
野生に暮らすうさぎの仲間、ナキウサギを知っていますか? かわいい姿に癒されるだけでなく、驚きの生態をもつナキウサギについて、特徴やマメ知識を紹介します!
ナキウサギってどんなどうぶつ?
「ウサギ」と名がつくものの、耳は短くて丸く、体が小さいナキウサギ。一見ネズミのようにも見えますが、ウサギ目に分類されるうさぎの仲間です。うさぎとの共通点として、上顎の切歯が前後に重なって4本生えています。ただ、わたしたちがよく知るうさぎは「ウサギ目ウサギ科」で、ナキウサギは「ウサギ目ナキウサギ科」。科がわかれているので姿や特徴、生態は大きく異なります。
ナキウサギの最大の特徴は、名前の由来にもなっている鳴き声。ウサギ科の仲間は鳴きませんが、ナキウサギ科の仲間は高く大きな声で鳴いてコミュニケーションをとります。世界には30種ほどのナキウサギの仲間がいて、それぞれ細かな違いはあるものの、体の特徴や生態はどれもよく似ています。
体の大きさと特徴
体長は12.5~30㎝ほど、体重は70~300gほどです。耳の先は丸く、体型は卵型。しっぽは短く、お尻の毛に隠れてあまり見えません。手足は短めで、前足と後足は同じくらいの長さです。うさぎは後足の方が長いことからも、体形が大きく違うことがわかります。丸い耳や丸っこい身体、短い手足は、寒い場所で生きていくのに適した形です。足裏は長い毛で覆われていて、指先の方は毛が少なく、はっきりと指が見えます。
ナキウサギがいるところ

アジア大陸北部と北アメリカの山岳地帯の岩場や草地に生息しています。ヒマラヤ山脈やその近隣では標高6000mを超える場所に生息し、最も高いところに生息するほ乳類といわれています。
ナキウサギが食べるもの
草食でおもに草や低木の葉、コケなどを食べます。ほかのうさぎと同じように食糞をして栄養を補います。
ナキウサギのマメ知識
知れば知るほどかわいいナキウサギのマメ知識を紹介します。
冬に備えて保存食を作る

ナキウサギは冬眠をしません。夏~秋になると冬の間に食べる食料として草を集め始めます。集めた草は、まず岩の上や木の枝に広げておいて天日干しに。干し草にして良い状態で保存できるようにしてから、岩のすき間に貯蔵するという習性があります。さらに、濡れないように時々移動させる姿も目撃されています。
群れで行動するタイプと単独行動派がいる
ナキウサギは高山の岩場に住む種のほかに、ステップと呼ばれる乾いた草原に住む種もいます。ステップで暮らすナキウサギは、たいてい群れやペアで行動します。一方、山岳地帯の岩場で生活するナキウサギは、繁殖期以外は単独行動が基本。縄張り意識も高く、それぞれが自分の縄張りを大事にします。仲間であっても縄張りに侵入されると、怒ってケンカになってしまうほどです。日頃からお互いに自分の縄張りを出ないように気をつけて生活しています。
でも、孤独なわけではありません。縄張りは別でも近いところに群れの仲間で集まって暮らしていて、甲高い鳴き声でコミュニケーションをとります。危険が迫っていることを伝えたいとき、自分の居場所を伝えるとき、繁殖の季節に相手を探すとき、「ピィー」「ピューィ」という小鳥のような鳴き声で鳴きかわします。山岳地帯で暮らすナキウサギの場合、縄張りを主張するために鳴くことが多いそうです。
日本にもナキウサギがいる
日本では北海道の中央部にある大雪山と周辺の山脈にエゾナキウサギがいます。アジア北部の山脈に生息するキタナキウサギの亜種で、発見されたのは1928年のこと。氷河期時代にシベリアから今の日本に渡ってきたと考えられています。ナキウサギの中でも小柄な方で、体長は15㎝ほど、体重は約150g。基本的な生態は山岳地帯にいるほかのナキウサギと同じですが、エゾナキウサギは低地で暮らすものもいます。
体は小さくてもパワフルに鳴き、姿は見えなくても山の岩場にその声が響き渡ります。「ガレ場」と呼ばれるすき間のある岩場に住み、天敵を警戒しながら岩の間をすばしっこく走りまわります。性格は臆病で警戒心が高いため、野生で遭遇することは難しいといいます。
英名は「pika」
ナキウサギの英名は「pika」。ピカ、またはパイカと呼びます。これは北アメリカに住むナキウサギの古くからの呼び名に由来しています。アメリカのナキウサギはほかに、口笛を吹くウサギ(whistling hare)、岩ウサギ(rock rabbit)、ネズミウサギ(mouse hare)と呼ばれることもあるそうです。日本のエゾナキウサギは「Japanese pika」「Ezo pika」と呼ばれます。
ナキウサギは絶滅危惧種

ナキウサギはいくつかの種が絶滅危惧種に指定されています。日本のエゾナキウサギは環境省のレッドリストで準絶滅危惧種(NT)になっています。現時点では絶滅の危険は少ないものの、生息地が限られているため、少しの変化で絶滅危惧種へ移行する可能性があります。
ナキウサギは暑さに弱く寒冷な場所でしか生きることができず、標高が高い場所に住んでいます。気温が上昇したとき、低地の野生動物は標高が高い場所に移動して生き延びることができますが、ナキウサギには逃げ場がありません。昨今は標高が高い場所でも温暖化の影響が見られ、ナキウサギをはじめ、高山に生息する動植物にとって大きな問題となっています。

まとめ
ナキウサギはうさぎの仲間ですが、飼育は困難で動物園でも会うことができない野生動物です。日本に生息していても身近な存在とはいえませんが、愛らしいうさぎの仲間が国内にいることは事実。わたしたちがよく知るうさぎとの違いも、生物の多様性の幅広さを教えてくれます。まずはナキウサギのことをよく知って、ナキウサギとその生息地を守るためにできることを考えていきたいですね。