犬のパルボウイルス感染症は、ウイルスの一種である「パルボウイルス」に感染することで下痢や嘔吐、白血球の減少を引き起こす病気です。
ワクチン未接種などにより免疫力が不十分な子犬がかかると重篤な症状が見られ、命にかかわる危険性があるため注意が必要です。
今回は、犬のパルボウイルス感染症について解説します。

犬のパルボウイルス感染症とは?

犬のパルボウイルスは、非常に感染力が強く、またアルコール消毒などでは死滅せず、環境中でも数ヶ月生存できる強力なウイルスです。そのため、人の靴に付着してどこにでも運ばれてしまう可能性があります。
生まれてすぐの子犬は母乳を飲むことで母犬からパルボウイルスに対する免疫(移行抗体)をもらいますが、生後4~12週齢には移行抗体が減少してくるため感染しやすくなります。
細胞分裂が盛んな腸や胸腺、骨髄やリンパ組織などに感染します。
潜伏期間は約4~14日で、その後、症状がみられるようになります。

感染するとどんな症状が出る?

激しい下痢や嘔吐、食欲不振、元気消失、発熱、脱水症状が認められます。
腸粘膜が激しく傷つけられることで、血便がみられることもあります。
軽症であれば数日で回復することもありますが、重症の場合、下痢や嘔吐が止まらず、敗血症や血液凝固亢進(ぎょうここうしん)などが起こり、死に至ることがあります。
また、まれに心臓の筋肉に感染することで心筋炎を起こし突然死につながる場合があります。

検査方法

パルボウイルスは骨髄に感染すると白血球を作る細胞を破壊するため、血液検査で白血球が減少しているかを確認します。
また、パルボウイルスの抗原検出キットも有用です。糞便で検査でき、短時間で結果が出ます。
より正確に診断できるPCR検査もありますが、結果が出るまでに時間がかかることと、生ワクチンを接種した後は一定期間偽陽性が出ることがあるため注意が必要です。

原因は?

パルボウイルスに感染している犬の便や嘔吐物を、ほかの犬が口や鼻から摂取することで感染します。
感染力が強いため、犬がたくさんいるペットショップや多頭飼育などではすぐに病気が広まる危険性があります。

特に気を付けてあげたい犬種や特徴は?

かかりやすい犬種は特にありません。
免疫力が不十分な子犬では発症するリスクが高くなるため、子犬を迎えた後に下痢や嘔吐がある場合には早めに動物病院を受診するようにしましょう。生後6ヶ月齢までの子犬で多く見られます。

もしなってしまったら、治療法は?

ウイルスを排除するような画期的な治療法はないため、対症療法が中心になります。
致死率が高い病気のため、積極的な治療を行うことが大切です。入院し、脱水や電解質異常を改善させるための輸液療法や、腸粘膜の破壊や白血球減少症に関連した敗血症を防ぐための抗生剤療法、嘔吐を抑える制吐剤療法などを行います。

予防方法は?

犬のパルボウイルス感染症には、ワクチン接種が有用な予防法になります。
ワクチン接種が完了していない子犬は、散歩やほかの犬と接触する行為は避けましょう。

ワクチンについて

犬のパルボウイルスのワクチンは、すべての犬に接種することが推奨されているワクチン(コアワクチン)です。
生後すぐは母犬の母乳からの免疫により守られていますが、移行抗体は徐々に消失していくため、子犬のころにワクチンを接種する必要があります。移行抗体が残っているとワクチンの効果が薄れてしまうことがありますが、どれくらい移行抗体が残っているかの特定は難しいため、ワクチンを2~4週間おきに複数回接種する必要があります。お近くの病院でご相談ください。

感染症の広がりを防ぐためのポイント

パルボウイルスは感染力が非常に強いため、広がりを防ぐことが大切です。

家ではどう過ごせばいい?

愛犬がパルボウイルスに感染した場合、同居犬がいれば、速やかに隔離します。
石鹸やアルコール消毒は効果がないため、次亜塩素酸ナトリウムを含んだ漂白剤を水道水で希釈(0.1~0.5%)した消毒液で家の中や食器を消毒しましょう。消毒液を汚染した部分の表面に吹きかけたり、食器や衣類をつけおきする場合は、30分以上置くようにします。
感染している犬と接触する場合には、使い捨ての手袋や敷物・拭き物などを使用し、服はその都度着替えて消毒しましょう。

まとめ

犬のパルボウイルスは、子犬が感染すると命にかかわる可能性がある怖い病気です。しかしワクチン接種で防ぐことができるため、子犬を迎えた際にはワクチンの接種時期をしっかり確認することが大切です。
また、犬を迎えたら早く一緒にお出かけをしたいとは思いますが、十分な免疫を獲得するまではお散歩やほかの犬と触れ合うのは控えるようにしましょう。

監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。