見上げる猫

猫が貧血を起こす病気?

猫のヘモプラズマ感染症は、身体に酸素を運ぶ役割を果たしている赤血球という細胞に、ヘモプラズマという細菌が寄生する病気です。細菌が表面にくっついた赤血球は、細菌の寄生自体に耐えられなくて壊れたり、身体から異物、つまり本来身体にあってはならないものと認識され、壊され溶かされたりしてしまいます。これらを溶血性貧血と言い、一時的に血が足りない貧血の状態に陥ります。

「ヘモプラズマ感染症」の原因は?

原因はヘモプラズマという細菌感染

以前はヘモバルトネラという、細菌とウイルスの中間の「リケッチア」という微生物に分類されていました。しかし近年の研究により、細菌の一種のマイコプラズマと同じような微生物であることがわかり、名前が変わりました。動物病院の先生によっては、以前のヘモバルトネラという名前で説明を受けることもあるかもしれませんが、同じ微生物になります。

ダニによる吸血が主な感染源

ヘモプラズマがどのようにして猫に感染するのかは、まだはっきりとはわかっていません。けれども主には、ダニによる吸血が感染源になると言われています。また、猫同士のけんかなどで、ヘモプラズマを体内に持っていた猫に咬まれることでの感染や、ヘモプラズマに感染している母猫から、胎盤を通して感染する母子感染も確認されています。

どんな症状になる?

発熱、貧血

感染初期には、ヘモプラズマを追い出そうとする免疫反応により、発熱が多く見られます。その後、赤血球へのヘモプラズマの寄生が進むと、前述のように貧血が起こります。貧血になると、身体は酸素不足に陥るため、だるくなって元気がなくなったり、動きたがらなくなったります。発熱や息苦しさから、食欲不振になる猫もいます。貧血が起こると、歯茎や目の裏などの粘膜が、色を失い白っぽく見えます。また酸素不足を補うために、より多くの酸素を身体に取り込もうとして、運動していない状態でも呼吸が浅く・早くなることがあります。

脾臓が腫れる

貧血がさらに進むと、壊れた赤血球を急いで補おうと身体が反応して、造血器官である脾臓が身体の外から触れるほどに腫れたりします。また、壊れた赤血球から漏れ出た色素により、粘膜や血液成分が黄色く染まる黄疸や、色素が尿中に捨てられて血尿(血色素尿)が認められるようになります。

これらのさまざまな症状は、感染したからといってすぐ出るわけではありません。特に感染量が急激で多い場合に、重症化しやすくなります。慢性感染では、ヘモプラズマが体内に潜伏しているだけの状態で、症状が出ないこともあります。また、猫免疫不全ウイルス(FIV:猫エイズ)や猫白血病ウイルス(FeLV)など、免疫抑制を引き起こす病気と一緒に感染するあるいはすでに感染していると、強い貧血が引き起こされやすいと言われています。

治療法は?治療費は?

フードボールの前にいる猫

診断は、赤血球に寄生しているヘモプラズマを顕微鏡で確認することで行われます。しかし、ヘモプラズマは一日の時間によって検出できるときとできないときの周期があるという特性や、へもプラズマ自体の感染量により、1回の検査ですぐに診断がつかないことも少なくありません。何回か同じ検査を行いながら、暫定的に治療が行われることも多いです。もう少し確定的な診断として、細菌の遺伝子検査もあり、症状が出ている急性期の感染だけでなく、慢性的な無症状期の感染の診断にも使われます。ただし高額になるのと、診断結果が出るには数日から1週間程度と、やや時間がかかります。

治療法は、ヘモプラズマを殺すための、抗生物質の投与が主になります。近年では、「ドキシサイクリン」という種類の抗生物質を使うことが、推奨されています。ドキシサイクリンは1日1~2回服用の内服治療になるので、日中人がいない家庭でも、比較的容易に服用させることができる薬です。しかし副作用として、粘膜刺激による胃腸炎や、食道炎を起こすことがあります。必ず食べ物と一緒に服用させるようにしましょう。ドキシサイクリンは飲み薬しかないため、治療費は薬代だけになります。ただし、少なくても3週間程度の服用が必要になり、10,000円程度は内服代だけでかかってきます。

このほか、食欲不振や発熱などの症状が続くのであれば、皮下点滴や、解熱剤も服用するなど、身体を補助する治療が必要です。症状が深刻であれば、入院治療が必要になってくるでしょう。また、血液の病気なので、状況を把握するために、病状に合わせて血液検査を行います。
貧血が重度の場合は、赤血球の破壊を防ぐために、ステロイドが使われます。ステロイド剤は注射または飲み薬があります。投与は短期間ですが、状態を見ながらの投与になるので、注射による通院治療が望ましいです。ステロイド剤の注射は1回に3,000円程度になります。

さらに貧血が著しい場合は、輸血の検討も必要になります。輸血は、拒絶反応などリスクも伴うため、入院での管理になります。また、ドナーとなる猫との血液の相性を見る検査など、輸血処置に伴う検査も多く発生するため、費用は数万円かかることもしばしばあります。

ヘモプラズマ感染症による貧血は、抗生物質とそのほかの身体を支える治療によって、改善することができます。しかし、ヘモプラズマを完全には体内から排除することはできません。ほとんどの場合、症状がなくなっても、体内に菌を持っているキャリアー(保菌者)となります。そのため、ごくまれですが、再発を繰り返し、長期的な抗生物質の服用が必要になることもあります。
一度ヘモプラズマ感染症を発生したら、元気になっても定期的に血液検査を受けて、貧血が再発していないか確認してもらうようにしましょう。

予防方法はある?

ノミ・ダニ予防が大事!

窓辺でくつろぐ猫

残念ながら、ヘモプラズマに感染することを、予防する薬やワクチンはありません。しかし前述のように、ヘモプラズマはダニが媒介して猫に感染すると言われています。そのためヘモプラズマ感染症を予防するには、ダニの寄生を予防薬により防ぐことが大事です。ダニの寄生の予防は、たとえ完全な室内飼いでも必要です。なぜなら、ノミやダニは、人間の服のすそや靴の底について、家の玄関や軒先といったペットの行動範囲の中に持ち込まれることがあるからです。

また、ヘモプラズマのキャリア猫に、咬まれたり引っかかれたりすることでも感染します。野良猫とケンカしたりしないように、室内飼いを徹底しましょう。
さらに、猫免疫不全ウイルスなど、免疫を抑制する感染症などの基礎疾患は、ヘモプラズマ感染症において症状が出やすいだけでなく、ヘモプラズマへの感染率自体が上がると考えられています。野良猫を保護して家庭に迎え入れた場合は、猫免疫不全ウイルスなどの感染がないか、確かめておくと安心です。特に猫免疫不全ウイルスは、ケンカによる咬み傷から感染します。そのため、やはり外に出さないで飼うことは、大前提にしてほしいと思います。
このほかヘモプラズマ感染症の研究において、外出をする猫を対象とした場合、約3割の猫でヘモプラズマへの感染が確認されたという報告があります。感染リスクを考えても、完全室内飼いが推奨されます。

まとめ

ヘモプラズマ感染症は、ダニを媒介として感染する病気です。主に貧血が症状として現れます。貧血は身体が酸素不足に陥った状態であり、これより食欲が落ちたり、元気がなくなったりするなどの症状が出ます。抗生剤と身体を支える治療で症状は改善しますが、原因であるヘモプラズマを完璧に身体から追い出すことはできません。また、重症化すると輸血などのリスクを伴う治療が必要になり、命に関わることもあります。
ヘモプラズマ感染症の予防には、ダニの予防が最も大事になります。また野良猫、保護猫を新たに家庭に迎え入れた場合は、事前に感染の有無を確認しておくと健康管理に役立つでしょう。

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監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーになりました。 病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。