猫の平均寿命は、獣医療の進歩、飼い主さんの意識の向上、食事の質の改善などにより年々伸び続けています。アニコムの調査※によると、2008年は13.7歳でしたが、2017年には14.2歳まで伸びています。長寿の猫が増えることで、増えている病気があり、がんもそのひとつです。近年の研究によると、がんは猫の死因のトップになっています。がんは、発生部位や形態によって治るもの、完全には治らないものがあります。また、猫のがんは、高齢で発症することが多いです。
愛猫ががんになったらどうしよう…と心配な方も少なくないのではないでしょうか。長年一緒に過ごした愛猫が、万が一「がん」になったとき、家族としてどうするべきか、考えておくと良いでしょう。今回は、がんとは何か、がんの兆候、症状、治療、予防について解説していきます。

「家庭どうぶつ白書2019」(P46)

がんとはどんな病気?

膝の上でまったりする猫

がんとは、遺伝子の変異によって無限に増えるようになった細胞集団(=腫瘍)のうち、元の臓器を離れても増え続けて転移を起こすものや、周りの組織に浸潤する悪性のもののことを指します。遺伝子の変異は、生き物が生まれてから常に起きている現象ですが、遺伝子の変異によって異常が起きた細胞はすぐに死んだり、免疫によって取り除かれたりするのが通常です。それをかいくぐり、いくつもの遺伝子変異が積み重なって、無限に増えるようになった異常細胞の集団が、がんなのです。

がんになるのはなぜ?

がんの原因は、ストレスによる免疫力の低下、慢性的な炎症、生活習慣、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスの感染、遺伝的な要因、放射線、化学物質(食品添加物や農薬、殺虫剤、タバコ)などがあり、これらは遺伝子を傷つけて、がんの発生率を高めます。また、乳腺腫瘍などの一部の腫瘍では、ホルモンの影響があると言われています。しかし、1番の原因は加齢であり、放射線や化学物質の摂取とは関係のない生活を過ごしていても、加齢による遺伝子の変異の積み重ねにより、がんは発生します。

腫瘍でよく聞く「良性」と「悪性」って?

腫瘍は大きく分けると良性と悪性に分けられます。良性腫瘍では、転移することがなく、大きくなる速度もゆっくりです。しかし、悪性腫瘍では、一般に増大速度が速く、周囲の組織に広がり(浸潤)、身体のあちこちに飛び火(転移)することもあります。しこりを主訴に動物病院に来院した猫の多くは悪性腫瘍と言われています。特に、猫の頭頸部、乳腺、生殖器、皮膚に発生した腫瘍は、犬よりも悪性の比率が高いです。猫でしこりに気がついたときには、様子を見ずに動物病院に相談しましょう。

がんの兆候はわかる?

飼い主のお腹の上で眠る猫

身体の表面に発生したがんはしこりが見られるため、比較的見つけやすいです。一方で内臓に発生したがんの場合、初期にはあまり兆候を示さず、気づきにくいです。食欲がない、下痢や嘔吐、痩せてくる、血便や血尿、呼吸が苦しくなるなど、他の疾患でも表れる症状が見られることもあります。猫はこれらの不調も隠す傾向があるため、いつもと様子が違うと感じたら、動物病院で血液検査や画像検査を行うことをおすすめします。

猫で多い「がん」は?

猫で発生が多いがんは、1位が皮膚腫瘍、2位が乳腺腫瘍、3位がリンパ・造血器系腫瘍です。皮膚腫瘍では、50~65%が悪性と言われており、肥満細胞腫、扁平上皮がん、ワクチン接種部位肉腫、線維肉腫という種類のがんが多いです。どの皮膚腫瘍も身体のあちこちに転移する確率は高くないですが、周囲へ広がっていき、出血や痛み、違和感を引き起こします。

猫に代表的ながん、「肥満細胞腫」って?

肥満細胞腫は、免疫をつかさどる肥満細胞ががん化する悪性の腫瘍です。一般に太っていることを指す肥満とは関係ありません。肥満細胞腫は皮膚に発生する「皮膚型」と、脾臓・肝臓・腸などに発生する「内臓型」があります。

・皮膚型
頭部や首の周りなどの皮膚に発生するタイプで、赤みや痒みを起こし、皮膚疾患と間違えられることがあります。猫が顔や耳介を痒がるときには、皮膚疾患と決めずに早めに動物病院に相談するのが良いでしょう。

・内臓型
脾臓や肝臓、小腸などの内臓に発生するタイプで、悪性度が高く転移しやすいといわれています。嘔吐や下痢、食欲不振などの症状を引き起こすことがあります。まれに、内臓の肥満細胞腫が皮膚に転移し、皮膚型のように見えることもあるので注意が必要です。

猫に代表的ながん、「扁平上皮がん」って?

扁平上皮がんは、いわゆる皮膚がんで、白い毛の猫に発生しやすいです。紫外線が発生率を上げると言われています。口の中や目、鼻、口、耳などの頭部にできることが多いですが、扁平上皮細胞がある場所であればどの部位にでもできるため、全身の皮膚や爪の周り、腹部などにも出できます。猫の口腔内の腫瘍の多くは、この扁平上皮がんと言われています。皮膚がただれたり、盛り上がりができたりして、中には破裂して出血を起こすこともあります。顔にできたものは、リンパ節や肺などへの転移することもあります。口の中の扁平上皮がんでは、口臭がしたり、痛みから食事できなくなったりすることがあります。

猫に代表的ながん、「ワクチン誘発性肉腫」って?

ワクチン誘発性肉腫は、猫に特異的に発生する、ワクチン接種部位に生じる悪性腫瘍です。ワクチンの効果を高めるために使用する試薬が原因とも言われています。発生率は1万頭あたり1~3.6頭と低いですが、浸潤性や転移性も高く、皮膚にしこりを作るのみならず、肺などの他の臓器にもしこりを作ります。ワクチンを打った場所を把握しておくと良いでしょう。

猫に代表的ながん、「乳腺腫瘍」って?

乳腺にできる腫瘍で、猫では8割が悪性と言われています。メスに多いですが、稀にオスでも見られます。乳腺腫瘍は、進行度の違いで4つ のステージに分けられます。大きさ、リンパ節への転移、多臓器転移の有無で病態の把握をします。早いステージであるほど、助かる可能性が高くなり、2cm未満か2cm以上かで予後が変わってくるため、早期の発見、治療が大切です。乳腺腫瘍の発生はホルモンと関係があり、メスでは1歳未満の避妊手術で約9割発生率を低下させることができます。2歳以降の避妊手術では、乳腺腫瘍の発生率を低下する効果はないため、交配予定がない場合は早めに避妊手術を受けさせましょう。
人では、乳がんの早期発見・治療を啓蒙し、乳がん患者に対する支援や活動を行うピンクリボン運動があります。猫でも、乳がんで苦しむ猫をゼロにするために、飼い主さんへの啓蒙や獣医師への猫の乳がんの標準治療法の普及などを行うキャットリボン運動があります。猫の身体を触り、乳腺部位に他の皮膚より硬い「しこり」がないか確認すると良いでしょう。

猫に代表的ながん、「リンパ腫」って?

白血球の一種であるリンパ球は、免疫をつかさどり、病原体と戦い身体を守ります。リンパ球は身体のあらゆる場所に存在します。リンパ腫はリンパ球ががん化したものなので、身体のどこにできるかわからず、発生した場所により症状が異なります。たとえば消化管なら食欲不振や下痢・嘔吐、胸であれば呼吸困難を引き起こします。発生した場所により治療への反応や経過も異なります。進行すると、肝臓や脾臓、骨髄などあらゆる臓器に入り込み、本来の機能を低下させます。無治療の場合の平均寿命は、1~2ヶ月とされています。
猫のリンパ腫は、猫白血病ウイルスの感染との関連が示されています。猫白血病ウイルスは猫同士の接触で感染するため、多頭飼育の中で猫が感染した場合は、他猫との接触を防ぎましょう。

どんな症状になる?

ぐったりしている猫

上記のようにさまざまながんがあるため、症状は、発生したがんの種類や発生部位によって異なります。猫は不調を隠すことも多く、がんが判明したときにはすでに重症化していることも少なくありません。体重が減っている、元気がなんとなくない、熱っぽい、しこりがある…など不調のサインを見逃さないようにしましょう。また、嘔吐や下痢、咳が続く、皮膚炎がひどい、血尿・頻尿、痙攣、黄疸などがん以外の病気でも見られる症状でも、実はがんが原因だったということもあります。これらの症状が見られたときには、動物病院に相談し、異常がないか詳しく調べてもらうと良いでしょう。

どんな治療法がある?

不治の病として恐れられているがんですが、早期発見と早期治療を行うことで命が助かることや延命できることがあります。主な治療法は手術、化学療法、放射線療法、免疫療法の4つです。

手術

手術は外科的にがん細胞を切除する方法です。がんが転移しておらず、浸潤性も低い場合には、完治が期待できる方法です。がんが大きかったり、すでに転移を起こしていたり、リンパ腫のように全身に広がっているものは、切除できないため、別の治療法が行われます。

がんのすべてを取り除くことができなくても、手術を行うことで、症状を緩和したり、生活の質を改善できたりする場合にも手術を行うことがあります。デメリットとしては、全身麻酔が必要なこと、手術侵襲(メスをいれることによる身体への負担)が加わることがあります。

化学療法

化学療法は、抗がん剤 を用いた治療のことです。リンパ腫などの全身に広がる血液のがんに対して効果が出やすいです。抗癌剤は、正常な細胞に対しても影響が出るため、デメリットとして、嘔吐や下痢などの副作用がでる、骨髄の障害により免疫機能が低下する、薬剤の耐性ができるリスクがあることが挙げられます。
近年、注目を浴びているのが「分子標的薬」という新しいタイプの抗癌剤です。従来の抗癌剤とは異なり、分子標的薬は、がん細胞に多く発現している酵素タンパクなどを狙い撃ちにするため、正常細胞へのダメージを減らし、副作用が軽度になります。猫では、肥満細胞腫、扁平上皮癌、ワクチン誘発性肉腫、乳腺腫瘍などの治療で使用されることがあります。

放射線療法

放射線療法は、放射線を照射し、がんを小さくする治療法です。手術が難しい部位の腫瘍や脳などでも治療が行えます。すでに転移を起こしているがんには適応できません。デメリットは、放射線治療の度に全身麻酔が必要なこと、正常細胞を傷つけ炎症を起こす可能性があること、大学病院や二次診療施設などでしか治療が受けられないこと、費用が高額であることがあります。鼻腔内や口腔内にできたがんの治療で行なわれることがあります。

免疫療法

比較的新しく発展途上の治療法で、免疫をつかさどるリンパ球にがん細胞を攻撃させて治療を行う方法です。副作用がほとんどなく他の治療と併用して行う事が多いです。デメリットは、新しい治療法で治療データが不足しているため、効果があまり見られない可能性もあることです。

それぞれ治療法にはメリット・デメリットがあります。実際の治療は、がんの種類、発生場所、ステージ、猫の状態によって選ぶ必要があります。獣医師によく相談し、治療法を決定しましょう。

予防方法はある?

メスの場合、発情期を迎える前に避妊手術を行い、乳腺腫瘍を予防すると良いでしょう。また、性別によらず猫白血病ウイルスを他の猫から貰わないために、外には出さず、室内飼育を行う必要があります。また、海外の研究で、タバコの煙で猫や犬のがんの発症率が大幅に高くなることが分かっています。副流煙を吸うことやタバコの煙がついた毛を猫が舐めることががんの原因になるため、猫がいる部屋での喫煙は避けるようにしましょう。

がんの治療は早期発見・早期治療が大切です。猫のがんでは、表に症状が出てこないこともあるので、定期的な健康診断を受けるのが良いでしょう。がんの発見のために、健康診断では身体検査や血液検査だけではなく、レントゲン検査や超音波検査を行うことをおすすめします。

愛猫ががんになったらどうしたらいい?

がんと診断されたら、家族としてどのような治療を望むかを明確にすることが大切です。治療法はさまざまですが、獣医師とがんの状態、治療法のメリット・デメリット、費用、猫の性格を踏まえて、治療法を決めましょう。疑問点がある場合は、その都度質問し、十分に獣医師と話し合う必要があります。腫瘍の治療に長けている専門医や認定医もいるので、他の治療法を探したい場合や、治療に納得できない場合、より積極的に治療を行いたい場合はセカンドオピニオンを検討したり、専門医に紹介してもらったりしても良いでしょう。

がんの診断を受け、状態が良くない、完治できない場合などは、不安でとても辛い気持ちになるでしょう。辛い中ではありますが、愛猫とどう過ごしていくかを考えなくてはなりません。苦痛を和らげ、家族との時間を過ごせるように、獣医師と相談しながら1番良いと思う方法を探しましょう。

まとめ

長寿の猫が増えているからこそ、増えているがん。愛猫もがんになる日が来るかもしれません。早期発見・早期治療のため、日頃からスキンシップを取り、様子を観察し、変わったことがあったら早めに動物病院に相談するようにしましょう。定期的に健康診断を受けることも大切です。日頃からなんでも相談できるかかりつけ獣医を見つけておくこと、がんとはどういう病気かを知っておくこと、どんな治療を受けさせ・どんな最期を迎えるかを猫が元気なうちから家族で話してあっておくこと。こうした準備をしておくことが大切です。

病気になる前に…

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

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監修獣医師

平野 翔子

平野 翔子

2012年に東京農工大学を卒業後、24時間体制の病院に勤務し、予防診療から救急疾患まで様々な患者の診療に従事。その傍ら、皮膚科分野で専門病院での研修や学会発表を行い、日本獣医皮膚科学会認定医を取得。皮膚科は長く治療することも多く、どうぶつたちの一生に関わり、幸せにするための様々な提案や相談ができる獣医療を目指す。パワフル大型犬とまんまる顔の猫が大好き。