ふわふわもこもこの被毛は猫のチャームポイントの一つですが、一緒に暮らしているとどうしても悩まされるのが抜け毛です。動物である以上仕方ないものですが、ちょっとした工夫で掃除のストレスを減らすことができます。今回は、抜け毛対策や掃除のポイントなど、抜け毛とうまく付き合う方法をご紹介したいと思います。

猫の毛が抜ける原因

被毛は新陳代謝を繰り返しているので、ある程度の抜け毛は毎日発生します。しかし、それ以上に抜け毛が増える原因はいくつかあります。

ダブルコート

猫の被毛の生え方には2種類あります。1つは、被毛がオーバーコート(上毛)とアンダーコート(下毛)の2層になっているダブルコートの猫種で、もう1つは、オーバーコートのみ、あるいはアンダーコートのみの1層からなるシングルコートの猫種です。雑種の日本猫の多くは、ダブルコートといわれています。ダブルコートの猫は、シングルコートの猫に比べて抜け毛が多くなる傾向があります。

換毛期

シングルコートの猫は、1年を通じて少しずつ被毛が生え変わります。一方、ダブルコートの猫は、オーバーコートの毛は1年を通じて生え変わり、アンダーコートの毛は通常、春と秋の年2回の「換毛期」と呼ばれる時期に生え変わります。猫種にもよりますが、この換毛期にはアンダーコートの抜け毛が大量に発生します。換毛期は気温の変化に対応して起こりますが、室内で過ごす猫は寒暖差が少ないため、明確な換毛期がない場合もあります。

栄養不足

食事から摂る栄養が不足すると、皮膚や被毛の健康が保てず、抜け毛が増えることがあります。皮膚や被毛の健康を維持するために重要な栄養素には、以下のようなものがあります。

・タンパク質
タンパク質は皮膚や被毛を構成する重要な成分です。猫が1日に摂取するタンパク質の30%近くは皮膚や被毛の新陳代謝に使われるとされています。そのため、食事で十分なタンパク質を摂取できないと、毛質が悪くなったり、皮膚の機能が低下し、抜け毛の原因となります。

・必須脂肪酸
必須脂肪酸も猫の皮膚と被毛の健康を保つために欠かせない栄養素です。これが不足すると皮膚のバリア機能が低下し、皮膚炎を起こしやすくなったり、被毛の質が低下して抜け毛が増えることがあります。

・ビタミン
細胞の成長を調整するビタミンA、代謝を促進するビタミンB群、抗酸化物質であるビタミンEなど、様々なビタミンが皮膚と被毛の健康に関わっていて、不足すると被毛の質が悪くなり、抜け毛が増えることがあります。

・ミネラル
皮膚と被毛の健康に大きな影響を与えるミネラルとしては、亜鉛や銅が挙げられます。十分に摂取できないと、被毛の質や毛並みが悪くなることがあります。

猫用の総合栄養食のフードには、これらの栄養素がバランスよく含まれているため、十分な量の総合栄養食を食べている猫であれば、基本的な栄養が不足する心配はありません。しかし、食欲が落ちて十分に食事がとれない猫や、消化器疾患などなんらかの病気で栄養の吸収に問題がある猫などでは、注意が必要です。皮膚の状態や被毛の質が気になる場合には、これらの栄養を積極的に摂れる食事やサプリメントなどを利用してみるのもよいでしょう。

不安やストレス

猫は日常的にグルーミング(身体をなめる行為)を行います。これは身体を清潔に保ち、体温を調節するための行動ですが、同時に気持ちを落ち着かせる効果もあるといわれています。そのため、猫が不安やストレスを感じると、過剰にグルーミングをしてしまい、皮膚を傷つけて皮膚炎を起こしたり、脱毛の原因となることがあります。環境や家族構成の変化、体調の変化など、猫にとってストレスの要因となることはたくさんあります。普段よりグルーミングを頻繁にしていると感じたら、不安やストレスの原因を探し、その対策をしてあげましょう。

病気

病気が原因で抜け毛が増えることもあります。以下にいくつかの代表的な病気を紹介します。

・アレルギー性皮膚炎
アレルギー反応が原因で起こる皮膚炎で、花粉やハウスダストなど環境中の物質や食物など、様々なものがアレルゲンになります。強い痒みや発疹の症状が見られ、脱毛を伴うこともあります。
ネコノミなどが原因となるノミアレルギーによるものは、主に背中から腰回りを中心に症状が見られます。

・疥癬
皮膚に寄生するダニの一種であるヒゼンダニが原因で起こる皮膚炎です。痒みが強いため、猫が自分で体をひっかいて皮膚を傷つけたり、発疹やフケ、脱毛の症状が見られます。人にも感染するため、注意が必要です。

・皮膚糸状菌症
真菌(カビ)の一種である皮膚糸状菌が原因で起こる皮膚炎で、発疹や円形の脱毛が見られます。人にも感染するため注意が必要です。

・内分泌疾患
猫ではかなり稀ですが、性ホルモンの失調、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症など、ホルモンの異常に伴って脱毛が起こることもあります。この場合、左右対称の脱毛や全身の毛が薄くなるような脱毛が見られることが多く、多飲多尿などの症状を伴うこともあります。

・その他の病気
腹痛や腰痛、便秘、膀胱炎、腫瘍など、身体のどこかに痛みや違和感があると、その部分を過剰に舐めて脱毛してしまうことがあります。身体の一部分だけを執拗に舐めて脱毛しているような場合は、その部分に痛みなどの異常がないか注意深く見てあげましょう。

抜け毛に関連する主な病気

抜け毛が多いとき、対策をしないと様々なトラブルが引き起こされることがあります。以下は、抜け毛が原因で起こる主な病気です。

皮膚病

抜け毛の多い時期に抜けた毛を取り除かないと、そのまま絡まって毛玉になってしまうことがあります。毛玉ができると、皮膚が引っ張られて痛みが出たり、通気性が悪くなって炎症の原因になることもあります。

毛球症

抜け毛が多い換毛期や、何らかの原因で脱毛が見られるときに過剰にグルーミングをし、毛を大量に飲み込んでしまうと、胃や腸の中で飲み込んだ毛が毛玉になってしまうことがあります。胃や腸の中の毛玉は粘膜を刺激して食欲不振や嘔吐、下痢などの原因になったり、大きさによっては腸閉塞の原因になることもあります。

食道炎

胃の中にたまった毛玉を吐き出そうと頻繁に嘔吐を繰り返すことで、逆流した胃酸が食道の粘膜を刺激し、食道炎を起こしてしまうことがあります。食道炎を起こすと、食欲低下や吐き気、よだれ、吐出(胃に入る前に食べ物を吐き戻す)などの症状が見られます。

猫の健康を守るための抜け毛対策

抜け毛が原因で起こる病気を防ぐためには、抜けた毛をなるべく早く猫の身体から取り除き、猫が誤って抜け毛を大量に飲み込まないようにするケアが重要です。

こまめなブラッシング

最も効果的な対策はこまめなブラッシングです。ブラッシングには、抜け毛を取り除く他にも、皮膚に適度な刺激を与えて新陳代謝をよくする効果や、猫をリラックスさせストレスを解消する効果、飼い主さんとのコミュニケーションを深める効果などもあります。また、ブラッシングの際に皮膚や被毛の状態をチェックすることで、病気の早期発見につながることもあります。

ブラッシングは短時間でもできれば毎日、少なくても2~3日に1回行うとよいでしょう。換毛期や長毛種の猫ではもっと頻繁に行うのが望ましいです。もつれや毛玉ができてしまってから取ろうとすると、時間がかかったり痛みで嫌がることもあるので、できる前に予防するという観点で、なるべくこまめにやってあげられるとよいですね。

ブラシにはいろいろな種類があります。一般的には、短毛種はラバーブラシ(ゴムやシリコンでできた柔らかい突起のついたブラシ)、長毛種はピンブラシ(金属のピンがついた人用のヘアブラシに近い形のブラシ)やスリッカーブラシ(「く」の字の細い針金のピンがぎっしりついたブラシ)がすすめられることが多いですが、猫によって好みがあるので、愛猫が喜ぶものを選んであげるとよいでしょう。

ブラッシングは小さいときから慣らしていないと、おとなしくやらせてくれないかもしれません。猫がリラックスできる環境で、なるべく短時間で手早く行うようにしましょう。すでに毛玉ができていてブラッシングをすると引っ張られて痛みが出るような場合や、ブラッシングされること自体をとても嫌がる場合は、無理をせず動物病院で相談するとよいでしょう。

シャンプー

基本的に猫はシャンプーを行う必要はありませんが、濡れることを嫌がらない猫の場合は、シャンプーをするのも抜け毛を減らす一つの方法です。また、皮膚病が原因で抜け毛が多い場合は、治療の一つとしてシャンプーを行うこともあります。その場合は、皮膚の状態に適した薬用シャンプーを動物病院で処方してもらい、シャンプーの方法や頻度は指示に従うようにしましょう。

サマーカット

長毛種や抜け毛の多い猫にとって、サマーカットは抜け毛の量を減らす方法の一つです。サマーカットには、夏場の暑さ対策や、被毛のお手入れをしやすくしたり、通気性をよくすることで皮膚病の予防になるなど様々なメリットがあります。

一方で、カットの際に猫を長時間拘束したり、場合によって鎮静や全身麻酔を必要とするなど、猫にストレスや負担を与える可能性があることや、毛が短くなることで日光が直接皮膚にあたり紫外線による影響が心配されるなどのデメリットも指摘されています。特に、神経質な猫の場合、毛が短くなったことに不安を感じて過剰にグルーミングをするようになり、皮膚が傷ついたり、毛が生えそろわなくなるというようなこともあります。

このように、サマーカットにはメリットとデメリットの両方があるため、実施前によく検討し、猫の性格や健康状態を考慮したうえで判断しましょう。

毛玉対策フードや毛玉除去剤

ブラッシングやシャンプーなどで抜け毛をできる限り取り除き、グルーミングによって飲み込んでしまう毛の量を減らすことはとても重要ですが、それでも毛の塊を頻繁に吐き戻す猫もいます。嘔吐を頻繁に繰り返すと、胃酸の逆流により食道粘膜が荒れて食道炎を起こしてしまうことも多いため、口に入った毛は吐かせるのではなく、できるだけ便の方に流すことがすすめられます。そのためには、食物繊維を配合することで毛の排泄を促す毛玉対策のフードや、毛を包み込んで排泄を促すペースト状の毛玉除去剤などを利用するとよいでしょう。また、猫草も飲み込んでしまった毛を除去し、毛球症を予防する効果がありますが、便から排泄するよりも毛玉を嘔吐する猫が多く見られます。猫草を食べて頻繁に嘔吐する猫の場合は、食道炎などのリスクもあるので控えた方がよいでしょう。

掃除のポイント

部屋に飛散した猫の抜け毛は、ハウスダストの原因となり、ダニの温床になったり、アレルギー症状を引き起こすなど、飼い主さんの健康にも影響を及ぼすことがあります。ブラッシングで抜け毛の飛散を減らすことが大切ですが、こまめな部屋の掃除で室内の清潔を保つことも非常に重要です。抜け毛対策の掃除のポイントをご紹介します。

掃除は上から下に

猫の抜け毛は軽く舞いやすいため、家具の上や照明器具、カーテンレールなど高さのあるところにも飛んでいる可能性があります。効率よく掃除を行うためには、まず高いところから掃除を始めるのが良いでしょう。はたきなどを使って埃を落とす方法もありますが、部屋中に毛が舞ってしまうのを防ぐためには、静電気で吸着させる埃とりやマイクロファイバーのモップや雑巾などを利用するのがおすすめです。また、使い古した靴下も、毛や埃を吸着させてそのまま捨てられるので便利です。単純ですが濡れ雑巾で拭く、というのもかなり効果的です。

フローリングの掃除

フローリングに落ちている抜け毛をいきなり掃除機で吸おうとすると、掃除機によっては排気で猫の毛が舞ってしまうことがあります。フローリングワイパーやモップなどであらかじめ毛を集めて減らしてから仕上げに掃除機をかけると効率的です。

じゅうたんやソファなど布製品の掃除

じゅうたんやソファーなどの布製品には、猫の抜け毛が絡みつき、掃除機だけでは取り切れないことがあります。そのようなときは、ゴム手袋をはめて軽くこすると、抜け毛が集まって取りやすくなります。ペット用のラバーブラシやピンブラシなども絡まった抜け毛を取るのに役立つことがあります。表面の毛は粘着テープのコロコロクリーナーなどを利用してもよいでしょう。

空気清浄機を併用する

空気中に舞う抜け毛を減らすためには、空気清浄機を利用するとよいでしょう。効果的に使用するために、換毛期など抜け毛が多い時期はフィルターのメンテナンスをこまめに行うようにしましょう。

まとめ

猫の抜け毛対策で大事なことは、ブラッシングで早めに猫の身体から抜け毛を取り除くことと、効率的な掃除で部屋の清潔を保つことです。猫の抜け毛は猫自身や飼い主さんの健康にも影響を及ぼすため、適切な対策を行って上手に付き合っていきましょう。

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監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。