どうぶつたちが縄張りなどを主張するためにしるしをつけるマーキング。うさぎももちろんマーキングを行います。うさぎによって程度は異なり、ほとんどしない子もいれば、飼い主が悩むほど頻繁にする子も。困っている場合はうさぎにとってマーキングはどんなものか知り、対策をしていきましょう。

うさぎのマーキングとは

うさぎは自分のにおいをつけることでマーキングをします。うさぎの体にはあご、肛門、肛門の脇の3ケ所に臭腺があり、次のような形でマーキングを行います。

おしっこをとばす

スプレー行為といって、おしっこをまき散らすように飛ばします。床はもちろん、壁に向かって飛ばすことや、飼い主や来客、ほかのうさぎやペットに飛ばすことも。うさぎのマーキングの中で最も悩ましい行為です。
男の子に多いといわれますが、まったくしない男の子もいれば、女の子でもすることがあります。うさぎの個性はもちろん、同居どうぶつの影響や環境によってしやすくなるケースもあり、飼う前からスプレーをする子かどうか、見極めることはできません。

うんちをする

うんちを落としていくこともマーキングのひとつです。単にトイレに間に合わなくてお部屋に落ちてしまうこともあります。おしっこを伴うこともありますが、うんちだけであればコロコロのうんちには変わりないので、お掃除は簡単です。

あごをこすりつける

うさぎはあごの下にも臭腺があり、独自のにおいがする液を分泌しています。家具やケージ、おもちゃなどにあごをこすりつけるようにしてこの液をつけることで、マーキングをします。お母さんうさぎが子どもたちに自分のにおいをつけるためにあごをこすりつけることもあります。このあご下の臭腺からでる臭いは、人間には感知できません。頻繁に行っていても特に悩まされることはなく、見守ることができます。

うさぎがマーキングをする理由

うさぎのマーキングの1番の目的は自分の縄張りを主張するため。野生では、自分の巣穴や採食する場所に上記の方法でマーキングをします。マーキングは野生のうさぎにとって表札であり、立ち入り禁止の標識でもあり、不要なトラブルを防ぐ重要なものです。ペットのうさぎもこの名残で、自分のケージやその周囲でマーキングを行うことがあります。臭いをつけることで、自分の場所、自分のものであることを主張し、そうすることで安心するのです。そのほか、順位づけや求愛のために行うことがあります。初めての発情を迎える思春期には、ホルモンの影響でマーキングが盛んになることもあります。
スプレー行為に関しては、ストレスがあるときや興奮したとき、怒ったときにする場合もあるようです。

スプレー行為をやめてもらうには

うさぎのマーキングの中で、飼い主をひどく悩ませることがあるスプレー行為。頻繁にする子には困ってしまいますね。スプレー行為は本能による行動なので、しつけでやめさせることはできません。叱ってもうさぎは叱られた理由が分からず、信頼関係が崩れてしまうので絶対にやめましょう。飼い主にかけることもあるので、怒りたくなることもあるでしょう。迷惑な行動ではありますが、うさぎは愛情表現でしている可能性もあります。自分にとって大切な家族だから、においをつけて守りたいのかもしれません。感情的に叱らないようひと呼吸置いて、次で紹介する働きかけや環境を整えることで対策をしていきましょう。

スプレー対策①うさぎのスプレー行為をしようという気持ちをなくす

スプレー行為の原因やきっかけを取り除くと、しなくなるか頻度が少なくなる可能性があります。

去勢手術

男の子のマーキングがひどく、攻撃的になることも多い場合、去勢手術によって落ち着く場合があります。去勢手術の推奨時期は生後6~12ヶ月ごろといわれています。あまり幼い月齢ではまだ精巣が陰嚢の中に入っていないため、、手術が難しい場合もあります。また、年齢が高くなるにつれて、病気を患うケースも増えるため、手術時の麻酔リスクが高くなる傾向にあります。
ただ手術でスプレー行為が完全になくなるとは言い切れず、習慣になっていた場合、手術後もしばらく続くことがあります。麻酔のリスクや術後太りやすくなるというデメリットも理解したうえで、よく検討しましょう。

家庭の中で順位づけをはっきりさせる

うさぎ同士の間では、優位なうさぎの方がマーキング行動が多く出ることが知られています。家庭内で密接に人間と暮らしているうさぎの場合、人間を相手に序列関係を見出すこともあるかもしれません。
うさぎ自身が家庭で1番上の立場と思い込んでしまうと、自分の家族と縄張りを守ろうと必死にマーキングをする可能性があります。習慣化させないためにも、自分が上だとアピールしてくるうさぎの行動に対しては、反応しないようにしましょう。
上位のうさぎは下の立場のうさぎの頭にあごをのせてにおいをつける習性があります。このような行動があったときには、そっと距離を離すとよいでしょう。同様に、人間の足にしがみついて腰を振る行動も、そのまま受け入れ続けない方がいいでしょう。手で振り払ったりするとうさぎが大ケガをするので、落ち着いて離れて、うさぎとの遊びをいったん終わりにしてください。

うさぎの行動範囲を見直す

家の中で行動範囲が広いうさぎは、あまりスプレー行為をしないといわれています。家庭にいるうさぎは行動範囲が広いと、縄張りに執着しなくなることもあるようです。うさぎ自身が「確実にここは自分のスペースだ」と納得することで、マーキングが止まることもあります。
おしっこを飛ばされるのが嫌であえてうさぎの行動範囲を狭くしているお宅もあるでしょう。確かに、広いスペースで遊ばせると縄張りを広げようと至るところにスプレーをする子もいますが、それもある程度やると落ち着くことがあります。できるだけうさぎが遊べる場所を広くして様子を見るのも一案です。

スプレー対策②状況にあわせて対処する

うさぎがスプレー行為をする状況はさまざま。その状況をよく見てうまく付き合う方法もあります。

ケージの中からとばすとき

ケージの中はうさぎの縄張りそのもの。ここでスプレーをするのは仕方がないことです。ケージの中からスプレーをすることが多いときは、ケージカバーをかける、ケージをプラスチック段ボールで囲む、ケージまわりの壁をカバーするなどして周囲が汚れないように対策しましょう。トイレシーツは、柵の側面などうさぎの鼻が届くところに使うと、かじられて誤食事故の恐れがあるので、避けたほうが安全です。

いつも同じ場所でするとき

ケージの外に出てお部屋で遊ぶとき、いつも同じ場所でおしっこをするなら、うさぎがその場所をトイレのひとつと決めてしまっているかもしれません。そんなときは、その場所にもトイレを置くと使ってくれることがあります。トイレのほか、洗いやすいマットやカバーを敷くことでもお掃除の手間が省けます。

しやすい時間帯があるとき

うさぎによっては、スプレー行為が活発になる時間帯が決まっていることも。もしわかっていれば、その時間帯を避けてケージから出すといいでしょう。毎日決まった時間に一度だけケージから出している家庭ではわかりにくいかもしれませんが、いつも夜にケージから出しているなら、朝に変えて様子を見ても。午前中や昼過ぎなど、ここならあまりしないという時間帯があるかもしれません。

しやすい状況があるとき

ごはんが欲しいとき、おやつが欲しいとき、ケージから出た直後など、いつも同じ状況でスプレーをする場合は、興奮やストレスなど、精神的な問題かもしれません。興奮しなくていいように、決まった時間にケージから出す、ケージから出す機会を増やす、ごはんやおやつをあげる前に合図をするなど、できることを考えてみましょう。

新しいものにスプレーするとき

新しいものに限ってスプレーをするのは、新たに縄張りに入ってきたものを警戒しているか、環境の変化にストレスを抱えていることも考えられます。縄張りに新しいものが入ってくることは、うさぎにとってストレスになることを理解してあげましょう。新しいものにマーキングのにおいが残ってしまうと、慣れてからもにおいを上書きするように習慣的にかけることがあります。しっかり消臭しておきましょう。

トイレが気に入らないとき

トイレを覚えているうさぎがトイレ以外の場所でおしっこをするときは、トイレが汚れていることに怒っている場合があります。トイレが汚いときに外でおしっこをするようであれば、掃除やお手入れの頻度をあげてきれいにしましょう。
また、トイレの置き場所が落ち着かなかったり、恐怖心を抱いていることも考えられます。トイレに行きたがらないときは置き場所を変えてみてもよいでしょう。また、うさぎがトイレにいるときは触らないようにして、トイレをリラックススペースにしてあげるといいでしょう。

スプレー対策③しても困らない環境づくりをする

どうしてもスプレー行為が続くときは、やめさせることよりも、うまく付き合っていく方法を考えましょう。上の対策でも、いつもする場所にトイレを置く、ケージをカバーするといった方法を紹介しました。室内でスプレーをされると困るなら、お散歩スペースをサークルで囲んだ中に限定して、サークルをカバーやプラスチック段ボールで囲み、洗えるマットやトイレシーツを敷いておく方法もあります。囲んでしまうことが難しければ、壁に掃除しやすいクロスを貼る、床には洗えるマットを敷く、家具など汚されたくないものはカバーしておくなどして、汚されて困る状況をなくしましょう。すぐに掃除ができるように拭き取れるシート・消臭剤・ゴミ袋をひとつにまとめて手の届きやすいところに置くのもいいでしょう。

まとめ

うさぎのマーキングの中で、スプレー行為に悩む飼い主は少なくありません。できる限り対策をしてもやめない場合もあり、悩みが深くなっていくこともあるでしょう。うさぎの年齢が上がることで落ち着いてくるケースもあります。掃除をしやすい環境づくりで飼い主のストレスを減らして付き合っていきましょう。

ライター

佐藤華奈子

佐藤華奈子

大学の動物系学科を卒業後、教育情報誌、ライフスタイル誌の編集プロダクション勤務を経て、2009年よりフリーランスの動物ライターに。「動物を飼うことは動物と暮らすこと」をテーマに活動中。おもにペット、動物園、牧場の動物関連の雑誌、書籍などで執筆。2011年よりうさぎ(ネザーランドドワーフ)と暮らしているうさぎ愛好家。