猫に食欲の低下や嘔吐が見られても、「毛玉が原因かな?」と思ってしまいがちですよね。しかし、「体質」や「毛玉」では片付けられない場合があります。その一つが『腸重積』です。腸重積とは、腸管の一部が連続する腸管に引き込まれてしまい、抜けなくなった状態です。

人や犬でも起こる病気で、特に小児では予防注射の副反応として説明を受けるため、聞き覚えがあるかもしれません。腸重積は猫でもまれに起こることがあります。治療を行わないと、時間が経つにつれて悪化していき、数日で亡くなることもある怖い病気です。今回は、腸重積の原因や治療について解説していきます。

猫の「腸重積」とは

腸重積は、腸菅の一部が腸管内に入り込んで抜けなくなった状態のことをいいます。猫ではまれですが、シャム猫では他の猫種よりも多く見られます。また、一歳以下の幼猫で起こりやすいです。腸重積は腸のどの部分でも起こりますが、小腸と結腸の移行部である回腸―結腸や、空腸―空腸の間で起こりやすいです。

腸が入り込んでいることで、最初は腸の一部が閉塞し、時間が経過するとともに完全な腸閉塞となっていきます。腸管の血液がせきとめられ、腸管組織が壊死します。じきに腹膜炎を起こし、命の危険に陥ります。数日で亡くなることもあれば、数週間の経過をたどることや、亡くなってから気づかれることもあります。治療には多くの場合緊急対応が必要となり、手術も必要となる重篤な疾患です。

「腸重積」の原因は?

腸重積の多くは特に原因がなく起こりますが、腸炎に関連して起こることもあります。腸炎には以下のような原因があげられます。

・消化管の寄生虫感染

・ウイルス、細菌感染

・不適切な食べ物

・フードの急な変更

また、腸に以下のような病的な変化がみられ、起こる場合もあります。

・異物の誤飲

・消化管の腫瘍

その他に、全身性の疾患や外科手術の影響で腸重積が起こることがあります。

これらにより、腸の壁に異常が起こり、腸の運動性や柔軟性が変わることで腸重積は起こると考えられています。

「腸重積」は、どんな症状になる?

腸重積の症状は、重積の位置や閉塞の程度(完全性)、持続時間、重症度によって異なります。

主な症状

腸重積では、少量の血様の下痢、嘔吐、食欲不振、便を出そうとするが出ない様子(しぶり)が見られます。腹痛のため、腹部を触られるのを嫌がったり、動かずにじっとしていることがあります。食欲不振のために脱水を起こし、皮膚の弾力が失われ、口腔内が乾燥し、目が落ち込むことがあります。触ると腹部に塊があるのがわかることもあります。

慢性経過の場合

腸の閉塞が完全ではなく慢性的に経過する場合は、症状は顕著ではなく、たまに下痢をしたり、元気や食欲が徐々に低下し、痩せていきます。

重篤な場合

重篤な場合は、腹膜炎により強い腹痛が起こり、腹水によってお腹が膨れ、意識レベルが低下するショック症状を引き起こすこともあります。

診断法は?

腹部の触診で細長く分厚くなったソーセージ形の塊が触知された場合には、腸重積を疑います。超音波検査はリアルタイムで腸の動きや腸管の壁の状態を見ることができるため、とても有効です。輪切りの状態で腸管を見て、腸管壁が二重になる像が検出された場合、腸重積と診断されます。腹部レントゲン検査は腸のガスや腸の太さを見ることができるため、腹部レントゲン検査や消化管造影レントゲン検査によって腸の閉塞が確認されます。血液検査で、全身状態の確認をします。

腸重積の原因の探索も、レントゲンや超音波検査、糞便検査によって行っていきます。

治療法は?治療費は?

腸重積は、自然に治ることもありますが、これはとてもまれで、通常は早期の治療が必要です。腸重積の治療には多くの場合が外科手術を必要としますが、内科療法で治ることもあります。腸重積は、腸の壁に異常が起こり、腸の運動性や柔軟性が変わって起きているため、一度重積が解除されても繰り返してしまうこともあります。再発を予防するためには外科手術が必要です。腸管の血流が悪くなり、腸管組織が壊死している場合には必ず外科手術が必要となります。

内科療法

皮膚の上から腸重積を触知し、重積部分を引き伸ばして整復します。猫の脱水と電解質(イオン)のバランスの補正のために点滴治療を行います。腸炎などの基礎疾患も同時に治療します。内科療法は、軽度な重積でのみ行うことができますが、腸重積が再発する可能性はあります。

外科手術

手術の前に、猫の脱水と電解質(イオン)のバランスの補正のために点滴治療を行います。開腹手術で引き込まれた腸を整復します。整復した腸管を観察し、血行が良好か、壊死している部分がないかを確認します。癒着により引き伸ばす整復が不可能な場合や、腸管が壊死している場合、血行が不良な場合は腸管の一部を切除し、腸管同士を縫い合わせます。再発を防ぐために、腸同士を固定する方法が行われることがあります。腫瘍が隠れていないかなど腸重積の原因探索のために、腸の一部で病理検査を行います。

術後も注意が必要

腸重積の手術では腸管にメスを入れるため、術後すぐに食事を取ることはできません。点滴治療をしながら、流動食から開始し、数日かけて少しずつ食事の再開をします。猫が衰弱していたり、嘔吐が重度の場合はチューブを腸に設置し、栄養補給をすることがあります。さらに、腸重積の再発や腸閉塞、腸の動きが悪くなるイレウス、腹膜炎にも注意する必要があります。腸の血行が悪いことにより、縫合部がつかずに裂開したり、腹膜炎を起こすことで、術後に亡くなることもあります。

短腸症候群

腸の7~8割と大部分を切除しなければならなかった場合に、短腸症候群になる可能性があります。腸が短くなったために栄養を十分に吸収できず、下痢、脱水、栄養欠乏、体重減少が起こることです。腸が適合するまで1~2ヶ月支持療法を行う必要があります。

予後は?完治する?

腸重積の予後は、重積の原因、位置、閉塞の有無、持続時間によって変わってきます。適切な治療を行わないと3~4日で亡くなる場合もありますが、一方で数週間生きることもあります。急速に悪化し、亡くなる場合は、腸が完全に閉塞していたり、腸毒素血症(腸管内の細菌が異常増殖して毒素を発生し、毒素が血液中に入り全身性に中毒症状を起こした状態)が関連しています。腸が破れたり腹膜炎を伴う場合にも、予後が悪くなります。腸管の血流が維持され、脱水が軽度な場合は数週間生きられます。

腸の血流が保たれているうちに適切な治療を行うことが大切で、早期に手術を行えば完治する可能性が高くなります。発見や治療が遅れると腹膜炎などの重篤な合併症を伴うため、早めの対応が鍵となります。

治療費は?

腸重積の治療費は、治療法や重篤度により大きく変わってきます。内科療法で完治した場合には、5,000〜20,000円程度の治療費がかかるでしょう。多くの場合は、外科手術と1〜2週間の入院が必要となるため治療費はより高額となり、15~30万程度の費用がかかることもあるでしょう。

予防方法はある?

腸重積は腸炎が原因で起こることがあるため、腸炎にならないように気を付けると良いでしょう。猫の混合ワクチンでは猫に腸炎を引き起こすパルボウイルス感染症を予防できます。室内飼育でも感染する恐れはあるため、定期的なワクチン接種を行いましょう。

子猫は、回虫や条虫などの消化管寄生虫や、ジアルジアやコクシジウムといった感染症を持っていることが多いです。特に、元のら猫では多く見られます。猫を迎え入れた際には、動物病院で健康診断と消化管寄生虫の駆虫と糞便検査を行いましょう。

異物の誤飲にも注意する必要があります。猫は、高いところにも登れるため、猫が出入りする部屋はすべて片付け、飲み込めるものはしっかりとしまっておかなければいけません。猫は、長い紐にじゃれて遊ぶのが大好きで、遊んでいるうちに飲み込んでしまうことがあります。カサカサと音がするビニールも好きな猫が多いので危険です。毛繕いをして飲み込んだ毛も異物になる可能性があります。長毛の猫や皮膚病などで過剰に毛繕いをする猫ではこまめにブラッシングをする必要があります。

異物以外にも、ゴミ箱を漁って腐った食べ物を食べてしまったり、期限が切れたキャットフードを与えたりと、猫が不適切な食べ物を口にしないように気をつけましょう。食事を急に変更すると、腸炎を起こすことがあるため、食事の変更は2週間程度かけて徐々に行うようにしましょう。

高齢の猫では、消化管の腫瘍により腸重積を引き起こすことがあります。一年に一回は、画像検査を含む健康診断を受け、健康状態を確認しましょう。

まとめ

猫で腸重積は珍しいですが、万が一なってしまうと命に関わる恐ろしい病気です。猫で、嘔吐や血便は珍しくなく感じてしまいますが、いつもと状態が違う時には、早めに動物病院で相談しましょう。動物病院を受診する際には、いつから症状が見られるのか、症状が見られる前にいつもと違うイベントがなかったか(留守番が長かった、来客があったなど)、食事の変更はなかったか、異物の誤飲の可能性はないか、排泄の状況はどうかをメモして行くと、診断・治療の手助けになります。日頃から、猫の体調に気を配り、健康診断を受けさせ、異物などを摂取しないように気を付けることも大切です。

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監修獣医師

平野 翔子

平野 翔子

2012年に東京農工大学を卒業後、24時間体制の病院に勤務し、予防診療から救急疾患まで様々な患者の診療に従事。その傍ら、皮膚科分野で専門病院での研修や学会発表を行い、日本獣医皮膚科学会認定医を取得。皮膚科は長く治療することも多く、どうぶつたちの一生に関わり、幸せにするための様々な提案や相談ができる獣医療を目指す。パワフル大型犬とまんまる顔の猫が大好き。