犬が怪我したところをなめてしまう…。飼い主としてやめさせるべきか悩んだことがある方もいるのではないでしょうか。なめ続けてしまうと、皮膚炎などの病気になる可能性も! 怪我したところをなめ続けてしまわないように、エリザベスカラーや洋服の着用など対策が必要です。その他、怪我をしていないのに、自分の足など決まったところをなめ続ける行動が見られる場合に考えられることなどについてもご紹介します。

犬が怪我したところをなめてしまう理由は?

 犬は怪我をすると、本能的に傷口をなめようとします。これは、なめることで傷口をきれいにしたいからです。また、唾液にはごく少量ですが、殺菌作用のある微生物や酵素が存在するため、それらの力で、少しでも傷を治そうとしているという説もあります。

 このほか犬にとって、なめるという行為自体が、安心感を高め、自分を落ち着かせられる行動になります。傷が痛いあるいは気になることに対し、「大丈夫、大丈夫」と自分を励ましているのです。

なめすぎると皮膚炎の可能性も!?

 けれども、口の中には、有益な微生物だけでなく、化膿を引き起こすような細菌も多く含まれます。

また、もともと傷口からは、漿液(しょうえき)という、傷を治すための成分が含まれた体液が、多く分泌されています。これをなめとってしまうと、傷の回復が遅くなってしまいます。また、治りはじめの皮膚は弱く、せっかく修復されても、なめるという刺激でまた組織が破壊されてしまいます。そのため、傷口をなめるという行為は、なるべくやめさせるようにしてあげることが必要です。

 なめる行為が行き過ぎると、傷自体はたとえ治ったとしても、皮膚炎(舐性皮膚炎)が引き起こされることもあります。

舐性皮膚炎(しせいひふえん)とは

舐性皮膚炎(しせいひふえん)は、一般的には、足先に起こりやすい皮膚炎です。「なめる」あるいは「噛む」という刺激と、常に唾液が付着して湿ってしまうことにより、皮膚が負けて炎症を起こした状態です。軽度では、脱毛やよだれによる被毛の着色が主な症状ですが、ひどくなった場合は、皮膚が固くただれ、常に化膿した状態となってしまいます。多くはストレスが原因ですが、傷などが引き金となって起こることもあります。舐性皮膚炎にまで発展してしまうと、単に患部をなめないように服を着せたり、声かけをしたりという対処では治りません。ストレスを取り除くための環境改善や薬の服用などの治療が必要になってきてしまいます。傷口を気にしている段階のうちに、なめる癖をつけないようにしっかり管理し、気になる素である傷口が、いち早く治るように対処しましょう。

やめさせるには? 対策をご紹介!

なめるのをやめさせるための対策をご紹介します。

エリザベスカラー

エリザベスカラーの装着は、なめさせないということに対して、最も効果的ですぐできる方法です。エリザベスカラーを装着したら、食事時など、どうしても装着が難しい場合を除いて、家では外さないようにしましょう。強制的になめさせないようにしている分、飼い主さんが「ほんのちょっとなら」と外した隙に、犬が傷口をなめてしまうパターンは多く見受けられます。

また、サイズが合っていないと、外れてしまったり、犬の違和感が強くなったりすることがあるので、動物病院でサイズを合わせてもらうとよいでしょう。

エリザベスカラーが長期的(日常的)に必要となるケースもあります。違和感からストレスにもなりやすいので、愛犬が受け入れやすいものを選んであげましょう。最近は布製の軽いものなど、バリエーションも豊かなので、愛犬に負担の少ないものを選んであげてくださいね。

洋服・靴下

比較的乾いている傷ならば、洋服を着せたり、足先なら靴下をはかせることで、なめさせないようにするのもよいでしょう。ただし、傷口を完璧に覆うことができるものをチョイスする必要があります。通常の防寒やファッションのための洋服だと、服の隙間から鼻先を押し込んで、傷口をなめてしまうことがあります。専用の術後服があれば安心です。よく注意して選びましょう。

包帯などテーピング

化膿した状態の傷や、炎症が強い傷の場合は、包帯など巻くことで痛みが和らぎ、また傷の治りが早くなります。傷口を直接なめることもできなくなるので一石二鳥です。ただし、分泌液で傷口が汚れやすくなるので、短い間隔での交換が必要になります。

怪我をしていないのになめつづける場合に考えられることは?

犬は、手が使えない代わりに、痛みやかゆみがある場所もなめます。人間が痛いところをさすったり、かゆみがあるところを掻くのと一緒です。見た目は湿疹や赤みなど皮膚のトラブルがない場所を、執拗になめている場合は、皮膚の奥、内臓や関節に痛みや違和感がある、あるいはアレルギーなど、かゆみが先行する病気が隠れている可能性があります。

また、前述のように、精神的なものからなめている可能性もあります。不安を紛らわすため、飼い主さんの気をひくため(なめていると飼い主さんが声をかけてくれたり、側に寄ってきてくれることを知っている)ということもあります。特に手足の先などは、人間の子供が爪を噛むように、暇で口寂しいから、という場合もあります。

いずれの場合にしても、皮膚炎の可能性も含め、かかりつけの動物病院で診察してもらうようにしましょう。その際、いつ頃から・どんな時になめているのか(飼い主さんがいてもなめるのか、特定の場所や季節でなめるのか、など)を観察してから病院にかかると、診察の手助けになります。

さいごに

日常でできてしまった傷はもちろん、去勢や避妊手術など手術でできた傷口も、なめないようにさせることが大切です。犬は、本能的になめようとしますが、なめると傷の治りは遅くなります。

エリザベスカラーや洋服などで対策をしたり、なめないように声かけをするなど、家族である飼い主さんが、なめさせないように工夫をしてあげられると良いですね。

監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーに。病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。