「喘息持ちで時々発作が出る」「子供の頃に小児喘息だった」という方がいらっしゃるかもしれません。実は猫も「喘息」になることをご存じでしょうか。猫は動物のなかでも珍しく、人と似た病態で喘息を起こします。しかし猫は人と違って、自分から苦しいとは言ってくれません。気が付いたら重篤な状態になっていることもあります。ここでは、どういった様子があれば喘息を疑い、治療をした方がよいのか、お伝えします。

猫の「喘息」の原因は?アレルギーが原因?

こちらをじっと見る白猫

猫の呼吸器に、人の喘息とよく似た症状が起こるので「猫喘息」という疾患が定義づけられました。猫喘息では人と同様に、呼吸をするときの空気の通り道(気道)が何かしらの物質(アレルゲン)に過敏に反応し、気道の内腔が狭くなったり気道粘膜が炎症を起こしたりして、呼吸困難が起きると言われています。この何かしらの物質に対する身体の過敏な反応を「アレルギー反応」と言います。

この反応は身体の免疫機構が関係していて、アレルギーが出るかどうかは猫の体質で決まるため、一つのアレルゲンに対して喘息を発症する猫もいれば発症しない猫もいます。また、人では子供が発症することが多いのですが、猫ではさまざまな年齢で発症し、特に中年齢以上で多いとされます。

アレルギーが原因?どういったアレルゲンが喘息の原因になるの?

人では喘息を起こすアレルゲンをアレルギー検査で特定できる場合があります。猫でも、アレルゲンが喘息を引き起こしている可能性が高いとされていて、アレルギー検査によって猫喘息の原因となっている可能性が高いアレルゲンを、ある程度推測することは可能です。ただし、アレルギー検査のみによって診断するのは難しいので、血液検査、X線検査なども組み合わせて総合的に判断する必要があります。猫喘息を起こすきっかけとなるアレルゲン物質として、タバコの煙、ハウスダストなどが含まれる環境中の埃、猫砂の埃、香水や芳香剤、家庭で使用される消臭剤やヘアスプレーなどにおいを発する物、食べ物、花粉などが挙げられます。気候や環境の変化、強いストレスや激しい運動が喘息を悪化させる要因になるとも言われています。

どんな症状になる?

こちらを見つめる子猫

猫喘息の症状として、以下のものが挙げられます。主な症状は咳で、落ち着くと普段の状態に戻ることがほとんどですが、中には重篤な症状で命に関わる場合もあります。また、必ずしもすべての症状が出るわけではなく、他の疾患でも同じ症状が出ることがあります。当てはまる症状がある場合は病気のサインの可能性があるので、動物病院で診てもらいましょう。

猫は普段頻繁に咳をする動物ではありません。猫が断続的に繰り返し咳をする、または発作的に1分以上の連続的な咳をする場合は注意が必要です。人がする「コンコン」というような咳とイメージが異なり、典型的な猫の咳は、うつ伏せで顎を伸ばして軽く舌を出し、短く「ゲッゲッ」や「ズーズー」というような音の咳の後、気持ち悪そうに舌なめずりをしたり、時に刺激で嘔吐したりすることがあります。

飼い主にとっては咳として認識できず、何かいつもと違う仕草をしている様に見えるかもしれません。咳だと判断が付かない場合は、その様子を動画にとって獣医師に見せるとよいでしょう。また、咳がいつ、どのタイミングでどれくらいの時間起きているかを細かく記録しておくと、症状が重篤かどうかの参考になります。

喘鳴(ぜんめい)

喘息では、気管に炎症が起きることで分泌物が増え、気道が狭くなっているので、呼吸をする際「ヒューヒュー」というような呼吸音が聞こえてくることがあります。このような音を「喘鳴(ぜんめい)」といいます。異常かどうか判断がつかなくても、猫が呼吸をするときに耳を澄ましてよく聞き、呼吸と同時にいつもと異なる音が発せられる時は、普段より苦しそうにしていないか、呼吸回数が多くないかを確認しましょう。

呼吸回数が多い、活動性が落ちる

喘息が悪化すると、気管や肺の機能が落ち、呼吸の回数がいつもより増えたり、すぐに疲れてあまり遊ばなくなったりします。猫が落ち着いている状況での呼吸回数は1分間に20〜40回程度なので、定期的に普段の回数を確認しておくと良いでしょう。

口を開けて呼吸し、チアノーゼを起こすことも

猫が口を開けて苦しそうに呼吸をしている状態は非常に危険な状態です。この時は身体に酸素がうまく行き渡らず、口や舌が紫色に見える「チアノーゼ」の状態になっている場合があります。すぐに動物病院に連絡して緊急対応をしてもらう必要があります。喘息持ちの猫の場合、直前まで元気にしていても、発作的に強い喘息症状が出ると、気道閉塞に近い状態となり、チアノーゼになることがあります。喘息と診断を受けたばかりの猫にも、長く喘息を患っている猫にも起こりえるので、注意が必要です。

治療法は?治療費は?

獣医師の方にアゴを載せる猫

猫の喘息は、他の呼吸器疾患を検査で除外した上で、咳や喘鳴などの症状が繰り返し起こるか、強い発作性の咳が起こる場合に治療を行っていきます。基本的な治療は内科療法で、過敏反応や気道の炎症を抑えるための抗炎症薬と、狭くなった気道を広げる気管支拡張薬を軸に、症状に応じて使用方法を変えながら治療していきます。喘息は残念ながら完治することは難しい疾患なので、症状が重篤化しないようコントロールしていく必要があります。飼い主の判断で、治療を途中でやめてしまうことがないようにしましょう。

症状が悪化してからだと、治療の反応が悪くなるか治療を行っても症状が治まらない場合があります。必ず早めに動物病院を受診し、都度獣医師と相談しながら治療を行っていきましょう。
次に喘息が発作性に起きたときの緊急時の対応と、維持期に行う治療法を紹介します。

発作的に喘息が起きた時の緊急対応

猫が咳をするのと同時に、苦しそうに口を開けてチアノーゼを起こしているような状態は、早急に動物病院を受診して、酸素室での管理と腫れた気道を引かせる治療が必要となります。発作を何度も起こしている猫の場合、自宅に酸素室を用意しておく方法もあります。また、吸入器を使用して、自宅で抗炎症剤や気管支を広げる薬をかがせる方法もありますが、マスクをさせるので猫が嫌がり、さらに呼吸が悪化する危険性があります。自宅で処置を行えるかどうか、獣医師とよく相談をした上で決めましょう。

喘息の維持期に行う治療

喘息の症状が出ていないときは通常の生活ができる猫の場合は、症状の発現をなるべく減らすために抗炎症剤のステロイドと気管支拡張剤を定期的に投与します。これらは主に飲み薬で投与し、喘息の重症度によって毎日投与する場合もあれば、数日に1回の投与で済む場合もあります。また、飲み薬が困難な猫や副作用が気になる場合は、吸入器を用いた投与療法もあります。どちらの場合も長期間治療が必要になるので、猫になるべく負担にならない治療方法を獣医師と相談しながら決めていきましょう。

アレルゲンに触れる機会をなるべく減らすことも、長期的な喘息の症状を軽減する重要な治療の一つとなります。アレルゲンが特定できなくとも、生活の中でアレルゲンとなりうる物をリストアップして減らしていったり、空気清浄機を使用したりすることも有効かもしれません。

「再生医療」という選択肢

「喘息」の治療法のひとつとして、「再生医療」という選択肢もあります。「再生医療」とは「細胞」を用いて行う治療法です。方法は以下のとおり、とてもシンプルです。

再生医療の治療法の説明

この治療法は、本来、身体が持っている「修復機能」や「自己治癒力」を利用して、病気を治していくものです。手術などに比べると身体への負担が少ないことも大きな特徴です。

喘息に対する再生医療は現在まだ臨床研究段階ですが、あきらめないで済む日がくるかもしれません。ご興味のある方は、かかりつけの動物病院の先生に相談してみてください。

治療費は?

アニコム損保の調査によると、猫喘息で動物病院を受診した猫の年間平均診療日数は2回程度で、通院1回あたりの診療費は4,550円程度でした。実際は、一度の来院で治る疾患ではないため、調子が良くても1~3ヶ月に1回は通院して、お薬の調整や、副作用が出てないか、喘息の悪化がないかなどチェックする必要があります。また、緊急時は酸素室での治療が必要になるケースが多いので、1日の治療で2,3万円の治療費がかかる可能性があります。

【関連サイト】
喘息 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

予防方法はある?

猫がどのアレルゲン物質で喘息になるのかは、個体差もあり事前に知ることはできません。しかしながら、喘息を起こす可能性のあるアレルゲンを知っておき、可能な限り猫の生活環境から排除しておくことで、喘息を起こすリスクを減らすことができます。一度猫の生活環境にアレルゲンとなり得るものがないか、見直してみて下さい。

まとめ

猫喘息は人の喘息と比べると、病態がまだわかってない部分もあり、咳の症状も気付きにくい場合があるかもしれません。しかし、早期に見つけて治療を開始することで、多くの猫が生活に支障のないレベルまで喘息の症状をコントロールできる可能性があります。おかしな様子があったら、早めに動物病院で診てもらいましょう。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。