「クッシング症候群」という病気はあまり聞き慣れないかもしれませんが、「副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)」の別名で、副腎から分泌される一部のホルモンが過剰に増えてしまい、身体に異常をきたす病気です。この病気は人や犬でも見られますが、猫でも見られます。今回は猫で起こるクッシング症候群の症状や治療法についてお話しします。

猫の「クッシング症候群」とは

ソファの上で眠たそうにしている猫

左右の腎臓の頭側に、「副腎」と呼ばれる豆粒大ほどの臓器があります。この副腎から分泌されるホルモンの一つに、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)というホルモンがあります。コルチゾールは、生命の維持に不可欠なホルモンで、糖質や脂質・タンパク質の代謝、免疫抑制、抗炎症作用に大きく関わっています。

また、身体がストレスを受けるとコルチゾールの分泌が急激に増えるため、「ストレスホルモン」とも呼ばれています。このコルチゾールが過剰に分泌され、全身にさまざまな症状をきたす病気を「クッシング症候群」といいます。犬では比較的多い病気ですが、猫の有病率はそれよりはるかに低く稀です。しかしながら、発病するとさまざまな症状をきたし、治療も一筋縄ではいかないケースがあります。

猫の「クッシング症候群」の原因は?

副腎は、脳下垂体から分泌されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の刺激を受けて、コルチゾールの分泌量を調整しています。猫のクッシング症候群の大半は、このコルチゾールの分泌に関与する脳下垂体または副腎そのものに異常がおこり、コルチゾールが過剰に分泌されることが原因となります。それ以外では、薬の副作用が原因となる場合があります。

ほとんどは腫瘍が原因

猫のクッシング症候群の約80%は、脳下垂体の腫瘍化が原因とされています。そして、約20%は副腎が腫瘍化するケースです。

脳下垂体の腫瘍化が原因の場合は、脳の中の異常のため、すぐに診断がつくというわけではなく、診断がつくまでに症状の特定やホルモン値の測定を含めた血液検査、画像検査が必要になります。

副腎の腫瘍化が原因の場合は、超音波などの画像検査を腹部に行い、腫瘍を確認した上で診断します。

猫では稀だが、薬の副作用が原因のことも

人や犬では、別の病気の治療として、コルチゾールを元につくられたステロイド薬を過剰または長期的に使用していると、副作用としてクッシング症候群が起こる場合があります。猫では起りにくいとされています。

猫の「クッシング症候群」の症状は?

キャットタワーでくつろぐ猫

猫がクッシング症候群になると、コルチゾールの過剰分泌によりさまざまな症状が現れます。どのような症状が出るのかを知っておくと、早期発見につながるでしょう。

ホルモン過剰によるさまざまな症状

コルチゾールの過剰により、初期症状ではほとんどの猫で、多飲多尿、多食が見られ、体重が減少する場合もあれば、増加傾向にある猫もいます。病状が進行してくると、筋肉量が減り、お腹がぽっこり張っているような様子(腹囲膨満)が見られます。

特徴的な症状として、皮膚や被毛の異常が見られるようになります。これは、皮膚の再生に必要なコラーゲンなどの産生が抑えられてしまうためです。皮膚の異常として、被毛が広範囲に抜けて肌が露出したり、皮膚が脆弱になり少しの刺激で皮膚が裂けてしまったり、細菌やカビなどによる感染性の皮膚炎を起こしやすくなります。さらに病状が悪化すると、筋肉の萎縮などによって歩くこともできなくなる場合があります。

糖尿病の併発

注意すべき症状として、クッシング症候群を発症した猫の約80%は糖尿病を併発しているという報告があります(Valentin SY et al.JVIM 2014)。猫のクッシング症候群は稀な病気ですが、猫の糖尿病は中高齢の猫に多い病気のひとつです。先に糖尿病を発症して、インスリンの治療をしていてもうまくいかず、詳しく検査してみたらクッシング症候群が隠れていたということもあります。

猫の「クッシング症候群」の治療法は?

錠剤を持つ飼い主の傍らにいる猫

猫のクッシング症候群は、腫瘍が原因であることがほとんどなので、脳下垂体もしくは副腎腫瘍に対する治療がメインとなります。もっとも効果的な治療としては、外科的に腫瘍を取り除く方法です。ただし脳下垂体腫瘍と副腎腫瘍と、いずれも専門的な外科技術を必要とします。

腫瘍に対して放射線を照射し腫瘍を縮小させる放射線治療もありますが、こちらも治療できる施設が専門病院に限られるため、遠方まで通院する必要があるかもしれません。このほか、腫瘍の根本的な治療にはなりませんが、過剰に分泌されているコルチゾールを打ち消すような飲み薬を服用する内科治療もあります。ほぼ永続的な投与が必要になり、副作用に注意しながら投与量を調整していきます。

糖尿病を併発している猫も多いので、糖尿病の管理も必要になる場合があります。かかりつけの動物病院の先生とどんな治療方法が愛猫にとってベストなのか、十分話し合いましょう。

まとめ

クッシング症候群は、あまり聞き慣れない病気かもしれませんが、愛猫に似たような症状が見られたときに、「そういえば?」と思い出していただければ、病気の早期発見、早期治療につながるかと思います。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。