肥満細胞腫と聞くと、“肥満”に関係する病気をイメージする方もいらっしゃるかもしれません。肥満細胞腫とは、肥満とは関係のない病気で、腫瘍のひとつです。身体のいろいろなところにある、肥満細胞というアレルギーや炎症に関与する免疫細胞が腫瘍化したものが肥満細胞腫です。
肥満細胞腫は、身体のあらゆる場所で発生する可能性があり、猫では発生率が高い腫瘍です。皮膚にも発生するので、猫で皮膚にしこりが触れるときは、肥満細胞腫の可能性があります。発生部位によって予後はさまざまで、転移を起こすと治療が困難になり、命に関わる恐れもあります。
「肥満細胞腫」とは
肥満細胞腫とは、免疫細胞である肥満細胞が腫瘍化したものです。肥満細胞は白血球のひとつで、アレルギーに関与しています。アレルギーの症状であるくしゃみや鼻水、皮膚の痒みなどを引き起こす物質としてヒスタミンが知られていますが、ヒスタミンは肥満細胞の中にあります。肥満細胞腫ではヒスタミンが作用し、全身にショックや胃潰瘍、紅斑(こうはん)などさまざまな症状を起こすことがあります。猫の肥満細胞腫は、皮膚、腸管、脾臓、肝臓に多く見られます。皮膚の肥満細胞腫は、猫の皮膚腫瘍の中で2番目に多く、猫の皮膚腫瘍の約20%を占めるともいわれています。腸管の肥満細胞腫は猫の腸管腫瘍で3番目に多い腫瘍です。 猫の肥満細胞腫は犬の肥満細胞腫と異なる点が多く、犬の肥満細胞腫はグレード(悪性度)分類が確立されていますが、猫では確立されていません。
「肥満細胞腫」の原因は?
猫が肥満細胞腫になる原因は詳しくはわかっていません。犬では、細胞の複製や分裂に関与している「KIT」と呼ばれるタンパク質の遺伝子の変異が原因のひとつとして知られており、猫の肥満細胞腫でも約60~70%が「KIT」の変異によるものと言われています。
猫の肥満細胞腫の分類は?
猫の肥満細胞腫は大きく分けて、皮膚型、脾臓型、消化器型の3つに分けられます。皮膚型は良性の動きをするものが多いですが、脾臓型や消化器型は悪性度が高く、転移しやすく予後が悪い傾向にあります。
皮膚型肥満細胞腫とは?
皮膚型は、4歳以降に発生し、発生年齢の平均は10歳です。しかし、まれに若齢でも発生することがあります。顔や耳など頭頸部に発生することが特に多く、体幹、四肢、大腿、尾の背側にも多いといわれています。病変は、ひとつだけ見られることも、多発していることもあります。赤く盛り上がった病変を示すことが多いですが、中には脱毛や痒み、炎症のような、皮膚病のように見えるものがあるので、自己判断せず、病院で確認してもらうようにしましょう。
猫の皮膚型は、穏やかな経過を辿ることが多く、特に病変がひとつだけの場合は、手術での切除で完治し、予後は良好のことが多いです。しかし、多発している場合や、内臓にも肥満細胞腫が見られる場合は、予後が悪くなる可能性が高いです。皮膚型の18%で脾臓にも肥満細胞種が見られたという報告があるので、皮膚に肥満細胞腫が見られた場合は、内臓にも肥満細胞腫がないか確認してもらうようにしましょう。
脾臓型(内蔵型)肥満細胞腫とは?
脾臓型は、高齢の猫で多く見られ、猫の脾臓の腫瘍で最も多く見られます。脾臓は左の肋骨の下にある臓器で、しこりができるものは少なく、脾臓全体が腫れるケースが多いです。脾臓の腫れを体表から触れることもあります。食欲不振や嘔吐、腹水などの症状を示すことがありますが、症状があまり現れないことも多く、発見が遅れがちです。肝臓や腹腔内リンパ節への転移を起こしたり、骨髄に転移して血液中にも肥満細胞が見られることがあります。
消化器型肥満細胞腫とは?
消化器型は、高齢の猫で多く見られ、猫の腸管腫瘍で3番目に多く、特に小腸での発生が多いです。嘔吐、食欲不振、下痢などの消化器症状を起こし、重症化すると腹水が見られることもあります。腸間膜リンパ節などへ転移を起こし、予後が悪いと言われる一方で、無症状の猫で亡くなった後の剖検(ぼうけん/解剖して調べること)で偶然見つかることもあります。
どんな症状になる?
上記のように、肥満細胞腫のできた場所や転移があるかどうかによって症状が異なります。
皮膚型では、脱毛したり、やや硬い赤いしこりとして見つかることが多いですが、柔らかく周囲との境界が不明瞭なもの、脱毛や潰瘍といった皮膚病変に似たものまでさまざまな形態を示します。多くは、数ミリ〜2センチくらいの大きさで、痒みを伴うものもあります。ひとつだけ見られることもあれば、多発することもあります。
脾臓型では、あまり症状を示さないこともありますが、食欲不振や嘔吐、腹水が見られることがあります。消化器型では、嘔吐、食欲不振、下痢などの消化器症状や腹水が見られます。全身に転移すると食欲不振や嘔吐、腹水、虚脱などの症状が末期症状として起こります。
また、腫瘍細胞に含まれるヒスタミンなどの作用により、胃や十二指腸に潰瘍ができたり、腫瘍周囲に浮腫や紅斑を起こしたり、重症化すると血圧の低下や嘔吐などの緊急性の高い全身症状を起こすことがあります。
かかりやすい猫種ってあるの?
皮膚型の肥満細胞腫のある特定のタイプのものでは、シャム猫が好発種として知られています。 脾臓型や消化器型では、好発種は特にありません。
診断法は?
肥満細胞はヒスタミンを含む顆粒を持つ特徴的な細胞の形をしているので、病変部から針で採取した細胞診で診断できることが多いです。あるいは、病変部の一部を切除し、「病理組織学的検査」を行うこともあります。
治療法は?治療費は?
肥満細胞腫の治療は、外科手術で切除することが第一選択です。
皮膚型の治療
外科手術で摘出を行います。犬では、腫瘍から2センチの幅を持って切除することが推奨されていますが、猫ではその必要性は示されておらず、通常の切除で行うことが多いでしょう。病変がひとつだけの場合は、手術で取り切れていれば予後が良好なことが多いですが、少なからず再発や転移も見られることも留意しておきましょう。病理組織学的検査の結果によっては、再発することがあるともいわれています。再発が見られた場合は、再度手術で摘出、転移が見られる場合は、抗癌剤の治療を検討します。
脾臓型の治療
脾臓の摘出手術を行います。脾臓は、古くなった赤血球を処分したり、血液を貯蔵したりする役割をしていますが、摘出しても特に問題はありません。脾臓の摘出により生存期間が大幅に延びると報告されています。そして、脾臓型の肥満細胞腫では、全身に肥満細胞腫が広がっていても脾臓を摘出することで延命効果があると言われています。
消化器型の治療
消化器型は悪性度が高いことが多く、手術で広範囲に病変を切除しても予後が悪いことが多いですが、腫瘍の分類によっては長期生存したケースも報告されています。
手術以外の治療法
手術が困難な場合、手術で取りきれなかった場合、全身に転移が見られる場合には、抗癌剤や放射線治療が提案されることがあります。猫の肥満細胞腫の抗がん剤治療の成績はわかっていないことも多いですが、近年では、通常の抗癌剤以外に、腫瘍細胞のみに発現している部分を標的とし、腫瘍細胞のみを狙い撃ちする分子標的薬(トセラニブ)なども選択肢となる可能性があります。
また、腫瘍細胞に含まれるヒスタミンによる胃や十二指腸の潰瘍や低血圧ショックを防ぐために抗ヒスタミン剤や胃酸分泌抑制剤、消化管粘膜保護剤などを使用することがあります。
治療費についてのアニコム損保の調査によると、猫の肥満細胞腫の平均年間通院回数は2回、通院一回あたりの平均単価は4,967円でした。検査などの診察費の参考となるでしょう。手術を実施する際は、より高額な治療費が必要となる可能性があります。
【関連サイト】
肥満細胞腫<猫>|みんなのどうぶつ病気大百科
予防方法はある?
猫の肥満細胞腫の原因はよくわかっていないので、予防することは困難です。肥満細胞腫の治療は早期発見、早期治療が重要です。皮膚型は、触って気づくことがあるので、日々の健康チェックとして、猫の身体を触って、異変がないか確認することが大切です。また、内臓にできるものは症状が出にくく気づかれないことが多いので、高齢になったら、レントゲンと超音波検査を含めた健康診断を実施するとよいでしょう。
まとめ
猫の肥満細胞腫は、発生の多い腫瘍です。いざという時の為に、肥満細胞腫について知っておくとよいでしょう。しこりが触れた、なんとなく元気がないなどと気になる症状が見られたら早めに動物病院に相談しましょう。
病気になる前に…
病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。
