猫がしきりに毛づくろいをしている様子を見るのは珍しいことではありませんが、その部位に脱毛や赤いブツブツ(丘疹)ができている場合があります。このような時、粟粒性(ぞくりゅうせい)皮膚炎と呼ばれる皮膚炎にかかっている可能性が考えられます。粟粒性皮膚炎という病名はあまり聞いたことがないかもしれませんが、実は猫にとって比較的発生頻度が高いもののひとつです。今回は粟粒性皮膚炎について、その原因や症状、治療法、予防方法などについて解説します。

猫の「粟粒性皮膚炎」ってどんな病気?

粟粒性皮膚炎という字から想像できるように、粟(あわ)のように非常に小さな粒状態の丘疹(赤いブツブツ)がいくつも形成される皮膚炎です。見た目でその存在に気付きにくく、猫を撫でているときに皮膚のわずかな凹凸を感じて偶然わかった、ということもよくあるようです。このような病変が部分的あるいは全身に広がることがあります。

猫によく見られる皮膚病のひとつ

この粟粒性皮膚炎ですが、猫に生じる皮膚炎の中でもかなり多くを占めています。この皮膚炎は、初期だとその存在に気づきにくいこともあり、ある程度皮膚病変が拡大し猫がしきりに掻いたり舐めたりしている様子を見て、異常を発見することが多い傾向にあります。

「粟粒性皮膚炎」の原因は何?

粟粒性皮膚炎を生じる原因の主なものは、アレルギーだと考えられています。このアレルギーにはノミが関連しているケースが多く見られます。そのほか食餌によるものや、細菌あるいは真菌による感染、環境の変化などによるストレスによって誘発されることもあります。そのため、直接的な原因を探るのが困難な場合があります。

「粟粒性皮膚炎」の症状は?

粟粒性皮膚炎によって起こる症状には、どのようなものがあるでしょうか?比較的特徴的な皮膚の変化が生じますが、初期段階ではなかなか発見することが難しい場合もあります。

丘疹ができる

前述しましたが、粟粒性皮膚炎の名の通り、粟の粒くらいの大きさの丘疹(赤いブツブツ)が皮膚に形成されます。頭部や頸部、背部などにできやすいです。被毛の量が多い猫の場合、なかなか皮膚の変化に気づけない傾向にあります。猫を撫でたり、ブラシを通したりした際に、皮膚に凹凸感があることで発見する人が多いです。赤い丘疹は、時間経過とともに痂疲(かひ:「かさぶた」のこと)になり、これがフケの一部のように見られることもあります。この丘疹はかゆみを伴うので、頸や頭部を掻く仕草が増加します。背中に丘疹が形成された場合は、その部分を執着して毛づくろいする様子が見られます。

丘疹から波及する皮膚への影響

かゆみが強くこれらが長期間続くと、掻いたり舐めたりすることで皮膚炎を悪化させることがあります。猫の舌はざらざらしていることから、執拗に同じ部位をグルーミングすると、脱毛するばかりではなく皮膚がただれてしまうことがあります。掻いたり舐めたりが続くと、病変部に新たな細菌感染を起こすきっかけとなり、治療に時間と手間がかかるようになります。

「粟粒性皮膚炎」の治療法は?

粟粒性皮膚炎の原因のひとつとして、アレルギーが挙げられます。つまり、猫のアレルギー性皮膚炎のひとつです。掻く行為や舐め続けることによって、皮膚の状況を悪化させることがあります。これらの症状に対して治療を行う場合、原因となっているかゆみをいかにコントロールするかが重要となります。

かゆみを生じさせる物質のひとつに、ヒスタミンと呼ばれる物質があります。この物質が細胞膜にある受容体に結合するのを防ぐための「抗ヒスタミン薬」を使うことがあります。軽度のかゆみはこの薬で症状を軽減できますが、より強い症状がみられる場合は副腎皮質ホルモン剤、いわゆるステロイドと呼ばれるタイプの薬を使用します。ステロイドには外用薬、内用薬、注射薬とさまざまなタイプがありますが、病変の場所や範囲などを考慮して、どのタイプの製剤を使うのが望ましいかを獣医師と相談の上決定します。

一方、激しく掻いたり舐めたりした病変部では、細菌感染を合併している場合があります。その際は、抗生物質を併用することがあります。また、ノミの感染が認められる場合は駆虫薬を投与します。感染したペットだけでなく、同居しているペットすべてに投与が必要となります。

かゆい状態が持続すると、その症状が一層エスカレートします。これは症状の悪化だけでなく、治療に対する困難さを増長することにもつながりかねません。なにより、猫自身がその間ストレスを抱えていることになるので、かゆみをはじめとした皮膚トラブルを早期に解決できるように努めましょう。

「粟粒性皮膚炎」の治療費はどのくらい?

粟粒性皮膚炎での治療では、かゆみのコントロールや二次感染への対策が主となります。注射や内服などが主な治療方法となります。1回の治療で症状が改善することが多いのですが、多少の個体差があります。1回の治療にかかる金額の平均は、およそ4,000~5,000円程度となっています。後述する粟粒性皮膚炎の発症予防対策の分は、これに含まれません。

【関連サイト】
粟粒性皮膚炎(ぞくりゅうせいひふえん) <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

「粟粒性皮膚炎」の予防法はある?

粟粒性皮膚炎を予防する方法はあるのでしょうか?原因が個々によって異なるため、これだけやっておけば確実に発症を防げるというものはありません。しかしながら、何らかのアレルギーが関連している場合が多いため、原因と思われるアレルギーとの接触を避けることで発症リスクを軽減できる可能性があるかもしれません。

接触を避けるための一環として、動物病院でアレルギーに関連した検査を受けるということが挙げられます。アレルギーは、ノミをはじめとした外部寄生虫や、環境中のハウスダストによるもの、あるいは食餌が関連している可能性もあります。

またそれらに対するアレルギーの強度も、粟粒性皮膚炎の発生に関与していることがあります。そのためアレルギー検査は、どのようなものによって猫が皮膚炎を起こすリスクがあるのかを想定することに役立ちます。具体的な検査方法や費用は、動物病院で相談してみましょう。

一方で、定期的な駆虫も重要です。粟粒性皮膚炎は、ノミが関連して発症することが非常に多い傾向にあります。屋外に出る猫であれば、外部寄生虫予防は必須といえるでしょう。そのため猫と生活するためには、完全室内飼育が強く推奨されます。他の病気の感染や事故の遭遇リスクも減らせます。

ただし、室内飼育の猫ではこれらの予防が必要ないかというと、その限りではありません。居住環境や生活パターンによっては、家にノミを持ち込んでしまうケースがないとは言い切れません。

また一年中温かい家の中では、カーペットや床の隙間などに潜んでいることもあります。つまり、室内飼育の猫であっても定期駆虫を行うことが望まれます。頸部の皮膚につけるスポットオン剤や、内服できるものもあります。

食餌が関連して発症しているような場合は、猫の皮膚の健康に考慮した療法食を使用します。原因がひとつとは限らない場合もあるので、これらの方法を併用し、対策を講じます。アレルギーの改善は一朝一夕で変化するものではないので、根気よく継続していきましょう。

また、免疫が不全状態となるFIV(猫免疫不全ウイルス)やFeLV(猫白血病ウイルス)が粟粒性皮膚炎の発現に関与しているともいわれていますので、これらの対策もしておくべきもののひとつと考えられます。

まとめ

粟粒性皮膚炎は、猫の皮膚疾患の中でも比較的よく見られるものです。見た目は皮膚に生じた小さな赤いブツブツあるいは、これらが痂疲(かさぶた)化していることで気付きます。かゆみを伴うため、しきりに四肢で身体を掻く仕草が見られます。アレルギーとの関連性も示唆されていて、ノミや食餌などが原因で発症することがあります。

かゆみを止め二次感染を防ぎながら症状の改善につなげていくのと同時に、できるだけ再発しないようにするための対策(例えばノミ寄生予防を定期的に行うなど)をして、猫の皮膚を健康に保てるように手助けをしていきましょう。

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監修獣医師

増田国充

増田国充

北里大学を卒業し、2001年に獣医師免許取得。愛知県、静岡県内の動物病院勤務を経て、2007年にますだ動物クリニック開業。現在は、コンパニオンアニマルの診療に加え、鍼灸をはじめとした東洋医療科を重点的に行う。専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、国際中獣医学院日本校事務局長、日本ペット中医学研究会学術委員、日本ペットマッサージ協会理事など。趣味は旅行、目標は気象予報ができる獣医師。