病気が進行しないと症状が現れにくいことから、「沈黙の臓器」とも言われる肝臓。健康診断などの血液検査で、無症状の段階で異常を指摘されることも少なくありません。また、中毒に起因する急性肝炎も多くみられます。本記事では、肝炎の症状や治療法、予防法を解説します。特に気を付けてあげたい犬種や年齢などの特徴もご紹介します。

犬の肝炎とは

見上げるビーグル

 肝炎は、肝臓の炎症を中心に、肝機能の低下がおこる一連の状態を指します。症状から、急性と慢性の二つに分けられます。

①急性肝炎 

主な原因としてはウイルス感染(犬伝染性肝炎など)や細菌感染(レプトスピラ症など)、中毒があげられます。中毒は、例えば人の鎮痛薬や風邪薬に含まれるアセトアミノフェンや、殺鼠剤に含まれるヒ素剤、駆虫剤、カビ毒のアフラトキシン、ソテツなど、さまざまな物質により引き起こされます。

②慢性肝炎

ほとんどは特発性で、はっきりとした原因がわかることは少ないです。継続的な炎症により、最終的には肝臓が硬く変性し、機能不全に陥る肝硬変になります。遺伝的に体内に銅を蓄積しやすい犬種や、抗てんかん薬など薬剤の長期使用、ウイルス感染(犬伝染性肝炎など)が引き金になることもあります。

肝炎にかかりやすい犬種・年齢・特徴は?

コッカースパニエルのパピー

ドーベルマン、べトリントン・テリア、コッカー・スパニエル、ラブラドール・レトリーバーなどは、慢性肝炎を引き起こしやすい犬種と言われています。これらの犬種では、遺伝的に銅を排泄する機能が欠けていて、肝臓内に銅が蓄積することで炎症が引き起こされます。

人では、アルコールなどの生活習慣による肝炎も見られますが、犬では特定の食事や生活習慣が肝炎を引き起こすという報告はありません。ただし、肝炎になった場合は、治療として食事の改善が必要になります。また慢性肝炎は女の子の方がかかりやすい傾向にありますが、おおむね年齢・性別には関係ありません。

症状は?

急性肝炎と慢性肝炎のそれぞれの症状について解説します。

①急性肝炎

軽度の場合は一時的な食欲不振など、わずかな症状のみで、そのまま自然治癒する場合もあります。中等度以上では、食欲不振や嘔吐が見られます。重度になると黄疸や血便・神経症状など、重篤な症状が起こることもあります。これらの急性症状から転じて多臓器不全となり、死に至る可能性もあります。また、急性症状から脱しても、慢性肝炎に移行し、長期に渡り治療が必要になる場合もあります。

②慢性肝炎 

最初は目立った症状が出ないことがほとんどです。健康診断やフィラリア検査を目的とした血液検査で、肝酵素値が上昇していて、慢性肝炎の可能性を指摘されることが多いです。

数ヶ月単位で徐々に食欲不振や体重減少などが見られるようになります。さらに病状が進行すると、黄疸や腹水、神経症状(肝性脳症)などが現れます。最終的に肝硬変になると、消化管の炎症やそれに伴う血管からのたんぱく質の漏出や、神経症状の悪化などにより、死に至ります。

治療法

診察台の上のラブラドール・レトリーバー

急性肝炎と慢性肝炎のそれぞれの治療法について解説します。

①急性肝炎

急性肝炎は、中毒が原因となることがほとんどなので、治療は原因の除去と、体の回復が主になります。下痢や嘔吐による体液の損失を補う点滴治療や、感染予防のための抗菌薬、排泄を促すための利尿剤の使用があげられます。また、医薬品等の化学物質が原因と考えられる場合は、それらに対する解毒剤も使用されます。

②慢性肝炎

慢性肝炎は、徐々に病態が進行しているので、治療は、進行している炎症と肝機能の低下を抑えることが主になります。炎症に対する治療は、ステロイド剤あるいは免疫抑制剤の使用になります。肝機能に対しては、胆汁うっ滞の改善薬や抗菌薬が使用されます。

同時に、食事の改善も積極的に勧められます。良質な低たんぱく食(加工されていない肉や魚、卵、大豆など)や低塩分の食事が推奨されます。ただし、これらにこだわるあまり、すべて手作りの食事にしようとすると、かえって栄養のバランスが悪くなることもあるので注意が必要です。初期で、血液検査上では、肝臓の数値が上がり始めているけれど、症状が乏しいような状態であれば、比較的低たんぱく・低塩分である高年齢用のバランスが取れたフードがおすすめ。もう少し進行して症状が出始めている場合は、肝臓用の療法食も良いでしょう。フード選びは、かかりつけの動物病院で相談するのがおすすめです。

このほか、腹水が溜まったり、神経症状(肝性脳症)に移行して症状が進んでいる場合は、それらに合わせた治療が行われます。

治療費は?どれくらい通院が必要?

みんなのどうぶつ病気大百科』によると、犬の肝炎における1回あたりの治療費は7,884円程度、年間通院回数は3回程度です。

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

予防法は?

ウイルスを原因とする肝炎は、おおむねワクチンで防ぐことができます。混合ワクチンを、適切な間隔で、忘れずに受けさせるようにしましょう。また中毒による肝炎は、前述した人用の鎮痛薬や風邪薬などの医薬品の、誤食が原因になることが大変多いです。医薬品などを、愛犬が口にできる場所には置かないことが、最も大事な予防です。誤食はちょっとした隙に起きるものです。わが子は大丈夫、と油断することなく徹底して管理するようにしましょう。

抗てんかん薬など、治療による副作用として引き起こされる肝炎は、個体差も大きいうえ、薬を使用しないことによる病気の進行も心配されます。投薬中は勝手に休薬したりはせず、定期的な血液検査等で、肝臓の状態を確認してもらうようにしましょう。

定期的な健康診断(血液検査)を大切に

抱っこされてうれしそうなトイプードル

肝炎は、身近なものによる中毒が原因になる一方、症状が出にくいため、気が付きにくい病気でもあります。発見には、定期的に血液検査をすることが勧められます。春先のフィラリア検査や、ワクチンを打ってもらうために動物病院を受診する際に、健康診断として検査してもらうと良いですね。

【関連リンク】
肝炎 <犬>|みんなのどうぶつ病気大百科

監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーに。病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。