子犬を迎え入れた際に、困る行動の一つに甘噛みがあります。
将来、人を噛むようになってしまうのではないかと心配になりますよね。そうならないために、子犬のうちから甘噛みをさせないようにすることが大切です。
今回は犬の甘噛みについて解説します。

犬の甘噛みとは?

犬の甘噛みとは、人や物をじゃれるようにして軽く噛む行為をいいます。子犬でよく見られ、真の攻撃行動とは異なります。

本気で噛むこととの違いは?

犬は、生命維持のために必要な食物や休息場所を取り上げられたり、恐怖や不安を感じる状況に連れていかれたり、苦痛を与えられたりすると、回避するための行動として本気で噛みつく攻撃行動をすることがあります。
それに対し、甘噛みは力を加減して軽く噛む行為を指します。

なぜ甘噛みするの?

なぜ犬は甘噛みをするのでしょうか。理由を確認することで、しつけに役立てることができます。

噛みつき欲求

もともと犬は噛みつく欲求が強い動物です。これは犬の祖先が、自然界で獲物を探し、追いかけ、捕まえ、噛み、殺し、食べていた動物であり、人に飼育されるようになってもその習性が残っているためです。動くものを狩る習性として、人の手やスリッパなどを追いかけて噛んでしまうことがあります。また、なんでも口に入れて噛んで確認する習性もあるため、届く場所にある物を噛んでしまいます。

遊んでいる

子犬は、犬同士でお互いの体を噛んで遊ぶ行動をとる「遊び関連攻撃行動」として甘噛みをします。この行動は飼い主に対しても向けられるため、甘噛みをして遊ぼうとします。噛むことに対して大きなリアクションがあると、飼い主から注目されたと学習し、さらに頻繁に噛むようになります。

甘えている

飼い主に甘えて構ってもらおうとして甘噛みをします。特に、子犬は母犬に甘えるように、人の手をなめたり噛んだりする行動が見られます。

歯の生え変わり

生後4~6ヶ月ごろになると乳歯から永久歯に生え変わりはじめます。その際、歯がグラグラするためむず痒くなり、人の手や家具などを噛んでしまいます。

ストレス

犬は噛んで遊ぶことでストレスやエネルギーを発散する動物です。ストレスを感じたり、留守番の時間が長いなどの理由でエネルギー発散ができていない場合、甘噛みがひどくなります。

子犬と成犬の甘噛みの違いは?

前述したように、子犬の時期は親や兄弟と甘噛みをしながら遊ぶ「遊び関連攻撃行動」があり、それによって仲間を傷つけるような噛み方をしてはいけないと学習します。そのため噛む力は強くなく、成犬になるにつれて自然に減っていきます。
しかし、早くから親兄弟と離れて生活を送り、誤った甘噛みの対処をされた場合には、成犬になっても甘噛みが残り、習慣化して問題行動につながる可能性があります。また、成犬では永久歯に生え変わり、噛む力も強くなるため、噛まれると大ケガにつながる危険性があります。

やめさせた方が良い?

子犬のうちに甘噛みを癖にしないようにしつけることがとても大切です。
子犬のうちに人に歯を当てて遊ぶことを学習してしまうと、甘噛みという行動が強化されて問題行動に繋がる可能性があります。さらに、家具などを破壊するなどの行動にも繋がります。

やめさせるポイントは?

甘噛みをやめさせるためには大切なポイントがいくつかあります。

甘噛みされた時の対応

噛まれたら、噛みついた手や足を隠して部屋から出ていく(子犬の視界から消える)と、子犬は噛むと楽しい時間が終わり、飼い主がいなくなってしまうと学習します。出ていく時間は10~30秒くらいで十分です。家族みんなで、一貫性をもってくりかえし行うようにしましょう。それぞれ違うやり方をしてしまうと、犬が混乱してしまいうまくしつけられません。

甘噛みさせない環境の作り方

噛んではいけないものや噛むと危険なものは犬の届く場所に置かないようにしましょう。噛まれると困るものが置いてある場所には、ゲートなどで入られないように対策します。家具など移動できないものを噛むことをどうしてもやめない場合、なめると苦い専用のスプレーなどを使うことが必要になるかもしれません。
また、人の手や足を使って遊ぶことはやめましょう。噛む機会を与えることで噛む行動が強化されます。遊ぶ際には、誤って飼い主の手に歯が当たらないように、ロープなど、人の手と犬の口の距離が離れているおもちゃを使うようにします。

噛みつき欲求の解消方法

子犬はエネルギーが有り余っているので、噛む欲求が増してしまいます。引っ張りっこができるおもちゃなどを介してたくさん遊んであげると、噛む欲求が満たされます。お散歩もエネルギーやストレスを発散させるのに有効です。
一人で過ごすときには、噛むおもちゃやガムなどを与えて噛みつき欲求を満たしてあげましょう。噛んでよいものと噛んでよくないものを理解してもらうこと、噛みつき欲求を様々な方法で発散させてあげることが重要です。

やってはいけないしつけ

噛まれたときにマズルを強く握ったり、たたいたりしてしまうと、恐怖心や痛みで攻撃性が増し、遊びから始まった甘噛みが本気噛みに発展してしまう危険性があるため、絶対にやらないようにしましょう。
また、噛まれたときに「きゃー!」と甲高い声で騒いだり、走って逃げたりしないようにしましょう。噛んだことで構ってもらえたと勘違いしたり、獲物を連想して興奮したりして、さらに噛みつくようになる可能性があります。

子犬と成犬でしつけのポイントは違う?

子犬のうちに手に歯が当たるだけでもよくないことだとしつけることが大切です。正しいしつけや対処法により、子犬の甘噛みは自然となくなっていくことが多いです。
成犬の場合、習慣化してしまっている行動を変える必要があるため、子犬よりもしつけに時間がかかります。また、飼い主との信頼関係に問題がある、脳機能に異常があり興奮してしまう、どこかに痛みがある、よかれと思っていることが犬にとって実は嫌なことだった、などの原因が背景にある可能性があります。家庭でのしつけでうまくいかない場合には、ドッグトレーナーや動物病院などに相談するといいでしょう。

まとめ

犬の甘噛みには様々な原因があります。犬の習性とそれぞれの性格を理解し、家に迎えた時からしっかり対処することで、愛犬にとっても飼い主にとってもストレスのない生活を送れるようにしたいですね。

監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。