「免疫介在性溶血性貧血」(IMHA)は、免疫の異常により赤血球が壊され、貧血になる病気です。貧血は急性に起こり、進行することで死に至る可能性もある、緊急性の高い疾患です。犬では少なくない病気ですが、猫では稀な病気で、発生頻度は0.1%以下ともいわれています。そのため、猫の「免疫介在性溶血性貧血」はわかっていないことも多いです。重篤化すると亡くなる可能性も高い病気なので、早期に気づけるよう、今回は原因や症状、診断法や治療について解説していきます。
免疫が赤血球を壊してしまう?
免疫とは、体内に侵入した異物に対して攻撃し、身体を守るための生体の防御システムです。 その免疫が、誤って赤血球を「異物」と認識してしまうことで、免疫機能が赤血球を破壊し、その結果重度の貧血に至るのが「免疫介在性溶血性貧血」(IMHA)です
「免疫介在性溶血性貧血」の原因は?
「免疫介在性溶血性貧血」は、「原発性」と「二次性」に分けられます。原発性は、特に原因がなく、突然免疫機能が異常を起こし、発症するものです。原発性の免疫介在性溶血性貧血は、若年齢~中年齢までの比較的若い猫で発症することが多いです。二次性とは、何らかのきっかけにより免疫機能が異常を起こして発症するもので、きっかけとしては、腫瘍、感染症、炎症性疾患などがあります。 猫では、猫白血病ウィルス (FeLV)の感染によって二次性の免疫介在性溶血性貧血になることが多いと言われていましたが、室内飼育の猫が多くなったことで猫白血病ウィルス (FeLV)感染が少なくなってきています。そのため現在では、腫瘍性疾患によって二次性の免疫介在性溶血性貧血を起こすことが多くなっており、特にリンパ腫、白血病、組織球肉腫など血液系の腫瘍によって起きることが多いです。その他、猫伝染性腹膜炎や胆管炎・膵炎などの感染症や炎症性疾患に続いて発症することもあります。
「免疫介在性溶血性貧血」になると、どんな症状になる?
赤血球が壊されるので、貧血による症状が起こります。さらに黄疸や発熱などさまざまな症状が現れます。脾臓や肝臓が腫れる脾腫・肝腫が起こることもあります。
元気・食欲が低下する
赤血球は酸素の運搬をしているため、赤血球が破壊され貧血になると酸素が身体に行き渡りにくくなります。そのため、元気がない、食欲がない、あまり動きたがらない、すぐ疲れるなどの症状が現れます。免疫異常により発熱が起こる事もあります。
呼吸が早くなり、粘膜の色が白くなる
貧血が進むとさらに体内の酸素不足が進み、粘膜の色が白くなったり、呼吸が早くなり苦しそうな様子が見られたり、ふらついて倒れたりします。
黄疸が起こる
赤血球が大量に破壊されると赤血球内のヘモグロビンが代謝され、黄疸色素であるビリルビンが過剰に作られることで、黄疸が起こります。これにより、口の中や目の粘膜が黄色くなったり、尿の色が濃くなったりします。
「免疫介在性溶血性貧血」の診断法は?
猫の「免疫介在性溶血性貧血」の明確な診断基準は未だ定まっていませんが、貧血があること、赤血球の破壊が見られること、出血や中毒など他の貧血の原因を除外していき、溶血(赤血球が壊れること)による貧血であることを疑っていきます。さらに、溶血性の貧血の原因になる感染病原体による破壊、赤血球膜の変性、血清成分の変化による溶血、血管壁の異常による物理的な破壊という免疫以外の原因を除外していくことで、診断を行います。つまり、「免疫介在性溶血性貧血」の免疫異常を確定診断できる絶対的な検査はないため、診断のためにはさまざまな疾患を除外していくことが必要なのです。そのため、検査項目も多くなります。具体的には次にあげる検査を行います。
・血液検査:貧血や黄疸を見ます。血液塗抹(けつえきとまつ)で、赤血球が破壊されているかどうかを確認します。全身状態を把握するためにも行います。
・尿検査:溶血があるか、黄疸があるかを見ます。
・便検査:血便や黒色便が見られる場合、消化管からの出血がないかを調べるために行います。
・レントゲン検査・超音波検査:脾腫、肝腫がないかを見ます。また、二次性免疫介在性貧血のきっかけとなる悪性腫瘍などがないかを確認します。
・ヘモプラズマ感染症のPCR検査、猫免疫不全ウィルス(FIV)/猫白血病ウィルス(FeLV)検査:必要に応じ、溶血を起こすヘモプラズマ感染の有無や、二次性免疫介在性貧血のきっかけとなる感染症の有無を調べます。
「免疫介在性溶血性貧血」の治療法は?治療費は?
免疫介在性溶血性貧血は、自身の免疫が誤って赤血球を「異物」と認識し、赤血球を破壊し、貧血を起こす病気です。治療は薬で免疫を抑えていくことです。
どんな薬を使う?
一般的には、ステロイドが使用されます。免疫を抑えるためには、高用量のステロイドが必要となるため、副作用が出ないか血液検査でモニターする必要があります。貧血が改善したら、数週間おきに少しずつステロイドの量を減らしていきます。症状が激しい場合や、ステロイドのみでは免疫が抑え込めない場合、長期に高用量のステロイドが必要となる場合には、ステロイド以外に免疫抑制剤を併用することがあります。ミコフェノール酸モフィチル、レフルノミド、シクロスポリン、タクロリムスといった薬です。
治療は数ヶ月~半年程度かかることが多いです。また、二次性の免疫介在性溶血性貧血の場合には、免疫機能に異常を引き起こすきっかけとなる疾患の治療も必要になります。
薬での免疫抑制療法で良くならない場合には、脾臓の摘出手術を行うことがあります。脾臓は赤血球を破壊する中心的な場所なため、脾臓を手術で除去することで、赤血球の破壊を止めるという治療法です。
輸血は行う?
貧血が重度で、苦しそうにしている場合は、輸血を行うことがあります。輸血をし、貧血による症状を改善しながら、免疫が抑え込まれて赤血球が再生されるまでの時間を稼ぐということです。輸血にはドナーが必要で、ドナーの血液と相性が良くないと輸血は行えません。輸血の副反応が起こることもあるので、輸血が必要かどうかは慎重に判断する必要があります。また、呼吸を楽にするために酸素室に入院することがあります。
完治しても再発することがある?
数ヶ月かけて治療を行い、少しずつ薬を減らしていきますが、一旦治った後でも再発することがあります。免疫の異常が再度活発化したり、二次性免疫介在性貧血で免疫に異常を起こすきっかけがあったりすると、再発が見られます。再発が見られた場合は、免疫の異常を引き起こすきっかけがないか、再検査を徹底的に行い、治療を再開します。 初回の治療よりも免疫抑制剤の併用が必要となることが多いです。
「再生医療」という選択肢
「免疫介在性溶血性貧血」(IMHA)の治療法のひとつとして、「再生医療」という選択肢もあります。「再生医療」とは「細胞」を用いて行う治療法です。方法は以下のとおり、とてもシンプルです。
この治療法は、本来、身体が持っている「修復機能」や「自己治癒力」を利用して、病気を治していくものです。手術などに比べると身体への負担が少ないことも大きな特徴です。
「免疫介在性溶血性貧血」(IMHA)に対する再生医療は現在まだ臨床研究段階ですが、あきらめないで済む日がくるかもしれません。ご興味のある方は、かかりつけの動物病院の先生に相談してみてください。
治療費はどのくらい?
アニコム損保の調査によると、免疫介在性溶血性貧血の平均年間通院回数は6回程度、通院1回あたりの平均単価は9,395円程度でした。診断時には、さまざまな検査が必要になり、治療が開始された後も血液検査が必要です。定期的な通院が必要で、治療費も高額になります。
【関連サイト】
免疫介在性溶血性貧血(IMHA) <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科
予防法はある?
原発性の免疫介在性溶血性貧血の免疫異常が起こる理由はよく分かっていないため、予防法はありません。二次性のものでは、猫白血病ウィルス (FeLV)の感染によって起こることが多いため、猫白血病ウィルス (FeLV)に感染しないよう、室内飼育をすることが大切です。また、治療が遅れ重篤化すると手遅れになることもあるので、早期に治療を開始することが大切です。いつもと違う様子が見られたら早めに動物病院に相談しましょう。
まとめ
猫の免疫介在性溶血性貧血は亡くなる可能性もある緊急性の高い疾患です。犬よりも発症率が低く、診断や治療法でわかっていないことも多いので、不安に感じることもあるでしょう。また、若い猫でも発症することがあるため、若いからといって油断することもできません。早期発見と早期治療が大切な病気なので、元気がない、食欲がない、あまり動きたがらない、すぐ疲れる、熱っぽい、呼吸が苦しそうなどの症状が見られたら、早めに動物病院に相談しましょう。
病気になる前に…
病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。
