リスクを引き上げることが明らかに
アニコム損保の分析によると、歯周病などのお口のトラブルを持っている猫は、健康な猫に比べると、翌年全ての傷病の罹患率が2.7倍になることがわかりました。
また、腎臓病は2.7倍、心臓病にいたっては3.8倍となることもわかっています。
「歯周病は万病のもと」。放っておくと、さまざまな疾病に転じていく恐れがあります。愛猫の健康を守れるのは飼い主さんだけです。歯磨きなどのお口の中のケアを行い、歯周病を予防しましょう。
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まずは猫の歯の構造を理解しよう
猫の歯の数は乳歯のときは26本、永久歯は30本です。
歯は大きく分けると、表面の「エナメル質」、その下の「象牙質」、神経や血管などが集中する「歯髄」の3層から成り立っています。
また、よく目にする「歯周」とは、いわゆる歯を取り巻く組織のことで、「歯肉」「歯槽骨(しそうこつ)」「歯根膜(しこんまく)」「セメント質」から構成されています。
歯と歯肉の境目には、数ミリの溝(歯周ポケット)があります。ここに歯垢(プラーク)がたまると歯肉など歯周組織の炎症を引き起こします。これが歯周病です。また、歯垢は放っておくとどんどん硬くなってしまいます。これが歯石です。
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歯磨きに慣れてもらうための3ステップ
いきなり歯ブラシで歯磨きをするのはNGです。猫は口元を触れられると嫌がったり怖がったりする場合が多いので、「歯磨き=嫌なこと」と覚えてしまう恐れがあります。
「歯磨き=楽しいこと」と覚えてもらうために、1~3のステップを1つずつクリアしていきましょう。
【ステップ1】お口を触られることに慣れてもらう
はじめて歯磨きをする場合、まずは手でお口を触る練習から始めましょう。はじめは口の周りを触り、徐々に歯や歯茎に触れるようにしていきます。触れさせてくれたら褒めてあげて、おやつを与えます。「何だ、怖くなかった」「お口を触らせてあげたら、おやつをもらえた」というプラスの記憶をたくさん作っていきましょう。
①お顔や口元にタッチ!
はじめののうちは、顔や口周りを触れるところからスタート。
②唇をめくって歯や歯茎をタッチ!
少しずつ口の中に指を入れて歯や歯茎に触れていきます。
③奥歯にもタッチ!
奥歯にも無理なくタッチできるようになったら、ステップ2に進みましょう。
④上手にできたらおやつをあげましょう
おやつをあげる習慣はステップ2以降も続けましょう。
ステップ1をまとめた動画はこちら
【ステップ2】歯を触られることに慣れてもらう
指にガーゼやシートを巻いて、歯茎を痛めない程度に、歯と歯茎の表面を軽くなでましょう。まずは前歯から始め、慣れたら奥歯へ進みましょう。このステップでも、できたらすぐに褒めることがポイントです。
①様子を見ながら歯にタッチ!
前歯から奥歯へ進むように手を動かしましょう。
②指を奥まで入れて優しくなでる
力の入れ過ぎには要注意。
無理なくなでさせてくれるようになったら、ステップ3に進みましょう。
ステップ2をまとめた動画はこちら
【ステップ3】歯ブラシに慣れてもらう
歯に触られることに慣れてきたら、歯ブラシを使います。ヘッドの小さい猫専用歯ブラシがおすすめです。小児用歯ブラシで代用することもできます。触らせてくれる歯から1本ずつ、歯ブラシを細かく動かしながら磨きましょう。このとき、力の入れ過ぎには十分注意してください。
<歯ブラシの握り方>
歯ブラシは鉛筆のように持ち、軽く握ります。
①毛先を小刻みに左右に動かして磨く
歯に対して45度の角度で当て、毛先が歯周ポケットに入るようにします。
②ゴシゴシ磨くのはNG
すべて磨ききろうとせず、猫が嫌がったらすぐにやめましょう。
ステップ3をまとめた動画はこちら
歯の磨き方・コツ・頻度は?
・上の前歯と犬歯の外側から
上の前歯と犬歯の外側から磨いていくとよいでしょう。歯ブラシに水や歯磨き粉をつけたら、
小さく左右に揺らすようにして、歯と歯茎の際を磨いていきます。
・奥歯(臼歯)の磨き方
猫の頭を上から手で軽く掴み、上唇を親指で持ち上げ、歯を露出させると磨きやすいです。しかし、やや強引に見えたり、猫が嫌がったりする場合も多いので、難しいようなら、口の端から歯ブラシを入れ、閉じたままの状態で磨くようにします。奥歯は形が複雑で、特に歯石が付きやすい場所なので、重点的に磨いておきたいところです。
・頻度はどのぐらい?
食べ物のカスが歯に残り(食物残渣:しょくもつざんさ)、それが歯垢となり、1週間以内に歯石になると言われています。一度歯石になってしまうと、歯磨きでは取り除くことができなくなってしまうため、食物残渣や歯垢の間に除去することが重要です。そのため、できれば毎日歯磨きができるとベスト。それが無理でも、2~3日に1回はケアすることをおすすめします。
子猫の歯磨きはどうしたらいい?
大人になってから歯磨きを始めるのは大変、というケースが多いので、子猫のうちに慣らしておくとベター。永久歯が生えそろう生後4~6ヶ月ごろまでには慣らしておきたいところです。
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歯磨きを嫌がる時の対処法
猫ちゃんが歯磨きを嫌がっているのに無理やり行うのは、かえって歯磨き嫌いを助長してしまいます。「歯磨きに慣れてもらうための3ステップ」の項目でお話したように、まずは口の周りを触られることに慣らすことからはじめ、慣れてきたら歯に触る、歯を触らせてくれるようになったら歯ブラシを使う…など、焦らず段階を追って進めましょう。
歯ブラシに猫が好きなおやつをつけてなめさせる、歯ブラシを持つ手におやつを隠しておくなど、まずは「歯ブラシ=いいこと」と教えて、なるべくストレスが少ない方法で時間をかけて歯磨きを習慣化してあげてください。
後述しますが、それでも歯ブラシが苦手であれば、ガーゼや市販の歯磨きシートで歯を磨いたり、飲み水に混ぜて使う液体歯磨きなども販売されています。そのようなデンタルケア商品から始めてみるのもよいでしょう。
・プロに任せる方法も
歯の汚れ具合にもよりますが、歯のケアは動物病院でもしてもらえます。とくに口臭がきつい場合、すでに何かしらの口腔トラブルを抱えているかもしれません。獣医師にきちんと診断してもらい、必要な処置を行ってもらうほうが安心です。
おすすめの歯磨きアイテム
きちんと猫の歯磨きをするために、正しい歯磨き用品を使用しましょう。各アイテムの選び方のポイントをご紹介します。
・おすすめの猫用歯磨き粉
猫の口腔環境に合った歯磨き粉や歯磨き剤が市販されているので、猫専用の商品を選んで使用しましょう。歯磨きが好きになってくれるよう、猫が好むフレーバーが配合されているものもあります。
また、歯磨きが苦手な子のために、口の中に散布するスプレータイプや飲み水に混ぜて使う液状歯磨き剤などもあります。歯磨きのあとすすぐ必要のないものが主流です。
・おすすめの猫用歯ブラシ
ヘッドの小さい猫専用歯ブラシがおすすめです。通常のブラシタイプや、歯の上を転がして使用するローラータイプ、柔らかいスポンジタイプなど、さまざまな形状のものがあるので、愛猫に合った商品を選びましょう。また、小児用歯ブラシで代用することもできます。
・人用の歯磨き粉は使っていい?
人用の歯磨き粉を猫に使うのは控えましょう。人用の歯磨き粉の中には、「キシリトール」が配合されているものがあります。キシリトールは人の歯のケアによいと言われていますが、たとえば犬が大量摂取した場合はインスリンが大量に分泌されることで低血糖症になり、最悪命に関わることがあるとされています。
猫に犬と同様の症状が現れるのかはっきりとしたことはわかっていませんが、あえて人用を使うのは避けましょう。
万が一人用の歯磨き粉を舐めてしまった場合、体調に変化はないか観察し、気になることがあれば、すぐに獣医師に診てもらってください。
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猫の歯磨き代用品
歯ブラシと歯磨き粉を使って磨くのはやっぱりハードルが高いという場合、もう少し簡単に使用できそうな代用品から始めてみましょう。
・綿棒を使う
柔らかい綿棒は歯肉への刺激も少なく、歯垢を取ることもできる優れもの。奥歯にも届きやすい形状なので、歯磨き初心者さんにはぴったりです。綿棒の先に歯磨き粉や歯磨き剤をつけて、歯の根元の歯垢がたまりやすいところを磨いてあげてください。綿棒を使うときは、猫が綿棒の先にかじりついて綿を誤飲しないよう気をつけましょう。
・猫用歯磨きシート
指に巻いて使うシートタイプの歯磨きアイテムです。歯磨き剤がすでに染み込ませてあるものが主流なので、これひとつで手軽に歯磨きを行えます。
歯ブラシと違い、指先で直接歯や歯肉に触れることができるので、力加減のコントロールがしやすいかもしれません。使う場合は、指を噛まれないように気をつけましょう。
・猫用の歯磨きガム
しっかり噛むことで歯垢を除去するよう素材や形状が工夫された、さまざまな歯磨き用ガムが市販されています。毎日のおやつに取り入れてみるとよいでしょう。
一方で、歯に良いからといって与えすぎると体重オーバーの心配が出てくるので、適正な量を守ってあげてください。
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・歯磨きおもちゃ
楽しく遊ばせながら歯のケアもできてしまう、一石二鳥の機能性おもちゃも多数販売されています。
ヘチマやまゆ玉、マイクロファイバーなど、猫が噛みついたときに歯の表面の汚れを拭き取ってくれる素材が使用されています。ちぎれた欠片を誤飲しないよう、強度の高いものを選んであげてください。
歯石がついてしまったら?
歯石を取りのぞくには、歯科医が使用する「スケーラー」という先の尖った器具で削り落とす方法が一般的です。しかし、専門的な器具である上、とがった先端で口腔内を傷つけてしまったり、歯の表面を削ることでかえって歯石が付きやすい状態になってしまうこともあります。飼い主さんが行うのは難しいでしょう。動物病院で歯石除去する場合は、全身麻酔をした上で、スケーリングなどの処置を行います。
大切な愛猫の健康を守るために
歯磨きによって日常的にお口の中のケアをしていくと、歯周病の予防に繋がります。また、歯周病が他の疾患を悪化させる原因になっているという報告もあり、歯周病の予防が、他の病気の予防に繋がる可能性もあります。 慣れるまで大変なこともありますが、大切な愛猫の健康を守るために、歯磨きは重要です。無理強いはせず、ご褒美を活用し、少しずつ、歯磨きを続けていきましょう。