犬がトリミングサロンや病院、おうちなどでシャンプーやカットなどのお手入れをするのは一般的ですが、猫のトリミングは、あまり聞きません。実際、猫にはトリミングが必要なのでしょうか。今回は猫のトリミングについて、方法や注意点などをご紹介します。

猫にトリミングやシャンプーは必要?

本来、「トリミング」とは被毛をカットし整えてお手入れすることを指します。トリミングサロンなどでは、カットの他に、ブラッシングやシャンプー、爪切り、耳掃除、肛門腺絞りなどのお手入れも行います。これらは「グルーミング」といわれるものですが、一般的には、カットとグルーミングを合わせて「トリミング」と呼ぶことが多いようです。

猫はもともと狩りをする動物で、獲物に気づかれないよう自分の臭いを消すために、毛づくろいを頻繁にします。そのため、シャンプーや特別なお手入れをしなくてもそれほど臭いや汚れが気になることはないかもしれませんが、人間と一緒に暮らす猫では、状況によってトリミングを行った方がよい場合があります。ただし、すべてのお手入れをしなければいけない、というわけではありません。猫のトリミングは猫にとってストレスや身体の負担になってしまうこともあるので、猫自身の性格や健康状態、皮膚や被毛の状態をきちんと把握して、猫が健康的に快適に暮らすために必要なお手入れを、必要なときにしてあげることが大事です。

被毛のカット

猫の場合、被毛のカットが必要となるケースは多くありませんが、次のような場合はハサミやバリカンで全身または部分的なカットが薦められます。

  ・毛玉ができてブラッシングで取れない場合

  ・長毛種などでお尻周りの毛が汚れやすい場合

  ・皮膚病があり、被毛があることで悪化したり治癒が遅くなったりすることが考えられる場合

  ・夏の暑さを防ぐためのサマーカットが必要な場合

長時間の拘束にストレスを感じたり、バリカンの音が嫌いな猫も多いため、猫の被毛のカットには鎮静や麻酔が必要となることもあります。被毛のカットは猫に負担をかけることが多いので、どうしても必要な場合にとどめた方がよいでしょう。日頃のブラッシングで毛玉や皮膚病を予防して、カットが必要な状況にならないように気をつけてあげましょう。

ブラッシング

ブラッシングは、一部の被毛のない猫種(スフィンクスなど)を除いて、被毛のある猫では必要なお手入れです。長毛種は、ブラッシングを怠ると毛玉になってしまったり、毛づくろいで抜け毛を飲み込んで毛球症になってしまうことがあります。短毛種でも換毛期には大量の抜け毛が発生するため、ブラッシングは必要です。

ブラッシングは長毛種や換毛期の猫では毎日、短毛種の猫でも数日に1回はした方がよいので、トリミングサロンなどでお願いするよりも、自宅で飼い主さんができるようにしておくことが大事です。ブラッシングには、皮膚や全身の病気に早く気づくことができたり、飼い主さんと猫のコミュニケーションを深める効果もあるので、是非おうちでがんばりましょう。

シャンプー

猫は基本的に自分で舐めて毛づくろいをし、体をきれいに保つため、必ずしもシャンプーが必要なわけではありません。しかし、次のような場合はシャンプーをしてあげた方がよいでしょう。

 ・長毛種の猫

ラグドール、ラガマフィン、ペルシャ、メインクーン、ノルウェージャン・フォレストキャット、サイベリアンなど毛が長いため毛づくろいやブラッシングだけでは抜け毛や汚れを取りきれていないことがあります。美しく健康的な毛並みを保つためにもシャンプーをしてあげた方がよいでしょう。

 ・換毛期の猫

シャンプーをするとブラッシングだけでは取り除けない抜け毛を取ってあげることができます。

 ・皮膚病のある猫

皮膚病の種類によって、治療の一環として薬用シャンプーが必要になることがあります。

 ・脂性の猫

毛づくろいでは皮脂までは取れないため、皮膚が脂性の猫はシャンプーしてあげた方がよいでしょう。特にあごの下やしっぽの付け根は皮脂分泌が多く皮膚トラブルを起こしやすいです。その部分の毛穴が黒くポツポツしていたり、べたついているような場合は定期的にシャンプーしてあげましょう。

 ・肥満気味の猫や毛づくろいが苦手な猫、老齢の猫、病気の猫

自分で毛づくろいがきちんとできずに汚れが取り切れていないことがあるため、状況によってシャンプーしてあげた方がよい場合があります。

ただし、体調がよくない時にシャンプーをするのは猫の負担になるので、十分注意が必要です。

 ・飼い主さんの猫アレルギー対策に

人間の猫アレルギーの原因物質として、猫の皮脂腺や唾液腺からの分泌物に含まれる成分が知られています。猫の被毛に付着したアレルゲンは、抜け毛やフケなどと一緒に空気中に散らばってしまうことがあります。定期的なシャンプーで、被毛についたアレルゲンや抜け毛、フケを減らすことができます。

猫は水が苦手で、体が濡れることを嫌がる傾向があります。またシャワーやドライヤーの音を怖がる子も多いです。しかし、シャンプーのメリットはたくさんあるので、できるだけ幼いときから慣れさせ、シャンプーがストレスにならないようにしてあげたいですね。

爪切り

猫の爪は放っておくと伸びていきます。シニアの子や体が不自由な子ではうまく爪とぎができず、伸びすぎた古い爪が巻いて肉球に刺さってしまうこともあります。健康な猫は自分で爪とぎをしますが、長く伸びたまま尖った爪は、非常に鋭く危険です。飼い主さんや室内の家具などを傷つけることもありますし、カーテンやカーペットなどに爪が引っかかって猫自身がけがをすることもあります。爪とぎをしていても長さは長いままなので、定期的な爪切りが必要です。

爪切りはおうちで飼い主さんができるお手入れの一つですが、どうしても嫌がって暴れてしまうときは、トリミングサロンや動物病院などでお願いしてもよいでしょう。

耳掃除

綿棒や洗浄液などを使用した耳掃除は、耳の病気がなければ定期的に行う必要はありません。ただし、外耳炎などの耳の病気を早期に発見するため、定期的に耳の周りを見てあげるようにしてください。もし耳が赤かったり、耳の中から黒や黄色の耳垢がたくさん出てきているようなときは、外耳炎を起こしている可能性が高いので、受診しましょう。

折れ耳の品種(スコティッシュ・フォールドなど)は、耳をめくって確認してあげてください。

肛門腺絞り

肛門腺は肛門の脇にあり、においの強い分泌液を作ります。肛門腺の分泌液は肛門嚢という小さな袋にいったん貯められ、排便の時などに少しずつ排出されています。正常に排出されている猫であれば問題ありませんが、肛門嚢に分泌液がたまりやすい猫では、定期的に絞りだすケアが必要なことがあります。分泌液がたまりすぎると、肛門嚢の炎症や破裂などのトラブルが起こることもあります。お尻を気にして舐めたり、お尻を床にこすりつけたりするしぐさは、分泌液のたまりすぎや肛門嚢のトラブルが疑われます。治療や定期的な肛門腺絞りが必要なこともあるので、主治医の先生に相談してみましょう。

猫のトリミングの費用について

トリミングサロンの相場

メニューや猫の品種、被毛の長さによって異なるのが一般的です。 トリミングサロンの場合、シャンプーメインのメニューで8,000円から15,000円程度、長毛種のシャンプー&カットのメニューで16,000円~20,000円程度が多いようです。長毛種の猫や大型の猫では高価になる傾向があります。毛玉がある場合やサマーカットなどのオーダーではカット料金が追加になることもあります。

動物病院の相場

動物病院でのトリミングも、基本的にはトリミングサロンと同程度のところが多いようですが、治療目的や清潔を保つ目的の場合、部分カットなどの必要なメニューだけを行うこともあります。また、動物病院で行う場合は鎮静剤や麻酔薬などを使うこともあり、その場合、事前の血液検査や薬代、麻酔管理代などが別にかかることがあります。皮膚疾患の治療の一環の場合、薬浴シャンプー代等が追加されることもあります。

猫をトリミングに連れていくときの注意点

健康状態のよいときに

長時間拘束されたり怖い思いをしたり、猫の性格によってはトリミングがかなりのストレスになることがあります。具合の悪いときに無理やりトリミングをすることは命に関わる場合もあるので、猫をトリミングに連れて行くのは健康状態のよいときにしましょう。高齢の猫や持病のある猫の場合は、元気そうに見えても、主治医の先生に相談して体調をチェックしてもらってからの方がよいでしょう。病み上がりやワクチン接種の直後なども避けましょう。

猫対応のサロンを選ぶ

犬のトリミングと猫のトリミングでは技術的な面でも、配慮すべきことの面でも大きく異なります。必ず猫のトリミング技術を持っているトリマーさんのいる、猫対応のサロンを選ぶようにしましょう。トリミングの間や待ち時間に犬と一緒の部屋にいるのは、猫にとってストレスになります。できれば猫専用の部屋のあるところがよいでしょう。

皮膚トラブルに注意

猫の皮膚は人間と比べてとても薄くデリケートなため、バリカン負けを起こしたり、まれにバリカンで傷ついてしまうことがあります。カットからの帰宅後、同じところを舐めているというような場合、皮膚に異常があることも考えられるので、よく見てあげて下さい。また、シャンプーをして濡れた、においが変わった、ストレスになった、などの理由で過剰にグルーミングをして皮膚トラブルになることもあります。トリミング後の様子と皮膚の状態にはよく注意してあげましょう。

動物病院のトリミングの注意点

長時間拘束されること、シャンプー時に水に濡れること、シャワーやドライヤー、バリカンの音など、猫が嫌がって暴れてしまうと、トリマーさんと猫の双方にけがをする危険があります。おとなしくじっとしているように見えても、内心は恐怖で固まっているだけの可能性もあります。高齢の猫などでは、血圧が上がって命に関わるようなこともあります。そのため、動物病院で猫のトリミングを行う際には、鎮静剤や全身麻酔を使うことがあります。そのような場合、健康状態の把握が必要なため、トリミングに先だって血液検査やレントゲン、心電図などの検査が必要になります。

「鎮静剤や全身麻酔は猫の身体の負担になるのではないか」と心配される飼い主さんもいますが、猫に大きな恐怖を与えたまま押さえつけて時間をかけて処置するよりも、怖い思いをさせずに眠らせて短時間で安全に行った方がよい場合もあります。 猫にとって負担が少ない方法は、猫の性格や年齢、健康状態などによっても異なるので、主治医の先生と相談して、最善と思われる方法を選択してあげましょう。

猫を自宅でシャンプーする方法

猫のシャンプーはトリミングサロンや病院でしてもらうこともできますが、移動のストレスなどを考えると、慣れている自宅でシャンプーしてあげたいですよね。とはいえ、自宅であっても水やシャワーを怖がる猫にとってシャンプーはストレスになります。ここでは猫のストレスを最小限に抑えつつ自宅で猫をシャンプーする方法とコツをご紹介します。

事前準備

まず猫の体調を確認し、不安な点があるときはやめておきましょう。ストレスや興奮が原因で体調を崩してしまう猫もいるので、高齢の猫や持病のある猫は主治医の先生に相談してからがよいでしょう。

猫のストレスを最小限にするためには、とにかく手際よく素早く行うのがポイントです。そのために事前準備が欠かせません。次の点に注意して準備しましょう。

 ・まずはブラッシング

毛玉があったり、毛がもつれたりしたまま濡らしてしまうと、乾かすときが大変です。必ず先にブラッシングして毛玉や抜け毛を取りり除きましょう。

 ・浴室や部屋を暖かくしておく

濡れたまま脱走したり、ドライヤーを嫌がって逃げたり、隠れてしまうこともあります。風邪をひかないように暖かくしておきましょう。

 ・あればバスタブを用意しておく

シャワーを嫌がる猫でも、バスタブに貯めたお湯に浸かることは嫌がらない場合もあります。ベビーバスやたらいのような容器でも代用できます。

・シャワーの温度は35度前後に設定しておく

人のシャワーと同じ温度だと皮膚が乾燥したりトラブルになることがあるので、少しぬるめに設定しておきましょう。

 ・シャンプーは洗面器などであらかじめ泡立てておく

猫の身体で泡立てると、ごしごしこすって皮膚を刺激してしまうので、あらかじめ泡立てておいて、泡で洗うようにしましょう。

 ・シャンプーが終わったらすぐに乾かせるように準備しておく    

暖かく落ち着いた場所にバスタオル2~3枚とドライヤーを用意しておきましょう。

やり方

  • 予洗い

シャンプーを付ける前に被毛を十分濡らすことが必要です。バスタブがある場合は、ぬるま湯を張ったバスタブに猫を入れて、手でお湯をかけながら慣らしましょう。シャワーを使う場合は、音に驚かないように、はじめは弱くして、身体に密着させて濡らしていくようにします。

  • シャンプー

十分に濡らすことができたら、あらかじめ泡立てたシャンプーの泡をのせ、優しく洗います。脂っぽくなりがちなあごの下やしっぽの付け根などは特に丁寧に。顔は嫌がることが多いので無理に洗わなくても大丈夫です。

  • すすぎ

毛を逆立てながら、泡を残さないようにしっかりすすぎます。スポンジにお湯を含ませてから流したり、シャワーヘッドをガーゼで包んだりすると、流水の勢いと恐怖心を和らげながらすすぐことができます。

  • タオルドライ

ドライヤーの時間を減らすためにタオルドライが重要です。バスタオルを2~3枚用意し、しっかり水気を拭き取りましょう。吸水タオルなどを利用してもよいでしょう。

  • ドライヤー

音と風にびっくりする子が多いので、はじめは弱風で、なるべく身体から離して乾かしましょう。一人の場合はドライヤークリップなどを利用して固定し、片手で猫を押さえ、片手でブラシを持って乾かすとスムーズです。

  • 最後はご褒美

大好きなおやつをあげてたくさんほめてあげましょう。

  • しばらくは注意して様子を見てあげて

シャンプー後に体調を崩してしまう子もいるで、しばらく注意して見てあげましょう。

嫌がってシャンプーできない場合

シャワーを怖がるがお湯に浸かることはできる、短時間ならなんとかなりそうという場合は、ペット用の沐浴剤(入浴剤)を利用する方法があります。バスタブに沐浴剤を溶かして猫をつけるだけで汚れを落とすことができ、泡立てたりすすいだりする必要がないため、短時間で終わらせることができます。

濡れることが全くだめという場合は、水のいらないドライシャンプーや、シャンプータオルを利用する方法もあります。

嫌がる猫を無理にシャンプーすると、飼い主さんとの信頼関係が損なわれてしまうこともあります。どうしてもシャンプーが必要な場合は、トリミングサロンや動物病院で相談するとよいでしょう。

まとめ

猫によってトリミングやシャンプーの必要性はいろいろですが、猫の健康を維持するためにどうしても必要なときもあります。そのようなときには、できる限り猫にストレスや負担をかけない方法を探して行うことが大事です。日ごろから少しずつでも身体に触れたりお手入れをすることに慣らしておくとよいですね。

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監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。