音がするほうに向かってチョコチョコ動く三角形の耳…「ネコミミ」は、とても愛くるしく魅力的ですね。今回は、そんな耳に起こりやすい病気「外耳炎」についてご紹介します。
猫が頭をしきりと振っていたり、耳の付け根を掻いていたり、おでこや耳介に小さな擦り傷があったり…それらは、猫の外耳炎のサインかもしれません。
そもそも外耳炎ってどんな病気?
猫の耳は、外耳と、中耳と内耳に大きく分かれます。外耳と中耳は鼓膜で仕切られていて、外界とつながる外耳道は分泌腺から出る分泌物によって汚れが耳の奥に入らないようにしています。外耳道の分泌物は、通常であれば自然に耳の奥側から外側へと汚れとともに押し出され、日常的に人の手で洗浄したりする必要はありません。しかし、体質や耳の形状、細菌の過剰な増殖や寄生虫の感染などのさまざまな原因によって、この外耳道の代謝がうまくいかずに炎症を起こしてしまうのが「外耳炎(外耳道炎)」です。
【関連リンク】
外耳炎|どうぶつ病気大百科
中耳炎との違いは?
外耳と隣り合う中耳が炎症を起こすと「中耳炎」になります。中耳は、空気の振動を神経に伝える鼓膜の他、音を増幅したりする働きなどをもつ鼓室、耳小骨、耳管から構成されます。この中耳が、外耳炎の波及や、耳管からの感染、中耳内の腫瘍などさまざまな原因によって炎症を起こしてしまうのが中耳炎です。中耳炎を起こすと、耳を気にする症状の他にも、中耳周辺の顔面神経などに影響を与え、まぶたや唇の麻痺などを起こしてしまうこともあります。
外耳炎の原因は?
外耳道の形状は、耳の穴の入口から下に向かって伸びる垂直耳道と、その奥で横に伸びる水平耳道からなるL字型になっています。耳道の大きさや分泌物の量・質などには個体差があり、外耳炎を起こしてしまう原因もさまざまです。
細菌・真菌
耳道に溜まった耳垢に細菌や真菌が増殖し、炎症をおこしてしまうことがあります。体質や体調、耳の形状などにより、耳垢が多く溜まってしまったり、湿気がこもったりしたときに起こりやすいです。耳の入口に少し茶色や黒っぽい汚れのようなものが見えることが多いですが、外からは汚れが見えないこともあります。スコティッシュ・フォールドやアメリカン・カールなど折れ耳の猫では、特徴的な耳の形状から、耳垢が外に出にくかったり、耳道に湿気がこもりやすかったりするので、定期的に耳のチェックをするようにしましょう。
寄生虫
ミミダニ(耳ヒゼンダニ)という寄生虫の寄生によって外耳炎を起こしてしまうこともあります。耳の痒みが強く、黒っぽくバサバサした耳垢が大量に出ることが特徴です。ミミダニは感染力が強いため、多頭飼育の場合は全頭治療を行うことが望ましいです。また、外から猫を保護した場合もミミダニがいないか注意しましょう。
アレルギーや異物の場合も
その他、体質的にアレルギーがある場合にも、耳道の炎症を起こしてしまうことがあります。また、耳の中に小さな植物の種子などの異物が入って耳道内に留まってしまった場合に、異物が耳道を刺激して炎症を引き起こしてしまうこともあります。いずれも、耳垢が多くなる場合とならない場合があり、耳を気にする症状が共通したサインです。。
猫が外耳炎になったらどんな症状が出るの?
ここでは、外耳炎の特徴的な症状を説明します。
耳をかゆがる・痛がる、赤みがある
耳道の炎症によって、耳に違和感や痒み、痛みがあることから、耳を掻く、頭をこすりつける、頭を振る、などの様子が見られることがあります。耳を頻繁に掻いている様子を直接見ることがなくても、猫の頭をよく見ると、耳の付け根や耳に近い額のあたりに引っ掻いた小さな傷が複数見つかる場合もあります。また、炎症を起こしていることから、外耳道や耳介の内側が赤くなっていることも多くあります。耳介を触ったときに、いつもよりも耳が熱く感じられることもあります。
耳から悪臭がする、耳垢が出る
外耳炎を起こしていると、耳垢に増殖した細菌や真菌の代謝物などによって強いにおいが出ることがあります。また、さまざまな原因により過剰に分泌されて溜まってしまった耳垢が、外耳道の入口に汚れとして出てくることもあります。
また、外耳炎で耳を引っ掻きすぎたことなどが原因となり、耳介が内出血を起こして耳が腫れる「耳血腫(じけっしゅ)」を引き起こすこともあります。
猫の外耳炎、治療法は?
外耳炎を起こしてしまったら、耳道の自浄作用が崩れているので、自然に治ることは難しく、治療をしてあげるのが望ましいです。状態に合わせて治療を行いますが、まずは、耳鏡を用いた耳の奥の観察、耳垢の検査を行うなどにより外耳炎の状態や原因を詳しく診察します。
耳道内の洗浄
病院で診察する際は、ほとんどの場合、まずは耳道を洗浄して溜まってしまった耳垢や細菌などを取り除きます。洗浄は、専用の洗浄液を用いて行います。外耳炎の状態によっては、耳の入口あたりをコットンで拭ったりします。
炎症がひどく強い痛みを感じている場合は、一度の診察ですべての汚れを取り除くことが難しいので、無理のない範囲で洗浄し、数日間内服薬などを投与して少し痛みや腫れが引いてからしっかりと処置をすることもあります。
点耳薬と駆虫薬
耳道を洗浄しても、細菌や真菌、寄生虫を完全に除去することは難しいので、洗浄した後に再び増殖することがないように抗生剤や抗真菌剤などの点耳薬を投与します。動物病院で点耳する以外に、一定期間は自宅でも投薬を続けることが望ましい場合もあります。また、ミミダニが寄生している場合は駆虫薬を投与します。
アレルギーの治療
アレルギーが原因の場合は、耳垢や細菌などに対する処置だけで痒みや赤みを抑えることが難しいので、アレルギーの原因と思われる物質を除去することを検討していきます。アレルギー検査を行い、アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が特定できたら、食事を療法食に変更することもあります。
また、完全に除去することは難しいのですが、ノミの駆除やハウスダストへの対策などを行います。症状の改善が見られない場合は、ステロイド剤を使って症状を緩和させたり、徐々にアレルゲンに慣らしていく「減感作療法」を検討したりすることもあります。
耳血腫の治療
外耳炎が原因で耳血腫を起こしてしまっている場合は、外耳炎の治療と併せて、耳血腫の状態によって、耳介に溜まった血液や体液を注射針で抜いたり、切開して排出したりします。その他、抗炎症剤や抗生物質の投与を行う場合もあります。また、これ以上耳を掻いてしまわないように、エリザベスカラーを付けて一定期間過ごすこともあります。
治療期間・治療費はどのくらい?
外耳炎の治療期間は、原因や炎症の程度によってさまざまです。軽度の炎症であれば、動物病院で洗浄、投薬を行い、1週間から2週間程度で落ち着くことが多いです。慢性の外耳炎に関しては、数ヶ月など長期間にわたる場合や、なかには生涯に亘ってケアが必要となる場合もあります。
ミミダニが原因の場合は、ミミダニの卵には駆虫薬の効果が出ず、卵が成虫になるまで3~4週間ほどかかることから、1ヶ月以上は継続して経過を見ることが必要となります。
診察の費用としては、日本獣医師会の調査(令和5年度)で、55.1%の動物病院が外耳処置(単体)の費用を1,000円~2,000円と回答していました。その他、皮膚の表面を削って細菌などを顕微鏡で見る検査は、500円~2,000円が大多数でした(約85%)。一般的なケースでは、初回は診察料、検査、外耳処置、点耳薬などの費用がかかり、継続しての診療では診察料と外耳処置が主にかかる診療費となります。
猫の外耳炎はこうして予防しよう
猫の耳のお手入れは、通常は毎日しなければならないということはありませんが、外耳炎は体質や体調などによってどの子でも容易に発症しうる病気です。日頃から、耳の穴の入口を見て、においや汚れの有無などをチェックする習慣をつけておくことが大切です。
耳を清潔に保つ
外耳炎を予防するには、耳を清潔に保つことが何より大切です。日々のグルーミングなどに合わせて、耳のにおいや汚れ、赤みの有無など、耳の観察を習慣づけるようにしましょう。その他、屋外から戻った際には、種子などが耳についていないか、雨などで濡れた状態になっていないかなど必ず確認を。
耳のお手入れを行う場合は、コットンなど軟らかいものを指にまきつけて、耳の入口をそっと拭き取ります。ごしごしと強めに拭き取ったり、綿棒で耳の奥まで掃除をするのは、かえって耳を傷つけてしまうおそれがあるので自宅では行わないようにしましょう。
とくに気になる症状がない場合には、拭き取りなどのお手入れは特段必要ありません。汚れなどが気になり、自宅でのお手入れが難しい場合や、手入れをしてもすぐに汚れた状態が続くような場合には、無理して触らずに動物病院を受診しましょう。
【関連記事】
猫の耳掃除の正しい方法を伝授します!
まとめ
外耳炎は年齢や性別などにかかわらず、どの子にも起こりやすい病気です。
炎症が軽度であれば、治療に必要な期間も短くなります。
耳の奥の炎症はぱっと見ではわかりにくいですが、日頃のスキンシップのなかで耳のにおいや汚れの変化、耳を気にする仕草をチェックし、気になることがあれば早めに動物病院を受診するようにしましょう。
【関連リンク】
外耳炎|どうぶつ病気大百科
