眼瞼内反症という病気をご存知でしょうか?眼、特にまぶたの構造が原因で生じる疾患のひとつです。猫は眼瞼内反症を発症することが知られていて、とりわけ特定の品種で多発する傾向にあります。眼瞼内反症がどのような症状となり、治療方法にはどのようなものがあるかをご紹介します。
猫の「眼瞼内反症」ってどんな病気?
眼瞼とは瞼(まぶた)のことを指します。これが内反、つまり内側に入り込んでしまうものを眼瞼内反症と呼びます。もともと猫はまぶたとその内側の粘膜(結膜)の境界部分にまで被毛が多く生えています。また人間と同様、まつ毛が存在します。通常、まつ毛や眼瞼周辺の被毛が眼球に直接触れることはありません。
しかし眼瞼内反症では、まぶたが内反し、これらの毛が長い時間眼球に接触することで、眼球やその周辺の組織に刺激を与え続けます。炎症が生じることで、涙目や目を開けづらそうにする様子が見られるようになります。
「眼瞼内反症」の原因は何?

眼球周辺の皮膚に余分があることが直接の原因となります。皮膚が余っているにも関わらず、その裏の眼球と直接接触している結膜自体に余分がないため、眼瞼が常に眼球方向に向かって巻き込まれる状態が続きます。ペルシャ系の猫に代表される鼻の低い骨格の猫に多発する傾向にあります。
眼瞼と眼球の大きさや距離のバランスが変化することによって眼瞼内反症になる場合もあります。例えば、眼球が先天的に小さい小眼球症や、眼瞼の発達が十分でない眼瞼低形成と呼ばれるものがあります。
また、後天的な要因では眼の疾患で眼球の大きさが縮小した場合、衰弱や脱水によって生じた眼球陥没(眼球が眼窩の奥の方に沈んでいく状態)、いわゆる「奥目」になると眼球と眼瞼との位置のバランスに変化が生じ、眼瞼が内側に巻き込まれやすくなります。
さらに眼の感染症に由来する場合もあります。猫伝染性鼻気管炎をはじめとした、いわゆる猫カゼが慢性化して結膜炎や角膜炎が続いているような場合にも、合併症として見られることがあります。
「眼瞼内反症」の症状は?
軽度な場合、一見眼瞼内反症の存在に気づかないこともあります。他の眼科疾患と症状が共通していることもあるので、どのような様子が見られるかを細かく観察しておくことが、診断の一助となります。
まばたきが多くなったり、涙が増える
まつ毛や眼瞼周辺の被毛が眼球に付着し、刺激を与え続けることで眼の炎症を誘発します。内反している程度がごくごく軽度な場合は涙液が刺激を和らげる働きをするため、特に目立った異常は見られないことが多いです。ところがまつ毛や被毛による眼球への刺激の程度が強い場合や、長期間刺激にさらされた状態になると、猫自身が眼に違和感を覚えるようになります。
角膜には、知覚神経や自律神経などの神経組織が豊富に分布しているため、眼の傷みとして感じるようになります。この影響で眼が開けづらい羞明(しゅうめい)や流涙量の増加が見られます。猫がしきりに眼を気にして前足や床、壁などにこすりつける仕草が見られることもあります。炎症が強くなると眼の細菌感染を起こしやすくなり、目やにが増え眼瞼周辺に汚れが付きやすくなります。
放置すると視力にも影響が
まつ毛や眼瞼周囲の被毛といえども目に与える影響は大きいものです。はじめは非常に小さな眼の違和感が、時間が経つにつれて結膜炎や角膜炎に進行していくことがあります。猫自身が目を頻繁にこすることや細菌感染が影響して、角膜炎の悪化につながる場合もあります。健康な眼の構造を阻害することにもなりかねないリスクがあり、角膜の損傷や眼球内部への炎症の波及、さらには最悪の場合、視力を失う恐れもあります。
「眼瞼内反症」の治療法は?

眼瞼内反症は、まぶたが眼球に向かって巻き込まれる状態が続くことに起因しているので、まぶたの状態を改善させる必要があります。具体的には、眼周囲の皮膚と皮下組織を切開して縫い縮める方法を採用します。
つまり、人工的にまぶたの皮膚のだぶついた分(余った分)を切除して内反した状態を矯正するのです。獣医療における形成外科手術を行い、まつ毛が眼球に接触しなくなるように調整します。術後は猫自身が手術部位を引っ掻いたり、縫合した糸を取ることがないように注意を払います。
眼瞼の内反の程度が軽度であれば、手術をしない場合もあります。まつ毛や被毛が眼球を刺激することで涙目になるほか、角膜を刺激し傷をつけてしまうことがあるので、抗炎症剤や角膜保護を目的とした点眼薬を使用します。眼球や眼の周辺組織に感染が存在する場合は抗生物質の目薬を併用することもあります。
眼球にまつ毛や被毛が触れるため、まつ毛や眼瞼の周辺の被毛を抜くこともあります。毛はいったん抜いても再び生えてくるので定期的に毛抜きを行う必要が生じます。これらの方法は症状に対する治療なので、根治のためには外科治療が必要となります。
眼瞼の内反の程度は個々によって異なるほか、場合によっては左右の眼によっても差があります。さらに眼以外の健康状態、例えば貧血や脱水症状の有無などによっても眼瞼内反による症状の程度に影響を与える可能性があります。
他の疾患や感染症に付随して生じている眼瞼内反症の場合は、原因となっている部分に対する治療も併せて行います。例えば脱水による眼球陥没が原因である場合は、補液をして体内の水分バランスの調和を図ります。
このように、眼瞼内反症はその原因や重症度によって治療の内容に大きな開きがあります。適切な診断のもと、個々にあった治療を受けるためにも定期的な診察が必要です。
「眼瞼内反症」の治療費はどのくらい?
眼瞼内反症に伴う角膜炎や結膜炎への治療は主に点眼で行います。この場合は主に点眼薬と眼科検査が主となります。1回の診療費用は5,000円前後となることが多いです。眼瞼の形成術といった外科手術が必要な場合になると、10~20万円ほど必要となることがあります。
そのほか、基礎疾患が関連している場合は、それに合わせた治療が別に必要となります。外科的な処置による根本的な矯正を行った場合は、定期的な治療は必要なく、良好な状態を維持することが期待できます。
外科的整復を行わず流涙や角膜炎など、症状に合わせた治療を重点的に行う場合は継続したケアが必要です。その場合、点眼や検査などによって1ヶ月に5,000円程度の費用が継続して発生することが多いです。
「眼瞼内反症」の予防法はある?

先天的な問題による眼瞼内反症の予防は残念ながら存在しません。ペルシャ系の猫では被毛の量や眼瞼周辺の皮膚状態が眼瞼内反症に大きく影響を与えるので、日頃から眼の様子をよくチェックしておくことが重要です。
いわゆる猫風邪に関連して眼瞼内反症に至る場合があります。間接的ではありますが、猫風邪の症状を出さないようにするために、定期的なワクチン接種を行うことも予防のひとつといえるのではないでしょうか。
まとめ
猫の眼瞼内反症は、品種や体質によって、あるいは先天的な要因で発生しうる疾患です。まぶたと眼球との位置関係に何らかのバランスの乱れが生じたことで、特にまつ毛が眼球に刺激を加える結果、眼に不快感や炎症を引き起こします。
早期に適切な治療を行うことで、猫自身が不快感を得るリスクを軽減できますが、時として外科手術を必要とする場合もあります。診断や治療に際し、適切な手段をかかりつけの獣医師あるいは眼科専門獣医師と相談の上、個々の状態にあったケアを行っていく必要があります。
本来、外部から眼を守るはずの毛が、本来の機能を発揮できないばかりか悪影響を及ぼすことのある眼瞼内反症、定期的な健康診断で眼の健康を維持するように心がけていきましょう。
