アルファ(α)リポ酸とは

αリポ酸は、細胞の中にあるエネルギーを作り出す回路を回す手助けをする物質のひとつです。強い抗酸化作用、つまり、体の老化に対抗する力があります。また、血糖値を下げ、肝臓でエネルギーとなるグリコーゲンの産生を促進する働きもあります。人間用としては、疲労回復や痩身・アンチエイジングを目的としたサプリメントとして販売されています。

猫のアルファ(α)リポ酸中毒ってどんな病気?

人では人気のサプリメント成分ですが、猫では重篤な急性・中毒性肝障害を引き起こすことが、近年わかってきました。ほとんどは摂取後早ければ数十分から、遅くとも数日中には症状が出始め、急性の経過をたどります。

急激に肝臓の細胞が壊され、肝臓が担うエネルギー生成や解毒がうまくいかなくなるため、元気消失や、神経症状などが引き起こされます。

猫のアルファ(α)リポ酸中毒の原因は?

人用のサプリメントを猫が誤って食べてしまったり、あるいは飼い主が良かれと思って猫に与えてしまうことが原因です。

αリポ酸はホウレンソウやトマト、ブロッコリーなどの野菜や、牛や豚のレバーにも含まれていますが、どの食材も1kgあたり1mgほどとごく微量です。そのため、日常生活で口にする程度では、中毒を起こす可能性はごくまれです。しかし、サプリメントとして売り出されているものには、当然高濃度にαリポ酸が配合されています。

人間に対しての用量としては、1日あたり200mg程度の摂取を推奨しているものもあります。人間は比較的高用量でも大きな害はないのですが(体質によっては、低血糖を起こすリスクがあることが忠告されています)、猫では、およそ30mg/kg以上(例えば3kgの猫なら90mg以上)のαリポ酸を摂取すると、中毒に陥ると言われています。最も少ない量であれば13mg/kg(3kgの猫なら39mg以上)の摂取でも毒性を示すことが報告されています。

仮に1錠に100mg含まれているサプリメントがあるとすると、3kg程度の体重の猫では、まるまる飲み込んでしまうと1錠でも中毒に陥る危険性があるということです。60mg/kg以上の摂取では、死に至る可能性もあると報告されています。

猫のアルファ(α)リポ酸中毒になると、どんな症状があらわれる?

一般的な体格の猫であれば、サプリメント1錠でも中毒量に達してしまいます。そのため、症状が出るほどの場合は、急性の肝炎あるいは中毒性肝障害の症状が現れます。

症状は摂取の量によって、数時間~遅くとも5日以内に出始めます。飼い主さんが見て取れる症状としては、元気がない、食欲低下、よだれ、嘔吐や下痢といった症状が出ます。他の病気でも出るような症状があるため、αリポ酸の中毒かどうかの診断は、サプリメントを誤飲してしまった、というご家族からの証言が鍵になります。

肝臓の障害がさらに進むと、黄疸などの肝機能不全の症状や、神経症状が認められるようになります。これは、肝臓で代謝しきれなくなった毒素が、脳神経に影響を及ぼすようになった結果であり、異常な興奮やふらつき、場合によってはけいれん発作が起こることもあります。

また、血糖値を下げる効果が認められるため、低血糖の症状が出ることもあります。低血糖の症状としては、震えやよだれ、手足のつっぱりや意識を失うなど、けいれん発作と同じような症状が現れます。このほか、肝臓の腫大により、お腹が張っているような状態になったり、重症例では、炎症により血が固まりにくくなり、体中に紫斑(あざ)ができる場合もあります。この状態は、肝臓以外の臓器にも異常が波及し、多臓器不全に陥っている状態なので命に関わります。

猫のアルファ(α)リポ酸中毒の治療法は?治療費は?

αリポ酸に対して、直接的な解毒薬はありません。摂取後間もないとき(およそ2時間以内など)であれば、嘔吐を促す処置によって強制的に胃から排出させたり、麻酔をかけて胃の中を洗浄する処置を行うことがあります。

しかしながら時間が経過してしまったり、猫がこうした処置に耐えられないなどで実施が難しい場合は、αリポ酸が代謝され、肝臓の機能が修復されるのを手助けする治療が主になります。

静脈点滴で、血液の循環量を増やして解毒を促す処置や、肝細胞を修復し、肝機能の回復を促す薬剤の使用があげられます。静脈点滴は病院内での管理が必要なため、多くは入院での処置となります。また嘔吐や下痢がある場合は、制吐剤や下痢止めの注射が行われます。

治療費としては、入院および点滴、症状に合わせた注射などの投薬の費用で1日1~3万円程度と考えてください。入院は、状態によりますが一週間が目安になります。その後は、通院して皮膚の下にラクダのこぶのような水溜まりを作り、体に人為的に水分を補給させる皮下点滴という処置や、内服による治療が必要になります。

通院治療の場合は、診察料などを含め、費用は1回で5千~1万円程度と考えてください。通院の間隔は、最初は連日~1日おきで、徐々に間隔があいていくことが多いです。

神経症状が出た場合は、より複雑な治療が必要です。まずはけいれんなど、重篤で命にかかわる症状を抑える治療から始まります。これらも、静脈点滴や注射による治療が一般的です。そのほか、あまりに肝障害による毒素が体に多い場合は、浣腸や、食事制限が行われることもあります。

万一、目の前でペットの猫がサプリメントを飲み込んだ、という場合は、すぐにかかりつけの動物病院に相談しましょう。おおむね1時間以内に受診することができれば、人為的に吐き出させる、という処置や麻酔をかけて胃の中を洗う胃洗浄も治療の選択肢に入ります。

ただし、人為的に吐き出させるには、薬剤を注射して行うことがほとんどなのですが、猫はこの処置にそもそも反応しにくいです。そのため、処置によるリスクや摂取したαリポ酸の量・時間などを鑑みて、獣医師とよく相談するようにしましょう。催吐処置のリスクとしては、吐き戻しによる誤嚥(肺に吐物が入ってしまうこと)が一番にあげられます。

【関連サイト】
アルファ(α)リポ酸中毒 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

予防方法はある?

飼い主のサプリメントを片付けておく

理由はわからないのですが、猫はαリポ酸が含まれたサプリメントを好む傾向にあり、わざわざ袋を破いて口にしてしまう猫もいるそうです。中毒を防ぐ一番の予防は、サプリメントを、猫が手(口)にできない場所に片付けておくことです。

猫は高いところにも上ることができるので、高さのある棚やテーブルの上にしまうのではなく、簡単には開けられない引き出しの中や、鍵付きの扉がついた棚の中などに隠すようにしましょう。

そして、αリポ酸に限らず、たとえ人の体に良いものだとしても、サプリメントや医薬品を、安易にペットに与えないようにしましょう。人間と猫は同じ動物で哺乳類ですが、異なる種の生き物です。種が違うということは、とてつもなく大きな違いがあります。同じ哺乳類でも、草しか食べられない牛に、体にいいからと肉や魚を与えることはしないのと同じように、

αリポ酸は、人間にとっては体に良いものでも、猫にとっては害になるものなのです。αリポ酸に限らず、そのほかの食べ物や成分でも、同じことが言えるものがたくさんあります。ペットに与えるものは、動物用と記載があるものか、獣医師に相談して、問題ないと判断されたものだけにしましょう。

まとめ

αリポ酸は、人間にとっては疲労回復やアンチエイジングの効果があり、体に良いものですが、猫にとっては、急性の肝障害を起こす可能性のある危険な成分です。サプリメント以外の摂取で中毒を起こす危険性は少ないですが、サプリメントを摂取してしまった場合は、一錠でも中毒あるいは死に至る可能性があります。

肝障害の症状は嘔吐から神経症状とさまざまであり、症状や検査の結果だけで、獣医師がαリポ酸中毒と判断することは難しいです。サプリメントの摂取が疑われる場合は、必ずその旨を獣医師に伝えましょう。

猫のαリポ酸中毒は、飼い主がサプリメントなどの管理に気を付ければ防ぐことができます。必ず猫の手の届かない、引き出しや扉の中などに保管するようにしましょう。

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監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーになりました。 病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。