猫は、私たち人間と比べて吐き戻しを起こすことが多い動物です。一般に「吐く」原因には胃や腸の問題が関連していることはイメージしやすいのですが、食道による問題、例えば食道炎が関連している場合も考えられます。この食道炎ですが、どのような原因で生じるのか、その治療方法や発症を起こさないようにする対策にはどんなものがあるのかを解説します。

猫の「食道炎」ってどんな病気?

食道は喉頭から胃までをつなぐ頸部から胸部にある消化管です。胃や小腸と異なり、消化酵素を分泌したり栄養を吸収するといった働きではなく、とりこんだ食物をスムーズに胃へ送り込むために、蠕動運動(ぜんどううんどう)と呼ばれる部分的に食道を収縮させる働きをしています。

この食道に様々な要因によって刺激が加わり、食欲不振や吐き気などといった症状が発生します。また、強い炎症が生じている場合は、頸部から胸部のあたりにかけて痛みを伴うこともあります。食道炎と診断されたら早期に適切な治療を行うことが大切です。食道炎は慢性化する場合があるほか食道狭窄と呼ばれる合併症を生じることがあります。

猫の「食道炎」の原因は何?

最も多いものとして、食道に対する物理的な刺激が挙げられます。例えば、鋭利なものが食道に刺さって炎症を生じることがあります。とりわけ猫では釣り針や縫い針を誤飲することあるため、こういったものが生活の中にある方は要注意です。魚の骨や鶏の骨なども口にしやすいことが知られています。そのほか刺激性の強い薬品を誤飲してしまうこともあるかもしれません。おやつや毛玉なども、長期間食道に停滞していると炎症を誘発することがあります。

また、他の病気の合併症として食道炎を生じることがあります。胃のトラブルで、頻繁に嘔吐を繰り返すことで逆流性食道炎を起こしたり、膵炎や腸炎、腸閉塞が起因することもあります。巨大食道症や食道に生じた腫瘍といった食道そのものの形状が変化した結果、食道内に食物が滞留することがきっかけとなって食道炎となることもあります。

猫はもともと吐き戻しが多い動物ですが、その要因が様々存在するのと同様に、これらの影響を受けて食道炎を発症するリスクが上がってしまうことになります。

猫の「食道炎」の症状は?

食道炎の症状は一見、他の消化器の疾患と見分けがつけにくいところがあります。ここでは、食道炎の症状としてよくみられるものについて、以下の通り挙げてみました。

食欲低下

食道炎になると、一般に食欲が低下します。とはいえ、他の消化器の疾患であっても食欲が落ちることがあるため、食欲低下=食道炎とは言い難いところがあります。食道炎では、食べ物が食道を通過する際に不快感や痛みを感じ、食欲が落ちてしまうことがあります。これは急性であっても慢性であっても生じる症状の一つです。

吐き気

食欲低下とともに、食道痛があるため吐き気を催す場合があります。また、胃炎をはじめ食道以外に原因があって嘔吐を繰り返した結果、食道炎を併発することもあります。食道炎に併発して食道狭窄を起こしている場合、逆に食道が拡張して巨大食道症がみられる場合、食道に腫瘍が形成されている場合には、食べたもの自体がスムーズに通過できないことがあります。それによっても吐き気が現れることがあります。

よだれ

食道の炎症の程度にもよりますが、食道に強い痛みや違和感が存在する場合、固形のものだけでなく液体を飲み込むことも困難となる場合があります。私たちは、普段何気なく唾液を飲み込む行為をしていますが、これでさえスムーズにできなくなることがあります。その結果、唾液を飲み込めず口から出てしまうことがあります。また、食べたいという気持ちがあっても食道が痛くて食べ物を受け付けず、よだれの量が増える場合があります。

「食道炎」の治療法は?

食道炎を治療するにあたって、最も重要となるのは「原因を取り除く」ことにあります。例えば、食道内に異物が存在する場合は、それらを適切に取り出します。また、逆流性食道炎や腸炎などによる頻繁な嘔吐によって食道炎を併発した場合は、原因となっている消化器のケアを行います。

炎症を生じている食道に対する治療として、吐き気の抑制と食道粘膜の修復・保護を行います。また胃酸分泌が過剰となっている場合があるため、これらを抑制する薬を使用することもあります。食道炎になると、食道の痛みや度重なる吐き戻しによって十分に栄養を摂取できなくなる場合があります。その際は高栄養の食餌を与えるほか、水分を口からとりこむことが困難な場合は、補液を行うなどの対症療法も併用して改善につなげます。

「食道炎」の治療費はどのくらい?

食道炎を治療するための治療費は、その原因や重症度よって大きな開きが生じることが想定されます。粘膜保護剤や胃酸調整薬、制吐剤といったお薬を注射、あるいは内服で治療を行うことが基本となります。軽度な場合は短期間で治癒につなげることができますが、慢性的な食道炎や合併症によって食道炎に至っている場合は、治療期間が長期に及ぶことがあります。そのため治療期間は1週間から1ヶ月以上と幅があります。

1日の内服薬の金額としては100~200円相当であることが多いです。食道内異物による食道炎の場合は、まずそれらを安全に除去する必要があり、内視鏡を用いた処置が行われることがあります。その場合は原則、鎮静麻酔下で実施されるため、この費用が大きな割合を占めることがあります。また、食道炎の中には食道の直径が狭まってしまう「食道狭窄」が見られる場合があります。食道狭窄の治療では、狭まった部位をバルーンカテーテルと呼ばれる風船状のものを用いて拡張する処置を単回あるいは複数に分けて行うことがあります。この処置の際も原則麻酔が必要となるので数万円ほど要することになります。

【関連サイト】
みんなのどうぶつ病気大百科 食道炎 <猫>

「食道炎」の予防法はある?

食道炎は異物の誤飲で食道を傷つけるような場合や、頻繁な嘔吐で胃液によって食道粘膜が損傷することに起因しています。そのため、直接的な食道炎の予防ではありませんが、異物を誤食することを予防することが食道炎の発症リスクを抑えることにつながります。

頻繁に嘔吐をしている場合、「猫は吐きやすい動物だから」と見過ごすことはおすすめできません。特に人間の食べるものを与えているような場合は、一度動物病院で診てもらうと安心です。

まとめ

猫の食道炎は食道そのものの問題で発症するほか、他の消化器疾患の合併症として現れることがあります。原因を適切に解明して、原因を取り除きダメージのある部位をいたわる治療を行います。食道炎の症状自体は他の消化器の不調によって現れるものとの区別がつけにくい場合があります。猫は縫い針や釣り針を飲み込み食道に刺さってしまう事故が多くみられます。これが食道炎を発生させる原因となるほか、場合によっては呼吸器にも損傷をきたすこともあります。異物の誤食には十分にご注意ください。また、食道炎が慢性化すると改善するまでに時間を要することがあるので、早期発見と早期治療を心掛けましょう。

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監修獣医師

増田国充

増田国充

北里大学を卒業し、2001年に獣医師免許取得。愛知県、静岡県内の動物病院勤務を経て、2007年にますだ動物クリニック開業。現在は、コンパニオンアニマルの診療に加え、鍼灸をはじめとした東洋医療科を重点的に行う。専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、国際中獣医学院日本校事務局長、日本ペット中医学研究会学術委員、日本ペットマッサージ協会理事など。趣味は旅行、目標は気象予報ができる獣医師。