猫のおしりからピンク色のできものが出ている、肛門周りをしきりに気にしてなめている、といった場合「脱肛」といわれる肛門の内側の粘膜が外側に飛び出している状況かも知れません。今回は猫で起こる「脱肛」のなりやすい状況、原因や対応についてお話しします。
猫の脱肛とは?
「脱肛」は肛門脱の略で、元々肛門の中にある肛門の粘膜が外に出てしまっている状態のことをいいます。肛門の出口にある充血した赤い粘膜がポリープの様に見えるため、何かおしりにできものができたと来院する猫もいます。トイレで排便している時の猫も一時的に便が出る時に粘膜が見えることがありますが、脱肛はこの粘膜が排便時以外でも肛門の外に出たままとなります。ちなみに似た病名で直腸脱がありますが、直腸脱は肛門から直腸そのものが反転して飛び出している状況で、脱肛よりも広範囲の腸が外に出てしまう状態をいいます。
猫の脱肛の原因は?

脱肛は、若齢の猫から高齢の猫まで幅広い年齢で認められ、発生の原因もさまざまです。どの猫でもきっかけとなる原因があればなり得るので、どういったことで起こるのか把握しておくと良いでしょう。考えられる猫の脱肛の原因は以下の通りです。
消化管内寄生虫の感染
条虫や線虫などの消化管内寄生虫感染による慢性下痢やしぶりで脱肛を起こすことがあり、特に子猫や若齢猫の脱肛は寄生虫感染が原因であることが多いとされます。
腸内異物
特に紐状の異物などが直腸など下部の消化管に留まって出てこない場合、猫は排便時に違和感を感じ力んで脱肛を起こすことがあります。よくよく見ると入り口に紐状の異物が見え隠れしていることもありますが、見つけたら無理に引っ張らずに動物病院で確認してもらいましょう。また、長毛種の猫で毛玉を良く飲み込む猫は便の中に毛が混じり、便が出づらい状況からしぶりがみられ、脱肛を起こしやすい可能性があります。
腸炎
しぶりの強く出るような下痢を伴う腸炎が続く場合、特に大腸の炎症がある場合は脱肛を引き起こしやすい状況となります。若い猫ではトリコモナスやジアルジアなどの原虫、細菌感染による感染性腸炎に注意が必要です。また中高齢の猫においても食事性の腸炎、腫瘍性や特発性の炎症性腸炎など注意が必要です。
便秘が原因のときも
猫では3日以上便が出ないような便秘が犬より多く見られます。便秘では何度もトイレに出入りして排便姿勢をとっても便がでず、繰り返し力むことで脱肛が生じる場合があります。猫では下痢でみられるようなしぶりの症状が便秘でも見られますので、便がきちんと出ているかを日頃からチェックしておきましょう。
肛門の筋肉が弱くなる
肛門には肛門括約筋とよばれる肛門の出口が開いたままにならないよう閉じたり、また便が出る時は広がったりする筋肉があります。この筋肉が栄養状態の問題や神経的な問題、外傷などで筋肉が緩くなり機能しなくなってしまった場合、排便時少し力んだ程度でも肛門内の腸や粘膜が容易に出やすくなってしまいます。
直腸の腫瘍
高齢の猫では直腸に腫瘍ができる場合があります。この腫瘍によって、直腸で吸収不良が起きて下痢をしたり、腫瘍そのものによって直腸が狭くなり便が出づらくなったりすることでしぶりや出血が生じ、脱肛が起こる場合があります。
先天性
猫のなかでもマンクス種は遺伝的に尾が短く、これが関連して排便障害が起こりやすく脱肛や直腸脱を他の猫より起こしやすいと言われています。
猫の脱肛はどんな症状になる?

脱肛になると脱出した腸の粘膜に違和感を感じ、しきりに肛門周りを舐めたり床におしりを擦りつけるような行動が見られます。これにより、肛門から出血がみられる場合があります。このような症状がある場合は猫のお尻を確認し、赤い粘膜が出ていないかを確認しましょう。脱肛の状態が続くと、出ている粘膜に炎症が起こり、場合によっては粘膜が乾燥して組織が壊死してしまう危険性があります。またさらにしぶり等の症状が悪化し、直腸脱に発展する可能性もあります。直腸脱になると排便が難しくなり、痛みなどで食欲不振に陥ってしまう場合があります。脱肛を見つけたら早めに動物病院を受診しましょう。
猫の脱肛ではどんな治療をする?

脱肛の治療は出ている粘膜の障害の程度によって多少は異なるものの、出ている粘膜を肛門の中に戻すことが主な対応となります。脱肛を戻した後は、エリザベスカラーなどを装着し症状が落ち着くまでは猫が舐めないような対応が必要になります。また、脱肛の原因となる疾患がある場合はそちらを治療しない限り、脱肛が再発する可能性があるので、原因疾患の治療を平行して行うことが重要となります。
脱肛を戻す治療法は主に以下の方法があります。
手で戻す方法
脱出の程度が軽度で、粘膜の色も悪くない場合は露出している粘膜を生理食塩水などできれいに洗浄し、乾燥しないように消炎剤入りの軟膏やグリセリンを塗って、指でゆっくりと肛門内に戻す方法がとられます。多くはこの対応で脱肛が落ち着きますが、粘膜の腫れが引くまでに数日を要する場合があります。
再発防止に肛門を整復
脱肛を戻した後、すぐにまた脱肛を起こしてしまう、もしくは原因となる疾患の治療に時間を要する場合、再発防止のために肛門周りを糸で縫合して出口を狭くし、粘膜が再度飛び出さないようしばらく固定する方法があります。ある程度症状が落ち着く1週間程度を目安に固定しますが、その間排便がしっかりできているか注意してみる必要があります。
粘膜の損傷が重度な場合は外科的な切除が必要なことも
脱肛した状態が長期間続き、脱出した粘膜の組織が壊死してしまっている場合、壊死した粘膜は機能せずまた炎症が広がる危険性もあるため、切除が必要な場合があります。この場合、全身麻酔や部分麻酔が必要となることが多く、猫にとって負担も増えます。脱肛を見つけたら、粘膜の状態が悪化する前に早めに対応することが重要です。
家庭でできる応急処置はある?
脱肛を見つけた場合、できるだけ早く動物病院を受診するのがベストです。しかし直ぐに受診できない場合は、可能なかぎり猫が肛門を舐めたり、床におしりを擦りつけないようにする必要があります。過剰に気にする猫は場合によっては粘膜を噛みちぎってしまう危険性もあります。自宅にエリザベスカラーがあれば装着すると良いでしょう。また、脱出した粘膜が乾燥しないようグリセリンや食用油などの潤滑剤を塗って無理のない範囲で肛門内に粘膜を押し戻します。腫れがひどく、痛がる場合は無理に押し戻さず動物病院を受診しましょう。
まとめ
脱肛は早めの対応と、原因となる病気の治療がしっかりできれば治る疾患です。ただし、対応が遅くなったり、腫瘍などの治療が難しく完治が困難な疾患がある場合は再発や悪化の危険性があるため、長期の管理が必要になる可能性があります。動物病院の獣医師とよく相談し、猫にとって生活に支障のない治療方法や自宅での管理法を見つけていく必要があります。
