犬と暮らしていると「なんだか臭うかも?」と感じる瞬間は少なくありません。
体臭や口臭、部屋に残る臭いは、日常のケアで防げるものもあれば、病気のサインになっている場合もあります。
犬の臭いの種類・原因・ケア方法に加えて、動物病院に相談すべきサインについても解説します。
犬の臭いにはどんな種類がある?

私たちが犬と一緒に暮らす上で感じる臭いには、
- 体臭(皮膚、被毛、耳など犬の体から発生する臭い)
- 口臭(犬の口の中から発生する臭い)
- 排泄物やトイレ周りの臭い
- 部屋や布製品などに残る臭い
などがあります。それぞれ、どのような原因で臭いが発生するのか、また、病的な原因で臭いが強くなったり変化する場合について、解説します。
体臭
生理的な体臭
どうぶつの生理的な体臭の一般的な原因は、どうぶつの体から分泌される汗や皮脂、老廃物などが、皮膚に住む細菌によって分解されて発生する成分と言われています。
汗を出す汗腺には、「エクリン腺」「アポクリン腺」という2種類の汗腺があります。エクリン腺はほぼ水分でさらさらとした無臭の汗を分泌します。人が暑いときに汗だくになるのはこのエクリン腺からの汗が原因で、体温調節に大事な役割を果たしています。犬はこのエクリン腺が肉球にしかないため、暑くても人のように全身汗だくになることはありません。
一方、アポクリン腺は脂質やタンパク質など臭いのもととなる成分を多く含んだ粘度の高い汗を分泌します。アポクリン腺は毛穴につながっていて、皮脂と混ざり合いながら分泌されます。その分泌物に皮膚の細菌が繁殖することで臭いのもとになります。人では耳の中や脇など身体の一部にしか存在しませんが、犬ではほぼ全身にあるため、アポクリン腺からでる汗が体臭の原因になることがあります。
また、犬の体質によって、皮脂の臭いや肛門腺の臭いなどが体臭の原因となることもあります。
皮膚の感染、炎症
黄色ブドウ球菌(細菌)やマラセチア(真菌)などが原因の皮膚炎では、皮膚の腫れや湿疹、膿や滲出液が見られ臭いの原因になります。
脂漏症
脂漏症は皮脂腺の分泌異常などが原因で起こる病気です。皮脂の分泌が異常に増加する油性脂漏症では、皮膚がべたべたと脂っぽくなり、皮脂腺の分泌物のかたまりが皮膚や被毛に付着して、体臭が強くなります。また、脂っぽい皮膚にはマラセチア(真菌)が増殖しやすく、皮膚炎を起こして臭いの原因になります。
眼や眼の周りのトラブル
結膜炎や角膜炎などの眼の病気や、逆さまつげ、鼻涙管閉塞などがあると、涙や目やにが多くなります。眼の周りの皮膚や被毛が涙や目やにで湿ったり汚れたままになっていると、雑菌が繁殖して臭いの原因となります。
耳のトラブル
耳の長い犬や耳の中の毛の多い犬は耳の中が蒸れやすいため、臭いを発することがあります。また、細菌や真菌、ダニなどが感染して外耳炎や中耳炎、内耳炎などを発症すると、膿や分泌物(耳垢)が出て臭いの原因になります。
肛門腺のトラブル
肛門腺は肛門の脇にあり、臭いの強い分泌液を作ります。肛門腺の分泌液は肛門嚢という小さな袋にいったん貯められ、排便の時などに少しずつ排出されます。この分泌液が貯まってくると、お尻周りの臭いの原因になることがあります。また、排出がうまくいかず分泌液がたまりすぎたり感染を起こして肛門嚢炎や肛門腺破裂を起こすと、臭いが強くなります。
内臓疾患
内臓疾患が原因で代謝異常が起こり、体臭が変化することもあります。糖尿病で高血糖が続くと体内でケトン体という物質が増え、甘酸っぱい臭いになります。肝臓病や肝硬変などで肝機能が低下すると、消化や代謝の過程で発生する臭いのもととなる物質の解毒処理ができなくなり、体臭がするようになります。また、腎臓病の末期などで尿毒症が進むと、体内で増えた尿毒素の影響で体臭が尿臭(アンモニア臭)になることがあります。
口臭
生理的口臭
食べかすが口の中に残って、口臭の原因になることもあります。このような口臭は生理的なもので、口の中を潤してあげたり、歯磨きをきちんとすることで改善することができます。
歯垢や歯石
歯垢は、口の中に残った食べかすと口腔内細菌が唾液と混ざってねばねばと歯に付着したものです。歯垢はそのままにしていると3日ほどで唾液中のカルシウムと反応して石のように固い歯石となります。歯垢や歯石はそれ自体が口臭の原因になるだけでなく、歯肉に炎症を起こして歯周病の原因となります。
歯周病
犬は虫歯になることは多くありませんが、歯周病は多く見られます。歯周病菌は代謝の過程で臭いを産生します。また、歯肉や歯周組織に炎症が起こって出血したり膿がたまったりすることで口臭が強くなります。
口腔内腫瘍
犬の口腔内腫瘍は悪性、良性とも、比較的多く発生が見られます。悪性の口腔内腫瘍には、メラノーマ、扁平上皮癌、線維肉種などがあります。腫瘍からの出血や組織の壊死によって、腐敗臭のような口臭がします。
呼吸器系の病気
鼻や喉、呼吸器などの病気に伴って口呼吸(パンティング)が増加すると、口の中が乾燥して口臭が強くなることがあります。
消化器系の病気
消化不良を起こすと、腸内で発生したガスが呼気に混ざることで生臭いような口臭になることがあります。便秘や腸閉塞のときには、便が腸内に長時間とどまって腐敗物質が増えて血液中に吸収され、呼気として排出されるため、口臭が糞便のような臭いになることがあります。
糖尿病
糖尿病でブドウ糖が体内できちんと利用できない状況が続くと、体内でケトン体という物質が増えてケトアシドーシスという状態になり、ケトン臭と呼ばれる甘酸っぱいような口臭になります。
肝機能や腎機能の低下
肝臓病や肝硬変などで肝機能が低下すると、消化や代謝の過程で発生する臭いのもととなる物質の解毒処理ができなくなり体内で増加します。また、腎臓病の末期などで尿毒症が進むと、体内で尿毒素が増加します。これらの成分は呼気に混ざって排出され、口臭が強くなります。
排泄物やトイレ周りの臭い
尿の臭い
犬の尿の臭いの原因は「アンモニア」です。健康な犬であれば排泄直後の尿の臭いは通常それほど強くはありませんが、排泄後時間がたつと、尿中の「尿素」という物質が雑菌や酵素によって分解されて刺激臭のあるアンモニアが生成されるため、臭いが強くなります。
また、脱水(尿が濃くなる)、膀胱炎など尿路感染症(細菌感染によりアンモニアが多く産生される)、重度の糖尿病(ケトン体が排泄されるため甘酸っぱい臭いになる)等の疾患があると、尿の臭いが強くなったり、臭いが変化して感じられるようになります。フードやサプリメント、薬などの影響で尿の臭いが変化することもあります。
一方、慢性腎臓病や副腎皮質機能亢進症など多飲多尿の症状を引き起こす病気になると、薄い尿を大量に排泄するようになり、尿の臭いが弱くなることがあります。
便の臭い
犬の便の臭いは、タンパク質が腸内細菌によって分解されてできるスカトールやインドール、硫化水素などの成分に、消化中の食べ物の臭いや肛門腺からの分泌液の臭いが混ざった臭いです。食事の内容や生活環境、ストレスや疾患などによっても変化し、特に消化の状態と腸内環境は臭いに大きく影響します。
腸内環境の悪化によって善玉菌が減って悪玉菌が増えると、便の臭いが強くなります。また、消化不良や腸の炎症、腫瘍などがあると、酸っぱいような臭いや腐敗したような臭いが強くなります。
トイレ周りの臭い
トイレの設置してある場所が、換気の悪い場所や湿気のこもりやすい場所だと、雑菌が繁殖しやすく臭いがこもりやすくなります。また、トイレ周りの掃除が不十分で飛び散った尿がきちんと取り切れていないと、残った尿が尿石となって付着し、強い臭いを発するようになります。床材や壁紙などに尿が染み込んでいつまでも臭いを発するもととなってしまうこともあります。
犬の臭いは犬種によって違う?

犬は犬種によって身体の特徴や大きさ、毛の長さ、体質などが違います。そのため、犬種によって臭いの出やすさも異なります。次のような犬種は特に注意してお手入れをしてあげる必要があります。
- 顔や身体にしわの多い犬種(ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、パグなど)
しわの間に皮脂や汚れがたまりやすく、雑菌が繁殖しやすい - 涙焼けになりやすい犬種(マルチーズ、トイ・プードル、シー・ズー、チワワなど)
目の周りが涙で濡れた状態になっていることが多く、雑菌が繁殖しやすい - 皮脂分泌の多い犬種(アメリカン・コッカー・スパニエル、シー・ズーなど)
皮脂による体臭が強くなったり、脂漏性皮膚炎を起こしやすい - たれ耳の犬種(ビーグル、アメリカン・コッカー・スパニエルなど)
耳の中の通気性が悪く、蒸れたり外耳炎を起こしやすい - よだれの多い犬種(セント・バーナード、ニューファンドランド、ブルドッグなど)
口の周りが濡れた状態になっていることが多く雑菌が繁殖しやすい
犬の臭いを和らげる日常ケア

ブラッシングとシャンプーの習慣
ブラッシングとシャンプーは、皮膚と被毛の汚れや抜け毛を取って皮膚の健康を保ち、犬の体臭を防ぐ効果があります。部屋の中に飛散する抜け毛の量を減らして部屋の清潔を保つことにも役立ちます。ブラッシングは少なくとも2~3日に1回、長毛の犬や換毛期の犬はできれば毎日行うようにしましょう。シャンプーは、皮膚が健康な犬であれば、1ヶ月に1回程度で十分ですが、皮膚病にかかっている犬や皮脂が多く皮膚トラブルの多い犬などでは、治療の一環として薬用シャンプーでこまめに洗うことが必要な場合もあるので、主治医の指示に従いましょう。
歯みがきやデンタルケア
口臭の原因となる歯垢、歯石の沈着を防ぎ、歯周病を予防するためには、歯みがきやデンタルケアが必要です。犬が食事をした後に口の中に残った食べかすが歯垢となり、それが歯石に変化するのに要する期間は3日と言われています。歯石になってしまうと歯みがきでは取り除くことができません。理想的には歯みがきは毎食後がよいですが、難しい場合は少なくとも3日に1回やってあげるようにしましょう。
耳掃除
本来、犬の耳には自浄作用があるため、特に耳にトラブルのない犬の場合は、基本的に耳掃除は必要ありません。ただし、1週間に1回程度は耳の状態をチェックして、普段から犬が耳を触られたり、耳の中を見られることに慣らしておくとよいでしょう。たれ耳の犬や耳毛の多い犬、外耳炎を起こしやすい犬の場合は、定期的な耳掃除が必要なこともあります
黄色や黒の耳垢がたくさん出てくる場合や赤み、腫れなどがある場合、痛みや痒み、強い臭いがある場合は、外耳炎を起こしている可能性がありますので、お家では触らずすぐに受診するようにしましょう。
肛門腺絞り
肛門嚢に分泌液がたまりやすい犬では、定期的に絞りだすケアが必要なことがあります。お尻を気にして舐めたり、お尻を床にこすりつけたりするしぐさは、分泌液のたまりすぎや肛門嚢のトラブルが疑われます。治療や定期的な肛門腺絞りが必要なこともあるので、主治医に相談してみましょう。
眼の周りのケア
涙や目やにが多い場合、原因に応じたケアや治療を行うことが大事ですので、気づいたら受診しましょう。眼の周りを濡れたままにしないようにこまめなケアが必要ですが、眼の周りの皮膚はデリケートなため、優しく拭き取ってあげるようにしましょう。眼の周りの毛が長い犬は、眼に入りづらいように、短めにカットしておくとよいでしょう。
定期的な健康チェックと予防処置
口臭や体臭が強くなるような病気を早期発見し適切な治療を受けることも大事です。日ごろから食欲や排泄の状態などをきちんと把握し、気になることがある場合は、早めに動物病院を受診しましょう。定期的な健康診断と、ワクチン接種やノミダニ予防、フィラリア症予防なども、犬の健康を保つために大事です。
シニア犬や病気の犬のケア
シニア犬や持病のある犬は、汚れたり臭いが気になっても十分なお手入れができない、ということがあります。特に立ったまま行う全身シャンプーは、足腰に痛みがある犬や体力のない犬、心臓の悪い犬には負担になることがあります。犬の状態によっても変わってきますので、どのようなお手入れをどのような方法でするのがよいか、状況に応じて主治医に相談するようにしましょう。
負担が少ない方法としては、ぬるま湯につけるだけの沐浴剤を使う、ドライシャンプーを使う、お尻周りや口の周りなど汚れやすい部分だけを洗う、などがあります。ブラッシングや、耳や眼、口の周りのお手入れ、トイレのあとのお尻周りのお手入れなどをこまめに行い、普段から汚れや皮膚炎を防ぐようにすることも大事です。また、顔周りやお尻周り、しっぽなど、特に汚れやすい部分の毛を短めにカットしたり、排泄物でしっぽの毛が汚れやすい犬は粘着包帯などで巻いておく、なども、お手入れをしやすくする一つの方法です。
部屋や布製品に残る臭いの対策
排泄物の臭いは、排泄直後から時間がたつにつれて強くなるので、なるべく早く片付け、トイレやトイレ周りの掃除をすることが大切です。ソファ、クッション、犬のベッドなど犬が接触する布製品やカーテンも、部屋の臭いの発生源になるので、こまめに洗濯するようにしましょう。
犬の臭いには雑菌の繁殖が関与していることが多いため、除菌効果のあるスプレーなどを使用すると効果的ですが、なめたり誤飲をすると危険なものもあります。犬にも安全に使えるものを選択し、使用方法、保管方法には十分に注意して下さい。また、アロマや芳香剤など香りのする消臭グッズは、香りに敏感な犬にはストレスになることもあるので注意しましょう。
※猫はアロマオイルで中毒を起こすことがあります。猫がいる部屋では使用しないようにしましょう。
病院に行くべきい臭いのサイン

次のような状況のときは、体調不良や何らかの病気が臭いの原因となっている可能性があります。原因に応じた治療が必要となる場合があるので、動物病院を受診しましょう。
- 急に臭いが強くなったとき
- いつもと違う臭いを感じたとき
- 便や尿の異常な臭いがするとき
- 尿の量や回数が増えて臭いがしなくなったとき
- 臭いと同時に、皮膚や耳、眼、口の中などに赤みや腫れ、痛み、痒みなどの症状があるとき
- 臭いと同時に、元気がない、食欲がない、吐き気や下痢がある、歩き方がおかしいなど、普段と違う様子が見られるとき
まとめ

犬と暮らすうえで臭いを完全になくすということは難しいですが、ブラッシングやシャンプー、歯磨きなど日頃のケアで犬の清潔と健康を保つことと、こまめな掃除や洗濯など生活環境の清潔を保つことで、ある程度の臭いを減らすことはできます。一方で、犬の臭いは病気のサインとして出ている場合もあり、普段と違う強い臭いなどを感じたときは注意が必要です。人も犬も元気に心地よく暮らせるように、適切なケアで臭いと上手につきあっていきましょう。













