部屋の中で横たわった子猫の画像

「てんかん」は人や犬で聞いたことのある病気かもしれませんが、猫でも起こる脳の病気です。ついさっきまで普通にリラックスしていた猫が、急に意識をなくして全身をガタガタ震わせ、けいれんを起こす…。突然のできごとに飼い主さんは驚き、パニックになる方もいるでしょう。ここでは、突如起こりうるかもしれない「てんかん」がどんな病気か、また対処法についてお話します。

「てんかん」ってどんな病気?

「てんかん」とは、脳の神経細胞が自分の意思に反して過剰に興奮することで起きる意識障害やけいれんが、ある一定期間を空けて繰り返される病気です。猫の場合、100頭に1頭以下の発生率といわれています。

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てんかん<猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

突然、発作が起こる

通常、てんかん発作は、いつ起こるか予想がつきません。昼も夜も関係なく、起きる可能性がある病気です。

「てんかん発作」って、どんな発作?

てんかん発作というと、突然意識がなくなって、全身がつっぱり、身体が動かなくなる発作をイメージされるかと思いますが、実際はいろいろな種類があります。

「てんかん発作」とは

てんかん発作は、脳の一部分が興奮する「焦点性てんかん発作」と脳の全体が興奮する「全般てんかん発作」にわけられます。脳は部位によって役割が異なるため、焦点性発作の場合、興奮が起きた場所によって、発作の症状が異なります。誰が見ても発作だと気付きやすい症状もあれば、軽い発作でなかなか発作として認識されにくい症状もあります。

通常1回の発作の持続時間は5分以内で終わります。発作後は猫が正常と思われる状態になるまでに、数分から、稀に数日かかる場合があります(発作後現象)。その後、次の発作が起こる間隔も数日後、数週間後、数ヶ月後、数年後とさまざまなので、いつ発作が起きたのか記録しておくと良いでしょう。

どんな症状?

発作の種類はさまざまですが、どの種類の発作を起こすかは、その個体ごとにだいたい決まっていて、同じ発作が繰り返し起こります。

全身がけいれんするタイプ(全般てんかん発作)の場合、突然意識を失って倒れ、身体全身をのけぞらして突っ張ります。その後、手足をバタバタさせる動作や、猫では家中を狂ったように走りまわる行動が見られることもあります。

身体の一部がけいれんするタイプ(焦点性てんかん発作)では、顔面のけいれん、瞳孔散大(黒眼が丸く広がった状態)、よだれ、攻撃行動、一部の手足のけいれん等さまざまです。

猫のてんかんで多い発作のタイプは、片側の顔のけいれんと口をくちゃくちゃさせながら、よだれを垂らす焦点性てんかん発作とされますが、そこから全身のけいれんに移行する場合もあります。

1度見て、発作だとわかる場合もあれば気付きづらい症状もあるため、通常と異なる行動や動作が猫にみられた場合は、まず動画に記録して動物病院で確認してもらうと良いでしょう。

前兆はある?

ほとんどのてんかんは、前兆なく起こることが多いですが、発作をおこす前に挙動不審な行動や過剰にグルーミングをするなどの徴候が見られる場合もあります。また、運動をしていて興奮した時、ストレスを受けて緊張した時、雷などの光や音の刺激を受けた時、気圧の変化などがきっかけで発作が誘発される場合もあります。

「てんかん」の原因は?

伏せている猫
てんかんは、脳に起こる障害ですが、よく言われているてんかんは脳の構造に異常がなく、脳の神経細胞が過剰に興奮して起こる「特発性てんかん」が一般的です。この特発性てんかんは、ヒトや犬では遺伝的背景が確認されていますが、飼い猫ではまだ確認されておらず原因不明とされています。将来的には猫でも遺伝との関連性が証明されるかもしれません。

犬やヒトでは若齢で特発性てんかんが一般的ですが、猫では脳の構造に異常(脳腫瘍、感染症、血管障害、外傷など)が認められる「構造的てんかん」が多いため、てんかん発作が認められた猫は年齢に関係なく、原因特定のためにMRI検査や脳脊髄液検査を勧められることが多いです。

また、脳ではなく全身状態の異常から「てんかん様の発作」を起こす場合があります。MRI検査や脳脊髄液検査には全身麻酔を必要とするため、まずは猫に負担のない血液検査などから行い、脳以外の異常がないか確認しながら原因を調べます。

どんな治療をする?

聴診器をあてられている猫
上記のとおり、脳の構造に異常があった場合や脳以外に異常があった場合、その原因に対する治療を行います。そうではなく、脳の興奮が原因となる特発性てんかんだと考えられる場合や、発作そのものを抑えるためには、抗てんかん薬の内科療法が主体となります。

投薬

抗てんかん薬の投薬は、発作の頻度をなるべく抑えるのが目的です。このため、てんかんを完全に治すわけではなく、お薬で抑えていく治療であることを理解しておきましょう。投薬の目安としては、発作の頻度が半年に2回以上の場合、または多くないが一回の発作が重篤な場合に投薬治療が開始されます。投薬を開始して発作が安定するまで、お薬の量が適正か血液検査で確認しながら量を決めていきます。基本的に毎日飲むお薬で、一生涯投薬が必要になることがほとんどです。安定したからといって、急に投薬を中断してしまうと薬の効果がわからなくなったり、反動で発作が悪化する可能性があるため、獣医師の指示を必ず守りましょう。

薬の副作用はある?

抗てんかん薬の多くは、脳全体の興奮を抑える作用があるため、飲む量が多いとふらついたり、なんとなくぼーっとして元気がないなどの副作用が出る可能性があります。また、飲み始めに出る副作用として、特異体質的なアレルギー反応や肝障害を起こす薬もあります。

通常、薬を初めて飲む時には、副作用を避けるために少ない量から始め、薬の効果や血液検査などで、副作用の確認をしながら投薬量を調整していきます。このため、薬を飲む時は指示された用法用量を守ることが大切です。

てんかんで死亡することはある?

通常みられるてんかん発作は、発作が起こっている時間が5分以内で終わることが多いですが、発作が5分以上続いているまたは、1回目の発作が終わってまもなく発作が起こる場合(重積状態)、1日に2回以上発作が起きてしまう場合(群発発作)は脳が持続してダメージを受けてしまい、死に至る可能性もあるため、緊急対応が必要となります。

この場合、速効性のある注射薬や坐薬などが必要となり、場合によっては入院が必要となるため、上記の症状があったり、いつもの発作と違う様子が見られた場合(いつもより発作後ぼーっとしている等)があればすぐに動物病院に相談しましょう。また、発作が起きた時に高い所から落下したり、物にぶつかるなどの思わぬ事故で命に関わる場合もあるため注意が必要です。

予防法はある?

残念ながら、事前にてんかんの発症を防ぐ方法はありませんが、お薬を飲みながらうまく付き合っていくことで、発作の頻度を抑え日常生活を快適に過ごすことができます。

また、発作が起きた時は慌てず、猫と飼い主さんがケガをしないよう周りにある障害物はなるべく避けて、発作が終わるまではむやみに猫に触らないように気をつけましょう。

発作が起きた時間と終わった時間、発作時と発作後の猫の様子を観察し、できれば動画に撮って、その子の発作のパターンを記録しておくと後々の治療にも役に立ちます。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。