日本では昔から愛されてきた果物の一つである桃。飼い主さんが桃を食べていると、甘い香りにつられておねだりしにくるワンちゃんも多いのではないでしょうか。今回は、犬に桃を与えて大丈夫か、与えるときの注意点などをご紹介します。

桃は食べても大丈夫

人の食べ物の中には、犬に与えると中毒を起こす可能性のある成分を含むものもありますが、桃の果肉には犬にとって毒性のある成分は含まれていません。そのため、基本的には犬に与えても大丈夫です。甘くておいしいので、食欲が落ちているときの栄養補給や疲労回復の目的で与えたり、特別なごほうびやおやつとして少量与えたりするのがおすすめです。ただし、体質によってアレルギーを起こしたり、食べ過ぎてお腹を壊したりすることもあるので、与え方には注意が必要です。

皮と種も食べていい?

桃の皮は食べていけないわけではありませんが、消化によくないので下痢をしてしまうことがあります。皮は剝いてから与えた方がよいでしょう。ただし、皮の近くには、ポリフェノールの一種であるカテキンなど犬の健康に役立つ栄養が多く含まれているので、なるべく薄く皮を剝くようにするとよいでしょう。

桃の種は、そのまま飲み込んでしまうと喉に詰まったり、消化管に詰まって腸閉塞を起こすことがあります。また、桃の種の中には「アミグダリン」という成分が含まれています。桃の種をかみ砕いてしまうとアミグダリンが犬の腸の中で分解されて青酸化合物となり、摂取量によっては下痢、嘔吐、痙攣、呼吸困難などの中毒症状を起こすことがあります。犬に桃を与えるときは種は必ず取り除き、取り除いた後の種は誤飲されないよう十分に気を付けてください。

桃の栄養素について

・カロリー
桃の85%以上は水分です。100gあたりのエネルギー量は白肉種38kcal、黄肉種48kcalで、りんごやバナナと比較するとカロリーは控えめです。

・糖質
桃100gあたりに含まれる糖質は白肉種8.9g、黄肉種11.5gです。主に果糖で、体内ですみやかに吸収されてエネルギーになります。食欲が落ちているときなどのカロリー補給に適していますが、摂りすぎると中性脂肪の増加や肥満の原因になります。

・カリウム
桃にはカリウムが比較的多く含まれています。カリウムは余分なナトリウムを体外に排出し、体内の水分バランスを整える働きがあり、高血圧やむくみの予防に効果が期待できます。ただし、腎機能が落ちている犬ではカリウムを十分に尿中に排泄できないため、高カリウム血症になる可能性があるので注意が必要です。

・β‐カロテン
黄肉種には、β‐カロテンが多く含まれています。β‐カロテンは犬の体内でビタミンAに変換されます(*猫はこの変換酵素を持たないためβ‐カロテンをビタミンAに変換できません)。ビタミンAは目や皮膚、粘膜、被毛の健康に関与しています。また、抗酸化作用があり、身体を酸化から守ることで免疫力の強化や病気の予防に効果が期待されます。

・ビタミンC、ビタミンE
桃にはビタミンCとビタミンEも比較的多く含まれています。ビタミンCとビタミンEには抗酸化作用があり、免疫力の強化や病気の予防に効果が期待されます。

・ペクチン(食物繊維)
桃のとろけるような果肉にはペクチンが多く含まれています。ペクチンは水溶性食物繊維の一つで、善玉菌を増やして腸内環境を整える作用、血糖値の急な上昇を防ぐ作用、コレステロールを正常に保つ作用などがあります。

・カテキン
カテキンはポリフェノールの一つで、桃の皮の近くに多く含まれています。カテキンには、抗酸化作用や、抗菌、抗ウイルス作用があるといわれています。

桃に含まれる栄養素(りんご、バナナと比較)

可食部100gあたり 桃(白肉種) 桃(黄肉種) りんご バナナ
エネルギー(kcal) 38 48 56 93
水分(g) 88.7 85.4 83.1 75.4
たんぱく質(g) 0.6 0.5 0.2 1.1
脂質(g) 0.1 0.2 0.3 0.2
炭水化物(g) 10.2 13.4 16.2 22.5
食物繊維(g) 1.3 1.9 1.9 1.1
 糖質(g) 8.9 11.5 14.3 21.4
カリウム(mg) 180 210 120 360
カルシウム(mg) 4 3 4 6
ビタミンA
(βカロテン当量)(μg)
5 210 27 56
ビタミンC(mg) 8 6 6 16
ビタミンE(mg) 0.7 1.3 0.4 0.5

参考:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 文部科学省

桃をあげるメリット

桃は甘くておいしいので、愛犬が喜ぶ特別なごほうびになります。愛犬とのコミュニケーションを深めたい時などに、上手に利用しましょう。また、病気のときなど、体力や食欲が落ちているときでも食べてくれてカロリー補給ができる可能性があります。

どれくらいの量がいい?

桃は犬にとっての主食ではなく、おやつに分類されます。おやつの量は1日の摂取カロリーの10%以内が目安ですが、桃は水分や食物繊維を多く含むため、たくさんあげると下痢をしてしまったり、お腹がいっぱいになって主食のフードが食べられず、栄養バランスが崩れてしまう可能性もあります。甘くておいしいのでそればかり欲しがるようになってしまうこともありますので、特別何かよいことがあったときのごほうびなどに、少量をあげることをおすすめします。犬の大きさに合わせて一口サイズに小さくカットしたものを数個程度にするとよいでしょう。

与える時の注意点

皮と種は与えないで

犬に桃を与えるときは、皮と種を取り除き、果肉の部分だけをあげましょう。皮や種もいい匂いがするので、取り除いた後の皮や種を誤飲されないよう十分に気をつけて下さい。特に桃の種の誤飲事故は多く、場合によっては腸閉塞や中毒の危険があるので要注意です。

小さくカットしてから

桃が大きいままだと丸呑みして喉に詰まってしまうこともあります。犬の大きさに合わせて一口サイズに小さくカットしてから与えましょう。

アレルギーに注意

体質によって、桃を食べるとアレルギー反応が起こり、皮膚症状(痒み、赤み、発疹など)や消化器症状(下痢、嘔吐など)が出る場合があります。重症の場合は、血圧の低下や呼吸困難などのアナフィラキシーショックが起こる可能性もあります。初めて桃を与えるときはごく少量を様子を見ながら与え、症状が出ないかどうかよく確認しましょう。桃はりんごやいちご、さくらんぼなどと同じバラ科の植物なので、これらの果物でアレルギーを起こしたことのある犬には与えないようにしましょう。

また、桃は口腔アレルギー症候群を起こしやすい果物として知られています。口腔アレルギー症候群は、花粉症がある場合に、その花粉と似た構造を持つたんぱく質を含む果物を摂取したときにアレルギー反応(交差反応)が起こり、口腔内の粘膜などに痒みや腫れなどの症状が起こります。桃の場合は、シラカバやハンノキの花粉に対してアレルギーを持っている場合に発生しやすいので、これらのアレルギーがある犬には桃は与えない方がよいでしょう。

桃の加工食品はNG

桃の缶詰やゼリー、お菓子など、桃を使った加工食品は犬には過剰な糖分が含まれている場合があるので、与えない方がよいでしょう。

まとめ

桃は少量であれば犬に与えても大丈夫です。量や与え方、アレルギー症状などに十分注意し、主食の栄養バランスを崩さないように与えるようにしましょう。皮や種は取り除き、誤飲されないよう気をつけましょう。季節感あふれる旬の果物を愛犬と一緒に楽しんで下さい。

監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。