あごを撫でられている猫

尿は、腎臓で作られ、腎臓から尿管を通って膀胱に貯まります。一定量膀胱に尿が溜まると尿意を感じ、尿道から身体の外に排出されます。水腎症とは、何らかの原因により尿の通り道である尿路が塞がり、尿が排泄されないことで、腎臓に尿が貯まってしまった状態のことを指します。

水腎症ってどんな病気?

トイレで排尿する猫

前述のとおり、水腎症とは、尿路が塞がって尿が排泄されないことで、腎臓に尿が貯まってしまった状態のことです。貯まった尿により、腎臓の正常な組織が圧迫され、腎臓本来の機能が果たせなくなります。また、腎臓が風船のようにふくらみ、腎臓自体のサイズも大きくなります。腎臓は左右に2つありますが、片側の腎臓だけが水腎症になる「片側性」のケースが多いです。しかし、まれに両方の腎臓が水腎症になる「両側性」のこともあります。

片側性で、ゆっくりと水腎症を起こした場合は、無症状で気がつかないこともあります。急に水腎症を引き起こした場合には、痛みが出ることがあります。また、両側に水腎症を起こした場合には重度の腎不全を引き起こし、命に関わる状態になります。

水腎症の原因、多いのは尿路結石!

尿路が塞がってしまう原因には、尿路結石、腫瘍、外傷、手術の後遺症などがあります。また、若齢の猫に見られる珍しいケースの原因には、生まれながらにして、尿管が本来とは違う位置にある「異所性尿管」や腎臓の奇形などがあります。最も多い原因は、結石による尿路閉塞です。結石が腎臓内や尿管、尿道にできることで、尿路を塞ぎます。

最近は、食事療法で溶けないシュウ酸カルシウム結石が増えており、猫の尿路結石の90%がシュウ酸カルシウム結石です。シュウ酸カルシウム結石ができるのは、遺伝的要因、体質、食事内容、飲水量、肥満、代謝異常が原因とも言われていますが、詳しいことはわかっておらず、どんな猫でもなり得るためやっかいです。猫の尿管は直径が1mm程度しかなく、ごく小さい結石でも閉塞を起こしてしまいます。

腫瘍は、膀胱の尿管が開口する部位にできる「移行上皮癌」などが原因となることがあり、予後が悪い悪性腫瘍です。
手術の後遺症としては、雌の猫の避妊手術の際、尿路が巻き込まれて糸で縛られることが原因となることがあります。

どんな症状になる?

原因と状態により症状はさまざまですが、尿の異常や痛みによる症状が現れることが多いです。また、お腹を触ると、肥大した腎臓を感じ取れることがあります。

血尿、食欲不振など

尿路結石が原因の場合、初期には尿に血が混ざったり、何度もトイレに行ったり、尿が出ないなどの症状が見られることが多いです。人間が尿管結石を起こすと、脇腹から背中にかけて疼痛発作と言われる激痛を起こします。猫では痛みのサインがわかりにくいですが、元気がなく動かなくなったり、食欲がなくなったりすることがあります。

とくに症状がないときも…

片側性の場合は、もう一方の腎臓が代償性に機能するため、症状があまり見られないことも少なくありません。一過性の嘔吐や軽度の食欲不振、元気がない等の症状が見られる猫もいますが、数日で元気になり、見過ごされることも多いです。

重篤な症状

両側性の場合や、もう一方の腎臓機能も何かの原因ですでに失われている場合には、腎不全になり、非常に重篤な症状を示し、数日以内に尿毒症に陥り命が危ぶまれます。腎不全の症状としては、たくさん水を飲み、薄い尿をたくさんする、食欲廃絶(まったく何も食べない状態)、嘔吐、痩せてくる、脱水などがあります。さらに進行すると、尿中へ排出すべき老廃物の排出ができなくなり、尿毒症が進みます。血液中に尿毒素が入り、口内炎や胃炎、嘔吐や食欲廃絶、脱水を引き起こします。尿毒素が脳神経に作用することで、痙攣発作を引き起こします。最終的には生命の維持が困難になり、命を落とします。

診断はどうやってする?

診断には、超音波検査が最も有効です。腎臓の中の腎盂と呼ばれる部位が拡張していることを確認します。閉塞した尿管も同時に確認できることがあります。猫の尿管はとても細いため、検査時は鎮静剤を用いて、お腹の毛を刈って行います。超音波下で採尿して尿検査をし、腎臓障害の程度や全身状態の把握をするために血液検査を行います。また、レントゲン検査で結石や閉塞を起こす原因を探り、「静脈性尿路造影」により水腎症・水尿管症の程度および腎臓の排泄機能を確認します。

猫の水腎症の治療法は?治療費は?

治療してもらっている猫

原因がなんであれ、水腎症を改善する処置を行わないと腎臓機能を失うことになります。そのため、塞がった尿路を開き、通常どおり尿が通るようにすることが治療の目的となります。基本的には外科手術が適応となりますが、猫の尿管は細いため、手術の難易度は高いです。早い時期に尿路を再び開くことができれば、腎臓の機能を失うことがなく、予後は良好と言われています。

現在ではさまざまな手術方法があります。尿管を切開し、縫合する方法や、閉塞部前で尿管を切って膀胱につなげる「尿管―膀胱バイパス術」、猫の尿管を使わずに人口のカテーテルをバイパス経路として用いる「腎臓―膀胱バイパス術(SUBシステム)」などです。再び尿路が塞がらないように、さまざまな治療法が開発されていますが、難易度が高い手術であるため、個人の動物病院では対応が難しく、専門病院を受診する必要がある可能性があります。そして、手術後も、再度塞がってしまわないかを注意して観察する必要があります。また、重度の感染を起こしていたり、腫瘍が見られたりする時には、腎臓の摘出や腫瘍の切除を行うことがあります。

片側性で臨床症状もそれほど悪くなく、状態が良い場合は、内科的な治療で経過を見ていくこともあります。閉塞が完全ではなく部分的なものである場合、抗炎症薬や痛み止めを用いて、経過観察を行います。
治療費については、アニコム損保の調査によると、通院1回あたりの平均単価は4,644円程度となっています。内科治療で経過を見る場合の通院費の目安となるでしょう。手術を選択した場合には、治療費はより高額になると考えられます。

【関連サイト】
水腎症(すいじんしょう) <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

猫の水腎症の予防法はある?

寝ている猫

猫の水腎症の原因として多い尿路結石のできるメカニズムは不明な点も多いため、予防は難しいですが、初期の尿管結石に気がつかなかったことで尿管が閉塞し、気づいた時には腎機能が完全に失われ、腎臓が萎縮していたということも少なくありません。定期的な健康診断で早期発見を心がけましょう。また、お腹にしこりがある、なんとなく元気や食欲がない、排尿行動に異常があるなど、症状に心当たりのある場合は、早めに動物病院に相談しましょう。また、肥満や冬の飲水量の減少は尿路結石のリスクを増やすので、体重管理・尿チェックをこまめにするようにしましょう。

定期的に健康診断を

片側の水腎症は症状が軽度で見逃されることがあります。年に1回はレントゲン検査や腹部超音波検査、尿検査を含めた定期健康診断を受けるようにしましょう。

まとめ

なかなか気づきにくい水腎症ですが、重篤な状態になると数日で命が危ぶまれることもある怖い病気です。一度失った腎臓機能は取り戻せないため、猫の様子に異常を感じたら、様子を見ずに動物病院に相談しましょう。

病気になる前に…

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

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監修獣医師

平野 翔子

平野 翔子

2012年に東京農工大学を卒業後、24時間体制の病院に勤務し、予防診療から救急疾患まで様々な患者の診療に従事。その傍ら、皮膚科分野で専門病院での研修や学会発表を行い、日本獣医皮膚科学会認定医を取得。皮膚科は長く治療することも多く、どうぶつたちの一生に関わり、幸せにするための様々な提案や相談ができる獣医療を目指す。パワフル大型犬とまんまる顔の猫が大好き。