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猫の鉤虫症ってどんな病気?どんな症状になる?治療法は?

鉤虫(こうちゅう)とは、消化管内の寄生虫の一種です。幼虫の経口感染、または皮膚から入り込む経皮感染が考えられます。感染した虫は小腸で吸血し、貧血や下痢、血便の原因となります。とくに子猫では重度貧血の原因になるため、命に関わる恐れもあります。

寄生虫ってどんな虫?昆虫じゃない?

「寄生虫」とは、どうぶつや人間に寄生して生きる生物の総称です。「虫」というと、アリやセミなどの昆虫が身近ですが、寄生虫と呼ばれる生物には昆虫以外のものが多く、生物学的な分類としての幅も広いです。

そのため、寄生虫の種類によって有効な駆除薬や予防薬に違いがあり、寄生虫症の管理には複数種の薬が必要なこともあります。たとえば、ノミやマダニの予防薬の中には鉤虫のような線虫類を駆除できない場合があったり、フィラリアの予防薬はジアルジアなどの原虫類には効かなかったりといった例があります。
予防薬の成分や複合剤の場合では幅広い寄生虫に有効なものもありますが、駆虫や予防は獣医師の処方を受けて行うと確実です。

猫に寄生する寄生虫には、具体的には以下のようなものがあります。

■消化管内の寄生虫(肉眼で見えるもの)
サナダムシや回虫などの、お腹の寄生虫です。線虫と総称されるひも状の虫が代表的で、肉眼でも見える大きさです。回虫の場合は、うんちや吐物の中に成虫が発見されて診断されることもあります。

鉤虫は、消化管内に寄生する線虫の一種に該当します。しかし、鉤虫の成虫が自然にうんちに出てくることは非常にまれです。

■消化管内の寄生虫(肉眼で見えないもの)
顕微鏡でないと見えないくらい小さな寄生虫もいます。アメーバのような単細胞生物に近い生物で、原虫といいます。コクシジウム類やジアルジアなどが代表的です。消化管内に寄生し、下痢や体重減少などの症状を引き起こします。

■外部寄生虫・体表の寄生虫
ノミ、マダニ、ミミダニ、ヒゼンダニ(カイセン)などの虫です。体表に付着して吸血しかゆみやアレルギー性皮膚炎の原因となったり、皮膚にもぐりこんでかゆみを引き起こし、かき壊しの原因となります。

絨毯や布団などの環境中で繁殖するダニ(コナダニなどのハウスダスト)とは種類が違い、どうぶつの体液を栄養として生活している虫です。卵をどうぶつの身体に産み付けて繁殖し、大量に寄生することがあります。

■血液や筋肉、全身に寄生する虫
消化管内や体表以外にも寄生する虫がいます。トキソプラズマは全身の臓器に寄生しますし、フィラリア(犬糸状虫)は血管や心臓の中に、肺吸虫は肺に寄生します。

寄生虫は種類ごとに異なる感染経路や複雑な生活のしくみを持っているので、原因の病原体に合わせた感染予防と駆虫薬が必要になります。

鉤虫は小腸に寄生する

猫に感染する鉤虫は、「猫鉤虫」や「ブラジル鉤虫」という種類です。成虫は5~15mmの大きさで、小腸に寄生します。歯牙(しが)という器官で噛みつくように腸粘膜に寄生するので、吸血能力も固着能力も非常に高いです。

鉤虫は小腸内で産卵するので、虫卵は猫の糞便中に排泄されます。環境中で1~2週間すると卵から感染性のある幼虫に成長し、主に経口感染によって他の猫へと伝播していきます。幼虫は皮膚から侵入して消化管へ寄生する可能性もあるため、感染猫がいる環境は清潔に清掃し、乾燥させる必要があります。
また子猫へは、感染した母猫の胎盤や乳汁を介して感染することもあります。

鉤虫に感染した時の症状は?

トイレで構える猫
感染による症状は、子猫でみられることが多く、成猫では無症状の場合もあります。消化管出血に起因する黒色のタール状の下痢や、貧血は見られることの多い症状です。他にも、体重減少、食欲不振、発育不良、元気がないといった症状が出ます。

子猫では、感染後4日頃からの下痢症状、1週間頃から貧血症状がみられ、2週間頃に最も症状がひどくなるといわれています。胎盤や乳汁を介して感染した子猫は、生後1週間を過ぎたあたりで症状がひどくなり、亡くなることもあります。

血便

タール状の黒色便、赤い鮮血が混じった血便や、いちごジャムのような粘血便が出ることがあります。鉤虫は吸血時に腸の粘膜を傷つけるので、出血により血便が起こります。重度の失血時にはパルボウイルス感染時のような粘血便が見られることもあります。

黒っぽいうんちは、鉄分や活性炭のサプリメント類を飲んでいるときにも出ることがありますが、消化管内出血があると、変色した血液で病的に黒くなっていることもあります。赤い鮮血ではなくても血便のことがあるので、茶色の固形便以外の変わったうんちが排泄された場合は、便を持参して動物病院を受診しましょう。

貧血

傷ついた腸粘膜からの出血や、鉤虫の吸血によって貧血が起こります。血液には赤血球、鉄分だけではなく栄養分も含まれているので、貧血と同時に低栄養の所見が認められることもあります。鉤虫の吸血力は強く、幼い猫は体内に貯蔵している鉄分も少ないため、致命的な貧血になることもあります。

血液検査を行うと、白血球のうちの好酸球の増加や、鉄欠乏性貧血の兆候(赤血球が少なくて小さい)が見つかることもあります。

鉤虫症になったら、どんな治療をする?治療費は?

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検査と診断

下痢や血便、貧血といった症状は鉤虫感染以外のさまざまな病気でも起こる可能性があるので、幅広く全身状態を確認します。体調や症状によっては血液検査や画像検査が行われることもあります。

下痢や血便があるときは検便を実施することも多いです。寄生虫の確認に役立ちますから、うんちがあれば動物病院に持参しましょう。素手で直接接触しないよう、ビニール手袋等で衛生的に管理してください。

鉤虫の感染は、糞便中の虫卵を観察して確認しますが、顕微鏡像では確実な特定が難しいこともあります。
回虫と比べると鉤虫の産卵数は1割程度と少ないので、1回の検査では虫卵が検出されず、複数回の検便が必要なこともあります。

虫卵や虫体が確認されない場合でも、症状と経過から寄生虫感染を強く疑い、治療的診断として、試しに駆虫薬を使用することもあります。

駆虫

鉤虫には有効な駆虫薬があります。
パモ酸ピランテル、イベルメクチン、モキシデクチン、エモデプシド、ベンツイミダゾールなどが有効です。環境中からの再感染や予防、確実な駆虫効果を考えて、複数回の投薬を行うこともあります。

ノミ、マダニやフィラリア症の予防薬には、線虫類に有効な成分が含まれている製品があります。鉤虫に有効な成分が入っている予防薬もありますが、必要な薬剤の量や投与間隔が変わることもあります。

鉤虫駆除のための投薬が別途必要になる可能性もありますから、診察を受けて治療薬を処方してもらいましょう。使用中の予防薬との併用については製品を持参し、かかりつけ医に確認すると安心です。

対症療法

重度の下痢による脱水や食欲不振、貧血による全身状態の悪化がある場合は、対症療法を行います。
下痢や脱水に対しては整腸剤や点滴が一般的です。重度な貧血がある場合は輸血が必要なこともあります。

治療費

鉤虫の駆虫薬は特別高額な薬剤ではないので、軽症な場合の駆虫費用のみであれば1回数千円程度で済むことが多いと思います。しかし、貧血や下痢、脱水などがある場合は、全身状態の把握や原因特定のために血液検査や画像検査が必要なこともあるので、その場合は数万円程度の費用が必要な状況になることもあります。

アニコム損保の保険金支払いデータによると、通院時の平均診療費は3,500円ほどです。年間通院回数の平均は2回となっていますが、寄生虫の治療開始時の1回目と、駆虫効果の確認のための2回目の来院でしょう。

もしも重症で入院となったときは、点滴や輸血などの積極治療が必要なケースも考えられます。その場合は通院時の平均的な金額よりもかなり高額となると考えられます。鉤虫症はとくに子猫で重症化することが多いので、血便や下痢の場合は早めに通院しましょう。

【関連サイト】
鉤虫症(こうちゅうしょう) <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

ヒトや他のどうぶつには感染する?

不安そうな猫
「犬鉤虫」や「ブラジル鉤虫」の場合は、人間への感染例が報告されており、とくに幼虫が経皮感染した皮膚爬行症(はこうしょう:人間の皮膚の中に幼虫が潜り込み、炎症を起こす)が問題となります。
ブラジル鉤虫は猫にも感染するので、猫を介して人に鉤虫類が感染する可能性があります。

また、鉤虫は経皮感染するという特性があるため、「うんちを触ってもあとで手を洗えば大丈夫」「汚れたものが口に入らなければ感染しない」という油断は禁物です。口だけではなく、素肌に汚染物が触れないように注意しましょう。

猫の「猫鉤虫」は犬に感染せず、犬の「犬鉤虫」は猫に感染しないとされていますが、ブラジル鉤虫など、犬にも猫にも人間にも感染する鉤虫もいます。感染が判明した場合は駆虫治療が終了するまで、念のため他のどうぶつとの接触や空間の共有は避けておきましょう。

また、猫の糞便からはトキソプラズマなどほかの病原体の伝染の危険性もあります。トキソプラズマは妊婦さんの初感染時に胎児に悪影響をおよぼすことがあり、とくに注意したい寄生虫です。
鉤虫の感染があってもなくても、糞便はいつも衛生的な処理を心がけ、素手での清掃は控えましょう。

予防方法はある?

鉤虫の感染経路は経口感染と経皮感染です。糞便を衛生的に処理し、他の個体からもらわないことが大切です。

新しく猫をお迎えするときは、予防的に駆虫薬を投与してあると安心です。しかし、投薬を受けていても環境中から再感染したり、虫が落ち切らないこともあるので、糞便検査で駆虫状況をチェックしてもらうとよいでしょう。タイミングをずらして複数回の投与を受けると、より高い駆虫効果と予防効果を得ることができます。

もしも猫を野外で拾ったり、保護猫などの場合は寄生虫の感染リスクが高いことが多いので、元気で無症状であっても念のため動物病院で健康チェックを受け、検便をしてもらうと安心です。

また、できる限り完全室内飼育を心がけ、屋外から寄生虫をもらわないようにするとよいでしょう。

まとめ

鉤虫は、腸粘膜への咬着力と吸血能力が高く、子猫では重度の貧血や血便を起こす恐れもある消化管内寄生虫です。下痢や血便が出る前からの予防的な駆虫プログラムの実施や早期治療によって、重篤な出血性の下痢を避けることができます。

寄生虫の種類は生物の分類学上も多様で、使用している予防薬によっては駆虫がカバーできていない種類の虫があることもあります。また、眼に見えない小さな虫卵や幼虫によって、環境中から感染が成立することもあります。残念ながら予防効果が不十分になってしまう例もあるので、お迎え後の子猫は検便を受けるようにし、うんちに変わったようすがあればすぐに動物病院で診察を受けましょう。

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監修獣医師

中道瑞葉

中道瑞葉

2013年、酪農学園大学獣医学科卒。動物介在教育・療法学会、日本獣医動物行動研究会所属。卒後は都内動物病院で犬、猫のほか、ハムスターやチンチラなどのエキゾチックアニマルも診療。現在は、アニコム損保のどうぶつホットライン等で健康相談業務を行っている。一緒に暮らしていたうさぎを斜頸・過長歯にさせてしまった幼い時の苦い経験から、病気の予防を目標に活動中。モットーは「家庭内でいますぐできる、ささやかでも具体的なケア」。愛亀は暴れん坊のカブトニオイガメ。