猫

膵炎は膵臓に「炎症」が起こり、さまざまな症状が現れる疾患です。人で膵炎というと、激しい腹痛と嘔吐でかなり苦しいイメージがあるかと思います。しかし、猫の膵炎はあまりはっきりとした症状が出ないので、飼い主も気づきにくく、ほかの疾患と症状が似ていて明確な診断がしづらい場合があります。ただし、放っておくと気付いたときには重篤な状態になりかねないこともあるため、早めに治療してあげたい疾患です。

中高齢の猫に多い疾患

膵臓は胃と十二指腸との間にあり、横に長く伸びている臓器で、お腹の上部の方に位置します。膵臓の主な働きは、消化酵素を作って十二指腸に分泌し食べ物の分解を助ける、血糖値を調節するホルモンを血中に分泌するといった、身体の健康維持になくてはならない臓器です。

通常、膵臓で作られた消化酵素は、管を通って十二指腸に届いてから活性化します。この消化酵素が何らかの原因により膵臓内で活性化して、膵臓自体を溶かしてしまう「自己消化」を招いた結果、炎症を引き起こすのが、膵炎です。
猫の膵炎は、昔はまれな疾患とされていましたが、最近では死亡した後に解剖をして調べた猫のうち、60%で慢性膵炎を示す所見が認められたという報告もあります。したがって、比較的多い疾患で、かつ中高齢の猫に起こりやすい疾患であることがわかっています。現在のところ好発品種は特になく、どの猫でも起こりうると考えられています。また猫では、膵臓が肝臓や胆嚢、胃や十二指腸といった臓器と隣接して存在することから、これらの臓器も同時に炎症を起こしやすく、肝臓と胆嚢・胆管の炎症、腸炎、膵炎と3つあわせて併発する炎症を「三臓器炎」とよんでいます。

「急性」と「慢性」がある

横たわる猫
膵炎には突然炎症を引き起こす「急性膵炎」と、長い間炎症が続く「慢性膵炎」に分けられます。猫では慢性膵炎が多いとされますが、どちらかを確定するには病理検査が必要で、実際動物病院に来院した猫で区別がつかない場合も多くあります。急性膵炎から慢性膵炎に移行したり、慢性膵炎の状態から急性膵炎を発症する場合もあり、どちらも表裏一体と考えてよいでしょう。

急性膵炎とは

急性膵炎は、何らかの原因で膵臓に、上記に述べた自己消化と炎症が急激に引き起こされる状態です。一般的に強い炎症が起こるため、膵臓周囲から隣接する消化管などに炎症が広がり、腹膜炎や消化管の炎症も引き起こします。基本的に、早期に適切な治療を行えば、膵臓の構造や機能も回復しますが、対応が遅れると全身の炎症につながり、最終的には多臓器不全を起こして致命的になる危険性があります。

慢性膵炎とは

慢性膵炎は、長期間にわたって膵臓の炎症が続き、膵臓の機能が徐々に破壊され機能が衰えていく状態です。一般的に本人の自覚症状を伴わない状態で進行していくため、初期では発見しにくいです。また、進行していくと、破壊された膵臓の組織が機能を失ったまま元に戻らない状態(不可逆性)になってしまうため、できるだけ早く発見して進行を抑えることが重要となります。

膵炎の原因は?

人では、お酒やたばこ、脂分の多い食事、また胆石が膵炎の原因になることが知られています。しかしながら猫の膵炎の原因は、はっきりわかっていないのが現状です。遺伝的な要因、ストレス、ウイルスや寄生虫の感染、落下や交通事故などの外傷、薬物、免疫疾患の関与が考えられており、腸炎や肝・胆管炎と関連して膵炎が発症する可能性も考えられています。犬では高脂肪食や高脂血症が膵炎を引き起こすとされますが、猫では影響ないとも言われています。

膵炎の症状・治療法は?

診察される猫
猫の膵炎の症状は、特に慢性膵炎でははっきりとした嘔吐や下痢などの症状が見られず、診断する場合も他の疾患との鑑別に苦慮する場合があります。ここでは、急性と慢性膵炎で分けて気をつけたい症状をお伝えします。また、猫の膵炎は他の臓器に影響を与えやすいので、合併症も考えておく必要があります。猫の異変になるべく早く気づいてあげることがポイントになるので、当てはまる場合は動物病院に相談しましょう。

症状

・急性膵炎
一般的には、1日に何度も嘔吐や下痢を繰り返し、食欲が急になくなる、上腹部を痛がる、動きが鈍くなるといった症状が、突然現れることが多いです。ただし、食欲や元気がなくなるだけといったわかりにくい場合もあります。自然回復するか様子を見ている間に急激に悪化する危険性があるため、なるべく緊急対応で動物病院を受診することをおすすめします。

・慢性膵炎
炎症がゆっくりと進行していくため、はっきりとした症状が見られないのが特徴です。症状があってもわずかで、嘔吐や下痢がある場合でも数日に1回など頻度が低く軽度なケースが多いです。消化器症状はまったく見られないという猫もいます。しかし進行していくと、徐々に体重が減少していき、毛艶が悪い、なんとなく元気や食欲がないといった様子が見られます。早期に治療を行うことで、症状が改善することが多いのですが、再発を繰り返す可能性もあるので注意深く経過を見ていく必要があります。

合併症

猫が膵炎を発症すると、前述した「三臓器炎」と呼ばれる症状が現れることがあります。膵炎の半数が三臓器炎を併発していたという報告もあります。 膵炎が見られる場合は、他の臓器にも異常がないか、よく診てもらう必要があります。その逆もあるため、肝炎や胆管炎、腸炎がある場合、膵炎も起きていないか注意して診てもらうようにしましょう。
また、慢性膵炎では膵臓の機能の低下により、血糖値を調節するホルモン(インスリン)の分泌が障害され、糖尿病を併発するリスクがあります。

治療法

膵炎を直接治す特効薬のような薬は、今のところありません。猫の膵炎の治療は炎症を起こした膵臓や全身の血液循環の改善と、痛みの管理、吐き気などの消化器症状の治療、栄養管理といった対症治療が主な治療となります。症状の重篤度によって治療期間や入院の必要性は変わりますが、急性膵炎では早急に入院管理による集中的な治療が必要となることがほとんどです。また慢性膵炎でも食欲がなく栄養状態が悪い猫は入院で体調が安定するまで管理することが多くあります。しかしながら、慢性膵炎では治療が1~2週間以上といった長期になることもあり、猫にとって入院がストレスになる場合は、獣医さんとよく相談しながら治療を進めていきましょう。

・血液循環の改善
血液循環を改善させることが、膵炎の治療では最も重要です。具体的には、血管の静脈に点滴を流す輸液療法が行われます。輸液は嘔吐や食欲不振による脱水の改善にも効果があります。通常は入院して時間をかけて点滴を流していきます。
・痛みの管理
急性膵炎では明らかな腹痛を示す猫もいますが、慢性膵炎で痛みの症状を示さない猫でも痛み止めの治療を行うことで、食欲や体調がよくなる場合が多く見られます。

・消化器症状の改善
嘔吐や下痢を伴う猫に限らず、嘔吐がなくても消化管の動きが悪く、気持ちが悪くて食欲不振になるケースが多いです。このため、積極的に吐き気止めや消化管の動きを改善する薬を使い、気持ち悪さを軽減する治療を行います。

・栄養管理
膵炎の猫は、食欲不振でごはんを食べなくなるというのが飼い主にとってのいちばんの悩みでもあり、治療する側の改善させたい症状のひとつでもあります。食欲不振が続くと、体重減少や脱水を起こす以外に、猫では「肝リピドーシス」という肝臓が機能しなくなる致命的な状態に陥る危険性があります。このため、できるだけ早い時期から、少しずつでも食事を与える必要があります。直接口に注射器などで食事を与えると、嫌がってストレスを強く受ける猫もいるので、一時的に経鼻カテーテルや胃・食道チューブなどを設置して、そこから流動食を投与する場合があります。猫の性格に合った方法を獣医師と相談しながら決めていきましょう。

・その他
膵炎では三臓器炎や糖尿病を併発している可能性があり、これらの併発疾患の治療も同時に行う必要があります。また、細菌感染を伴う場合は抗生剤の投与、このほか炎症を抑える目的でステロイド剤を投与する場合もあります。

「再生医療」という選択肢

膵炎の治療法のひとつとして、「再生医療」という選択肢もあります。「再生医療」とは「細胞」を用いて行う治療法です。方法は以下のとおり、とてもシンプルです。

再生医療の治療法の説明

この治療法は、本来、身体が持っている「修復機能」や「自己治癒力」を利用して、病気を治していくものです。手術などに比べると身体への負担が少ないことも大きな特徴です。

膵炎に対する再生医療は現在まだ臨床研究段階ですが、あきらめないで済む日がくるかもしれません。ご興味のある方は、かかりつけの動物病院の先生に相談してみてください。

膵炎の治療費はどのくらい?

アニコム損保の調査によると猫の膵炎の平均年間通院回数は3回で、通院1回あたりの平均単価は7,560円程度とされています。このほか、初診時に膵炎の診断を行うため、膵臓の酵素値や炎症の数値を含む血液検査や、超音波で膵臓や周囲の臓器の状態を把握するための画像検査などをひと通り行う場合、検査費用が1~2万円程度かかる可能性があります。また、入院が必要になる場合も別途入院費用が1~2万円程度かかることを考慮しておきましょう。

【関連サイト】
膵炎<猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

膵炎の予防法はある?

残念ながら猫の膵炎の原因がはっきり解明されていないため、効果的な予防法は今のところありません。しかし、猫の変化に最初に気付き動物病院を受診することができるのは、いつも様子を見ている飼い主なです。少しでも猫の様子に変化が見られた場合は、早めに動物病院を受診しましょう。

単なる「老化」と見過ごさないこと

横たわる猫
多少食欲が落ちてきた、少し動きが鈍いといった様子は、「歳をとったから」と考えてしまいがちです。慢性膵炎は中高齢の猫に多く、症状がはっきりしないため、老化現象だと思える猫の様子の中に、もしかしたら膵炎が隠れているかもしれません。体重などの減少もある場合は一度病院を受診してみましょう。

定期的な健康診断を

どれだけ飼い主が気をつけて様子を見ていても、前述したように猫の膵炎は症状がわかりにくく、無症状の猫もいるほどです。中高齢になったら、できれば月1回程、体重やその他の身体検査を行い、客観的に変化がないか獣医師にチェックしてもらうと安心です。症状がなくても半年に1回を目安に血液検査や超音波などの画像検査を行うことで、外見だけではわからない猫の体調の変化を把握することができます。半年に1回の検査は頻繁と思われがちですが、人で考えると約2年に1回程度の検診になるので、けして短いスパンではありません。

まとめ

近年、猫の膵炎は疾患として広く知られるようになり、検査精度の向上から膵炎を疑うことも多くなってきています。しかしながら、実際確実に膵炎と診断できるのは組織を調べる病理検査以外になく、人や犬と比べると猫の膵炎の病態はまだ不明な部分が多くあるといわれています。とはいえ、症状が悪化する前に適切な治療を行うことで重篤になるのを防ぐことができます。日頃から猫の様子に変化がないか良く観察し、特に中高齢の猫では定期検診を受け、早期に病気を発見できるようにしましょう。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。