ブラッシングは犬の健康維持のために必要なお手入れの一つであるとともに、飼い主とのコミュニケーションを深めるためにも大事な作業です。飼い主と犬がお互いに心地よくブラッシングできるようにするために大切なポイントをご案内します。

ブラッシングが大切な理由は?

ブラッシングには、毛並みを整えるだけではなく、様々な大切な役割があります。

① 皮膚と被毛を健康に保つ
皮膚と被毛の汚れを取って毛並みを整え、皮膚の健康を保つ効果があります。ブラッシングをしないと、毛がもつれて毛玉ができ、皮膚が引っ張られて痛みが出たり、通気性が悪くなって皮膚病の原因になることがあります。
また、ブラッシングで皮膚に適度な刺激を与えることは、皮膚の血行を促進して新陳代謝をよくする効果も期待できます。 

② 病気の早期発見
毛並みや毛づやなど被毛の状態は、栄養や健康の状態を反映しています。ブラッシングすることで、フケや乾燥、べたつきなどの異常、ノミ、ダニ等の寄生、発赤や湿疹など皮膚炎の兆候、体表のしこりなどを発見することができます。ブラッシングや触られることを極端に嫌がるときは、皮膚炎や関節炎、腹痛や腰痛など体調に異常がある場合もあります。毎日のブラッシングは、体調の変化に早く気付いて病気を早期に発見することに役立ちます。

③ 抜け毛の飛散を防ぐ
部屋の中に飛散した犬の抜け毛はハウスダストの原因となり、ダニの温床になったりアレルギー症状を引き起こすなど、飼い主さんの健康にも関わってきます。ブラッシングであらかじめ抜け毛を取り除いておくことで、部屋の中に飛散する量を減らすことができます。

④ 犬と飼い主とのコミュニケーションを深める
ブラッシングによる皮膚への適度な刺激はマッサージ効果があり、飼い主と触れ合うことでリラックス効果も期待できます。飼い主によるブラッシングは気持ちのよいもの、楽しいもの、と犬に感じさせることは、犬との間に信頼関係を構築するうえでも役に立つでしょう。 

ブラッシングを行う際のポイントは?

① ブラッシングを好きになってもらう
まず一番大事なことは、愛犬にブラッシングは気持ちのよいものと感じさせ、ブラッシングを好きになってもらうことです。そのためには、落ち着いてリラックスした状態で、できるだけ短時間で行い、飽きさせないように行うことが大事です。
犬が動いてしまったり飽きてしまう場合は、一度にすべての場所をやろうとせず、何度かに分けて、少しずつ短時間で行うようにするとよいでしょう。もつれを取ろう、毛玉を取ろう、とあまり飼い主さんが必死になってしまうと、犬も警戒して、「ブラッシングは怖いもの」というイメージを持ってしまうことがあります。優しくなでたり声をかけながら、リラックスできる雰囲気を作りましょう。
犬がブラッシングを嫌がるときに、叱ったり無理に押さえつけると、ブラッシングが嫌いになり、その他のお手入れも大変になってしまうことがあります。かといって、嫌がって暴れて逃げてしまうと、暴れたらやめてもらえると学習してしまいます。逃げないように優しく抑えて声をかけたりなでたりしながら落ち着かせ、手早く行って、必ず飼い主のペースで終わらせるようにしましょう。
上手にできたら褒めたりご褒美をあげるなど、ブラッシングの時間が大好きな時間になるように工夫しましょう。

② 健康チェックをしながら
ブラッシングには愛犬の健康チェックという大切な役割があります。ただブラシをかけるだけではなく、皮膚や被毛の状態、気になるしこりがないか、触って痛がる場所がないかなど、確認しながら行いましょう。

③ ブラッシングを行う場所、姿勢
犬がリラックスして安心してできる場所、姿勢で行いましょう。立たせたままやオスワリの姿勢で行うのであれば、テーブルや台、飼い主の膝の上など動き回ることのできない場所がよいですが、飛び降りたり落ちたりしないように気をつけましょう。
床や膝の上であおむけになった状態でブラッシングできるようになると、脇の下や胸の周り、内股などの毛玉のできやすい部分のブラッシングがしやすくなりますので、少しずつ練習するとよいでしょう。

④ 家で無理はしない
もつれや毛玉が多く、家で取るのが難しい場合は、無理をせずトリミングサロンや動物病院で相談しましょう。強くブラシをかけて無理にもつれを解こうとして皮膚を傷つけてしまったり、はさみで毛玉を切ろうとして皮膚まで切ってしまうような事故が起こることがあります。一度痛い思いをしてしまうと、ブラッシングやお手入れを嫌がるようになります。家で行うのが難しい場合はプロに任せて、きれいにしてもらってから、新たなもつれや毛玉ができないように家でのブラッシングを続ける方がよいでしょう。

頻度はどれくらい?

短時間でもできれば毎日、少なくても2~3日に1回は行いましょう。もつれや毛玉ができてしまってから取ろうとすると、時間がかかったり痛みで嫌がることもあります。できる前に予防するという観点で、こまめにやってあげられるとよいですね。特に長毛種や換毛期の犬は、できるだけこまめに行うのが望ましいです。

ブラシの種類

犬のブラッシング用のブラシにはいろいろな種類があり、毛の長さや生え方、ブラッシングの目的によって適したブラシは異なります。愛犬に適したブラシを選んであげましょう。

① スリッカーブラシ
「く」の字の細い針金のピンがぎっしりついたブラシで、抜け毛を取り除いたり、毛のもつれや毛玉を取るために使います。強く皮膚にあててしまうと傷つけてしまうことがあります。指先で軽く持って、反対の手で毛の根元をかき分けて皮膚ともつれの間にピンを入れて、根元から毛先に向かって小刻みに動かしてとくようにしましょう。

② ラバーブラシ
全体がゴムやシリコンでできた柔らかい突起のついたブラシです。短毛種の抜け毛を取り除くのに適していて、シャンプー時にも使用できます。柔らかいため皮膚に対する刺激が少なく、マッサージ効果も期待できます。毛先の硬いブラシが苦手な犬でも嫌がらないことが多いようです。

③ ピンブラシ
金属のピンがついた、人用のヘアブラシに近い形のブラシです。先端が丸い形状をしているため、皮膚を傷つけにくくなっています。毛の絡まりをとったり毛並みを整えるために使用します。毛が長く毛量の多い長毛種に適しています。

④ コーム
金属でできた櫛で、ブラッシングの最後にもつれや毛玉がないかを確認したり、毛並みを整えたりします。顔周りなど細かい場所のブラッシングにも適しています。目がとても細かいノミ取りコームは、ふやかした目やにを取るのに便利です。

⑤ 獣毛ブラシ
馬、豚、猪などの毛で作られているブラシです。毛づやを出したり、毛並みを整える目的で使います。

ブラッシングのやり方

まずは声をかけたりなでたりしながら犬を落ち着かせましょう。リラックスしてきたら全体に触れながら毛の汚れやもつれ、毛玉、皮膚の状態などをチェックします。

背中や腰のあたり、身体の側面など、嫌がらない場所から優しくブラッシングします。顔周りや足先は嫌がる犬が多いので、あとからの方がよいでしょう。もつれや毛玉がある場合は、スリッカーブラシやピンブラシなどで毛先から少しずつほぐします。脇の下や胸のあたり、内股、耳の後ろなどは毛玉ができやすい場所なので、特に注意して行いましょう。

ブラッシングが終わったら、コームでとかして、もつれや毛玉がないか確認します。コームが引っかかる場合は、もつれや毛玉が残っている可能性があります。コームのまま無理に解こうとすると痛いので、もう一度スリッカーブラシやピンブラシなどに替えて取るようにしましょう。

最後に獣毛ブラシで仕上げをすると、毛並みが整い、毛づやが出ます。

ブラッシングが終わったらたくさん褒めて、おやつなどご褒美をあげましょう。

被毛によるブラッシングの方法

犬の被毛の生え方には2種類あり、被毛がオーバーコート(上毛)1層のシングルコートの犬種と、被毛がオーバーコート(上毛)とアンダーコート(下毛)の2層になっているダブルコートの犬種とがあります。

シングルコートの犬種は、1年を通じて少しずつ毛が生え変わります。ダブルコートの犬種は、オーバーコートの毛は1年を通じて生え変わり、アンダーコートの毛は、通常、春と秋の年2回の換毛期と呼ばれる時期に生え変わります。換毛期は気温の変化に対応して起こりますが、室内で過ごす犬では寒暖差が少ないため、はっきりとした換毛期がない場合もあります。犬種にもよりますが換毛期には大量の抜け毛が発生します。

被毛がシングルコートかダブルコートか、短毛か長毛かによって、適したブラッシングの仕方が変わってきます。

【シングルコートの短毛種】   
パグ、ビーグル、ミニチュア・ピンシャー、イタリアン・グレーハウンド、ドーベルマン、ダルメシアン など

毛が短く換毛期もありませんが、毎日の抜け毛の量が多いため、抜け毛対策のブラッシングが必要です。

ラバーブラシを全体にかけて被毛の汚れや抜け毛を取り除く。

獣毛ブラシで毛づやを出す。

【シングルコートの長毛種】   
ヨークシャー・テリア、マルチーズ、トイ・プードル、パピヨン など

抜け毛は最も少ないタイプですが、毛が長いので、もつれや毛玉を予防するため毎日のブラッシングが欠かせません。

スリッカーブラシやピンブラシでもつれや毛玉を取る。

顔周りや足先などの細かい部分をコームでとかす。

コームを全体にかけてもつれや毛玉がないか確認する。

獣毛ブラシで毛並みを整え、毛づやを出す。

【ダブルコートの短毛種】    
柴犬、秋田犬、チワワ(スムース)、ダックスフンド(スムース)、フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリア、ジャック・ラッセル・テリア、ウェルシュ・コーギー、シベリアンハスキー、ラブラドール・レトリーバー など

最も抜け毛が多いタイプで、特にアンダーコート(下毛)の厚い犬種は換毛期に大量の抜け毛が発生します。

毛をかき分けて、スリッカーブラシやピンブラシで根元から抜け毛を取る。

コームを全体にかける。

獣毛ブラシをかけて毛並みを整え、毛づやを出す。

【ダブルコートの長毛種】    
ポメラニアン、チワワ(ロング)、ダックスフンド(ロング)、シー・ズー キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、ミニチュア・シュナウザー、アメリカン・コッカー・スパニエル、シェットランド・シープドッグ、ボーダー・コリー、ゴールデン・レトリーバー など

換毛期の抜け毛の処理と、長いオーバーコートにもつれや毛玉ができないようにするためのブラッシングが必要です。

スリッカーブラシやピンブラシでもつれや毛玉を取る。換毛期には毛をかき分けて、根元から抜け毛を取る。

顔周りや足先などの細かい部分をコームでとかす。

コームを全体にかけてもつれや毛玉がないか確認する。

獣毛ブラシをかけて毛並みを整え、毛づやを出す。

※ シングルコートかダブルコートかの分類は文献によって異なる場合があります。また、同じ犬種でも個体によって変わる場合もあります。

子犬はいつからブラッシングを始めれば良い?

ブラッシングを嫌がらないようにするためには、子犬のうちから少しずつ、身体を触られたり、ブラシをかけられることに慣らしていく必要があります。お迎えした子犬が新しい環境に慣れてきたら、まずは身体のいろいろなところを触ったりなでたりすることから始めて、慣れてきたら、少しずつブラッシングを練習しましょう。はじめのうちはブラッシングは気持ちのよいこと、楽しいこととわかってもらうのが最大の目標です。楽しく話しかけながらブラッシングをし、犬が飽きたり嫌がり始める前に短時間で終わらせるようにして、少しでもできたら褒めてご褒美をあげましょう。

嫌がる時の対処法は?

ブラッシングを嫌がる場合、犬によってそれぞれいろいろな理由があります。理由別の対処法をご紹介します。

① 身体に触られることがイヤ
身体に触られることに慣れていない犬の場合は、まずは身体に触れる練習が必要です。はじめは背中や側面など嫌がらない場所から、慣れてきたら胸やお腹、顔周りや足先などを触ったりなでたりして、少しでもできたら褒めてご褒美をあげることで、人の手で触れられることは気持ちのよいこと、うれしいこと、と教えてあげましょう。

② じっとしているのがイヤ
子犬や元気いっぱいの犬は、ブラッシングの間じっとしているのを嫌がることがあります。犬が遊びたい時にブラッシングをするのは難しいです。あらかじめ思いきり遊んだり、たくさん運動してエネルギーを十分発散させた後に、飼い主の膝の上などお気に入りの場所でなでながら静かに落ち着かせ、リラックスしてうとうとしてきた頃にやってみましょう。

③ ブラシに慣れていない
ブラシが何だかわからず好奇心からじゃれついたり、警戒して怖がる犬もいます。まずはブラシ自体のイメージをよくするために、普段からよく見える場所に置いておいたり、飼い主さんが手に持ってにおいをかがせておやつをあげたりしてみましょう。この時、ブラシをおもちゃとして認識してしまうと後々大変になってしまうので、噛ませたり遊ばせたりはしないようにしましょう。ブラシ自体に慣れたら、ブラシの背の方で身体をなでたり、少しずつブラシをあてて、上手にできたらご褒美をあげるなどして慣らしていきましょう。

④ ブラッシングが痛い
ブラシのかけ方が強すぎて痛くて嫌がる場合があります。ブラシは軽く持って、皮膚に強くあてないようにしましょう。もつれや毛玉が引っかかって痛い場合もあります。家で行うのが難しい場合はプロに相談しましょう。もつれたり毛玉になりやすい場所はあらかじめ短くカットしておいてもらうと良いでしょう。また、体調に異常があって痛がる場合もあります。急に嫌がるようになった場合や、決まった場所をブラッシングすると嫌がる、というような場合は、動物病院で診てもらいましょう。

⑤ ブラッシングに嫌な思い出がある
過去に怖い思いや痛い思いをして、ブラッシングに対して嫌なイメージを持ってしまっている場合もあります。同じようなシチュエーションでブラッシングしようとしても難しいので、違うブラシに変える、ブラッシングする人を変える、今までと違う場所、違う姿勢で行う、などを試してみましょう。大きめのガムや、中にフードやペーストを詰めるおもちゃなどを利用して、気を取られている間に少しずつやってみるのも一つの方法です。(誤飲には十分に注意してください)

本気で怒る、飼い主を噛んでくるなど極端に嫌がる場合は、家で対処するのが難しいことも多いです。トレーナーや動物病院などに相談してみましょう。

まとめ

ブラッシングは犬に必要な大切なお手入れの一つです。毎日のブラッシングの時間が、飼い主と犬にとって、心地よい大好きな時間になるとよいですね。

監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。