猫にブラッシングをしたときに、なぜかしっぽの部分だけブラシが通りにくかったり被毛の色が変わったりしている様子が見られたら、スタッドテイルという病気の可能性が考えられます。このスタッドテイルですが、猫のしっぽに生じる皮膚疾患のひとつです。見た目に影響が生じるほか、症状が悪化した場合は感染や出血を伴い猫自身にとっても不快感を増長させることがあります。このスタッドテイルの原因や症状、そして治療方法について解説します。
猫の「スタッドテイル」ってどんな病気?
スタッドテイルはstud(とげ状のもの)とtail(尾)が組み合わせされた言葉です。その名の通り、しっぽがとげのようなボコボコした状態になるになることからこの名がつけられたという説があります。しっぽの被毛がべたついていることで気が付く場合が多くみられます。このスタッドテイルですが、いくつかの原因でしっぽに変化がみられます。
猫の「スタッドテイル」の原因は何?
スタッドテイルの原因を知るうえで重要となる、皮膚の表層部、表皮に存在する器官について説明します。猫の表皮には汗腺や皮脂腺といった分泌腺が分布しています。汗腺は、アポクリン腺とエックリン腺に大別することができます。私たち人間が暑い時にかく汗はエックリン腺からの分泌物で、猫ではエックリン腺は肉球周辺にしか存在しません。
一方アポクリン腺はたんぱく質や脂質を主な成分とした分泌物を出し、これらをフェロモン様物質と称することもあります。また、もうひとつ皮膚からの分泌腺として皮脂腺があります。しっぽでは他の部位の皮膚と比べて、アポクリン腺や皮脂腺が多く分布しています。
またアポクリン腺の分泌物は、性的アピールのための手段としての役割もあり、性成熟が進んだ年齢になると、分泌量が増える傾向にあります。性別による差も存在し、女の子より男の子でより分泌量が増加する傾向があります。そして未去勢の男の子ではよりアポクリン腺の分泌が多くなります。
ここから分泌される脂質を多く含んだ物質が過剰になることでべたつくようになります。この分泌物の増加に合わせて細菌が増殖すると、症状が悪化しやすくなります。特に毛包(毛穴)では雑菌が増えやすいこともあり、皮脂を好む真菌のひとつであるマラセチアがスタッドテイルを発症した患部から検出されることがしばしばあります。
一方、性別による発症要因のほか、品種によってもスタッドテイルが生じやすい条件があります。基本的にどの品種であってもスタッドテイルを生じる可能性はありますが、長毛種、ペルシャ系の品種で発生頻度が高いとされています(諸説あり)。
スタッドテイルの根本的な原因は、まだすべて解明されてはおらず、ここで挙げたものにも諸説あります。これら条件に合致していない猫でもしっぽに何らか変化が生じる可能性があるので、日頃チェックをしておくことが推奨されます。
猫の「スタッドテイル」の症状は?

スタッドテイルは猫のしっぽに特徴的な症状を引き起こします。特に尾根部と呼ばれるしっぽの付け根に顕著に現れます。過剰な毛穴からの分泌で、見た目やにおいによる変化などが生じます。
しっぽがべたつく
スタッドテイルの原因となっている脂質は、非常に粘り気が強くワックスに例えられるほどです。つまり尾根部の背中側で被毛がべたついている場合は、スタッドテイルの可能性を考える必要があります。また、被毛がべたついている部分の皮膚をよく観察してみると、皮脂が固まったもの、脂っぽいフケ、毛穴の黒ずみなどが見られることがあります。この病変部は、個体によって範囲に差があり、なかには、尾根部にとどまらず尾の先端付近、あるいは背中に向けて脂っぽい状態が拡大している場合もあります。
独特なにおい
スタッドテイルの症状の一つとして、独特のにおいを発することも特徴です。分泌される皮脂が猫自身の体温によって温められたり、また皮脂そのものや毛包で雑菌が増殖することによって、においを増強させることがあります。文章では表現しづらいのですが、いかにも脂っぽいにおいを発します。猫のおしり周りのにおいに変化がみられる場合は、しっぽ周辺の被毛や皮膚をチェックしておくとよいかもしれません。
進行した場合は?
しっぽを中心とした分泌物を通じて雑菌の増殖が活発になると、毛穴を中心に炎症を起こすようになります。かゆみや痛みをはじめとした違和感を猫自身が感じるようになり、しきりにしっぽを気にして舐めたり噛んだりする様子が見られるようになります。さらに、これらの行為によって皮膚に傷を形成することもあり、患部がジュクジュクと滲出液(しんしゅつえき)や血液が滲んでくる場合があります。
細菌感染による蜂窩織炎(ほうかしきえん)や、面皰(めんぽう、いわゆるにきび)を形成することがあり、皮膚そのものも肥厚し凹凸を生じる場合もあります。猫自身も不快感が増長するため、できるだけ症状が悪化する前に対策を講じる必要があります。
「スタッドテイル」の治療法は?

では、このようなスタッドテイルに対してどのような治療が行われるのでしょうか。基本となるのは、患部であるしっぽの脂をコントロールして清潔に保つという点です。
まず実際に行われることとして多いのは患部の毛刈りです。被毛に分泌物が付着し、そこからにおいや雑菌の増殖の温床になりうる点、また分泌物によって被毛がくっついて束になることでしっぽを動かしたときに毛包に刺激が加わり、これが炎症を誘発する可能性があります。そのため、毛刈りはスタッドテイルの治療の第一歩となります。
そのうえで余分な脂分を取り除くようにします。皮脂の除去に優れたシャンプーを局所で使用することで二次感染のリスクを軽減し皮膚を清潔な状態に保ちます。細菌感染がある場合には、抗生物質の塗布あるいは内服による投与を行うことがあります。
発症した猫が不妊処置を行っていない場合、特に男の子の場合は不妊手術によって症状の緩和につなげることが期待できる場合があります。
「スタッドテイル」の治療費はどのくらい?
スタッドテイルの治療では大規模な外科手術を行うことは基本的にないこと、また症状によってシャンプーや外用薬、内服薬などを併用して症状の改善につなげます。そのため1回の治療にかかる金額としては10,000円くらいとなることが多いのではないでしょうか。個体によって治療をいったん終了しても、しっぽからの皮脂の分泌が過剰となり再発することがあるかもしれません。その際は、同じような治療コストがかかるものと想定しておくとよいかもしれません。
「スタッドテイル」の予防法はある?

スタッドテイルは特に性成熟した男の子に生じる可能性が高いものです。完全な解決方法とはいえませんが、去勢手術をすることは男性ホルモンに関連して発生するのを防ぐ方法のひとつとなります。すでに去勢済み、あるいは女の子でもスタッドテイルが発生することがありますので注意が必要です。
また、ブラッシングをしてあげるなど、皮膚や被毛を清潔に保つということも、間接的にスタッドテイルの予防に効果があると考えられます。
まとめ
猫のしっぽの根元に発生するスタッドテイルはその部分の皮脂が過剰に分泌し、被毛のべたつきを生じます。そこから細菌感染や猫自身が気にして舐める行動をとることで二次感染や症状の拡大につながっていきます。命に直接かかわるような重大な問題に至ることは低いのですが、ときとして猫に不快感を与えてしまうことが考えられます。原因には諸説ありますが、できるだけ尾根部の被毛と皮膚の様子を観察しながら、べたつきがないか、あるいはそれに伴う痛みやかゆみがないかどうかを確認してみましょう。
