門脈体循環シャントという病気があります。どちらかというと犬で発症する頻度が多いのですが、猫もこの病気にかかることがあります。その際、どのような症状が現れるのか、その治療や予防の方法について説明します。

猫の「門脈体循環シャント」ってどんな病気?

私たち人間を含めて、全身には大小さまざまな血管がくまなく分布しています。心臓から各組織へ血液を送り出す血管を動脈、逆に心臓へ血液を運ぶ血管を静脈と呼びます。それとは別に「門脈」と呼ばれる血管系があります。この門脈は、主に消化に関連した臓器から肝臓へと栄養を送り届ける働きをしています。そして、シャントとは本来通るべき血管とは別に存在する血液が通るルート(短絡血管)のことをいいます。門脈を通じて肝臓に送られるべき血液の一部が、シャントを通じて体循環、特に静脈につながることによって、体に不調が生じる病気のことをいいます。

門脈体循環シャントでは、後述する原因によって血液中のアンモニア濃度が高くなります。これにより神経系の症状や食欲不振などの症状が引き起こされます。

猫の「門脈体循環シャント」の原因は何?

主に消化に関連した臓器から肝臓に直通している血管を門脈といいます。この門脈を流れる血管は、消化管で吸収された栄養価の高い成分のほか、これらを代謝した際に出る毒素が含まれています。毒素は体にとって好ましくない成分で、肝臓で無毒化され糞便等を介して体外に排泄されます。

基本的に門脈は肝臓に直通する血管系で、そこを流れている血液は動脈や静脈中のものとは少々成分が異なります。門脈体循環シャントでは、本来あるはずのない短絡した血管が存在することで門脈中の血液が、全身をめぐる血管系に流れ出ることになります。これによって主に神経系に症状を起こします。

この疾患の原因は大きく2つあります。ひとつは先天的な問題によるもの。これは遺伝的な血管構造の奇形によるものです。多く見られるのは門脈と後大静脈との間に形成される「門脈後大静脈シャント」です。また、短絡した血管が肝臓の外側に存在するもの(肝外シャント)や、肝臓内に短絡血管を形成するもの(肝内シャント)もあります。これらの要因が複合している場合も見受けられます。

後天的な要因としては、門脈の血流異常に由来するものが主となります。門脈圧が上昇することが発症につながります。これを誘発する要因には、肝臓の基礎疾患の存在があり、例えば肝炎や肝硬変、肝線維症、胆管炎などがあります。

猫における門脈体循環シャントの発生率は2%といわれ、犬に比べると発症する度合いが低い疾患です。

猫の「門脈体循環シャント」の症状は?

門脈体循環シャントによって、猫の体にはいくつかの不調が現れます。症状の発現は食前よりも食後に生じやすくなります。これは、食餌によって栄養を取り込んだ際に、短絡血管によって血液中のアンモニア濃度が上昇しやすくなるからです。この門脈体循環シャントによって起こる神経的な症状のことを「肝性脳症」と呼ぶことがあります。

よだれ

高アンモニア血症になると脳や神経に悪影響が及びます。そのひとつの症状がよだれの増加です。これは、アンモニアが悪心を引き起こすことに関連します。吐き気を催すこともあります。

食欲不振

悪心があるために食欲が低下あるいは廃絶することがあります。長期的には食欲が細い状態を持続するため、体重減少や成長不良といった外貌上の変化が現れることがあります。

尿石の形成

血中アンモニア濃度が高い状態が持続すると、このアンモニアを核とした尿石が形成されます。本来アンモニアは肝臓で代謝されるのですが、この機能が十分でないためです。血中の尿酸値も上昇します。尿中に結晶として検出されるほか、条件により結石を形成することもあります。

行動の異常

アンモニアが血液中に高濃度に存在することによる影響が現れます。てんかんのようなけいれんや、歩様がおぼつかない様子が見られることがあります。視力の低下あるいは喪失、重度な場合は意識障害を起こす場合もあります。このような状態が持続すると、生命維持にも影響が及びかねません。

「門脈体循環シャント」の診断・治療法は?

神経系に異常が生じている場合は、何か重大な病気の存在があるのでは?と想像がつきますが、元気や食欲の消失といった症状は他の病気でも多く見られます。門脈体循環シャントはどのように診断され、どのような治療が想定されるかをご紹介します。

検査や診断方法

門脈体循環シャントを確定診断するためにはいくつかの検査を行います。血液検査では、肝臓に関連した項目、血中アンモニア濃度(NH3)や、血中総胆汁酸(TBA)などの測定を行います。画像診断として、X線検査や腹部エコー検査を実施します。短絡血管の存在を確定するために、開腹して門脈造影を行ったり、肝臓の生検を実施することがあります。高度画像診断装置が普及し、CTを用いた造影検査を行う機会が増えています。開腹下での検査により短絡血管の位置が確定されたら、そのまま外科処置を行うこともあります。

治療方法

治療方法は、原因の改善に努める手段と、症状の緩和改善を行うものとに分けられます。原因の改善とは、短絡している血管の血行を遮断することです。肝臓外にある短絡血管を縛って結んでしまう方法があります。この手術の終了後、合併症の有無を確認するため数日間入院し、問題がなければ退院となります。

対症療法として、食餌療法や補液、肝性脳症の症状緩和のための薬を用いた治療があります。基礎疾患となる肝臓の病気を同時に治療することが原則となります。肝臓保護剤やそれに準じた療法食を定期的に使用します。治療は主治医の先生の指示を仰ぎ適切に行いましょう。

「門脈体循環シャント」の治療費はどのくらい?

門脈体循環シャントは、外科治療あるいは内科治療、どちらを行う場合であっても短期間で完治に至る疾患とは考えにくいため、通院や検査には時間と費用を要します。外科手術を選択した場合、画像診断や手術費用、入院管理費等を含めると数十万円ほどかかることもあります。

内科治療の場合も、中長期的に投薬や食餌管理を必要とするため、1ヶ月あたり数千円程度の治療費が発生する可能性があります。

「門脈体循環シャント」の予防法はある?

先天的な門脈体循環シャントは、残念ながら予防法はありません。診断された際にシャントの程度や症状に合わせた治療を行うこととなります。一方、後天的なものについては門脈を流れる血圧の上昇を抑えることが予防につながる場合があります。これらは先述した肝臓の基礎疾患に基づいて発生することが多いため、健康な肝臓を維持することがこの病気を予防することにつながるといってもよいでしょう。また、肝臓に持病がある場合はこれらを適切に治療することで合併症としての門脈体循環シャントの発症を予防します。

まとめ

猫の体循環門脈シャントは先天的なものと後天的なものとに大別されます。先天的なものは成長不良や行動異常といった変化が早い段階から現れます。後天的なものは、他の肝臓疾患に合わせて発症することが多く、その原因疾患の治療が欠かせません。高アンモニア血症により食欲低下や神経症状が起こるため、症状の改善のために早期の検査と症状に合わせた治療を主治医と相談しながら行っていきます。シャントの具合によって治療の方法が異なりますが、家族の手厚いフォローで少しでも穏やかに過ごせるようにしてあげたいものです。

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監修獣医師

増田国充

増田国充

北里大学を卒業し、2001年に獣医師免許取得。愛知県、静岡県内の動物病院勤務を経て、2007年にますだ動物クリニック開業。現在は、コンパニオンアニマルの診療に加え、鍼灸をはじめとした東洋医療科を重点的に行う。専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、国際中獣医学院日本校事務局長、日本ペット中医学研究会学術委員、日本ペットマッサージ協会理事など。趣味は旅行、目標は気象予報ができる獣医師。