猫の分離不安症とは
分離不安症とは、猫が愛着を感じている人と離れることで生じるストレス反応であり、それにより行動や体調に異変をきたす状態のことです。このストレスは、“離れるのいやだなぁ、さみしいなぁ”というレベルではなく、“離れると不安すぎて吐き気がする”というくらいの、苦痛を伴った反応を指します。一般的に、分離不安を引き起こす愛着の対象となるのは、飼い主家族、あるいは家族の中の特定のひとりになります。
猫の分離不安症の原因は?
飼い主の不在時に、何かトラウマになるような恐怖、たとえば聞いたことのないような大きな音が聞こえてびっくりした、何かのはずみで家具が倒れて、下敷きになりそうになった、などの経験があると、飼い主がいないことでまた怖いことが起こるのでないか、と不安を感じるようになります。また、引っ越しや、飼い主の生活の変化(専業主婦だったお母さんがパートに出るようになった、自宅から学校に通っていた家族が家を出た)など、猫にとっての生活のルーティンが崩れることが、分離不安の引き金になることがあります。
分離不安症になりやすい猫はどんな猫?
品種による差は特にないとされていますが、バーミーズやシャム猫など、オリエンタル種の猫の方が、他の種よりも分離不安症と診断されやすいという報告もあります。若い猫に発症しやすく、分離不安になる根本の素因は1歳までに作られ、多くが5歳頃までに症状が現れます。また、避妊した猫よりも、去勢した猫で多いという報告があります。
このほかには、環境による要因として、以下のようなことがあげられます。
・早期に離乳させられた
・家族で唯一のペットであり、他に飼われている動物がいない
・ひとりで遊べるおもちゃが少ない
・飼い主の年齢が18歳~35歳で単身である
・1日のうち、猫がひとりで過ごす時間が長い
・引っ越しがあった
・出産や、就職により子供が家を出た、など、飼い主家族の構成に変化があった
これらの環境は、分離不安症を引き起こす素因になります。そして、ここに何らかのトラウマなど刺激が加わると、症状が現れるようになります。
猫が分離不安症になると、どんな症状が現れる?

分離不安症の症状は身体的な変化と、行動の変化の大きく二つに分けられます。
〈身体的な変化〉
・過剰なグルーミングによる、脱毛や皮膚の炎症。特に下腹部を舐めすぎて炎症をおこしたり、はげができたりする
・過食気味あるいは、拒食気味(食欲不振)になる
・猫がひとりでいるときにだけ、嘔吐するようになる(通常より嘔吐が増える)
〈行動の変化〉
・不適切な排泄:マーキングをするようになったり、トイレとは違う場所で排泄をしてしまうようになる。特に、扉のまわりや、飼い主の使っているベッドの上などにおしっこを漏らしてしまうことが多くあります。
・過剰に鳴く:主に飼い主の姿が見えないときに、ずっと鳴いているようになります。これらは、外出時に録画をしたり、出かけたふりをして、扉の外で様子をうかがっているときに判明します。
・攻撃的になり、破壊行動をする:わざと床を引っかいたり、テーブルから物を落っことしたりします。これらの行動は、飼い主の気を引きたいがために行われます。
・飼い主の帰宅を、過剰に喜ぶ:飼い主が帰ってくると、飛び跳ねてアピールをしたり、すごく甘えてきたりするようになります。
これらの症状は、分離不安症だけでなく、他の病気でも起こりえる症状です。例えば、不適切な排泄は、膀胱炎、腎不全や糖尿病など尿量の増える病気でも起こります。過剰に鳴く行動は、甲状腺機能亢進症や認知機能の低下などでも起こります。そのため血液検査などの身体検査を行い、分離不安症が原因か否かを調べることが必要になります。
猫を分離不安症にしないために気を付けたいこと

分離不安症にしないためには以下の2点が大切です。
- 猫にとって快適な環境を作る
- 飼い主と猫との関わり方を整える(行動修正)
これらは分離不安症になってしまったときの、初期の治療にも通じていきます。
①猫にとって快適な環境を作る
猫にとって快適な環境とは、猫ベッドなど安心できる自分の場所、気に入ったトイレやごはんが用意されている、そして遊びや捕食行動ができる機会がある環境です。飼い主と信頼関係があると、より良いと言われます。
生活環境を整え、日々飼い主と関わりがあり、運動や遊びなどの欲求が満たされることで、日々の不安のレベルが下がり、よりリラックスした日常を過ごすことができるのです。
②関わり方を整える
分離不安症にさせないためには、飼い主の不在時と在宅時の差を、なるべく作らないのがポイントにです。
・一緒にいるときに、過剰にかまわないようにしましょう。不在時と在宅時の差が激しいと、不安感をあおりやすくなります。
・在宅時は、愛猫が猫用ベッドなど、お気に入りの場所で落ち着いて過ごしている状態を、ほめたり、ご褒美をあげてください。そうすることで、愛猫はリラックスしていると、いいことがあると感じます。
・出かけるときに、“出かけるアピール”をしないでください。わざわざ行ってくるよ、と声をかけたり、出かける直前にかまってから行く、というルーティンを作らないようにしましょう。
出かける前には必ず着替えて、お化粧して、戸締り確認して、という一連の流れがあると、分離不安症の素因のある猫は、飼い主が出かけることを察して不安になるからです。そこから一人にされれば、より不安感が高まるのは、目に見えています。
解決法としては、着替えても、愛猫と遊んでテレビを観てから出かける、戸締りを先に確認してから着替えるなど、まちまちの行動ができると良いですね。また逆に、外出しないタイミングで着替えやお化粧という外出のための行動をして、これらの行動にならす、ということも、不安にさせないために重要になります。
・飼い主が出かけたら、いいことがある、と思わせるようにしましょう。外出のときに好きなおやつを与えてから出かけたり、暇つぶしのための知育玩具を与えると効果的です。ただし、出かけるときには必ずこのおやつを与える、おもちゃを出す、とわけてしまうと、それらが外出のサインとなってしまい、不安の種になってしまいます。そのため、飼い主が在宅のときも含め、いつも遊べるようにしておくと良いです。
・留守番中の排泄の失敗の痕跡や、ドアをガリガリしたりという破壊行動の痕跡を見つけても、愛猫を叱らないでください。叱られることで、より不安感が強くなる可能性があります。これら以外にも、愛猫がひとりでいるときに不安にならないために、テレビやラジオをつけっぱなしにする、という方法もあります。ただし、これらも飼い主が在宅時にも行い、同じ環境を作ってあげることが条件になります。
また、お留守番中の遊び相手として、もうひとり迎える、という話もたまに聞きますが、猫同士の相性が悪ければ、ストレスが増えるだけであり、留守番対策としてお勧めではありません。
分離不安症の傾向が強い場合には、治療としては、抗うつ剤などの薬を使う場合があります。これらの薬物は、効果が得られるまでに1~2ヶ月かかることもあり、多くの場合は数ヶ月以上服用を継続する必要があります。投薬が難しい場合には、気持ちを落ち着かせ、不安を軽減させる効果のあるフェロモン製剤やサプリメントの使用が勧められます。しかし、フェロモン製剤やサプリメントは、単体では効果が薄い、という難点があります。
まとめ
分離不安症は、飼い主と離れることが、苦痛に感じるほどのストレスとなる状態のことです。トイレ以外で排泄をしてしまったり、ずっと鳴き続けたりする、などの症状が認められます。
愛猫の分離不安症を疑う場合は、飼い主が不在時の家の中の様子を録画・録音してみてください。これらは獣医師に相談をしに行く際にも、診断に非常に重要な手掛かりとなります。 もし分離不安の素質が愛猫に認められるようであれば、なるべく外出のルーティンを作らないようにして、愛猫がリラックスしている姿こそ、ほめてあげるようにしてください。そして、飼い主自身が、愛猫に関して不安に思う点があるなら、一人で悩まずに、かかりつけの動物病院に相談してください。また、動物行動治療を専門にしている獣医師もいます、専門外来の受診も検討してみてください。
