うさぎの頬や顎が腫れてきたら、歯が原因でできた膿瘍の可能性が高いです。発症すると治療に時間がかかったり、再発を繰り返したりすることが非常に多く、完治が難しいため注意が必要です。今回は、うさぎの歯根膿瘍について、原因や症状、治療法や予防法をお話しします。根尖膿瘍(こんせんのうよう)、根尖周囲膿瘍(こんせんしゅういのうよう)についても説明します。

歯根膿瘍ってどんな病気?

うさぎの歯は常生歯(じょうせいし)といい、人の歯と違って一生伸び続けます。歯を支えている組織は、継続的に歯が生えることに適応するため可動性が高く、あまり強度がありません。

うさぎの歯は、牧草などの硬いごはんを切歯で噛み切り、臼歯ですりつぶすことで削られて適切な長さを保っています。ペレットなどの柔らかいごはんやおやつしか与えていないと、歯が伸びすぎてしまい、咬み合わせが悪くなる不正咬合になります。

不正咬合になると、歯の根元の部分(歯根)が伸びてくることがあります。歯を支えている組織は弱いので負担がかかりやすく、そこに細菌が感染すると、膿のたまった袋状の物(膿瘍といいます)が形成されます。これを根尖膿瘍といいます。

歯根の化膿は骨を融解しながら進行してさまざまな場所に膿瘍を形成します。これを根尖周囲膿瘍といいます。眼の入っている骨のくぼみ(眼窩)が融解されると眼の下に膿瘍ができることがあります。

原因となる菌はさまざまで、パスツレラ・ムルトシダや黄色ブドウ球菌などです。

診断は、内容物を針で刺して確認することで行われます。膿瘍であれば、白色でドロッとしたチーズ状の膿が認められます。また、歯や骨の状態を確認するためにレントゲン検査やCT検査を行うこともあります。

歯根膿瘍はどんな症状が出る?

診察されるうさぎ

膿瘍ができる場所により、顎や頬が腫れてくるなどの症状がでます。また、顔全体が腫れることもあります。眼の下にできた場合、涙や目やにが増えたり、眼が飛び出してきたりします。鼻道につながった場合には、膿性の鼻水が排泄され、呼吸困難や誤嚥性肺炎になることもあります。

膿瘍が破裂して皮膚に穴が開くと、そこから白くてドロッとしたチーズ状の膿が出てくることがあります。

また、口の痛みに伴って、元気消失、食欲不振、体重減少、毛がパサパサになる、よだれが増えるなどの症状が認められます。

歯根膿瘍に関連する病気はある?

前述した不正咬合が原因になることが多いです。不適切な食事以外にも、高いところから落ちたり、ケージの金網をかじったりすることで歯に負担がかかり不正咬合を起こすことがあります。また歯に負担がかかると折れることもあり(歯折といいます)、それによって歯髄から細菌感染を起こして膿瘍が形成されることもあります。

歯根膿瘍はどんな治療をするの?

内服薬だけで治ることはほぼありません。可能であれば全身麻酔を行い、原因となっている歯を抜歯し、感染した組織や膿を取り除き、洗浄します。抜歯ができない・全身麻酔が難しい場合は膿瘍を切開し、中の膿を取り除き、洗浄します。皮膚に穴を開けたままにして、しばらくの期間毎日洗浄を行うこともあります。

それに併用して、抗菌薬や鎮痛薬の内服も行います。どの薬が効くかの検査をして選び、長期間の内服が必要となります。不正咬合から膿瘍まで波及すると、努力して治療しても完全に完治する確率はかなり低いため、長くつきあっていく必要があります。

歯根膿瘍の予防法は?

不正咬合や歯折といった歯のトラブルを起こさないようにすることが予防になります。

牧草などの繊維質の多く含まれた硬いごはんをしっかり与えて、咀嚼回数を多くするようにしましょう。

また、高いところから落ちて歯のトラブルを起こさないように、立って抱っこすることを控えたり、抱っこから降ろすときにはゆっくりと床の上におろしてあげるようにしましょう。ソファや椅子の上など、高いところでは遊ばせないようにすることも大切です。

また、金網をかじるクセがあるうさぎには、網目の細かなケージを使用する、ケージに藁マット等で内張りをする、安全なかじれるおもちゃを置くなどの工夫も必要です。

不正咬合を早期に発見するために、動物病院で定期的に口の中をチェックしてもらい、家でも、食欲、元気や、口周りの汚れや腫れ、歯の伸び、眼の異常、前足の汚れなどを観察するようにしましょう。

まとめ

歯根に関連した膿瘍ができてしまうと、治療が非常に困難になってしまいます。

歯のトラブルを起こさないようにすることが予防につながるため、日ごろから食事などに気を付けて、異常を感じたら動物病院に相談するようにしましょう。

監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。