猫が急に苦しがる、または呼吸が速くなる様子がある場合、胸の中に空気がたまる「気胸」という状況が起こっているかも知れません。気胸はただちに病院を受診する必要がある疾患なので、注意が必要です。今回は気胸がどのような病気か、また気胸になる原因や症状、治療法などについてお話しします。

猫の気胸ってどんな病気なの?

猫を含め動物の肺は、胸腔という肋骨に囲まれた空間に納まっていて、横隔膜という筋肉と胸郭が呼吸に伴い伸び縮みすることで、肺が萎んだり膨らんだりしています。「気胸」は、さまざまな原因で通常では空気が溜まらない肺の外側の胸腔内に空気が溜まってしまう状態のことをいいます。気胸になると、息を吸っても肺が外側に溜まった空気により圧迫されて、肺を十分に広げることができなくなり、呼吸困難に陥ってしまいます。

猫の気胸の原因は?

猫の気胸は原因別に、「外傷性気胸」、「自然気胸」、「医原性気胸」に分かれます。それぞれの特徴は以下のとおりになります。

外傷性気胸

猫でもっとも多いのが、外傷性気胸です。交通事故による肺の損傷や肋骨を折るなどして、胸腔の壁に穴が開いてしまうことで、気胸を発症します。高所からの落下による衝撃や、猫同士のケンカによって噛まれるなどして胸壁を傷つけてしまい、気胸を起こすこともあります。

自然気胸

自然気胸は、外傷性や医原性以外の原因で肺や気管の呼吸器、食道などの消化器から空気が胸腔内に漏れ出てしまう状況をいいます。猫では気管支喘息や肺腫瘍、肺炎などの呼吸器疾患に伴い気管や肺がもろくなり、破れて自然気胸を発症することが多いです。この他、異物誤飲して、その異物によって食道が傷つき、気胸を起こす場合などがあります。

医原性気胸

さまざまな医療行為によって起こってしまう気胸を、医原性気胸といいます。猫では、全身麻酔で気管に気管チューブを挿管する際の気管損傷や、人工呼吸器を使用する際の肺の過膨張による肺の損傷、肺や胸の中の組織を針などで刺して検査する際に傷つけてしまうことなどで、医原性気胸を発症することがあります。

猫の気胸の症状・治療法は?

猫の気胸の発症は急性で、突如体調の悪化が見られることが多く、体調の変化に早めに気付き動物病院を受診して治療する必要のある緊急疾患です。治療が遅れると、命に関わる場合がありますので、下記に示すような症状が見られたら、すぐに対応しましょう。

症状

気胸を発症した時の主な症状は、以下のような呼吸状態の悪化が認められます。

呼吸が早く、浅い

家の中で安静にしているにもかかわらず、急に呼吸の回数が早くなる場合は、明らかな呼吸状態の異常としてわかりやすい症状です。通常安静時の猫の呼吸回数は1分間に20回〜30回前後ですが、呼吸回数が40回以上でなおかつ猫が苦しそうな場合、明らかな異常といえます。

努力呼吸

安静時でも息を吸う時に胸の動きが大きく、ゼーゼーやヒューヒューというようないつもと違う音が聞こえる場合は、うまく息を吸えていない可能性があります。

開口呼吸、鼻翼呼吸

猫が口を開けて呼吸していたり、鼻をヒクヒクさせて呼吸している場合は、かなり苦しい状況といえます。

動きたがらない

呼吸が苦しいと動くだけでも苦しくなるため、なるべくうつ伏せで首をのばし、猫にとって楽な体勢をするようになります。触ろうとすると、痛みで嫌がる場合もあります。

さらに、気胸の程度が重症であったり病状が進行してくると、呼吸が苦しいだけでなく、血液循環の悪化や酸素不足により意識障害などが見られてショック状態に陥り、倒れたまま動けない状態になります。この状態は命を落とす危険性が高いため、異変を感じたら様子を見るのではなく、早急に動物病院を受診しましょう。

治療法

猫の呼吸状態に異常が認められた場合、通常レントゲン検査や超音波検査で気胸がないかを確認します。ごく少量の空気の貯留しかなく猫の状態も安定している場合は、その後空気の貯留が増えないか安静にして経過を見るという場合もあります。しかし、ある程度の気胸が認められ猫に苦しそうな症状がある場合、胸腔内へ針やチューブを刺して溜まっている空気を抜く処置を行います。

胸腔内に針などを刺す場合は、刺した時に他の臓器を傷つけたり肺を傷つけてしまう危険性があります。さらに、猫が嫌がって興奮してしまうと、より呼吸状態を悪化させてしまう可能性もあるので、状況によっては鎮静や麻酔をかけて行う必要があります。

気胸が重篤な場合、気胸の空気を緊急的に抜くと同時に、呼吸状態が安定するまで、酸素マスクや酸素室のある集中治療室で、猫を入院させて管理する必要があるかもしれません。一度空気を抜いた後は、再度気胸が起こらないか十分注意して見ていく必要があります。再度、短時間ですぐに空気が溜まる場合は、チューブを設置して定期的に抜く必要があり、同時に気胸になる原因疾患が何かを探る必要があります。

肺炎や喘息、他の呼吸器疾患が原因で気胸が起きている場合、それらの治療をうまく行わなければ、気胸が再発する可能性も考えられます。また、交通事故などの外傷が原因で気胸を起こしている場合は、肺や胸が損傷を受けて穴が開き、そこから空気が漏れている可能性があるため、穴を塞ぐような緊急手術が必要になる場合もあります。

猫の気胸の治療費はどのくらい?

アニコム損保の調査によると猫の気胸の平均年間通院回数は1回程度で、通院1回あたりの平均単価 4,860円程度となっています。この他、治療費以外に気胸の診断として初回にレントゲン検査などの検査費用が数千円かかる可能性があることを留意しておきましょう。

また、一度の治療では気胸が完治しない場合や、気胸の重症度によって入院や手術が必要な場合は、かかる費用が大きく異なります。入院での管理や手術が必要になる場合は、数万〜十数万の費用がかかる可能性がありますが、緊急を要する場合が多いため、費用についても獣医師と相談して確認しておくとよいでしょう。

【関連サイト】
気胸 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

猫の気胸の予防法はある?

猫の気胸は外傷によって起こることが多く、特に強い衝撃を受けてしまうような交通事故や高所からの落下、なわばり争いによるケンカ傷は、猫を屋外へ出さず室内で生活させることで事前に防ぐことができます。しかし、室内でも多頭飼育をしている場合は、激しいケンカによって傷を負い、胸を傷つけてしまう可能性もあるので注意が必要です。

気をつけたいこと

気胸は、猫が急に苦しそうな状態に陥ってしまうことがある疾患です。特に喘息などの呼吸器疾患を患ったことがあるまたは現時点で治療中である場合は、いつもと違った呼吸の仕方が見られるとそれは異常のサインなので、すぐに動物病院を受診しましょう。

まとめ

猫の気胸は頻繁に見る病気ではありませんが、気胸になると突如呼吸が苦しくなり、猫にとってはとても辛い病気です。なるべく早く呼吸を楽にしてあげるためにも、異変に早く気付いてあげられるよう日頃から猫の様子をよく観察してあげましょう。

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監修獣医師

溝口やよい

溝口やよい

日本獣医生命科学大学を卒業。2007年獣医師免許取得。埼玉県と東京都内の動物病院に勤務しながら大学で腫瘍の勉強をし、日本獣医がん学会腫瘍認定医2種取得。2016年より埼玉のワラビー動物病院に勤務。地域のホームドクターとして一次診療全般に従事。「ねこ医学会」に所属し、猫に優しく、より詳しい知識を育成する認定プログラム「CATvocate」を修了。毎年学会に参加し、猫が幸せに暮らせる勉強を続けている。2018年、長年連れ添った愛猫が闘病の末、天国へ旅立ち、現在猫ロス中。新たな出会いを待っている。