
うさぎは子宮疾患がよく見られるどうぶつです。
発情が長く続くため、性ホルモンの影響で子宮疾患がおこりやすいのではないかと考えられています。
子宮腺癌は3~4歳以降から見られるようになりますが、子宮内膜過形成などの内膜異常は1歳ごろの若いときから見られることがあります。
子宮の病気では出血を伴う重い症状が現れることがあるため、避妊手術を受けていない場合、早期発見を心がけておくと安心です。
うさぎの子宮内膜の病気にはどんなものがある?
子宮内膜とは、子宮の内側にある組織です。妊娠中には胎仔(たいし:人でいう胎児)のベッドのような働きをしています。この子宮内膜に異常があらわれると出血しやすくなり、おしっこに血が混じるなどの症状が出ることがあります。
子宮内膜の異常にはいくつか種類があり、ときには併発する場合もありますが、症状だけからはどんな異常が起きているかの特定が難しく、手術の後に摘出された子宮を確認して診断されることも多いです。
子宮内膜過形成
がん以外の子宮の病気で最も多いと言われているのが子宮内膜過形成です。子宮内に嚢胞(のうほう:液体のたまった袋のこと)やポリープができて、出血しやすくなります。
子宮の異常があったうさぎに開腹手術をして確認した調査では、4割強が子宮内膜過形成だったという報告もあります。1歳程度の若いうさぎでも見られることがあります。
子宮内膜炎
子宮内膜に細菌感染などを起こして炎症が起きている状態です。感染や炎症に伴って子宮の内腔(内側のこと)に分泌物や膿が溜まることもあります。感染や炎症の程度が重症化すると敗血症などをおこします。
細菌は膣から入り込んで感染することもあれば、血流にのってうさぎの体内から子宮に感染が広がることもあります。そのため、交尾歴がなくても感染・炎症を起こすことがあります。
子宮水腫(しきゅうすいしゅ)
子宮内に漿液(しょうえき)というさらさらした液体が溜まり、水風船のように膨らむ病気です。液体が多く溜まると、外見的におなかが膨らんで見えることもあります。拡大した子宮が内臓を圧迫するため、食欲不振や体重減少などの症状が出ることがあります。
腹部の膨らみは肥満や妊娠という健康なケースもありますが、子宮水腫や子宮蓄膿症といった病的な場合もあるため、食欲不振があるときや、食べていないのに体重が増えている場合は注意が必要です。動物病院での受診をおすすめします。
うさぎの子宮内膜の病気はどんな症状が出る?

血尿・赤いおしっこ・お尻の赤い汚れ
子宮疾患の代表的な症状です。子宮からの出血が混じって、おしっこの色が赤くなります。
毎回ずっと赤いとは限らず、ときどき普通のおしっこが出ることもあるので、黄色いおしっこに戻ったからと言って油断は禁物です。お尻が赤く汚れることもあります。
健康なおしっこの色は?
うさぎのおしっこの色は淡い黄色が基本ですが、健康な個体でもポルフィリンという色素が含まれた赤っぽいおしっこを出すことがあります。見た目の色の違いだけでは血尿かどうかの判別は難しいです。
赤っぽいおしっこが出た場合は、動物病院で尿検査を受けると安心です。
元気や食欲の低下
子宮内膜の異常が軽度な場合や初期の場合は、目立った症状が出ず、元気も食欲も変わらないこともあります。
出血が進行して貧血が起きたり、子宮の中に細菌感染を起こしたり、子宮の拡大によって内臓が圧迫されると、ぐったりしたり食欲が落ちることもあります。
性格の変化
攻撃性が強くなることもあるようです。
うさぎの子宮内膜の病気の原因は?
未避妊
避妊手術を受けていない高齢個体が高リスクです。性ホルモンが影響すると考えられています。
未避妊のまま5歳以上になると、何らかの子宮疾患にかかる確率が非常に高いと言われています。
偽妊娠

妊娠していなくても、妊娠しているのと同じような兆候が見られることを偽妊娠と言います。胸の毛を抜いて巣作り行動をするなどのサインが見られます。
偽妊娠も性ホルモンに影響するため、生殖器の病気のリスクを高める可能性が懸念されています。
女の子同士や去勢済みの男の子との間など、妊娠の可能性がない状況であっても、マウンティングの刺激によって偽妊娠状態になりやすいと考えられます。
また、単独飼育であっても偽妊娠状態になることがあります。
うさぎの子宮内膜に関連する病気はある?
子宮腺癌
子宮内膜異常には子宮腺癌を併発していることがあります。
手術する前の段階では、子宮に何らかの異常があるということまでしかわからず、摘出した子宮を確認して、子宮内膜異常と子宮腺癌の併発が明らかになることがあります。
もし子宮腺癌があるとわかった場合、転移に警戒が必要なので、手術後も継続的に通院が必要なことがあります。
乳腺炎・乳腺腫瘍
子宮内膜過形成は濾胞性乳腺炎(おっぱいのしこり)と関連することがあり、同時に見られることがあります。
乳腺炎は進行すると乳腺腫瘍になることもあり、悪性では転移することもあります。
感染症によるショック(敗血症)
子宮内膜炎や子宮蓄膿症の場合には、細菌感染によって重い全身症状やショック症状(敗血症)が起こることがあります。細菌の作る毒素や炎症性の物質が血液を介して全身に広がり、さまざまな臓器に障害が出ます。症状は劇的で、命にかかわる恐れもあります。
うさぎの子宮内膜の病気はどんな検査で診断する?

子宮関連の病気で受診にいたる場合、「食べない」「おしっこが赤い」「おなかがふくれている」のいずれかの症状が多いと思います。
触診を含めた身体検査や血液検査、尿検査などの基本的な内容に加えて、腹部のレントゲンやエコー検査が診断に役立つことがあります。気になるサインがあれば早めに受診して検査を相談してください。
画像検査では子宮の拡大の有無などを確認し、手術の必要性を判断する材料となりますが、画像だけからはどんな異常が子宮に起こっているかまでの確定は難しいです。
子宮腺癌があるかどうかの最終的な確定診断には、摘出した子宮の病理検査が必要なこともあります。
うさぎの子宮内膜の病気はどんな治療をする?
子宮卵巣摘出術(避妊手術)
外科手術で子宮と卵巣を摘出するのが基本的な治療方法です。どんなタイプの子宮内膜疾患でも、温存治療では完治を見込むのは難しいです。出血を起こす恐れがあり、命にかかわる状況に進行してしまう可能性があります。
子宮を残したままにしておくと、子宮腺癌になるリスクもあり、病的な子宮では安全な繁殖を望むことも難しいので、子宮温存のメリットはあまりありません。
子宮内膜過形成などの子宮内膜の病気は、元気で食欲もある初期の段階で手術が実施できれば、予後は良好なことが多いです。しかしながら細菌感染や炎症によって重い全身症状があったり、貧血がある場合は、シビアな予後になったり、手術自体が困難になることもあります。
体調や年齢、麻酔のリスクなどで、やむを得ず手術を選択できない場合、それ以外の治療をしていくことになります。
手術を選択しない場合の治療
外科手術を選択しない・できない場合、あるいは外科手術と並行して、以下のような内科治療を実施します。
・高食物繊維食の維持
食事量、とくに食物繊維採食量が減っておなかの動きが悪くなると、全身状態も悪化します。
子宮内膜異常にかぎらず、体調不良の治療中は食物繊維をとることがとても大切です。
チモシーなどのイネ科牧草を食べられるのが理想ですが、食欲が低下してチモシーを食べられない場合は、ダイコンの葉やカブの葉のような、比較的食物繊維の多い葉野菜を与えるとよいでしょう。
草食動物用の流動食や手作り野菜ジュースを与える方法もあります。
炭水化物・糖分の多いおやつ類はおなかの動きや腸内細菌のバランスには悪影響なので、食欲がないからといっておやつを多く与えるのは避けてください。
・点滴治療
食欲不振時の脱水を緩和するほか、感染や炎症があった場合、炎症性物質を洗い流して体を楽にするような働きがあります。
・抗生物質の投与
細菌感染が疑われる状況では、抗生物質を投与します。
抗生物質にはうさぎに適している薬剤と適していないものがあるため、かならず動物病院で処方を受けた薬を獣医師の指示通りに内服させるようにしてください。
うさぎの子宮内膜の病気を予防するには?
避妊手術
最も確実で根本的な方法は、子宮と卵巣を若いときに摘出しておくことです。おおむね1歳頃までが手術適期となります。
偽妊娠の刺激を避ける
マウンティングさせないなど、偽妊娠を起こしやすくする刺激を避けることです。
同居のうさぎとは女の子同士であったとしても、乗ったり乗られたりはやめましょう。
早期発見のコツはトイレ
早期発見も大切です。尿色に注目しましょう。
子宮の異常は出血症状で気づくことが多いので、排泄物を観察しやすい飼育環境が望ましいです。
トイレトレーを使う場合は紙製などの白い色のチップを使ったり、白いトイレシーツを使うのもよいでしょう。シーツ類を使うときは誤食しないようスノコのようなものがあると安心ですが、足裏の負担を避けるため、金属製よりは樹脂製や木製のものが安心です。
まとめ
女の子のうさぎでは子宮の異常に注意が必要です。
1歳ぐらいの若いときからでも子宮内膜異常になることもありますし、3~4歳でもうさぎにとっては癌の恐れのある年齢となります。
とくに未避妊の場合は尿の色や食欲に注意し、定期的な健診を受けるとよいでしょう。
