ペットフードにはさまざまな種類がある
一口にペットフードと言っても、いろいろな分類があります。まずは、基本的な用語から確認していきましょう。
総合栄養食
毎日与える主食とすることができるフードです。当てはまるライフステージに該当するものであれば、それだけで健康の維持に必要な栄養素を取り入れることができるとされます。日本のペットフード公正取引協議会が定義する言葉です。
おやつ
栄養バランスの観点からも主食にはならず、ご褒美などコミュニケーションの手段として単発的に使われる食べ物です。消費者庁が承認する「ペットフードの表示に関する公正競争規約」では、ペットフードの目的の欄に「間食」と表示するよう推奨しています。
総合栄養食などの主食の栄養バランスに影響を与えないよう、与える限度量などが記載されることがあります。嗜好性を高めてあるものがほとんどで、与えすぎるとおやつばかりねだって主食を食べなくなるので注意が必要です。
療法食
特定の疾患や健康状態に対して、治療や栄養学的なサポートをするために獣医師が指定するフードです。疾患の進行の抑制や、発症の予防を目的とすることもあります。病気の程度やフードの目的によっては、定期的に病院での検査を行ってそのフードを継続すべきかどうかの検証が必要な場合があります。
また、おやつなど他の食べ物と組み合わせることが推奨されないものもあります。追加の食べ物を与えたい、フードそのものを変更したい場合は必ず動物病院で相談してください。同じ目的の療法食であっても、数種類から選べることがあるので、愛猫が一番好むものを見つけてあげましょう。
その他の目的食
特定の栄養やカロリーを追加することが目的のものや、味付けのために追加するものなどが含まれます。「ペットフードの表示に関する公正競争規約」では、目的欄に「一般食(おかずタイプ)」「カロリー補給食」「動物用サプリメント」などと表示するよう定めています。
ドライフードとウェットフード

ドライフードとウェットフードの大きな違いは、含まれている水分量です。水分含有量が約10%以下のものがドライ、75%程度のものがウェットです。水分含有量が少ない分、ドライフードの方が開封後は比較的長期の保存ができるとされています。ただし、フードが空気に触れることで風味が落ちたり酸化したりするため、なるべく密閉状態にしておきましょう。ドライフードを個別のパックに密閉し、湿度の低い冷暗所や冷蔵庫で保管しているご家庭もあるようです。
ウェットフードは水分が多い分、傷みやすいです。パッケージに指定のとおり、開封後は早めに消費することが推奨されます。開封後に短時間保管しなければならない場合は必ず冷蔵庫に入れましょう。
水分含有量が多いフード方が歯石の原因になりやすい、という話を聞いたことはありませんか?実際、ドライフードのみを与えている猫の方が歯周病を中心とした口腔内疾患の発生率が低かった、とする報告はいくつかあります。ドライの方が歯のまわりに付着しづらいこと、粗い表面が食べかすをからめとってくれるというのが理由です。ただし、忘れてはいけないのは、ドライフードでも歯周病が発生しないわけではないということです。
どれくらい定期的にお口の中のケアができるか、毎日必要な水分を摂れているか、そして何よりも、必要とする栄養成分の入ったフードを気に入って食べてくれているかどうかで、どのフードタイプにするかを検討してください。
ペットフードの選び方

猫用のフードは数えきれないほどの種類があります。自分の子にどれが一番良いのか頭を悩ますのはご家族にとって一度や二度の経験ではないでしょう。また、味にこだわりのあるグルメさんや、一定期間経つと飽きてしまうのか別のフードに切り替えざるを得ない猫もかなりの割合でいるようです。何を基準にフードを選ぶかのきっかけとして、以下を参考にしてください。
ペットフード選びで一番重視したいこと
重視すべきは、その猫にとって必要な成分を適切な量だけ食べてくれるフードであることです。必要な成分は、私たち人間と同じように、その時期の健康状態によって変わってきます。また、適切な量とは、なるべく多く摂るとういうことではなく、身体に負担をかける成分は最小限に抑える、という意味も含まれます。療法食などを指定されている場合は、同じ成分比率のものから選ぶようにし、おやつなどを追加で与えてもよいのかを必ず獣医師に確認してください。
幼齢期や高齢期を含む身体のサポートが必要な時期には、フード選びは特に注意が必要です。愛猫がしっかり食べてくれるもの、という大前提のもと、信頼できるメーカーのものを選びましょう。また、キャットフードはドッグフードと異なる栄養成分が含まれています。愛猫にドッグフードを長期的に与えることはしないでください。手作り食はかなり難しいとされていますが、挑戦する場合、猫の栄養学に詳しい専門家に助言をもらうようにしましょう。
原材料について
ペットフード安全法により、使用した原材料は原則としてパッケージにすべて記載され、含まれている量が多い順に並んでいます。フードを選ぶ際はパッケージの表側に書かれた内容だけに惑わされず、必ず裏面の原材料欄を確認してください。
猫の生態を鑑みると、良質のたんぱく質は欠かせません。原材料の質については完全に判断することが難しいですが、信頼できるメーカーのものを選んであげることをおすすめします。あくまで質が重要であるため、一般的な猫では何由来のたんぱく質であるかが問題となることはあまりありませんが、食品アレルギーがある場合は注意してください。
また、肉食動物だからとたんぱく質だけを食べていればよいわけではありません。野生の猫科動物は、獲物のあらゆる部位を捕食することで生きていくのに必要な脂質、ビタミンやミネラルなどさまざまな成分を摂取しています。栄養バランスについてはAAFCO(米国飼料検査官協会)の定める基準を参考にしている企業が多いとされていますが、獣医栄養学はまだまだ新しい知見が増えていく分野です。フードについて不安がある場合は獣医師に相談することをおすすめします。
猫種別もある
フードには猫の品種別に分かれているものもあります。主な特徴は、その品種に特異的な身体的特徴をサポートするもの、かかりやすい疾患を予防しようとするもの、そしてアゴの骨の形状に合わせた食べやすさに着目して開発されたものなどがあります。骨格がしっかりしていたり、体重が比較的重くなる品種は、負重のかかる関節のサポートを、ペルシャなどでは長い被毛を美しく維持することを、などが一般的なフードに対する追加要素として専用のフードが開発されています。
また、アゴの大きい品種ではドライフードの粒を大きめにし、かみ砕く動作をさせることで口腔衛生に寄与することを想定しているものもあります。一方で、アゴの幅が狭く、フードを歯で挟みながら口に運ぶことの多いシャムなどには、筒状の形状のフードが合うようです。その品種のことを考えて開発されたということで特別感や安心感を覚える方もいるのではないでしょうか。もちろん、猫のフードの選択肢の1つとして検討いただいてかまいません。ただし、繰り返しになりますが、大前提は愛猫が好んで食べてくれることです。もし好みに合わない場合は、他の栄養バランスのとれたフードに切り替えましょう。
ライフステージにあったものを選ぶ
ライフステージに合った栄養バランスであることは、フードを選ぶ際の重要なポイントです。主な特徴は次のとおりです。
・子猫(1歳以下)のペットフードの選び方
哺乳期は母猫からお乳をもらうか、市販の代用乳を与える必要があります。特に、生まれた直後の母乳は「初乳」という特別なもので、母猫からの抗体をたくさん含んでいます。母乳に含まれる抗体の量は時間とともに少なくなるため、生まれてすぐに母乳を飲めるようサポートしてあげましょう。
生後間もない子猫を保護した場合は、免疫力がつくまでの数ヶ月、感染から守ってしっかり栄養を与えてあげましょう。胃袋がまだ小さく、たくさんの量に対応できないため、生後数週間までは3~4時間おきの哺乳が必要です。生後3週間頃から乳歯が生えてきたら、離乳食として成長期用のフード(ドライであればお湯や代用乳でふやかしたもの)を少しずつ与えていきます。消化管がフードに慣れ、100%離乳食に切り替わるまではそれまでの代用乳もしっかり与えてエネルギー量が不足しないようにしましょう。
一般的に離乳が完了する生後2ヶ月齢時点で、子猫が必要とするエネルギー量は成猫の数倍です。離乳期から成長期に食べる、いわゆる子猫用のフードというのは、消化管の機能を補助するための消化性の良さと、成長に必要なエネルギーを補うための高カロリー、体を作り上げていくためのたんぱく質含有量が高いことが特徴です。
また、猫はタウリンを必須アミノ酸としています。必須アミノ酸は、体に欠かせないアミノ酸のうち自分で作り出せず、食べ物から摂る必要のあるものです。ドッグフードを猫に与えていけない理由の一つが、このタウリンを含んでいない点です。どのライフステージのキャットフードにもタウリンは含まれているはずですが、1歳までの成長期ではタウリンが特定の器官の発達にも重要な役割を果たす時期でもあります。必要量を摂るために、成長期用のフードを必ず選択してください。
・成猫(1-6歳頃)のペットフードの選び方
体の大きさと活動量によって必要とするエネルギー量に個体差が生じます。成猫用の総合栄養食と表記されたものが、この時期の栄養バランスを考慮したものとされています。栄養バランスが整えられていても、愛猫がそれを必要な量だけ食べてくれなければ意味がありません。一般的には体重別で与えるべき量がフードのパッケージに記載されているので、まずはそれを目安にしてください。
体重の推移には気をつけ、定期的な健康診断の際などに病院で体格のチェックをしてフード量を調整していきます。病院に連れて行くことが難しい猫で基礎疾患がなければ、まずは肥満にならない、というおおまかな目標でフードの種類や量を決めるのも手です。猫は一度に大量に食べ物を摂らない習性がありますが、1日中まったく食べない場合は異常なので必ず受診しましょう。
・シニア期(7歳頃~)のペットフードの選び方
代謝量が低下するため、必要とする総カロリー量は減ります。このため、シニア用のカロリーを抑えたフードへの切り替えが推奨されます。一般的に脂質の割合を減らしたフードになるため、消化管への負担も減らすことができます。内臓の機能は低下していきますが、たんぱく質は引き続き必要であるため良質のものをあげてください。体をサポートするための基本的な栄養バランスに加え、免疫力や関節のサポートに備えて各種ビタミン、ミネラルや関節保護成分が追加されているフードも多いです。腎臓の機能の低下が見つかった場合は、腎臓に負担をかけないよう指定された療法食を中心に、水分を充分に飲めていることにも注意しましょう。
気に入ってくれないときは思い切って変えてみる

栄養バランスが整えられていても、フードをしっかり食べてくれなければ意味がありません。特に猫は、食欲不振から短期間で肝リピドーシスという病態が引き起こされます。1日のごはんの量を必ず把握し、食いつきがよくない場合は別のフードを試すことを早めに検討します。同じフードシリーズの別の味を試したり、ドライとウェットを混ぜたり、方法はいろいろあるので、楽しみながら次の好みのものを探してあげましょう。療法食などを食べていて別のフードを検討したい場合は、かかりつけの動物病院に相談することをおすすめします。
切り替えるときのポイント
フードを変更することを決定したら、以前のフードに新しいフードを少しずつまぜ、必ず一週間以上かけてゆっくりと切り替えてください。新しいフードに消化管を慣らし、負担を最小限にするためです。まったく大丈夫な場合もありますが、急に新しいフードの割合を多くしたことでお腹をこわす猫もいます。フードの切り替え直後に単発でお腹をこわした場合は、一度元のフードに戻し、また少しずつ新しいフードの割合を増やしていきましょう。ただし、アレルギーや消化器疾患など特定の疾患の治療のために迅速にフードを変更する必要がある場合などは、短期間でフードを切り替えるよう獣医師に指定されることがあります。どのような場合でも、食欲の低下や消化器症状が続く場合は動物病院を受診しましょう。
まとめ
栄養バランスのとれたフードを適量食べることは、私たち人間と同じように、猫でも健康維持のために重要なことです。ただし、猫という動物種の生態に適した栄養バランスは、人間のものとさまざまな点で異なります。必ず、猫専用のフードを主食として与えてください。また、すべての猫が共通して好む最適なフードは残念ながらありません。さまざまな情報があふれる現代でフード選びに頭を悩ませることも少なくないと思いますが、まずは愛猫がしっかり食べてくれること、そしてその後に体調の変化が起こらないことを目安にいろいろと試してみましょう。
