猫の皮膚に円形の脱毛が見られたら、皮膚にカビが生える皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)という病気の可能性があります。放っておくと、脱毛が広がったり、人にもうつったりする皮膚病です。今回は猫の「皮膚真菌症」について、どうやって感染するのか、また症状や対処法をお話しします。
皮膚病の原因となる「真菌」
カビはキノコや酵母と同類で「真菌類」に属する微生物です。
真菌って何?
真菌(カビ)と言うと、お風呂などの黒カビが頭に浮かぶ方も多いでしょう。しかし、麹、チーズ、ビールといった発酵食に利用されているのも真菌です。また、自然界では動植物の死体などを分解する役割を担っています。真菌の中には、人や動物の皮膚などに感染・寄生する種類もあり、真菌が皮膚に感染して発症する病気を「皮膚真菌症」といいます。また、真菌が糸状の形をしていることから「皮膚糸状菌症」ともいいます。人での皮膚糸状菌症で一般的なものでは水虫があります。
猫が皮膚真菌症になる原因は?
皮膚真菌症の原因は、ミクロスポルム・カニス(Microsporumcanis)という真菌が98%を占めます。
真菌に感染することで発症
ミクロスポルム・カニスに代表される皮膚真菌症の原因菌は、動物から動物へ感染します。すでに感染している動物に猫が接触したり、感染した動物の抜け毛やフケ、真菌が付着したタオルやクッション、ブラシなどから、別の猫の被毛に付着することで感染します。野良猫を拾って家に招き入れた場合、すでに猫に菌が付着していることもあります。また、飼い主が外で他の動物を触って家に持ち込むこともあります。
菌が付着した猫がすべて発症するわけではなく、免疫力の弱い子猫や老猫、他の病気に罹って体力が低下している猫が発症しやすいです。また、長毛の猫も発症しやすいといわれています。付着した菌は、1~2日以内に被毛や皮膚の表面で増殖し、皮膚の表層の組織の中へ侵入していきます。
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猫の皮膚真菌症ってどんな症状?
皮膚真菌症を発症すると、どのような症状が見られるのでしょうか。脱毛や皮膚の赤み、フケ、かさぶたなどいろいろな症状が見られますが、代表的な症状について説明します。
円形に脱毛する
真菌に感染すると、最初に、感染した部位の脱毛が起こります。始めのうちは、それほどかゆがる様子は見られません。そのため、毛束がポロッと抜けて、円形に脱毛しているのを見て初めて症状に気づくことが多いです。
発生しやすい箇所は、顔周りや足、しっぽです。同時に複数箇所脱毛している場合があるので、脱毛したところを見つけたら、他にないか全身くまなく探してみましょう。

フケが出る
脱毛した箇所は、放っておくと、脱毛した皮膚の外周からさらに毛が抜けて、同時にリング状にフケも出てきます。さらに悪化すると、中心部が赤くなったり、かさぶたができたりして、細菌の二次感染を起こす場合があります。痒みを伴うこともあります。
脱毛箇所が増えていき、最終的には全身に広がることもあるため、早めの発見が重要です。
猫が皮膚真菌症になったときの治療法は?
猫の皮膚真菌症に対する治療法は、抗真菌薬(外用薬)の塗布、または飲み薬の投与とシャンプー療法がメインとなります。また、感染した猫の生活環境中の真菌の除去対策もとても重要なことなので、予防の項で後述します。
薬の投与(どんな薬?)
皮膚真菌症には「抗真菌薬」が有効です。抗真菌薬は飲み薬で全身的に投与する場合と、外用薬で患部に塗る場合があります。飲み薬は最も効果が高く、広範囲にわたる皮膚症状に効果がありますが、長期投与で消化器症状や肝臓に負担がかかるなどの副作用が問題となることがあります。また投薬期間が8〜12週間と長いため、定期的に血液検査などで副作用の影響がないかチェックしながら投与していく必要があります。
子猫や老猫、肝臓が弱い猫などで、脱毛などが一部に留まっている場合は、外用薬を患部に塗って治療します。
猫の皮膚真菌症では主に被毛に真菌が感染するため、患部周辺の毛をあらかじめ広めに毛刈りして外用薬を塗ります。こうすることで、感染した毛を除去するのと同時に、薬剤が患部に浸透しやすくなります。外用薬を塗ったあとは、猫が舐めないように注意しましょう。気にして舐めてしまう場合はエリザベスカラーを付けることもあります。
シャンプーをする
薬用シャンプーを用いて全身を洗うことは、体表に付着した菌や感染した抜け毛を落とし、より早く治すことができると同時に、環境中に菌が広がるのを防止することにもつながります。しかしながら、元々猫はシャンプーをする習慣がなく、水が苦手な猫も少なくないので、猫がシャンプーをいやがる場合は、動物病院に相談しましょう。
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猫が皮膚真菌症になったときの治療費、治療期間は?
皮膚真菌症は他の動物にもうつる可能性があるので、完治するまでしっかり治療するのが基本です。ではどのくらいの治療期間と治療費がかかるのでしょうか。
治療費はどのくらい?
アニコム損保のデータによると、通院1回あたりの平均治療費は3,888円程度です。
初回の診療では、真菌かどうかの検査(被毛検査や培養検査など)が必要で、その後も真菌が治ったかの確認で検査を行う場合があります。また、皮膚症状の広がりの程度によって外用薬にするか、飲み薬で治療するかを決めるので、その治療方法によっても治療費が異なります。通院回数は1ヶ所の小さな脱毛だとしても、最低2回以上は通院が必要と考えましょう。
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改善するまで1ヶ月以上かかることも
治療期間は軽い症状のものでも2〜3週間はかかります。広範囲に皮膚症状がある場合はしっかりと飲み薬を飲ませる必要があり、だいたい8〜12週間は投薬やシャンプーが必要といわれます。また、他の病気を抱えていて免疫力の低下した猫では皮膚のバリア力が弱く、さらに治療期間が長くなる可能性もあります。
猫の皮膚真菌症は人間にうつる?
猫の皮膚真菌症は人にもうつる感染症(人畜共通感染症)です。特に10歳以下の小児に発症しやすいといわれ、それ以外にも抵抗力の低いお年寄りや感染した猫と頻繁に接触する人は注意が必要です。
人間にもうつるので注意!
人に感染すると、皮膚に赤い円形の皮膚炎(リングワーム)ができたり、髪の脱毛などの症状がみられ、強いかゆみがあるとされます。症状が見られたら、早めに皮膚科を受診し、猫を飼育しているという情報も必ず医師に伝えましょう。
また、愛猫が感染した場合には、なるべく愛猫との接触を避け、接触した場合は手指や腕、首回りなど肌が露出している部分は洗い流し、洋服も着替えましょう。感染猫の抜け毛やフケからの感染も考えられるので、家の掃除も念入りにしてください。
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猫の皮膚真菌症は自然治癒する?
本来、感染した猫に抵抗力があれば、時間はかかりますが自然治癒する場合もあります。しかし、感染源から周囲に広がるリスクもあり、自然治癒を待っていると広がって悪化するケースも多いので、症状を見つけたらなるべく軽症の内に治療してあげましょう。
猫の皮膚真菌症の予防法は?
新しく猫を迎え入れる場合は、家に入れる前に真菌症にかかってないか確認するようにしましょう。また既に家にいる猫を真菌から守る場合は、飼い主や他に飼っている動物が外から真菌を持ち込まないよう気をつけることが大切です。
皮膚真菌症の菌は、乾燥した環境下でも1年近く生存でき、一度感染した猫や動物が家で生活すると、家庭内のほこりや絨毯から多く菌が検出されます。たとえ、感染猫の治療が終了しても、環境中に真菌が残っていれば再度感染してしまう可能性があります。もし、家の猫が真菌症を発症した場合は、同居の猫や動物と接触を避けるよう部屋を分けてあげる必要があります。
また、感染猫が使用して真菌が付着したと思われるもの(ベッドやタオル、ブラシなど)はできるだけ廃棄します。廃棄できないものは、熱湯消毒や塩素系漂白剤による洗浄を行います。環境中の毛やフケ、ほこりは、掃除機で吸い取ったり、ぞうきんがけなどで繰り返し除去するようにしましょう。
まとめ
猫の皮膚真菌症は命に関わることはなく、治療をすれば基本的に治る病気ですが、治るまでに時間がかかり、その間、人に感染しないよう環境を管理するのが大変な病気です。特に、猫を新たに家に迎えるときは、感染してないか、身体をよく観察するようにしましょう。
病気になる前に…
病気は、いつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

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