
犬の甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症は、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが欠乏することで起こる病気です。
甲状腺は、首の前側、甲状軟骨(人でいうのどぼとけ)のすぐ下にある臓器で、気管を挟んで左右に1個ずつ存在しています。甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を活発にする働きを持っています。具体的には、エネルギーの産生、蛋白や酵素の合成、炭水化物や脂質の代謝などがあります。甲状腺機能低下症になると、新陳代謝が落ちることによってさまざまな症状が現れます。
症状は?
全身症状
元気がなくなる、歩きたがらない、立ち上がるのを嫌がる、肥満、低体温、心拍数の低下など
皮膚症状
皮膚が分厚くなる、上まぶたや唇が厚くなって悲しげな顔になる(悲観的顔貌)、脱毛(特に尾や胴体部分)、皮膚が脂っこくなる、フケが増える、皮膚が黒くなる(色素沈着)、皮膚病が治りにくいなど
神経症状
ふらつく、顔面神経の麻痺、刺激しないと起きない(嗜眠)、発作、昏睡など
原因は?
犬の甲状腺機能低下症の原因は、90%以上が甲状腺組織の破壊による原発性甲状腺機能低下症です。自分の組織を自分で破壊してしまうリンパ球性甲状腺炎や、原因不明の甲状腺萎縮によって起こります。
先天的な甲状腺機能低下症や、甲状腺の腫瘍、下垂体や視床下部(脳にある、甲状腺を刺激するホルモンを出す臓器)の腫瘍や外傷などが原因となることもありますが、非常にまれです。
かかりやすい犬種や年齢は?
現在の日本での犬種ごとの飼育件数を考慮すると、トイ・プードル、柴犬、ミニチュア・シュナウザー、ビーグル、シェットランド・シープ・ドッグ、アメリカン・コッカー・スパニエルが発症しやすいといわれています。5歳以上の中~高齢での発症が多いですが、1~15歳以上まで幅広い年齢で発症します。
診断法は?

血液検査によって行います。血液中の甲状腺ホルモン値の低下と下垂体から出ている甲状腺刺激ホルモンの数値の増加が見られます。甲状腺の画像検査(超音波検査やCT検査)によって萎縮を確認することもあります。
ここで注意が必要なのは、甲状腺ホルモンの数値は、甲状腺以外の病気(クッシング症候群、糖尿病、悪性腫瘍など)や薬の影響でも低下するケースがあることです(euthyroid sick(ユーサイロイド)症候群)。
そのため、他の病気がないかを血液検査や画像検査で確認する必要があります。
治療法、治療費は?
足りなくなった甲状腺ホルモンを補充する、甲状腺ホルモン製剤を投与します。錠剤や液剤の飲み薬があります。治療費は、犬の大きさやホルモン製剤の量、病院の価格設定により異なりますが、月に5,000円~10,000円程かかることが多いです。甲状腺の機能自体を回復させることは難しいため、基本的には生涯飲み続けます。
甲状腺ホルモン製剤の適正な量はその子により違うため、定期的に血液検査を行い、過剰や不足がないかを確認します。適正な量のホルモン製剤を投与し続ければ、予後は良好です。Euthyroid sick症候群の場合、基礎にある病気を治療すれば甲状腺ホルモンの数値が改善する可能性があります。その場合、ホルモン製剤を投薬していると過剰になる可能性があるため、注意が必要です。
予防法は?
甲状腺機能低下症は有用な予防法がありません。そのため、早期発見、早期治療が大切です。元気がない、歩きたがらない、たくさん食べていないのに太る、脱毛がある、皮膚病が治りにくいなど、気になる症状があれば早めに診察を受けましょう。
定期的に健康診断として血液検査を受け、甲状腺ホルモンの数値を一緒に確認すると、早期発見につながります。
まとめ

甲状腺機能低下症は、適切に診断や治療が行われれば予後は良好な病気です。愛犬が高齢になると、元気がなかったり、歩きたがらなかったりしても「年のせいかな?」と様子を見てしまいがちですが、実は甲状腺機能低下症になっている可能性があります。定期的に病院で診察を受け、気になる症状があれば相談しましょう。
