猫は魚が好き、というイメージを持っている方は多いと思います。実際、ペットショップにはお魚味のキャットフードやおやつがたくさん並んでいて、それを喜んで食べる猫は多いですよね。しかし、本当のところ、どうなのでしょうか?猫に魚をあげるときの注意点などについてもご紹介したいと思います。
猫は魚が好きなのか?
猫は魚が好き、といわれるのは、実は日本特有のこと。他の国では少し事情が異なるようです。
現在、私たちと一緒に暮らしている猫たちの祖先は、砂漠で暮らし、狩りをしてネズミやウサギなどの小動物や鳥などを食べていました。水の少ない環境に適応してきた猫は被毛が水に濡れることを嫌がり、自ら海や川に入って魚を獲って食べるようなことはしません。
日本の猫が魚好きといわれるのは、島国で魚中心の食生活を送ってきた日本人と暮らす猫たちの食事も、魚中心であったことと関係しています。ドッグフードやキャットフードが普及する前の飼い犬や猫たちの食事は、人の食事の残り物が中心で、魚やかつお節、お味噌汁などをかけた「ねこまんま」のような食事がほとんどでした。犬も猫と同様に魚中心の残飯などの食事を与えられてきましたが、犬は猫ほど魚が好きなイメージはありません。ご飯や野菜などからも栄養を得ることができる雑食の犬と比べて、完全肉食動物である猫は動物性タンパク質をたくさん必要とします。貴重なタンパク源である魚やかつお節を猫たちが必死に食べる様子から、特に猫は魚が好きと思われてきたのかもしれません。
そのような理由から、現在に至っても日本の猫用には魚味のキャットフードやおやつがたくさん販売されています。猫の味の好みは生後数ヶ月までに食べたもので決まるといわれているので、小さいころから魚味のフードやおやつで育った日本の猫たちは、魚味を好んで食べるようになるのです。ただし、魚味のフードが好きな猫が魚を好んで食べるかというと、必ずしもそうではなく、焼き魚やお刺身には見向きもしない、という猫もたくさんいます。
ちなみに、海外のキャットフードは鶏肉や羊肉、牛肉などの肉類で作られていることが多く、魚よりも肉が好きな猫が多いといわれています。日本の猫も、小さいときから肉類中心の食事を与えられていれば、魚よりも肉が好きな猫に成長するでしょう。
猫に魚を与えてもよい?
魚に含まれる大事な栄養素
魚には、猫の健康にとって大事な様々な栄養素が含まれています。特に重要なのは次のものです。
・タンパク質
タンパク質は、筋肉や臓器など動物の体を構成する成分で、ホルモンや酵素などの原料となり、さまざまな体の機能を調整するためにも重要な役割を果たしています。また、完全肉食動物である猫はタンパク質を主なエネルギー源として利用するため、多くのタンパク質を必要とします。魚には良質なタンパク質がたくさん含まれているので、猫の食事のタンパク源として適切な食材と言えます。
・不飽和脂肪酸
魚にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの不飽和脂肪酸が多く含まれています。これらの不飽和脂肪酸は、炎症の抑制や心機能、腎機能の保護、認知機能の改善、神経系の発達等さまざまな働きに関与しています。猫は十分な量のEPAやDHAを体内で合成できないため食事から摂取することがすすめられますが、魚はこれらの不飽和脂肪酸のよい供給源となります。
一方、これらの不飽和脂肪酸は酸化しやすく、過剰摂取すると、皮下や腹腔内の脂肪が酸化して炎症を引き起こす「黄色脂肪症」を発症するリスクがあります。炎症により痛みが生じるため、触られるのを嫌がったり、発熱や食欲不振などの症状が見られます。現在普及しているキャットフードには、抗酸化作用のあるビタミンEが十分に添加されているため、キャットフード中心の食事をしている猫では黄色脂肪症の発生リスクが低減しています。ただし、手作り食やトッピングなどで青魚など不飽和脂肪酸を多く含む食材を与えるときは注意が必要です。
・タウリン
魚介類には、アミノ酸の一種であるタウリンが豊富に含まれています。タウリンは、心筋の収縮や神経の伝達など、体内のさまざまな機能に重要な役割を果たしています。人や犬は体内でタウリンを合成することができますが、猫はほとんど合成することができません。タウリンの不足は網膜の萎縮や拡張型心筋症などの原因となるため、食事から十分に摂取する必要があります。
猫に魚そのものを与えるときの注意点
このように栄養面で有用な食材となる魚ですが、キャットフードとして調整、加工されているものではなく魚そのものを与えるときには、少し注意が必要です。特に次にあげるような点には気をつけましょう。
・栄養バランスに注意
魚だけでは猫に必要な栄養素をすべて摂ることはできません。総合栄養食のフードのトッピングやおやつ、ご褒美などとして少量与えたり、手作り食の場合は他の食材と組み合わせてバランスよく栄養がとれるようにする必要があります。
・骨に注意
猫は与えられたものをよく噛まずに丸呑みする傾向があります。魚の骨を喜んで食べると思われがちですが、実際には魚の骨が口腔内や喉に刺さるなどのトラブルも多く発生しています。大きな骨をそのまま飲み込んでしまい、食道や胃が傷ついてしまうこともあります。猫に魚を与えるときは、必ず骨を除いて与えるようにしましょう。魚を食べた後に口の中を気にしたり、口周りをひっかこうとする、よだれが出る、嘔吐しようとする、などの症状が見られる場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。
・魚アレルギーに注意
猫の体質によっては、魚に対してアレルギー反応を起こすことがあります。猫の食物アレルギーの症状には、かゆみや脱毛などの皮膚症状、嘔吐や下痢などの消化器症状があります。猫に初めて魚を与えるときは、少量ずつ様子を見ながら与えるようにしましょう。もしアレルギーが疑われる症状が見られたら、魚を与えるのを中止して、獣医師に相談してください。
・黄色脂肪症に注意
アジ・イワシ・サバ・サンマなどの青魚には不飽和脂肪酸が多く含まれているので、摂りすぎると黄色脂肪症のリスクが高くなります。与える際にはごく少量にして、抗酸化作用のあるビタミンEを適切に摂取できるように心がけましょう。
・ヒスタミン食中毒に注意
アジ、イワシ、サバ、サンマ、ブリ、マグロ、カジキ、カツオなどの魚には、アミノ酸の一種であるヒスチジンが多く含まれています。これらの魚を常温で放置すると、魚に含まれる細菌が増殖し、その細菌の酵素の作用によりヒスチジンからヒスタミンという物質が生成されます。ヒスタミンはアレルギー症状を引き起こす物質で、ヒスタミンを多く含む魚を摂取すると、皮膚の発赤やじんましん、嘔吐、下痢、腹痛などのアレルギー症状が起こります。ヒスタミンは熱に強いため、一度生成されると、加熱調理をしても取り除くことができません。猫にこれらの魚を与えるときは、低温で適切に管理された新鮮なものを与えましょう。
・寄生虫に注意
サバ、アジ、イワシ、サンマ、カツオ、サケなどの魚にはアニサキスの幼虫が寄生していることがあります。これらの魚を生食したり、加熱が不十分なまま食べると、アニサキスが胃壁や腸壁に入り込んで胃痛、腹痛、嘔吐、下痢などの食中毒症状を引き起こすことがあります。魚を与えるときは十分に加熱調理をしてから与えましょう。
・チアミン(ビタミンB1)欠乏症に注意
一部の魚やイカ、タコ、エビ、カニなどには、チアミン(ビタミンB1)を破壊する「チアミナーゼ」という酵素が多く含まれていて、生で摂取することで「チアミン(ビタミンB1)欠乏症」を発症する場合があります。チアミンが不足すると、食欲不振や運動失調、発作などの神経症状が見られるようになります。「猫がイカを食べると腰を抜かす」といわれるのはそのためです。重症になると昏睡状態に陥り、命にかかわることもあります。「チアミナーゼ」は熱によって失活するため、加熱調理を行うことで予防できます。
・尿石症に注意
尿石症は、腎臓、尿管、膀胱、尿道などの尿路に結石ができて頻尿や血尿、排尿困難などの症状が起こる病気です。水分摂取量の不足や結石のもととなるミネラル分の過剰摂取が原因となります。魚はミネラル分を豊富に含むため、過剰に摂取すると尿石症のリスクが高くなります。
与えてもいい魚は?
カンパチ
タンパク質が豊富で同じ赤身のブリよりも脂分が少ないカンパチは、健康な猫であれば与えても大丈夫です。新鮮なものであれば、生でも問題ありませんが、与える量は少量(刺身の半切れ程度)にしましょう。
サケ
良質のタンパク質や抗酸化物質であるアスタキサンチン(赤い色素)、DHA、EPAなどが豊富に含まれています。健康な猫であれば与えても大丈夫ですが、アニサキスやチアミン欠乏症の心配があるので、加熱して少量を与えるようにしましょう。塩鮭など加工されたものは塩分の過剰摂取になる可能性があるので避けましょう。骨は必ず取り除き、与える量は刺身の半切れ程度にしましょう。
タイ
低脂肪高タンパクでヘルシーな白身魚であるタイも、猫に与えても大丈夫です。新鮮で味付けのされていないものを少量与えるようにしましょう。タイの骨は大きく硬いので、口腔内や喉に詰まったり、胃腸を傷つけてしまうことがあります。骨は必ず取り除いてから身だけをほぐして与えるようにしましょう。
マグロ
マグロも、猫に与えることができますが、トロは脂肪分が多いので避けましょう。比較的カロリーが高いため食べ過ぎると肥満の原因になることがあります。また、青魚に比べると少ないですが不飽和脂肪酸を多く含むため、長期間、過剰摂取すると黄色脂肪症のリスクもあります。チアミン欠乏症やヒスタミン食中毒の危険もあるので、新鮮なものを少量(刺身の半切れ程度)加熱して与えるようにしましょう。塩分や脂肪分が多く含まれるツナ缶は、内臓に負担をかける可能性があるため、注意が必要です。
与え方に注意したい魚
アジ、イワシ、サバ、サンマ
アジ・イワシ・サバ・サンマなどの青魚は不飽和脂肪酸を多く含むため、与えすぎると黄色脂肪症のリスクがあります。また、アニサキスの幼虫が寄生していることも多いので生で与えるのは避けましょう。与えるのであれば、新鮮なものを茹でてほぐし、骨を取り除いてごく少量(ひとつまみ程度)与えるようにしましょう。
カツオ
カツオも猫に与えることができますが、与え方に注意が必要です。カツオも青魚と同様に不飽和脂肪酸を多く含んでいるので、黄色脂肪症のリスクがあります。また、ミネラル成分が豊富なため尿石症のリスクもあり、食べ過ぎには注意が必要です。さらに、アニサキス食中毒、ヒスタミン食中毒、チアミン(ビタミンB1)欠乏症のリスクもあるため、与える場合は味付けされていない新鮮なものをごく少量、加熱してから与えるようにしましょう。
与えてはいけない魚介類
イカ、タコ、エビ、カニなど
イカ、タコ、エビ、カニなどはチアミナーゼを多く含むため、生で摂取するとチアミン(ビタミンB1)欠乏症を発症するリスクがあります。チアミナーゼは熱で失活するため加熱調理で防ぐことができますが、これらの食材は消化に悪いため、加熱したものであっても猫に与えるのは避けた方がよいでしょう。
貝類
アサリ、シジミ、ハマグリ、アワビなどの貝類もチアミナーゼを多く含み、生で摂取するとチアミン(ビタミンB1)欠乏症のリスクがあります。また、アワビ、サザエなどには、ピロフェオホルバイドαという有毒成分が含まれているため、食べた後に日光に当たると皮膚に炎症や痒み、壊死などが起こる「光過敏症」が起こることがあります。耳など毛の薄い部分に見られることが多く、「猫がアワビを食べると耳が落ちる」といわれるのはこのためです。この成分は加熱をしても毒性がなくならないため、加熱してもこれらの貝を猫に与えてはいけません。
まとめ
日本の猫たちが大好きな魚は、猫にとって大切な栄養を豊富に含む、有用な食材です。ただし、過剰に摂取したり与え方を間違うと健康を害する心配もあり、注意が必要です。魚好きの猫たちの健康のために、正しい知識を持ち、上手に魚を与えることが重要ですね。