羊毛(ウール)のセーターや柔らかい毛布などが、猫のよだれで濡れていて、気が付いたら穴があいていた、という経験はないでしょうか。一部の猫で見られるこの行動は「ウールサッキング」と呼ばれる行動です。今回はウールサッキングがどのような行動か、どんな点に注意すべきかなどについてお話しします。

猫のウールサッキングとは

ウールサッキングとは、布製品、特にウール製の柔らかい布やニットを猫がしゃぶってしまい、時にそれを飲み込んでしまう行動のことです。この行動は、比較的よく見られるものですが、過度な行動になると「常同障害」のひとつとして捉えられる場合があります。

常同障害とは、ストレスやフラストレーションが溜まったときに気持ちを落ち着かせるため、無目的な行動を繰り返してしまう行動異常のことをいいます。ウールサッキングと似たような行動として、猫によってはビニール袋を噛んで食べてしまう、過度に自分の被毛をグルーミングする、自分のしっぽや手足を過剰に吸ったり追いかけたりするといった行動が見られる場合もあります。

猫のウールサッキングの原因は?

猫がウールサッキングを行う原因は明確ではありませんが、猫がストレスや不安を抱えていることが多いです。その他もあわせて様々な原因が考えられています。

・ストレスや不安

猫によってストレスと感じる原因はさまざまですが、留守番が長い、飼い主とのスキンシップが足りない、不適切な生活環境(トイレの掃除が不十分など)、引っ越しによる環境の変化、同居の猫や犬と相性が合わないなど日頃のストレスが増えると、このような行動が増える可能性があります。

・早期離乳

子猫の時期における早期の離乳が、ウールサッキングの行動につながるとも考えられています。本来自然な環境では、猫は12週齢位まで社会化などを学ぶため母親と一緒に生活しますが、親と離れてしまった子猫を保護した場合は、早期に母親と離れ人工母乳で育てられる場合が多くあります。この時に毛布や柔らかい生地を母親のように感じ、吸う行動が見られます。この場合、成猫になると行動が落ち着くこともあります。

・遺伝的要因

シャムやバーミーズなどのオリエンタル品種は、他の猫の品種よりもウールサッキングを起こしやすい傾向にあるとされています。

・異食症

まれに食事の不足による栄養不良や神経伝達異常といった根本的な疾患により、本来食べ物ではないウールなどを食べてしまう「異食症」に陥っている場合があります。以前と比べ急な行動の変化が見られる、またはその行動が過剰である時は、動物病院で診てもらうようにしましょう。

猫のウールサッキングは危険?

毛布など消化できないものを、日常的に大量に摂取してしまうと、胃や腸にウールが詰まってしまうことがあります。ほとんどの場合、ウールを毛玉のように吐き出しますが、運悪く胃から先の細い小腸に詰まってしまった場合は腸閉塞を引き起こし、大変危険な状態となる可能性があります。

腸閉塞になると、お腹を開けて腸を切開し、詰まったものを取り出す手術が必要になるので、猫にとって非常に負担が大きいものとなります。猫がウールサッキングをする癖があり、吐き続けているのにウールが出てこない場合や食欲元気がないといった場合は、早めに動物病院を受診しましょう。

ウールサッキングをした場合の対処法は?

猫が度々ウールサッキングをするようになった場合、まずは猫の生活環境を振り返り、何か変わったことがないかを考えます。原因となるきっかけがわかれば、まずは原因に対する対策を試みてみます。同居猫と相性が合わなければ離して過ごしてみる、引っ越したばかりであれば落ち着く環境を整えるなどが挙げられます。

しかし、はっきりと原因がつかめないということも少なくありません。この場合、自宅で試してみる対処法として次の様な方法があります。完全に行動をなくすことは難しいですが、なるべく軽減できるよう工夫してみましょう。

対象となるモノを隠してしまう

最も簡単で効果的な対処法は、猫が好んで食べてしまう決まった毛布や衣類を猫の視界から無くし、届かない所にしまっておくことです。対象物がなければ、猫はあきらめてくれることが多いはずです。しかし隠すことにより、猫はさらにストレスが溜まり他の問題行動を起こす可能性もあるので、その後の行動の変化を注意して見てあげる必要があります。

代替の物を用意する

猫が興味を示す、飲み込めない程の大きさで、かじっても壊れない素材のおもちゃを用意してみましょう。猫によって好みのおもちゃはそれぞれですが、マタタビの匂いがついたものや遊んでいる内におやつなどが出てくるおもちゃなどはストレス発散が期待できます。また、上下運動のできるキャットタワーや爪研ぎを置くことで、興味の対象を変えるという方法もあります。

対象物が隠せない場合、忌避剤を使う

ソファなど、どうしても隠すことが難しいものの布を食べてしまう場合、猫が避ける匂い(オレンジ系やティーツリー系)がする忌避剤をスプレーする方法があります。しかし、この方法は猫のフラストレーションをさらに悪化させてしまうこともあるので注意が必要です。

遊び時間を増やす

室内飼育の猫にとって飼い主とのスキンシップは最も気分転換になり、刺激になるものです。飼い主が留守をする時間が長くなると、猫のストレスやフラストレーションは溜まりやすくなります。なるべく飼い主が家にいる時間を増やし、猫と一緒に遊べる時間を作ってあげることで、ウールに対する執着心が和らぐこともあります。

食事やトイレ、寝床の環境整備

猫が生活する食事場所やトイレが不衛生である場合、猫はストレスを強く感じる可能性があります。特に多頭飼育の場合は、頭数分のトイレを用意し、こまめに掃除をしてトイレや食器を清潔に保つように心がけましょう。

猫のウールサッキングで治療は必要?

痩せている、食欲がない、いつもと行動がおかしいなど他の症状が見られる場合は脳神経疾患や栄養上の問題も考えられるので、一度動物病院で相談し猫の様子を診てもらうことをおすすめします。また上記の対処法でも行動が治まらず、生活に支障をきたす場合は、異常行動と判断し、抗うつ薬などの薬物治療が有効なケースがあります。

実際は生活環境を改善することで対処できることがほとんどで、治療を行うケースはごく稀です。

まとめ

ウールサッキングは深刻な行動異常ではありませんが、猫がストレスを抱えているひとつのサインとして、猫の様子を気にかけてあげる必要があります。ウールサッキングをしている所を目撃したら、いきなり猫を叱らず、対象物を離し、じっくりと猫と向き合ってスキンシップをとりましょう。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。