ダニは非常に小さい節足動物で、その存在を生活の中で感じることはほとんどありません。しかし、ダニの寄生によって皮膚の赤みやかゆみなどの皮膚病がもたらされるのはもちろん、後述する感染症を媒介する可能性もある実は怖い存在です。今回はそんな小さな敵、「ダニ」について知っていきましょう。ダニの種類によっても引き起こす症状、感染経路、感染症も異なります。ダニを見つけてしまった場合の対処法や予防法まで紹介します。

犬に寄生する代表的なダニ

 世界には非常に多くの種類のダニが存在し、現在日本で確認されている種類だけでも2000種以上といわれています。その中でも犬に感染するダニとして比較的多い種類を紹介します。

マダニ

吸血することで成長するダニで、吸血前の体長でも3~8㎜と肉眼で見えるダニです。吸血後はさらに体が大きくなるため1~2㎝台の黒い血豆のような形状になります。ダニが感染し吸血することが直接的に皮膚にかゆみや痛みを引き起こすだけでなく、後述するような感染症を媒介する可能性があります。主に森や山などの自然豊かな場所に生息しますが、市街地でも公園や河川敷など草木が覆い茂る場所であれば生息しています。

イヌセンコウヒゼンダニ

イヌセンコウヒゼンダニは犬の「疥癬」という皮膚病を引き起こすダニです。マダニのように吸血はしませんが、皮膚に小さなトンネルを掘って寄生するため、皮膚への炎症や強いかゆみを引き起こします。イヌセンコウヒゼンダニは顔や耳、肘、膝、お腹といった被毛の少ない部位を好むとされ、多くの場合これらの部位に脱毛やかさぶたを形成します。また、犬だけでなく人にも感染し、同様に皮膚のかゆみをもたらすことがあるので注意が必要です。

イヌミミヒゼンダニ

その名の通り、主に耳に寄生するダニで、「外耳炎」を引き起こす原因となります。耳に強いかゆみをもたらすため、頭を振る、耳を前足で掻くなどのしぐさや耳垢などの症状が見られます。まれではありますが、ミミヒゼンダニは耳以外の場所にも寄生することができるので、症状が必ずしも耳だけに限る訳ではありません。

ニキビダニ

ニキビダニは普段から、犬の皮膚の毛穴内に常在し、垢や皮脂を餌として生活しています。全身状態の悪化や免疫が弱まるとニキビダニが異常増殖してしまい、皮膚病を引き起こします。顔や足などに脱毛等をもたらしますが、多くの場合かゆみを伴いません。犬に寄生するニキビダニは宿主特異性といって感染できる動物種が限られているため人には感染しません。

犬のダニの感染経路は?

パグのアップ

ダニの感染経路を種類別に紹介します。

マダニの感染経路

マダニは草木が覆い茂る場所に生息するため、外出時に犬の被毛に付着することが主な感染経路となります。また、山や森に入った人が靴や衣類につけて家に持ち帰り、自宅で犬に感染する場合もあります。

マダニ以外の感染経路

マダニ以外の眼に見えない小さなダニは、主に犬同士の接触で感染します。ペットショップや保護施設などたくさん犬が飼育されている場所やドックランといった不特定多数の犬と接する場所ですでに感染している犬と接触することが主な感染経路となります。

マダニによって媒介される感染症

マダニは吸血をした際に、体内に持つウイルスや細菌を伝播してしまう恐れがあります。その中には、犬だけでなく人にも感染する「人獣共通感染症」も含まれるため、注意が必要です。代表的な感染症には以下のようなものがあります。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

2011年に初めて中国で特定された新しいウイルス感染症です。日本でも2013年に海外渡航歴のない人での感染が初めて確認され、人だけでなく犬や猫での感染も報告されています。SFTSの原因ウイルスに対するワクチンや根本的な治療薬は見つかっておらず、重症例では死に至る場合もある危険な感染症です。発熱や消化器症状があり、血液検査の所見では血小板や白血球の減少をもたらします。マダニの吸血を受けてから、6~14日後に発症するため、犬からマダニを除去したあとも1~2週間は体調に変化がないかをよく観察しましょう。

ライム症

日本では1986年に初めて人での感染が認められたライム病ボレリアという細菌が原因の感染症です。ライム病もマダニの吸血によって、人だけではなく犬や猫にも感染する人獣共通感染症です。犬では多くの場合、不顕性感染といって感染しても症状が現れませんが、まれに関節炎や顔面麻痺などの神経症状、食欲不振、発熱などがみられることがあります。

バベシア症

バベシア症とは、マダニの吸血によってバベシアという原虫が犬の赤血球内に寄生することで生じる感染症です。先述した2つの感染症とは違い、人への感染は確認されていません。バベシア症では、病原体が増殖する過程で赤血球を破壊したり、赤血球が体内で異物と見なされ壊されたりすることで、溶血性貧血を生じます。発熱や貧血の症状に伴い、食欲不振や浅い呼吸の状態、頻呼吸(ひんこきゅう)、赤血球の赤い色、すなわちヘモグロビンが尿の中に出ている血色素尿や黄疸などがみられるようになります。西日本で多く発生していましたが、近年では東日本での発生も報告されています。

関連リンク
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犬がダニに感染しないために

軽い皮膚症状から重い感染症まで媒介する恐れのあるダニに感染しないために、どのようなことが予防策としてあるのでしょうか。飼い主ができることを紹介します。

予防薬を忘れずに!

予防薬と犬

ダニ予防を行うことで、それらに接触したとしても犬の体で増殖しないようにすることができます。予防薬には、背中に垂らすスポットタイプやおやつ感覚で食べるチュアブルタイプがあります。また、投与の間隔もその薬によって月に1回または3ヶ月に1回と異なります。どのタイプの予防薬を使用するのがよいかは、かかりつけの獣医師と相談しましょう。

シャンプー、ブラッシングでお手入れ

ブラッシングされるポメラニアン

毎日の散歩後すぐにブラッシングをすることも予防の一つとなります。犬の被毛に付着したダニが皮膚に寄生する前や吸血前に体から落せる可能性があるとともに、毎日お手入れをすることで素早くダニの寄生に気づくことができます。また、月に1~2回ほどのシャンプーで、皮膚の状態を清潔に保つことも予防につながります。

愛犬の体にダニが! どうするべき?

皮膚のかゆみや異変に気付いた場合には、すぐに動物病院を受診しましょう。特に犬の体に血豆のような吸血中のダニを見つけた場合は、無理に取ろうとしてはいけません。吸血中のダニは針のような口を犬の皮膚に刺しているので、無理に引きちぎると口の部分が体内に残ってしまい、それが原因で皮膚病の悪化につながることがあります。また、先述したような感染症を持ったマダニの場合、取り除こうとして誤ってつぶしてしまうと、ウイルスや細菌に人が感染してしまう恐れがあります。

まとめ

なでられてうれしそうなラブラドール・レトリーバー

さまざまなダニの寄生は脱毛やかゆみといった皮膚病をもたらすだけでなく、時には犬や人の命に関わる感染症を伝播します。愛犬含め飼い主の健康を守るためにも日頃のケアを行い、予防を欠かさないようにしましょう。

監修獣医師

奥村 菜穂

奥村 菜穂

日本大学を卒業し、2015年に獣医師免許を取得。卒業後、神奈川県内の動物病院に勤務し小動物医療に携わる。また、同時にペットドックトレーナー育成学校にてドックトレーニングについて学び、2020年にドックトレーナー資格CPDT-KAを取得。現在は千葉県にて犬の繁殖研究やトレーニングを行っている。愛犬は柴犬とウェルシュコーギー・ペンブローク。猫や他のどうぶつについても興味関心が高く、いろいろと勉強中。 関連記事