猫に「尿が出にくい」「お腹を触ると嫌がる」「尿の臭いが強い」などの症状が現れていませんか?猫では、このような尿の異常が見られることはとても多く、そのような時にまず疑われるのは、膀胱炎や尿石症、尿路感染症です。人の高齢男性には前立腺の異常が多く見られるので、猫の尿に異常が見られた時に「もしかしてうちの猫も前立腺の異常では…?」と思う方もいるでしょう。
しかし、猫では前立腺の異常は少なく前立腺の肥大や前立腺炎はまれな疾患です。前立腺の病気は、犬ではよく見られますが猫ではとても少ないのです。今回は、猫では発生がとても少ないために、もしかしたら見落とされてしまうかもしれない前立腺炎について、どんな病気なのか、どのようなメカニズムで起こるのか、治療はどのように行うのか、予防法はあるのかについて解説していきます。
猫の前立腺とは?
前立腺は男の子だけにある臓器です。猫の前立腺は膀胱から出ている尿道を取り囲むように存在します。前立腺の働きは、前立腺液を分泌することです。前立腺液は精液の主な成分となり、精巣で作られた精子と混ざり精子の活性化に関与しています。射精の時の収縮や尿の排泄の補助の役割を果たしているのです。
猫の前立腺炎とは?
猫の前立腺炎は、前立腺に細菌が感染し、痛みを伴う炎症が引き起こされる病気です。前立腺は尿道に開口しているため、細菌感染は尿道から起こることが多いです。膀胱炎などで尿中に細菌がいると、尿道から、前立腺管を通じて前立腺に感染が起こるのです。そのため感染する細菌も尿路感染症に多い菌が多くなると考えられます。尿路から感染する細菌は、大腸菌や緑膿菌、ストレプトコッカス属などが挙げられます。犬では、このような細菌が前立腺炎でも多いことがわかっていますが、猫ではよくわかっていません。また、前立腺の感染は血液から起こることもあります。体のどこかに細菌感染があって、血液中に細菌が入り込み、血液を介して前立腺炎が起きるのです。
前立腺炎には、急性のものと慢性のものがあります。徐々に発生して繰り返し起こるものが、慢性細菌性前立腺炎で、急速に起こるものが急性細菌性前立腺炎です。
猫の前立腺炎はどんな症状になる?

猫の前立腺炎で起こる症状は、急性細菌性前立腺炎と慢性細菌性前立腺炎では少し異なります。
急性細菌性前立腺炎の症状は?
急性細菌性前立腺炎では、尿のにごりや臭いが強くなるなどの膀胱炎に似たような症状も示しますが、炎症は急速に進み、強い症状が全身的に現れます。腹痛のため下腹部を触られるのを嫌がったり、血尿が出たりします。発熱や嘔吐、脱水、元気がなくなるなどの様子が見られることもあります。前立腺炎が進行すると、前立腺に膿が作られます。膿が尿道を通って排出されないと前立腺内にどんどん蓄積され、前立腺膿瘍になります。前立腺膿瘍は、敗血症(感染症により全身に様々な影響が及び心臓や肺などの重要な器官が障害を受けること)や細菌毒素によるショックを引き起こすことがあります。このような状態になると猫はぐったりして、食事も取れなくなり、嘔吐などの様々な症状が表れるでしょう。これは、死に直結するとても危険な状態で、すぐに集中治療を開始する必要があります。
慢性細菌性前立腺炎の症状は?
慢性細菌性前立腺炎の症状は、経過がゆっくりで、症状も急性細菌性前立腺炎のように重篤ではありません。目立った症状が見られなかったり、尿のにごりや臭いが強くなるなどの尿の異常を示す程度です。気付かれずに長期間続いてしまい、猫は排尿時の違和感などストレスを感じている場合があります。
猫の前立腺炎の治療法は?治療費は?

慢性細菌性前立腺炎では、気付かれずに長期間経過してしまうこともあるため、早期発見、早期治療のためには、定期的な尿検査や健康診断を受けるのがよいでしょう。猫が前立腺炎になっている時には、尿や膿、血液などを採取し、顕微鏡検査や培養検査を行い感染している細菌を突き止めます。超音波検査を行いながら、針を前立腺に刺して、前立腺から液体を吸引して細菌の検査を行うこともあります。
細菌が見られたら、抗生剤の薬剤感受性検査を行い、有効な抗生剤を投与します。嘔吐や全身状態の悪化などの重篤な症状を示している場合には、入院して、点滴や注射薬の抗生剤の投与が必要になることもあります。特に敗血症やショック状態は死に直結する危険な状態なので、集中治療が必要になります。
前立腺膿瘍になっていたり、前立腺炎を繰り返す時には、手術を行うことがあります。手術には、前立腺を取り除く手術や膿を吸い出すものがあります。
前立腺炎の治療に必要な費用は、症状の強さや猫の状態によって様々です。前立腺炎の検査には、身体検査・尿検査・超音波検査・細菌培養検査などが必要になるので、検査だけで1万〜3万円程度必要になるでしょう。慢性細菌性前立腺炎で軽症の場合は、抗生剤の内服で治療を行うため、治療費は3,000〜1万円程度でしょう。急性細菌性前立腺炎で重症な場合、入院治療や点滴や注射などが必要になると、入院1日あたり1万円程度、退院までは5〜15万円ほどの費用がかかります。さらに手術や集中治療が必要な場合は、20〜30万円程度の費用がかかります。
猫の前立腺炎の予防法はある?

前立腺の機能には男性ホルモンが関わっています。犬では、去勢手術により男性ホルモンの分泌が抑制されると前立腺が退縮し、炎症が起こりにくくなることがわかっています。猫では前立腺の肥大などは起こりにくいため、去勢手術で前立腺炎を予防できるかははっきりとはわかっていません。男性ホルモンが低下することで前立腺の疾患を予防できる可能性はあるので、繁殖を望んでいないのであれば去勢手術を行うことを検討しましょう。
尿路感染症を繰り返している猫は、尿道から前立腺の感染を起こす可能性があります。腎結石や膀胱結石などの尿路に結石がある猫では、尿路感染を繰り返すことが多くなるので、尿路結石症や尿路感染症の既往がある場合、適切な治療を受けて、早期にしっかり治しましょう。また、猫はトイレの環境をとても大切にします。トイレが汚れていたり、安心して排泄できる場所になかったりすると、尿を我慢してしまい、尿路感染症のリスクが高まります。トイレは清潔に保ち、安心できる場所に設置しましょう。
猫のトイレは、体長の1.5倍の大きさが必要です。出入りがしやすく、カバーはないものが猫に好まれます。猫砂にも好みがありますが、細かい砂を好む猫が多いようです。多頭飼いでは、トイレの数は「猫の頭数+1個」設置すると良いと言われています。快適なトイレを用意して、尿路のトラブルを予防しましょう。肥満や冬の飲水量の減少は尿路結石のリスクを増やします。体重管理はしっかりと行いましょう。飲水量が少ない猫では、よく遊んで運動量を増やしたり、飲み水を置く数を増やしたり、フードに水を足したりすることで飲水量を確保するようにしましょう。。冬の健康管理・尿チェックは特に注意をして行いましょう。
まとめ
尿のトラブルはストレスの原因となりやすいです。長期間猫がストレスを感じることがないように、定期的な健康診断で尿路や前立腺のトラブルの早期発見、早期治療を心がけましょう。前立腺炎は急性に発生すると重篤化する恐れもある怖い病気です。前立腺炎を起こさないために尿路のトラブルは適切に治療し、予防を行いましょう。
